誤算
誤算
物事には自分の理解の範疇が及ばないことがあることは理解している。
だがまさか自分の前に現れるとは……
イブはそう反省した。
だが、そこが嬉しい!
殺すことに苦労する強敵に出会えた!
その強敵を殺せるなんて幸せだ!
そう興奮すると同時に嫌悪感に襲われた。
こんなことに幸せを感じるなんて最低だ。
そう思うと少し落ち着いてきた気がする。
興奮と嫌悪感が混ざり合い、冷静さを取り戻せた気がする。
あのミイナと言う人は遠距離から攻撃してくるタイプだと思われた。
だが実際は接近戦も熟せる。
不意の一撃とはいえ、強力な一撃だった。
そしてまだ手を隠していると思った方が良い。
次にリヤナと言う人は防御特化だろう。
幾つかの攻撃を当てたが、未だに無傷。
これは時間がかかりそうだ。
モタモタしていると残りの二人から同時に狙われ、こちらが危険になる。
となると残りは……
イブはトウヤに狙いを定めた。
腕を刃にしてトウヤを切りつけたが、デバイスで上手く止められた。
だが狙い通り。
止められたと同時にイブは髪の毛を無数の細い糸状にして周囲を囲った。
「これは、檻!?」
トウヤとイブを隔離された。
「こんなもの!」
リヤナは腕を突き刺すが、押した部分が奥へ沈み刺せなかった。
細く、出来る限り細く、指先の“不侵の毒”を出来る限り小さく鋭利にし、
もう一度突き刺したが結果は変わらなかった。
「ちっ!」
布のような檻はピンと張っていない影響で、押しても埋まるように沈み、刺せなかった。
「だったら!」
“不侵の毒”を解き素手で触ろうとしたところミイナに止められた。
「何を――」
「この表面には無数の細かな茨があるようです。素手で触ったら肉が抉られます」
細かな茨は刺さったら抜けず、無理矢理抜いたら肉を引き裂くどころか周囲の肉ごと持っていく。
危険を理解しゾッとした。
「ここは私の出番です!」
両手で大きな炎の球を作り出し、檻へ当てた。
だが燃えることはなかった。
「どうして!?鉄なら溶けるはずです」
イブと刃を押し合っていたトウヤは遠目で確認し理由を理解した。
「石綿、こっちにもあるんだな」
「へぇ、名前は初めて聞くけど、燃えない布を知ってるのね」
繊維を持つ鉱石で地球でも石綿布として使われるもので、燃えない錆びない腐らない、
そして酸やアルカリにも強く、丈夫で変化しにくいと言われている。
つまり、突破は難しく、時間がかかるだろう。
「しばらく俺一人でやる!二人はその檻の突破方法を探してくれ!」
「わかりました~!」
すぐに返事をしたミイナは即座に解析を行った。
「トウヤ……」
心配するリヤナに声をかけようと思ったが、イブが連続した攻撃に切り替えたので、
声をかけるほどの余裕がなくなった。
「わかったよ、こっちに集中するよ!」
イブの攻撃をデバイスで受け弾く。
速い、だが見切れなくはない。
トウヤが上手く防いでいたその時、イブから黒い何かが溢れ出てきた。
「あれは……闇属性!?」
黒い何かを理解したリヤナは叫ぶ。
「トウヤ!その黒いのは闇属性の魔力!魔導士を狂暴にする危険な属性よ!!」
イブは黒い魔力を纏うと、渾身の一撃で叩きつけた。
「うぐっ!」
トウヤは何とかデバイスで受けたが、先ほどより威力があり、動けなかった。
その隙にイブは空いた手を刃に変え、トウヤの脇腹を突き刺そうと動く。
だがトウヤは体を引き、イブから離れた。
「あの手数でパワーアップとか、いよいよ本気になったようだね」
トウヤはもう一度構える。仕切り直しだ。
イブもそれを理解したのか構える。
ただし、目を大きく開き、口を大きく開きながら笑っている。
「狂暴化で話す事もなくなったのか」
それは皮肉にも彼女自身が嫌う姿のようだった。
「来な、止めてあげるから」
その言葉が合図だったかのようにトウヤとイブは動き出した。
「ギア・セカンド!」
付加魔法を境にトウヤの動きが変わる。
イブは髪を大量の刃に変え連続で突き刺し応戦した。
「速い!」
二人の動きは檻の外で見ているリヤナの目で何とか追える程度だ。
刃の嵐をトウヤは高速で動き躱す。それを追うようにイブが突き刺す。
(なるほど、この位置ならイブの動きの癖が見えてきた)
イブは髪を刃に変え攻撃する時、左前の髪から使う傾向があるようだ。
そして左中、左後ろと円を描くように使っている。
つまり左後ろを使った後であれば左前からの攻撃に物理的な遅れが生じる。
それを理解したうえでトウヤの動きを見ると、トウヤも同じように動いていた。
「あの攻撃を躱しながら見切るなんて、さすがね」
リヤナが感心すると同時に、トウヤはイブとの距離を詰めた。
「遅れのタイミング、バッチリ!」
同じ攻撃を、さっきより近い場所で受ける。
いや、トウヤは全て躱した。
そして
「雷光一閃!」
躱した瞬間に一気に加速してイブを切った。
切ったと言っても刃の無い武器。
痺れさせ動けなくすることが狙いだ。
狙い通りイブが倒れるのを確認すると、デバイスをしまった。
「へぇ、目を使い熟しているわね」
「訓練を受けてますからね~」
リヤナとミイナは安心した。
「あれ?まだこの檻の解析に時間かかりそうか?」
トウヤは檻の外にいる二人の元に駆け寄った。
「ええ、風属性が居ないから……」
「ああ……」
石は土系統の変化であり風属性の魔法なら崩しやすいが、今はこの場に居ない。
「なら俺が……これってイブの魔法だよな……」
「え?ええ。そう――!?」
これはイブの体の一部を変化させたもの。
魔法は基本的に術者の意識がハッキリしていないと消えるはず。
なのに消えないということは……
そこに気付いた瞬間、檻から無数の茨が飛び出た。




