A4
A4
局が定めている国、つまり惑星毎の環境をランク化した値である。
局の本拠地、メリオルをC3と中心に置きそれぞれA1~E5まであり、
自転、重力、酸素濃度、魔力濃度から判断されランク付けされる。
端に近ければ何かしらの要因で魔導士が生活し辛い環境であることを示し、
C3は魔導士にとって最も環境が良いとされている。
ただし例外としてAは基本的に魔法の認知が薄い国が集められている。
ちなみに地球はA5とされている。
魔導士が暮らすには厳しいが、おとぎ話として魔法が知られている為、
Aランクの中では比較的良い環境らしい。
もちろん例外の中ではという話だ。
「なんや、地球の外って感じせぇへん場所やね」
「確かに、魔法も何も使ってないし、魔法的な何かが見えるわけでもない。
本当にただっ広い荒野で海外で言うと、グランドキャニオンって感じかな?」
「ああ、ええ例えやな」
トウヤとミズキはまるで旅行者のように街を眺めていた。
「呑気なものよね、こっちは薬に頼らないといけないって言うのに」
「おいらもそこまで困ることにゃいにゃ」
「ああ、あんたB4だったわね」
薬に頼らなくてもいいのがトウヤ、ミズキ。
無くても良いが念のために持っておきたいのがリンシェン。
その他は薬で調整しながらでなければ辛い。
「確かAは漂っている魔力が少なく、魔法を使い辛い環境だったっけ?」
「そ。それに加えて国によっては空気が薄かったり、重力が強かったりで、
私達にとっては過酷な環境なのよ。それとAは時間が早い傾向があるわね」
C3のメリオルを基準にするとAに近づけば時間の経過が早く、逆にEに近づけば遅い。
そのため、A出身のトウヤはC出身のポーラ達より早く老いる。
さらに言えばE出身のリリスは出会ってからほとんど老いていない。
「過酷な環境ってことは、あの二人もかなり強いんだろうな」
「そうね。ここは地球よりも空気が薄く重力が強いから、トウヤより上かもね。
……と言ってもトウヤやミズキが耐えられるくらいの差しかないから、
環境的要因はあまり無いと考えてもよさそうだけどね」
「そうだといいけど……」
ポーラの言っていたとびきり強力な前衛は仲間になればの話。
それまでは敵対する可能性があるので脅威でしかない。
(さて、どうなるかな)
助言通りなら姉から攻略する方が良いらしい。
まずはチームとして方針を決めることが先決だ。
「とりあえず、薬はどれくらいあるのかな?」
「合わせて50、知っての通り、魔法を使えば使うほど消費することになるから、
この国の時間で考えると十日よりも短いと思うべきでしょうね。
と言っても帰れば調達も出来る。そこまで気にしなくても問題無いわ」
今回は魔力を回復する薬、いわゆるマナポーションを常備する必要がある。
トウヤ、ミズキ、リンシェンはほぼ使わなくてもいいが、
リヤナ、ミイナ、マリア、リリスは生命に関わる問題に直面する。
今は魔法で体を守っているため影響は少ないが、呼吸器系は低酸素状態の陥るし、
高重力による圧力が体を容赦なく襲う。
「この薬は最大魔力に比例して回復量が上がるから、私やミイナは使う回数は少ないけど、
マリアとリリスはそうもいかないでしょうね」
上級貴族の中でも魔力量が少ないリヤナだが、マリアとリリスはそれを大きく下回る。
「基本的には俺達で調査、リヤナ達はいざという時に備えて待機で問題無いんじゃね?」
「そう……ね。今回は戦闘にならない場合もあるから、基本それでいいんじゃないかしら?」
トウヤの意見に全員賛同した。
が、そこに申し訳なさそうに手を上げる人物が一人いた。
「あの~聞いてもええですか?」
「ん?どうぞ?」
リヤナに促され、ミズキが質問する。
「あの……魔力って共有出来るんですよね?なら私の魔力を使えないですか?」
「・・・!?」
「その手があった!」
迂闊にも魔力の共有というのを忘れていた。
ミズキの魔力はリヤナ達の魔力を合わせても多い可能性がある。
それほど高い魔力を持つミズキに分け与えてもらえれば薬に頼る必要はない。
むしろミズキを回復させてから分けた方が非常に効率が良い。
普段薬頼みだった影響で、それほど簡単な答えにたどり着けなかった。
「う、うっかりしてたな。それで万事解決だ」
「むしろ無駄に用意してしまったって感じね」
「しょうがないよ、よく気付いたな、ミズキ」
「えへへ」
そう言いながらミズキがすり寄ってきた。
「あ、ねぇ、あっちのお兄ちゃんは褒める時、頭撫でてくれたんよ」
「え゛っ!?」
トウヤは顔を大きく引きつらせながら後ずさりした。
同じことをしてくれと?
トウヤは助けを求めるようにリヤナ達を見たが、首を振るだけで助けてくれない。
(しないのは解ってる!ってか引きはがして!)
首を振り続ける面々を見て察した。
(あ、こっちに振るな)
仕方ないのでトウヤ一人で対処する。
「それは子供の時の話でしょ?今はいろいろと変わったんだから……」
「むぅ~!い~け~ず~!」
頬を膨らませながらミズキは抱きついてきた。
「ちょま!やめれ!」
押し倒されるように尻もちをついた。
それと同時にごにょごにょと口元を隠しながら隣のリリスと話すマリアが見えた。
「おい!ごにょごにょはやめろ!傷つくから!」
それを聞いたマリアはニヤニヤしながら言い返す。
「そう言いながら嬉しそうじゃない?おにーちゃん」
(余計なことを!!)
そうトウヤが叫ぶ前にミズキが動いた。
「なんや照れとるん!?可愛い~~!!」
さらに抱きしめる力を強めて頬をスリスリした。
「ちっがあああう!!」
ティアの時と似てるが、鉄拳制裁は出来ない。
あの時は体が小さかったし大した力も無かったが、今は大きくなりそれなりに力もついた。
同じことをしたらミズキに怪我させることぐらい簡単に想像出来る。
「ってか何で引きはがせないの!?どんだけ力あんねん!」
理由はよくわからないが、ミズキを引きはがすのにとても苦労した。
そしてそれを尻目に、リヤナは頭を抱えた。
「……付いて行く人間違えたかもしれない……」
リヤナは早くもトウヤと一緒に行くことを後悔し始めた。
「恋は盲目って言いますからね」
「こ――!?」
思わぬ言葉に驚き顔が赤くなった。
誰に言われたかと確認すると、ニヤニヤしながらこちらを見るマリアがいた。
「そ、そんなんじゃ……」
魔導士として尊敬はしているし、自分が変わるきっかけをくれたので感謝もしている。
トウヤと関わってから良いことがたくさん起こっている。
だがそれは……
「……そんなんじゃないわ。これがそうなら失礼でしょ?……それに家のこともあるし……」
「ふ~ん、そんなもんですかね?」
「そんなもんよ」
「貴族ってめんどくさいですね」
「……それが責務よ」
なんだか妙に落ち着いた感じでトウヤ達を見守ることが出来た。