強制脱出
「……、……ヤ、」
声?
この声は……ポーラ?
聞き覚えのある声だと思うと、ある二人が思い浮かんだ。
「アダム!イブ!」
思うように体が動かない気がする。
だが飛び起きるように体を起こした。
「トウヤ!」
目に移った光景は心配そうに見つめる仲間たちの顔と、見たことある簡易的な局の施設。
どうやら強制脱出が使われ、局に帰還したようだ。
周りを見るとイブはいるのにアダムがいない。
「アダムは?」
「……アダムは……転移されなかったの……」
「……は?」
ズンと体が重くなった気がした。
助けようとした相手を助けられなかった。
その気持ちが、体を重く感じさせた。
「ア……アダム……」
イブも気がついていたようで、アダムの訃報を一緒に聞き、涙を流した。
そのイブの悲しげな声を聞くと、体の中から何かが沸き上がってきた。
「……なんで……」
「……」
「あと少しだったのに、何で使ったんだ!!」
トウヤは怒鳴るように言うと、ポーラの服の胸倉を掴んだ。
それに応えるようにポーラも叫ぶ。
「あんた!死ぬとこだったのよ!!」
ポーラの叫びで気付いた。
トウヤとイブは半身、互いに合わせると一人になるような形でまる焦げになっていた。
生きているのも奇跡だ。
そのことに気付くと、ふと意識が消えていった。
「トウヤ!イブ!」
「医療班!急げ!!」
怒声のような指示が飛び交い、局は一時パニック状態になった。
結果的にアダム救出前に緊急脱出が行われた。
そのため、トウヤと身を寄せ合っていたイブだけが助かった。
判断として正しかったのか、間違っていたのかはわからない。
イブという命を救えたと好意的な意見もある。
逆にアダムを救えなかった、関わらなければよかったなんて意見もある。
どちらが正しいなんて、誰にも分らなかった。
「やったことを後悔するなんてダメダメ!」
ポーラは自分の頬を叩きながら気を取り直し、画面を見つめた。
Aランクの出身、トウヤを見てれば解かるが、非常にポテンシャルが高い傾向がある。
厳しい環境から生まれた肉体は、瞬間的な部分でははるかにポーラ達を上回る。
その反面、すぐに疲弊する。
もっとも、回復も早いため、すぐに戦線に戻ることが出来るので、
これは可も無く不可も無くといえる。
そして魔法は異様な一面がある、または珍しい場合が多い。
トウヤは自由過ぎる魔法、ミズキは特大の魔力量。
イブは珍しい闇属性、アダムは珍しい光属性。
今のところ例外がない。
魔法は単調だが、効率的、場に合わせた変化、そして己の適性に合わせた使い方をしている。
このことから、魔法の能力は十分だろう。
あとは性格面だ。
アダムの件から非情、かつ残忍な性格は王の魔法によるものである可能性が高い。
と言うことはこの懸念点はあまり問題にならない可能性がある。
実際、互いの身を最優先に案じているところがあった。
なので、今の問題はこの性格。
身を案じていた相手が失われた今、どうなるかは全くわからない。
このまま生きる気力を無くし眠り続けるか、起きても廃人のようになるか。
または現状を受け入れ、前を向いてくれるか。
せっかく助けたられたのだから、出来る限り前を向いてほしい。
あれこれイブの今後を考えていると、足音が二つ、近づいてきた。
その足音の主を見て、ポーラは大きく溜息を吐いた。
「あんた達で何人目よ。羨ましい人望だわ」
「あんなことを聞いたんだ、来て当たり前だろ?」
「そ、大きくなっちゃったけど、仲間なのは変わらないよ?」
セレスとティア、ポーラとトウヤも良く知る二人が手術の様子を見に来たようだ。
「他ギルドからこんなに見舞いが来るなんて、ホント驚くばかりよ」
「そんなに?」
「ミナとルーはもちろん、桃姫の君はもちろん、
白酔馬の君が来られた時はこっちも生きた心地しなかったわ」
思わぬ大物の登場に反応に困ってしまった。
「人を惹きつける才があるようだからね。で、どうなの?」
「……二人とも半身が煤のようになってたわ。ただ、
幸いなことに表面だけだから、皮膚の手術のみで済みそうよ」
半身が煤になる程の火力とは、命の危険をにさらされたもの。
なのに表面だけとは……
「……まさか、太陽との間に何かあったということ?」
ポーラが黙って頷く。
トウヤとイブは何かあったおかげで一命をとりとめた。
その何かとは……
「アダム……」
ティアもその答えにたどりついた。
太陽からの直射をアダムが遮るような形になったので二人は生還した。
そう考えれば、この奇跡も納得出来てしまう。
「姉を想う気持ちが、この奇跡を起こした。なら彼女には……」
「ええ、彼の為にも……絶対に生きてほしいわ」
どんなに凄惨であっても、命がけで守られたのだから、
その故人の想いを無駄にしないためにも生きてほしい。
これは生き地獄を味わわせることかもしれない。
そうだとしても、いや、そうならないためにも仲間が必要だと思う。
その仲間の一人でありたい。
「ふふ……またセレスに怒られそうね」
「どうした?」
「いや……またあまい考えを持っちゃったなって」
「ポーラの悪い癖だが……今はそう怒れないよ」
「?何かあったの?」
「マ、マスターになったからな」
セレスに顔を背けられたのでティアの方を向くと、
すこしニヤニヤした顔でこちらを見ていた。
「意気込んでたけど、いざなったら全然違うってショックを受けてるのよ」
セレスはティアを叩こうとしたがヒョイと避けられた。
「ああ、うん、順調そうでよかったよ」
何となく大丈夫な気がする。
根拠の無い、いや、こういう人達が身近にいるから安心出来る。
だからイブも、今も受け入れ、しっかり支えないとと思えた。




