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壊れ始めた関係

十数年前


「はぁ……」


「だ、大丈夫ですか?桃竹(ももたけ)の君」


「ええ、悩んでばかりよ、あの狐親父を……ごめんなさい、

あなたの叔父を、こんな風に呼んではいけないわね」


「いいえ……叔父様の頑固で狡猾なところは、私も……」


「ふふっ、でもこの話が通れば、あなたは私の義妹よ、サラ」


「わ、私ごときが……」


謙遜、照れ、不安、自慢の弟は稀代の指導者。


そんな弟と婚約となると七剣徒(セプトレア)第二位の彼女でも自信を持てないのは当たり前だ。


「私が認めたのよ。自信を持ちなさい」


「は、はい……」


互いに見つめ合い、しっかりと目で確認した。


「姉上!」


外出から弟が帰ってきたようだ。


「キョウ、どうしたの?そんなに慌てて」


「姉上、大切な話があります」


現れるなり土下座で報告する弟に、事の重大さを理解した。


「何かしら?」


「申し訳ありません、子供が出来てしまいました」


「……は?」


弟からの報告は受け入れ難いものだった。


「順序を守らず申し訳ありません。ですが責任はしっかりと果たします」


「え?……いや……何の冗談かしら?」


「冗談でこのような大切な話はしません」


弟にそのような女性がいたとは初耳だし、ましてや子供なんて……


「あ、相手は……?」


「街づくりの事業でお世話になった子です」


「街づくり……まさか!?」


弟と街づくり。


繋がるのはあの砂漠の大地の観光都市化の時だ。


あれからと言うことはつまり、数年気付かずにいたということだ。


「しかも……下人……?」


サラが力無く座り込んでしまった。


サラの気持ちは知っていた。


弟を大切に思ってくれている。


身近に身を置きながら自分の気持ちよりも、弟にメス豚が近づかないよう守ることを優先してきた。


そんな彼女だから弟と添い遂げることを許しても良いという気持ちが芽生え、

あの狐親父に頭を下げながら縁談を進めてきた結果がこの仕打ち。


「……何処のメス豚よ!!連れてきなさい!!」


弟の前で初めて怒鳴り散らすほど、オリエンは取り乱した。


「姉上が一般人を嫌っているのは知っていますので、直接会わせるわけにはいきません。

姉上なら殺してでも引き裂くつもりなのでしょう?」


図星を当てられ、取り乱しながらも何も言えなかった。


「そうなった場合、姉上を殺してでも止めなくてはならなくなります。

姉上を殺したくありませんし、彼女を殺させるつもりはありません。

それが、彼女に対する責任でもあります」


顔を上げオリエンを真っ直ぐ見つめ話してくる。


弟の真剣な眼差しに威圧され、気持ちが落ち着いてきた。


「お、王の立場はどうなるの?ネリウムはあなたが継ぐべきでしょ?」


「彼女を捨てるならば王の立場は姉上に譲ります。必要ならば家も放棄するつもりです」


もう一度頭を下げた。


弟は真剣だ。嘘偽りなく本心で話しているのだと思えた。


「それは、許されない!……第一位になり、将来を約束されたのに……

下人の女の為に全てを捨てる?そんな身勝手が許されるはずがないわ!!」


「はい。全ては僕の身勝手が招いたこと、責任は全て請け負います」


「責任を取るというならその女を殺せ!!」


「それは出来ません!彼女には、新しい命が宿っています」


「下人の命など――」


「命は平等だ!!」


弟の叫びに一気に体が委縮して話す事も動くことも出来なかった。


「ここ数年、一般の方々と共に過ごし教わりました。僕達貴族は一般人の命を

軽く見過ぎている。彼らも僕達も、何ら変わりのない人間同士です。

共に泣き、共に笑い、困難を分かち合い、幸せを分け合い、絆を深めることが出来る。

だからこそ、彼らは魅力的に輝いているのです」


(何を……何を言ってるの……?)


目の前にいる弟が、だんだん崩れているように見えた。


あの誇り高く優秀な自慢の弟が、たかだか下人の女の為に全てを捨てようとしている。


「常に下に見ている我々よりも立派な存在、彼らは尊重すべき命です」


誑かされている。騙されている。勘違いをしている。


そうだ。そうに決まっている。


「そんな彼らの魅力を知りました。だからこそ、彼らの仲間である彼女と出会い、

彼女の魅力を知り、惹かれていき、彼女を生涯をかけてでも守りたいと思いました」


わなわなと怒りが込み上げ震え始めた。


「サラは、サラはどうなるのよ!」


「サラ……?」


「せっかく……せっかくあなたと婚約できるように勧めてるのに……」


立てない体を必死に動かし、サラはキョウに手を伸ばした。


まるでキョウを追い求めるように。


しかしキョウはバッサリと切り捨てた。


「僕はサラとの婚約は全く考えておりません」


何も話していないのに衝撃を受けた。


そしてサラは口をパクパクと動かすだけで、焦点の合わない目でキョウを見た。


好意の無い相手にしっかりと意思を伝える。


特に何も無ければ責任ある行動だが、今この場では非情にも思えた。


「は……恥を知りなさい!」


「恥を知るのは姉上です!」


「なにを――」


「人を見下すことでしか価値を見出せない姉上の考えが恥ずかしいです!」


弟の気迫に完全に負け始めたのを感じた。


(私は……私は……)


何かを言おうと思っていたが、言葉が何も出なかった。


「これ以上話しても無駄なようですね。僕は彼女と、お腹の子供と一緒に密やかに暮らします。

もう姉上と話す機会すら訪れないかもしれません。こんな最後になってしまい、ごめんなさい。

どうか……お元気で、ご自愛ください」


キョウは立ち去ろうと歩き出した。


「待って!待って!キョウ!!」


必死に呼び止めたが、弟は立ち止まることなく去って行った。




七剣徒(セプトレア)第一位、キョウ・ネリウムの脱退。


さらに麗王(れいおう)の家と絶縁し下人の女と雲隠れした。


そんな話が麗王(れいおう)に広まるのは一瞬だった。


せっかくの縁談も破断。


あの狐親父に笑いものにされると同時に、サラを傷物にした責任を取らされた。


婚前懐妊も伝わり家の教育の信用も地に落ち、ネリウムは肩身が狭くなった。


キョウがいた頃は第一位に匹敵する力だったものが、今は第六位すら危うい。


「なぜこんなことに……」


原因は明確だ。


「……あの……メス豚!!」


絶対に見つけて殺す。


大切な弟を誑かした罪は万死に値する。


オリエンの異能はこういう時、非常に有効だ。


「何処へ隠れようとも、必ず探し出して殺してやる!!」


まずは弟と女が出会ったとされる国、サンドーラ。


オリエンは異能の網を国中に張り巡らせた。


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