前調査
肌をツヤツヤさせ、ニコニコ笑顔のミズキと、げんなりしたトウヤが戻ってきたので、
早速作戦会議を始めることにした。
「ターゲットは二人。ここでは王の処刑人と言われているようね」
リヤナは簡単に説明した。
ターゲットはこの国の王が抱える生体兵器の双子、姉のイブと弟のアダム。
生体兵器と言うよりこの魔法知識が低い国で産まれた双子が魔法の力に目覚め、
王の命令で暗殺をしているだけということらしい。
ミイナみたいなタイプではなく、トウヤ達に近い存在だ。
魔法の力を不気味に思った家族が双子を捨て、それを拾った王が兵器として育て上げ、
自分の思うままに命令しているのだろうと想像がつく。
絶対王政で恐ろしい暗殺兵器がある、これだけでかなり危険な国だと思われる。
似た環境で育ったマリアも吐き気を抑えながら遠くを見つめていた。
だが国としての機能は悪くない。
それなりに成り立っているところを見ると独裁ではあるが賢い王らしい。
そしてポーラが言っていた攻略は姉からと言う理由が何となくわかった。
現在弟は王城で暮らしているが、姉は一人で街外れで暮らしているようだ。
確かに警備など少ない姉から攻略も納得の提案だ。
だがなぜ一人で?何か仲違いしているのだろうか?
まずはその理由を探った方が良いかもしれない。
「そして重要なのが魔法の能力と戦闘スタイルは、二人とも変化系であることは確認され、
体の各部分を好きな形に変化させる魔法“変形”で刃物を作る接近型ね。
さ、どう攻略するかな、リーダーさん?」
「そうだね、相手のことがわからないからまずは様子見で二人を監視しよう。
姉の方は俺、リンシェン、リリスで、弟の方はリヤナ、ミイナ、マリア、ミズキだな」
「へぇ、理由を聞いても?」
リヤナの質問の意図をトウヤは察した。
「ただ単に戦力のバランスだよ。試運転したとはいえ経験の浅いマリアとミズキは
守られる場面が増えるだろうから、戦力の高いリヤナとミイナを付けただけだ。
それに今回のメインは勧誘という交渉事だ、貴族育ちだと経験無いんじゃないかな?」
「無くは無いわよ。ただどうしても権力で思うようにさせられちゃうとこが多いわね」
「それは失礼を」
「それにしてもこういう判断は上手ね。とても平和な国で育ったようには思えないわ」
「平和な国と言っても戦争をしていないだけで、見えないところで争い続けてるんだよ。
そこは何処へ行っても同じってこと。人間の性ってやつかもしれないね」
「あー……」
リヤナは妙に納得してしまった。
「とりあえずそっちの判断はリヤナに任せる。ミイナもサポートしてね。
あ、でも余計な事は言わないように十分気をつけてよ?」
「ふぇ?余計な事って何ですかぁ~?」
「あんたは口が軽いから言わないでいいことも言うのよ」
「そんなあ~……でもトウヤさんの命令なら仕方ないですね~。
わたしはトウヤさんの忠実なる僕、体の隅から隅まで好きに使ってください」
「「そういうところだ!」」
トウヤとリヤナの剣幕にミイナはすぐに体を小さくした。
その一方で
「はゎ、お兄ちゃん大人な関係の人おったんやな」
と盛大な勘違いがあったが、ここはマリアが一蹴しておいた。
現地に到着すると監視と情報収集にわかれた。
「イブ?ああ、王の猟犬か。あいつが居るだけであんたみたいのが増える。
ホント、疫病神でしかないんだよな」
「そんなに狂暴なのか?」
「……いや、姉はまだおとなしい方だ。これが弟だったら大急ぎで逃げるがな」
「双子と聞いたがそんなに違うのか」
「あいつらを知らないとか、お前珍しいな」
「あ……ああ、運よく無縁な場所で過ごせたからな」
「弟は楽しんで嬲り殺すから質が悪い、対して姉は瞬殺だ」
「王に文句言いてえな」
「やめておけ、昔弟が暇だからと無暗に殺した時に、王に止めるよう申し出たやつがいたが、
そいつも弟の餌になったって話だ。王もあいつらも狂ってんだよ」
「……この辺りで食べ物買うとなると何処になる?」
「ああ!?お前飯食いながらよく聞けるな」
「いや、すまない。姉の方は食べ物に困らないのかなと思って……」
「王専用の運搬係があると聞いたが、確かにそれが十分かどうかわからないな。
そんで不足分をもしかしたらこの街まで買いに来てるってことか」
「そうだ。だから誰か顔見知りがいるんじゃないかと思ってな」
「何だ?見に行くのか?やめておけ、どっちもいい顔してるが中身は悪魔だ」
「はは、まあ興味本位だ」
「どっちもやや幼い顔立ちで金髪、姉はかなり長いが弟は短髪らしいぞ」
「ほう、他には?」
「……あんた何者だ?この国であいつらに興味を持つ輩は少ない。何が目的だ?」
「だからその少ない方の人間だ」
「……いや、止めておこう。これであんたがあいつらに接触して殺されたら、
俺が殺したようなものだ。そんな胸糞悪いことは出来ねぇ」
「そうか……なら何も聞かねぇ、ありがとうなマスター、美味かったよ」
「ああ、まいど」
もっと話を聞きたかったが、不審に思われたり黙られたりしても厄介だ。
「う~ん、意外と警戒されているな」
何処かで密告されて変に警戒されても困るのでさり気なくやりたかったが……
「これはリリスの方も苦戦しそうだな」
そう思いリンシェンの元に戻ろうと歩き始めたところ、違和感があった。
トウヤはすぐに強を目に集中させ、後ろを見た。
(やっぱり)
今すれ違った女、魔法使いだ。
強を目に集中させると見える魔力。
一般人は体から湯気のように立ち昇り、魔法使いは体の表面に留まる。
魔法世界では後者が多いので見つけづらいが、ここは魔法があまり知られてない国。
前者が多く、見つけるのは簡単だと聞くが……
(運もあったな)
そう思い、彼女の行方を追う。
だが見た目の特徴が聞いたのと違う。
(別人か?または無自覚でも魔法が覚醒しているのか?)
目的の彼女以外に魔法が使える人間がいないとは限らない。
慎重に後を追う。
彼女はある程度の買い物を済ませると人気のない場所へ進んだ。
(気付かれたか?)
尾行を警戒して誘い込まれたかと警戒する。
すると、彼女の姿がみるみる変化した。
(!?)
考えが足りなかった。
“変形”は体の一部を変化させる魔法、つまり別人になることも可能だ。
聞いた通りの姿に変わるのを見てさらに警戒した。
(絶対に見つからないように……)
その願いが通じるように彼女は奥へと進んで行った。
(今回サポート無しだから自力で何とかしないとな)
サポーターの生体反応調査なら簡単に追えるが今回は無い。
トウヤは慎重に追いかけた。
そしてとある小屋へ入っていくのを見た。
(ああ、そういう事か)
理解すると即座にリンシェンに連絡した。
「リンシェン?俺だ」
「んにゃ?どうした?」
「ターゲットを見つけて拠点を発見した」
「はにゃ!?いつにょ間に入った!?」
「違う、そっちはダミーだ」
彼女は追われているのか、複数の拠点を転々としている可能性がある。
つまり報告に会った場所は囮だったようだ。