ファイゼンの心配事
一通り買い物を済ませると、偶然ミナとルーにあった。
「珍しい組み合わせね」
「ああ、お宅のマスター達に挨拶へ行く手土産を買ったんだよ」
「手土産?」
「好みの菓子を持っていこうと思ってね」
「……へぇ」
ジトッとファイゼンを見た。
「な、なんだよ。お菓子の好みぐらい知っててもいいだろ」
「何も言ってないでしょ」
「目がすごく言ってる」
「言ってないわ」
「女のお尻ばかり追いかけてる汚らわしい男が、うちのマスターに媚びないでくれる?って言ってる」
チッとルーが舌打ちした。
言いたいことを言うタイプだから、目だけでもすごく伝わるようだ。
ハァと溜息を吐くと、ルーは諦めたように口にした。
「ええそうよ。だから本命に逃げられないよう頑張ってねって心配してあげたの」
少々毒気のある言い方な気がする。
それに応えるようにファイゼンが言った。
「応援どうも、そっちは成長したかい?」
ルーの顔が引きつった。
しっかりカウンターを食らったようだ。
成長……
身長は年齢的に大きく成長することは無いはず。
となると……
「成長してるわよ!」
顔を真っ赤にして反論するルー。
成長してるのか。
と言うことは、魔法かな?
最近のルーの魔法の成長は著しい。
そこはしっかりと胸を張れるだろう。
そう思ってるとルーとファイゼンはバチバチと火花を散らせながら睨み合った。
(んん?あれ?)
しっかり話してるところを初めて気がするが……
「ファイゼンとルーって仲悪いの?」
「昔、ルーをお子様みたいだと言ってからあんな感じだな」
ミナとヒソヒソ話しながら納得した。
ファイゼンの好みは色っぽいお姉さん風の女性だったはず。
つまり幼さがしっかり残っているルーは好みの対象外。
無類の女好きも幼女には素っ気ないようだ。
そしてルーも子供扱いを嫌うため、この二人はあまり仲が良くないらしい。
トウヤの故郷には喧嘩するほど仲が良いなんて言葉があるが……
やれやれと思いつつ、話の流れを変えた。
「俺の治療に結構動いてくれたみたいだから、お礼も兼ねて手土産持って挨拶に行こうって思ってね。
それで好みを知っているファイゼンと一緒に買い物に来たわけだ」
「それは良い心掛けだな」
「そういえば二人にも世話になったんだよな。何か用意するよ、何がいい?」
思いがけない申し出にミナとルーは驚いた。
「そ、そんなこと気にしなくても……」
「そ、そうよ、仲間として当たり前のことしただけよ」
「そうか?それなら本人がそれでいいと言うなら仕方ないな。
じゃあ、何か奢らせてくれよ。俺が二人にそうしたい気分なんだよ」
「し、仕方ないわね。そこまで言うならお誘いを受けなきゃ失礼になりそうね」
何だかんだ言いつつもトウヤが奢る流れになったことにファイゼンは感心した。
「トウヤも素質あるなぁ。うかうかしてると負けそうだ」
「何の話だよ」
「いやいや、トウヤもなかなか女性の扱いが上手いなと言ってるんだ」
「一緒にしないでもらえる?」
軟派ではなくお礼だ。
ファイゼンのそれとは違うと言いたい。
「そうよ。あんたのヤラシイ思惑と一緒にするなんて失礼よ」
おやおや、ルーの方は既に取り込み済みか。
ファイゼンの目にはルーがトウヤの行動を全肯定しているように見えた。
(ああ、これが人たらし。虜にしたやつに疑問すら抱かせないとは……)
そして心なしかミナも同じように思えた。
(こいつ、いずれ大物になるんじゃないか?)
もっとも、血筋は最高ランク。
今、損得関係無く仲良くなれた二人は最有力候補。
これから出会う人よりもはるかに信用出来る存在になる。
(最低世界から魔法世界の最高の地位になる。その時に女性も権力も、
何もかもを手に入れ従える。ハーレムものかよ!)
あながち、間違ってる要素が見当たらない。
(結局のところ、トウヤ自身の誠実さが鍵となるだろうな)
今のところトウヤ自身は全員を平等に扱っているように見える。
これが時の権力者になった時、どう変わるのか。
その立場に立った時、トウヤの誠実さが、どう変化するかによって変わる。
トウヤの立場。
上級貴族の仲間入り。
上級貴族にもとびきりの美人がいると聞いたので、もちろん調べている。
だが調べれば調べるほど一般人が関われない大きな壁にぶち当たる。
その大きな障害の一つが、現七剣徒筆頭、紅狐の君、サラバンド・ローザ。
この人はかなり一般人を毛嫌いしている。
そしてこの人は麗王の親戚筋で何年もこの地位にいる。
麗王の実子などが現れる七剣徒の環境で、だ。
血筋も実力も兼ね備えた本物の実力者が、より厳しい目で見ている。
そんな場所でその人たらしぶりは強力な武器になるだろう。
そうなった場合……
ダメだダメだ、そんな打算的な付き合いはよろしくない。
数少ない男の友人だ。
真面な関係でありたいと思ってる。
それに
(本命、ね)
ある女性の顔が浮かんだ。
互いに二十歳を迎え、婚約相手を決めなければいけない年齢でもある。
ふらふらと女性を追いかけるのは止めるべきか、それとも……
トウヤの今後を心配するだけでなく、自分自身も今後どうするか悩まなければ。
「世の中どう転ぶかわからねぇな」
「なんか言った?」
「え?あ、いや、何でもねぇよ」
思わず口に出てしまったが、何とか誤魔化した。
人の心配事は大半は起こらないことが多い。
とは言え、用心するにこしたことはない。
ただ言えるのは、どんなことが起ころうと、今いる仲間を大切にしろ。
お前には力を貸してくれるたくさんの仲間がいるんだから。
ファイゼンはその背中に、心の中でしっかりと伝えた。




