vsアダム
空間魔法、風打ち第七座駆による飛行魔法。
複数人連れても安定して飛べるなど、デメリットが少ないなと思っていたが、
こんなデメリットがあったとは思いもよらなかった。
「はぁ……はぁ……」
アダムの消耗が激しいことに気付いた。
暴走させられてるからかと思ったが、大量に汗をかいている事に気付いた。
(そうか、“駆”の影響で俺への影響が少ないのか)
駆は空間から自分の周りだけ切り取り動かす魔法。
空間を動かす事から疑似的に飛行を可能にしているため、大きな荷物を持っていても
平然と飛ぶことが可能になっている。
しかしここにデメリットがあった。
周りの環境の変化を受けにくくなることだ。
自分に害のある影響なら問題無いが、必要な変化は問題だ。
その影響の一つが暑さだ。
現在惑星エンデは太陽に近づいている。
そのため気温がどんどん上がっているのだ。
そしてその変化が駆によって遮断されていた。
急がなければ、そう思い繰り出した攻撃は冷静さを欠いていた。
ただ真正面から突っ込むように進んだ攻撃はアダムに片手で簡単に止められた。
攻撃を止めたアダムはあいた手を刃に変え突き刺す。
トウヤはデバイスを手放し後退。
だがそれを逃がすまいとアダムは刃を伸ばす。
伸ばした刃は躱された。
だが躱されても長い刃には使い道がある。
刃はそのまま振り回しても危険な武器になる。
アダムはそのままトウヤの方に振り回そうとしたが、トウヤが蹴り上げた。
刃部分でない箇所、平地部分であれば触れても問題無い。
蹴り上げたことで刃にした腕ごと上げられる。
その隙にトウヤは近づくが、アダムは即座に伸ばした刃を戻した。
この早さはイブよりもずっと早い。
戦い慣れている。
なので近づいたトウヤに対して防御も兼ね備えた攻撃をしてくるだろう。
だがトウヤの狙いは攻撃じゃない。
トウヤとしては倒す必要は無く、大人しくしてもらえればいい。
トウヤは攻撃に見せかけて、魔法で手のひら大の容器を取り出しアダムに投げた。
当然、アダムは直撃を避けるために振り払う。
それでいい。その程度の衝撃で問題無い。
その容器はアダムが触れた瞬間爆発し、白い煙を吹き出した。
その白い煙は一気にアダムを包み込む。
液体ヘリウムを使った爆発の煙、これに包まれれば呼吸困難になる。
もちろん密室空間での話であり、屋外では高濃度でなければ影響は少ない。
狙いは眩暈などの軽度の意識障害。
運が良ければ気絶で済む程度だ。
だが念のため、トウヤはデバイスで殴打による気絶も狙う。
「はあ!」
勢いよく振り落としたが受け止められた。
「んな!?……即座に息を止めたのか」
毒ガスを警戒して即座に息を止めた、やはり戦い慣れている。
アダムは止めたデバイスを掴みながら、また刃を伸ばしてきた。
「ちょ!?」
即座に躱そうと体を倒す。
キン
何もしていないはずなのに金属の衝突音がした。
よく見ると、刃に変形した両腕が見えた。
「イブ、気づいたか」
アダムの攻撃に対し、気がついたイブが防御したが、
トウヤが動いたので結果的に弾いた形になった。
「ごめん、どういう状況?」
「アダムが王の仕業で暴走して襲ってきている。周りも危険だ。
俺の魔法で平気だが、かなり気温が上がってるし、風も強い」
トウヤはイブと自分を縛っている紐を切りながら状況を的確に説明した。
「アダムは気絶させられれば連れていける。それで脱出だ。
あと俺から離れるな、魔法の効果もそうだし、転送の条件もある」
「わかった、急ぐよ」
拷問のような事を受けた後だと言うのに切り替えがしっかり出来ている。
イブは髪を刃に変えるとトウヤにおぶさるように乗った。
「え!?ちょっと!?」
「体が触れていればいいんでしょ?」
そう言いながらアダムの攻撃を弾く。
確かにイブは足で挿むようにトウヤの背中に乗っている。
これなら転送時に触れているという条件はクリアされる。
さらにトウヤもイブも両手が空くので攻撃に対処しやすい。
瞬時に判断して動く、イブも戦い慣れていることが良くわかる。
「動くよ!」
「ええ」
イブの動きが止まったと同時にアダムの背後に移動した。
一瞬で動いたこと、体への負担が無いことに驚きながらも受け入れ、攻撃を再開。
トウヤはイブと違い、武器を伸ばすことが出来ないので砲撃で対処する。
「元通り動いて平気、こっちが合わせるわ」
動くなら一緒になるので砲撃に切り替えたが、やはりアダムに重傷を負わせる可能性が高い。
そう考え、直接狙う事を避けていたトウヤを見てイブが指示をする。
「そりゃあ、ありがたいね」
トウヤは元通り、デバイスで薙ぎ払う。
しかしアダムに止められたが、今度は違う。
「風打ち・第五座・“震”!」
普段足で使っている魔法をデバイス経由で使う。
この不意を突くような攻撃にアダムは初めて大きな隙を見せた。
それに合わせてイブは髪で拳を作りアダムを殴り落とした。
見た目は拳でも鉄の高度、大きな鉄の塊で殴られるようなものだ。
これで気を失ってもらえれば……
しかしその願いは空しく、アダムはしっかりと着地した。
そしてトウヤも追うように着地する。
「はぁ……はぁ……」
変わらずアダムの息が荒い。
消耗しているはずだ。
対してこちらは暑さの影響が少なく、まだ余裕がある。
「アダム……アダム!」
イブが呼びかける。
「はぁ……はぁ……」
息が荒いだけで返事が無い。
まだ、まだ戦わなければならない。
いや、今なら……
トウヤは歩きながらアダムに近づく。
「ずっと戦闘続きだ。この過酷な環境で、自分の身を守らず戦い続けるのも限界に近いはず」
「じゃ、じゃあ……」
「念のため、魔法を強制的に解除する魔法を使う。これを使うとアダムも俺も
しばらく動きづらくなるから、イブがアダムを捕まえてほしい」
「わかった」
イブはトウヤから降りる。
これで、ようやく脱出できる。
互いに手を繋ぎ、目で合図を送ると、トウヤはそっと手を出した。
「風打ち・第――!?」
トウヤは不意に腹部の痛みに襲われた。




