壊れ始めた関係2
「……いた」
サンドーラで出会ったと言っていた。
賢い弟のことだからそこを避ける、と見せかけてやはりそこにいる。
その可能性が捨てきれず執念深く探ったおかげだ。
オリエンにとって数国同時に探るのは容易いことだが、サンドーラと二つ目の国、
サンドーラと三つ目の国と執拗に網を張っていたことで見つけることが出来た。
名はリリーサ・ルバイス、何の特徴も無いただの下人だ。
弟はこの女をリリと呼んでいた。
「この女が、大切な弟を誑かした……」
見ていると沸々と怒りが湧いてきた。
そして
「キョウ……」
キョウはオリエンの能力を知っているので遠目でしか確認出来ない。
私が探すために網を張ることも予想していたようで、数国に渡り一部の網を破壊していた。
特にサンドーラにいるとアピールするように、ここだけは多く破壊していた。
そしてこちらのアピールする場所にいるわけが無いと思う心理に付け込んでサンドーラに居る。
さすが我が弟、慎重に考えを読んで逆をついた……
いや、弟がそんな愚かな考えに至るわけがない。
その女が弟の足を引っ張ったのだろう。
どうせ故郷を離れたくないとか、別の環境に移り住みたくないとか言ったのだろう。
そのせいでサンドーラを離れられなかった。
だから見つかってしまった。
「ああ……なんで笑っているの?」
弟は家族にしか見せない顔をしている。
なぜ?相手は下人なのに……
なぜ?実姉よりもこの女を選んだの?
なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?
答えの出ない問答がオリエンの頭の中で繰り返される。
だが明確な答えもある。
この女が弟を誑かした。
そして誑かすには何か目的があるはずだ。
一番初めに思い浮かんだのは麗王としての地位。
しかし弟はこれを放棄しようとした。
つまりこれは違う。
弟が王としての地位を捨てようとしたことから、家に関することではない。
となると次に考えられるのは弟自身だ。
弟を篭絡……出来るわけがないと考えたが今回の行動を見ると否定しづらい。
あの弟が女、リリを選んだ時点で成功している。
そしてそれはネリウムが狙いか?
貴族というだけで毛嫌いする下人は少なくない。
それに命を盾に金銭を要求する場合もある。
弟の場合、簡単に殺せないが、温情に訴えかけて要求することも可能だろう。
次に考えられるのは血だ。
異能は血に刻まれていることから、裏で血液だけでも高値で取引されていると聞く。
下人は金に飢えていることが多く、このようなのを商売と見る下賤さもよく言われている。
最後に血筋も考えられる。
弟自身が地位を捨てても王の血を引く者であることは変わらない。
その子供が反乱を起こしネリウムを乗っ取ることも考えられる。
そうなった場合……
幼い我が子の顔を思い浮かべた。
「無理ね。下人の子とはいえ、才能が違い過ぎる」
弟の才能は自分を優に超えている。
対峙しても下人の血がちょうどよい足枷になるくらいだろう。
そうなると……やはりこの考えが正しい。
リリを、お腹の子供共々抹殺する。
そして必要なのがリリが弟を騙しているという証拠だ。
それがあれば、弟は目を覚ましてくれる。
下人などその程度の人間だ。
そしてその証拠は案外早く出てきた。
ある夜、リリは人気のないところへ向かい、男と会っていた。
「……お父さん……」
リリは男をそう呼んだ。
おかしい。リリは弟に対して親はいないと言っていたはずだ。
つまり弟を騙し近づいている。
リリが父と呼んだ男にもマーキングを付けた。
「よくやった、お貴族様の血を受け継ぐ子供、上出来だよ」
「……」
「さあ、あとはあの坊ちゃんを始末して、子供を最強の戦士に育て上げるのだ」
オリエンはあまりの嬉しさに叫びそうになった。
ああ、やはり、間違っていなかった。
弟は誑かされていただけ。
それと同時に痛感した。
どんなに優秀な弟でも、やはり年頃の男の子。
間違えることもあるのね。
今度は間違えないよう見守らないと。
ああ、そうだ、サラも呼ばなければ。
あの子も下人の女を恨んでいるはず。
恨みを晴らさせてあげないと可哀そうだ。
さあ、証拠は揃った。
麗王に歯向かおうとした愚かな下人に対して罰を与えねば。
オリエンは急いで連絡をし、サラにこの証拠を見せた。
オリエンが思った通りで、サラも協力してくれることになり、一緒にサンドーラへ向かった。
そして……
「リリーサ・ルバイスね?」
オリエン達はリリとその父親の前に立った。
「え?誰?」
オリエンはリリの返事を待たずに魔法を使った。
そしてリリを操り父親の首を絞めさせた。
「え!?何!?いや!そんなつもりじゃない!いや!お父さん!体が勝手に……!」
オリエンの支配下になったリリの体はもうリリ自身で動かす事は出来ない。
「うごぉぉぉ!!」
父親が必死に抵抗してリリを殴ったり蹴ったりした。
「うぐ!痛い!お父さん!お父さん!」
もちろん簡単に離すわけがない。
オリエンの操作によってリリの力の制御を外し、通常の数倍の力を出させている。
ゴキ
もっと長引かせるつもりだったが、力一杯絞めたことで首が折れてしまったようだ。
「あら、力を入れ過ぎてしまったわ、残念」
首を折られた父親は力無く倒れた。
「お父さん!お父さん!いやああ――!?」
「煩いわね、永遠に黙っててもらいましょうか」
急に声が出なくなった。
叫びたくても叫べない。
自分の体なのに思い通りに動かないことにリリは恐怖した。
そして体は勝手にオリエンの前に跪いた。
それと同時にオリエンはリリのお腹を力一杯蹴った。
「――!?――!?」
あまりの衝撃にリリは叫んだが声は出ない。
息は出来るのに声を出すことが出来なかった。
「あとはあなたの好きにしていいわ、サラ」
「ありがとうございます」
オリエンが支配を解くと同時にリリの体は燃え上がった。




