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異世界貴族に転生したので家のためにツチノコを探した結果

作者: 雀40

一万字以下の短編に挑戦したかったのです。

 前略、前世の両親様。

 どうやら私は、異世界転生をしたようです。


 おぼろげな記憶によると、前世の私は難病を患ってしまったらしく、その生の多くをベッドの上で過ごしていた。そこから離れられないときの私は、本を読んだり動画を観たり、インターネットをしたりと、いろいろな情報に触れた。その情報の中のひとつが「異世界転生」だ。

 もちろん、その時はそれがフィクションの産物であるという認識はしていた。していたのだが――。


 私はエルミラ・サジン、この時五歳。決して裕福とはいえないが、いたって普通の男爵家の長女である。

 前世の記憶は、両親に泣きながら看取られたのが最後。それに続く今生の記憶は三歳程度のものからだが、すでにその時点で私は“私”だった。深く考えるとそこで湧き上がってくる疑問、“私”が認識している私は本当に“私”なのかという人生の命題は――まぁ、今は関係が無いので、横に置いておこう。


 なにせ、この私は五歳なのだから。


「行くわよ、マルオロ。いっかくせんきんをねらってツチノコを探すの!」

「ねえさま、ツチノコってなに? わるいまじょのてした?」


 その日の行動を決めた私の発言に、弟のマルオロが純粋な疑問を呈する。

 弟が言う「悪い魔女」とは、とある寓話に出てくる悪役のことだ。この世界でも、魔女には使い魔がつきものなのである。ちなみに、善き魔女もちゃんと出てくる。善悪の基準が、魔女という属性ではなく、あくまで個人であるという認識は大切。実に行き届いた寓話だ。


 しかしツチノコは、悪しき魔女の使い魔ではない。説明に苦しんだ私は、なんだかんだで未確認生物(UMA)のロマンについての説明をする羽目になってしまった。

 五歳の私の拙い説明が三歳の弟に伝わったとは思わないが、きっと熱意は伝わったのでよしとした。



 

 ※



 

 サジン男爵領は、私が三歳の頃に発生した大災害の傷跡がまだ癒えていない。大災害ということは、周囲の領も似たような状況である。一応、中央政府からの援助は多少あるものの、周りの領と助け合ってなんとかやっている状態だ。


 つまり、余裕が無い。大人たちは優しいけれど、ピリピリしていることが多く、とにかく人手が足りないので乳母(ナニー)が他の仕事に駆り出されてしまうことも多い。私や弟の世話をしているときも何やらで相談に来る人が多く、どうやら彼女は優秀な人物らしい。

 優秀な教育者がついたのはありがたいのだが、私と弟が「しばらく遊んでいて」と放置されることも多々。前世の記憶がある私はともかく、まだ三歳の弟が気の毒なので、私が色々と引っ張り回している。ツチノコ探しもその一環だ。もちろん、一攫千金狙いなのも本当ではある。ロマンとはそういうものだ――多分。


 なお、ここで乳母が言う「遊ぶ」とは、「大人しく」という枕詞がつくのだが、そんなことは気にしない。怪我がなければそれでいい、だって五歳なのだ。

 こんな生育環境は、貴族の子としてみれば決して良いと言えないが、別に悪いとも言い難い。元気に動き回れる身体があるのなら、それでいいと私は思う。忙しい大人たちも放置され気味の私達に気後れするのか、怪我さえしなければ大目に見てくれている。田舎領はいいぞ。


 そういった経緯で、私と弟はしょちゅう屋敷裏の森へ行っている。人の手がちゃんと入っている森なので、屋敷の近くであれば危険は少ない。そんな場所でUMAが見つかるわけないという指摘はその通りである。五歳なのでそこまで考えられないだけだ。五歳の世界は非常に狭い。


 いつも通り駆け回って探索し、そろそろ帰ろうかという時分に、か細い鳴き声を私の小さな耳が拾った。弟も同時に気がついたため、ふたりでガサガサと探し回ること数分――弟が薄汚れた子犬を発見した。


「ねえさま、なんかいるよ。ツチノコ?」

「……たいへん! この犬、けがをしているじゃないの!」


 血の滲んだ後ろ脚をかばい、怯えた目を向けてくる子犬を、放っておくことはできなかった。

 怯える子犬をなんとか宥めて連れ帰り、牧場育ちで犬好きの厩番に相談して彼の仕事を増やした。


 それから数日後、私と弟は、小麦色の毛並みと青い瞳をした雄の子犬と再会した。


「ねぇねぇ、ねえさま。この子はツチノコ?」

「えっ」

「ちがうの? ツチノコさがしてたから、みつけたのに」

「なるほど。たしかに、そうかも……ツチノコかも……」


 弟の純粋さに私が押し流された結果、子犬の名は、「ツチノコ」に決定した。とはいえ、子どもの舌では発音が難しかったため、すぐに「ノコ」という名前に短縮されたのは仕方がないことだろう。

 後で我に返った私が「流石に名前が『ツチノコ』は哀れ」と思った……わけではない、決して。


 そんなノコは、非常に賢い子犬だった。


 無駄吠えをせず、噛み癖もない。どころか、人の言葉を完璧に理解しているような行動すらある。

 少しだけイタズラをすることもあるが、ちょっとした可愛い程度のもの。

 そして、抱っこが好きな甘えん坊でもある。私と弟が子ども部屋のソファで並んで本を読んでいると、間に挟まるか膝に乗ってきた。


 仲間はずれが嫌なようで、私たちと同じものを食べたがる。それを聞いた料理人が、子どもの食事に見た目を寄せた子犬向けの薄味の食事を作るようになった。

 ふたりきりでいることが多い私と弟の気持ちを汲んだ忙しい大人たちは、ノコのためにちょっとした手間をかけてくれたのだ。

 

 やがて乳母の他の仕事が落ち着き、改めて教育が始まっても、ノコは私や弟の傍らでじっと待つことができた。

 夜は私か弟のベッドに潜り込み、一緒に眠ってぬくもりを共有した。

 

 そうして、ノコを拾ってから十年もの時が経たった私は今、何故か王城に呼ばれている。


「――やっと会えた。僕のエルミラ」


 艷やかな小麦色の髪と青空のような瞳を持つ我が国の第二王子クレオディノールが、貴きお方々が住まう場所で私を出迎え、抱きしめた。



 

 ※




 急展開の説明のためには、第二王子との対面から五年ほど時を遡る。


 ノコは、妙な犬だった。


 屋敷裏で拾ってから数年が過ぎても、少し身体が大きくなっていくだけで体つきが子犬のままだったのだ。定期的に様子を診ている犬好きの厩番いわく「小さい犬種のそれではなく、あくまで子犬の体つき」ということである。


 とはいえ、成長速度が一般的な犬のものでないだけで、いたって健康である。

 拾った際の怪我も後遺症になることはなく、ころころぽてぽてと元気に子犬走りで私と弟を追いかけてくるのだ。一般的な犬ではないようだが、何も問題はないと思った。


「ノコはツチノコだもんね。きっと、すごい犬なんだよ!」

「わふっ」

「そ、そうね……そうだったわね」


 犬の名前が「ノコ」に定着成功していたのですっかり忘れていたが、弟はちゃんと覚えていたらしい。ノコの本当の名はツチノコである。

 しかし同時に、確かにノコはUMAの一種なのかもしれないと、私は思ってしまった。


 けれど、今更ノコを売って一攫千金――なんてことを出来るはずもない。

 弟がノコを可愛がっているし、私にとってもノコは大切な家族である。


 そもそもこの頃には、男爵領も落ち着き始めていたので、子どもがお金の心配をする必要はなくなっていたのだ。

 しかし、災害復興の視察のために、男爵家を定期的に訪れていた行政官がノコの異質さに気がついた。


 成長がやたら遅く、人の言葉をよく解し、小麦色の毛並みと青い瞳を持つ子犬。

 ――ノコは、数年前から行方不明になっていた第二王子ではないか。


 第二王子は表向き、数年前から病に伏せているということになっている。彼が行方不明というのは、極秘も極秘の情報だった。

 流石に大々的な捜索をするわけにもいかず、各地の視察を装って彼のような国上層部の縁者が情報を集めていたらしい。


 私と同じ年齢で、王妃譲りの小麦色の髪と王譲りの青い瞳の持ち主である第二王子。

 そんな少年が病のためにベッドから離れられないというのは決して他人事と思えず、私は心の隅でいつも心配をしていたのだが――まさか、我が家で犬をやっていたとは、信じられない話である。


 これは後でこっそりと教えてもらったことなのだが、この事件は、王弟の妃が自らの夫を王にするため企てたものだった。

 

 悪しき魔女と偶然接触した王弟の妃は、手始めに第二王子を排除するため呪いをかけさせたという。しかし、王家の依頼を受けた善き魔女がその企てを暴き、第一王子に手を出す前に悪しき魔女は逃げ出した。

 聡明な第一王子ではなく、わがままで有名だった第二王子なら、害されてもまず対処が甘いだろうと踏んだらしい。実際はそのようなことなく、悪しき魔女は逃げ、王弟の妃はあっさりと排除されることになる。監督不行届に対する罰で、しばらくは王弟本人も蟄居となった。


 しかし、犬になる呪いをかけられた上に誘拐までされた第二王子は行方不明となってしまった。

 

 珍しい犬として隣国に売られようとしていた第二王子は、乗せられていた荷馬車が事故に遭い、現場の混乱に乗じて逃亡。

 子どもの体力と子犬の脚を気合で動かして逃げに逃げ、急斜面を転げ落ち、小さな体で森を突っ切り、サジン家の屋敷裏でついに力尽きた。そこを私と弟が見つけた。


 災害で荒れた道が事故を起こし、第二王子の逃亡を助けた。この災害は不幸の元凶そのものだったが、何が幸いになるかわからないものである。

 

 そしてノコは、行政官が王城へ連れて行くことになった。

 

 その後、善き魔女によって呪いが解かれ、第二王子本人であることが確認されたらしい。

 サジン家には第二王子を保護していた報奨金が出ることになり、そのお金で弟は寄宿学校へ通えることになった。この寄宿学校へ通うためのお金の出所を、弟はまだ知らされていない。

 

 はからずもツチノコを売って一攫千金を達成してしまった私は、悔しくて大泣きをしながらベッドに篭った。


 弟が寄宿学校で勉強をできることになったのは、とても嬉しい。

 我が家の後継者である弟が中央に繋がる人脈を築くために寄宿学校は有効だし、何より彼自身のための友人ができて欲しい。


 けれど、 十歳の私の感情は、ノコがよかったと思ってしまうのだ。

 お金よりも、ノコと弟と、一緒にいるほうがずっとよかったのだ。


 ノコがいなくなって落ち込んだ私と弟のために、父は犬好きの厩番の実家牧場から雌の子犬を貰ってきた。

 牧羊犬であるその犬の個性はノコとはまったく違ったが、私と弟の心を随分と慰めてくれた存在である。


 その後、入学年齢に達した弟は寄宿学校へ入るために家を出た。

 私の方は、家庭教師(カヴァネス)から指導を受けながら、犬と共に穏やかに日々を過ごす。この頃に年の離れた妹が生まれたりして、サジン家は寂しくも賑やかなものだった。


 そうして私が十五歳になり、そろそろ縁談についての検討が本格的に始まるのかな……と思っていた頃、その矢先に王城からの連絡が届けられる。

 どうやら、小麦色の髪をした第二王子クレオディノールが、私を呼んでいるという。


 ――ノコが、私を呼んでいる。


「……わかりました。すぐに支度いたします」

「念の為言っておくが、かのお方は第二王子殿下であってノコではないぞ」

「はい。もちろん承知しております」


 父に釘を刺されたが、このときの私は本当に何もわかっていなかった。

 別れ際のノコの悲痛な鳴き声は、私の耳にこびりついていた。だから、会えるのなら会いたかっただけだった。

 


 

 ※


 


 王城に到着し、表の馬車寄せに降り立つと、本来ならそこにいるはずのない人物が待っていた。

 

 二本の長い脚ですっと立つ姿は、見本のような涼やかさ。

 こちらに向かう足取りは軽やかで、指の先まで気品に満ちていた。

 

 そこに待っていた十五歳のノコ――クレオディノール第二王子殿下は、青年と少年の魅力が入り交じる美しい人であった。

 触れれば心地よさそうな小麦色の髪は陽の光を反射して煌めき、青空を閉じ込めた瞳は潤み、白皙の美貌を薔薇色に染まった頬が彩る。


 挨拶のために顔を伏せようとした瞬間、勢いよく近づいてきた存在によって力強く引き寄せられ、私はその身体に包み込まれた。


「――やっと会えた。僕のエルミラ」

「で、殿下……?」

「僕はノコだよ。君のノコ。……うーん、この香水は邪魔だな。君の匂いがかき消されてしまっているよ」


 ぐっと頭と腰を引き寄せられた私は、第二王子殿下にスンスンと匂いを嗅がれ続けていた。

 頭頂部からこめかみへ、耳の裏から首筋へ。確かめるように鼻を寄せてから、満足げな第二王子殿下は私の額にそっと唇を落とす。


 腕の力がほんの少しだけ緩められたので、押しつけられていた肩から顔をあげると、閉じ込められた青空に視線が吸い込まれる。

 一瞬の時が止まったような感覚ののち、ただでさえ至近距離にあった第二王子殿下の青い瞳はもっと近付き、「あっ」と思った時にはやわらかな唇が重なっていた。


 前世と今世を通して夢見みていた、私のファーストキスと呼べる口付けが、何故か今ここで行われていた。

 

 そっと押しつけられていた彼の唇は、時に角度を変え、時に私の下唇をやわやわと食む。

 驚いた私の口が少し緩めば、その隙間に彼の舌が――――。





 

「――――――――――殿下ァッ!!」


 私の父と、第二王子殿下の従者による怒号が、馬車寄せ全体に響き渡る。

 

 表の馬車寄せは、ただでさえ人が多い。

 そんな場所で行われたこの行為が、行き交う多くの人々の目に留まってしまっていたことに、私はふたつの怒号と共にようやく気がついた。




 ※




 その後の展開は非常に早かった。

 腰が抜けてしまった私の身体を、ノコ――第二王子殿下がそう呼んでほしいと言い続けるので、諦めてそう呼ぶことになった――はあっさりと抱き上げ、そのまま彼の宮に連れて行かれた。


 もともと、私はノコの婚約者に内定していたらしい。何故なら、ノコ当人が私以外を拒絶していたから。

 当然のことながら父はその状況を知っていたようだが、私に知らされなかったのは父の複雑な内心ゆえか、王家側の意向か……誰も教えてくれないので詳細は未だ不明。

 

 そういった流れによって、この日は見合いを兼ねた顔合わせ茶会の予定だったのだが、ノコはそんなことをすべてすっとばした。いわく「五年も一緒に暮らしていたのだから、今更必要ない」とのこと。

 私が共に暮らしていたのはノコという子犬であって、第二王子クレオディノールではないのだが……どうやらそこは些事らしい。いや、決して些事ではないと思う。


 ノコの宮で腰を落ち着ければ、騒ぎを聞きつけた王妃陛下がノコの宮へ飛んできて、目の前で大説教が始まってしまった。


「クレオディノール、慎みなさいと言ったでしょう! 貴方だけでなく彼女の瑕疵にもなりうるのですよ!」

「それはわかってますけど、ああすれば誰の目にもわかりやすいでしょう? 僕はエルミラのもので、エルミラは僕のものなんですから。まったく、人間は匂いに疎いから困るんです」

「貴方はもう少し人間の感覚に慣れなさい!」


 ロイヤルでアットホームな親子喧嘩は、見た目と中身がチグハグで妙に可笑しかった。

 とはいえ、私たちが笑うわけにもいかず、私と父は口元を歪ませつつもそれが落ち着くのを待つしかない。まごうことなき地獄である。


 五年間、田舎領でのびのびと飼い犬をしていたノコは、王城の人間関係が疎ましくて仕方がないらしい。

 

 呪いが解かれた直後も私と弟に会いたいと泣くばかりで、周囲は途方に暮れていたそうだ。

 しかし、そこで王の一声。私を妻に迎えたいのなら、人間社会で私を守れるくらいの力をつけろと発破をかけた。馬の鼻先の人参である。

 

 実際、特別な能力を持たず特別な縁者もいないという、ないない尽くしのしがない男爵令嬢が王子妃だなんて厳しすぎる。しかもノコの場合は五年間の空白という巨大な問題があり、対策がなければ共倒れ必至といったところだろう。

 とはいえ、ノコの妃の地位に私以外の娘を宛てがうにしても、その五年間の空白が立ちはだかってくる。表向きは病床に臥せていたことになっていて、学びも遅れているノコに娘を預けるのはリスクが高いせいで、良い条件は望めない。さらに言うのなら、下手に相手の地位があればノコが傀儡にされる危険もあり――王弟の妃が暴走した件と同じ状況を招く危険性がある。


 つまり、ノコの能力をなんとしてでも底上げすることが急務となれば、わかりやすい餌が必要だった。それが私だ。

 国家や王家のためには、しがない人参の意思など一切考慮されないものである。


「もっと早く会いたかったのに、駄目だって言われてね。僕を男として意識してもらうのに必要な期間なんだって」

「そ、そうなんですか……」

「と、いうわけで……僕の評価はどうだった?」

「えっ。ええ~っと……とても、素敵ですよ」

「やった! 頑張った甲斐があったな」


 四阿に移動してノコと私がふたりきりになった途端、王妃陛下と喧嘩していたときのようなしっかりとした様子は消え失せ、幼さが強く表出している。

 サジン家でしていたようにぴったりとくっついて座り、私の匂いを堪能したノコは頭を撫でて欲しがった。


 今まで頑張っていただけで、まだこちらが素なのだろう。

 凄まじいギャップである。


 さっきまでそこにいた気品のあるきらきらした少年が、今は全力で甘えてくる子犬になっているのだ。

 犬のノコはころころした小型の子犬だった。しかし、人間のノコはもふもふした大型の犬のように思える。


 けれど、私より大きな人間の身体になってもノコはノコで。

 結局、彼は可愛い私のノコなのだなと、なんだかすとんと腑に落ちてしまった。

 

 彼に恋することが出来るかはまだわからないが、私がノコを好きなことに変わりはないのだ。


「マルオロにも会いたいな。学校が長期休みになったら会えるかな」

「そうですね。きっと弟もでん……ノコにお会いしたいと思っていますよ」

「……あのね、僕はエルミラが大好きだよ。エルミラも僕が好きでしょう?」

「はい。私も大好きですよ……………………ひゃっ!?」


 私がノコの頭を撫でながらそう答えれば、嬉しくなって興奮したノコによって四阿のソファに押し倒される。

 そのまま口付けられ、顔を舐められ、匂いを吸われ――――――――遠くから見守っていた父とノコの従者の怒号が、静かな庭に響き渡った。


 力づくで私から引き剥がされ、再びこんこんと説教をされたノコは、今は私の膝枕で寝そべっている。

 ノコは、私より自分の身体が大きいことに不満があるようで、少しだけ拗ねているのがまた可愛いと思ってしまう。


「――そういえば……ねぇ、エルミラ。ずっと聞きたかったんだけど、『ツチノコ』って何?」

「ンごふッ」


 ノコの純粋な瞳の前に、私は為す術がなかった。

 真実をごまかすことなどできず、しどろもどろとなりながらUMAについて説明をする羽目になってしまった。


 この会話が発端となり、ノコと私は国内の動植物を調査するプロジェクトを立ち上げることになる。

 

 プロジェクトに賛同した各分野の学者の独立研究が、集約・整理によって相互補完が進み、新たな発見をもたらした。

 たとえば、在来種だと思われていたものが新種だったと判明したり、よく似た外来種だったことが判明したり。

 今まで原因不明だった野生動物の行動に、新たな仮説がついたり――。


 


 ――それでもなお、ツチノコという生物は、まだ未確認のままである。

子犬のノコは、明るい毛色の柴犬なイメージです。

しかし、溺愛ヒーロー書きたかったんだけど、変態が生まれました。どうして。

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― 新着の感想 ―
「異世界でツチノコ探し」という驚きの展開からの恋愛劇、楽しませて頂きました。 想い人の扱いに多少苦労しそうではありますが、エルミラは幸せになれそうですね。 ラスト一行の締め方もとても良かったです。
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