第8話:笑いの呪いを解く冒険
◇異様な村の空気◇
「うわ...」俺は村の入り口で立ち止まった。「なんだこの雰囲気」
周りを見渡すと、まるでモノクロ写真から抜け出してきたような光景が広がっていた。村人たちは皆、完璧に無表情。歩く姿も、まるでゾンビのように一定のリズムだ。
「おい、フィル」俺は小声で言った。「この村、やばくねぇか?」
フィルは杖を構えながら答えた。「ああ...まるで『笑い』って概念自体が消えちゃったみてぇだ」
試しに、俺は近くの村人に話しかけてみた。
「あの〜、こんにちは?」
「...」
「えっと...天気いいですね?」
「...」
「あ、そうだ!」俺は思いつきで言った。「昨日テレビで面白い番組やってて...」
フィルが俺の肩を叩いた。「おい、この世界にテレビねぇだろ」
「あ、そっか...」
村人は無言のまま、機械のように歩き去った。
◇村の呪い◇
「なんだこりゃ...」俺は呆然と言った。「完全にスルーされたぞ」
そんな時、一人の老人が近づいてきた。村長らしい。
「やあ、若者たち」村長は無表情で言った。「ようこそ...『笑いを失った村』へ」
「笑いを失った...?」
「そう」村長は相変わらず無表情で続けた。「この村は『笑いを奪う呪い』にかかってしまったのじゃ」
「呪い!?」俺とフィルは声を揃えた。
「古代の遺跡に封印されていた呪いが解かれ...」
「ちょっと待って」俺は首を傾げた。「なんで誰かが封印を解いたんですか?」
「それが...」村長は少し考え込んだ。「『面白そうだから』という理由だったらしい」
「いや待て」フィルが突っ込んだ。「それ完全にイタズラじゃねぇか!」
村長は頷いた。「そうなのじゃ。しかも、封印を解いた本人も呪いにかかってしまい、今では...」
村長は一人の若者を指差した。その若者は無表情で、同じ場所でぐるぐる回り続けている。
「あいつが犯人か」俺は呆れた。「なんてバカな...」
「しかも」村長は続けた。「呪いにかかった途端、『あ〜、面白くね〜』って言いながら回り始めたんじゃ」
「いや、それ完全にギャグだろ!」俺は思わずツッコんだ。
◇呪われた村の不思議な風習◇
村の様子をもっと観察してみると、さらに奇妙なことが次々と目についた。
「フィル、見てみろよ」俺は通りを指差した。「あの家族、全員同じタイミングでスプーンを上げてる」
確かに、食事中の家族全員が完璧なシンクロで動いている。
「おい、あっちも!」フィルが別の家を指差した。「あの家族は全員同時にあくびしてる」
「なんだこれ...」俺は首を傾げた。「まるで村全体が決められた振り付けで踊ってるみたいだ」
「そうなのじゃ」後ろから村長の声。「呪いのせいで、村人たちは皆、同じ行動を同じタイミングでとるようになってしまった」
「えっ」俺は驚いた。「じゃあ、例えば誰かが転んだら...」
「村中の人間が転ぶことになる」村長は淡々と答えた。
「それヤバすぎだろ!」フィルが叫んだ。「じゃあ、誰かがトイレ行きたくなったら...」
「そうじゃ」村長は頷いた。「村中大パニックになるのじゃ」
俺とフィルは顔を見合わせた。これは想像以上にヤバい状況だ。
◇ギャグで村人の反応を探る◇
「よし、フィル」俺は決意を固めた。「こうなったら、村人たちの行動を逆手に取るしかない」
「どういうこと?」
「だって見てみろよ」俺は説明する。「全員が同じ行動するんだろ?なら、一人笑わせれば全員笑うはずじゃないか!」
「なるほど!」フィルは杖を構えた。「じゃあ、試してみるか」
俺たちは村人たちの「無言行進」に紛れ込んだ。
「えー、皆様」俺は大声で言った。「これより『爆笑魔法団』の出し物を始めます!」
村人たちは無反応で歩き続ける。
「フィル!『スーパー・ウルトラ・メガ・ファイアボール』!」
フィルが魔法を放つと...いつもの小さな火の玉が現れた。
「おい」俺はツッコむ。「相変わらず小さいな!」
しかし村人たちは全く反応せず、ただ歩き続ける。
「くそっ」俺は焦る。「フィル、次!」
「よし!」フィルは杖を振り上げた。「『ビッグ・バン・バーガー』!」
空から巨大なハンバーガーが降ってきた。しかし、村人たちはそれすら無視して歩き続ける。ハンバーガーを避けるのも全員同じタイミング。
「マジかよ...」俺は呆れた。「ハンバーガー降ってきても反応しねぇのかよ...」
「おい」フィルが指差す。「見ろよ。ハンバーガー避けるの、全員同じ動きだぞ」
確かに、村人たちは完璧なシンクロでハンバーガーを避けていた。まるでダンスの振り付けのように。
「よし」俺はニヤリと笑った。「ここは『シンクロナイズド・ギャグ』で行くか」
「シンクロナイズド・ギャグ?」
「ああ」俺は村人たちの動きを真似始めた。「こうやって、みんなと同じ動きをしながら...」
突然、俺は意図的によろけて転んだ。
「うわっ!」
しかし、予想に反して村人たちは転ばない。
「えっ?」俺は驚いた。「なんで?さっき村長が...」
「ふむ」村長が現れた。「呪いの効果は『自然な行動』にしか働かないのじゃ。わざとやった行動は伝染しない」
「なんだそりゃ!」俺とフィルは同時にツッコんだ。
### 遺跡へ向かう
「どうやら普通のギャグじゃダメみたいだな」俺は諦めのため息をついた。
「ああ」フィルも頷く。「やっぱり呪いの源を直接どうにかしないと」
俺たちは村長に案内されるまま、村の北にある遺跡へと向かった。道中、村人たちは全員同じ方向を向いて見送ってくれた...というか、たまたま全員その方向を向いていただけかもしれない。
◇遺跡での試練◇
遺跡に到着すると、そこには古代の文字で書かれた看板があった。
「笑いは禁じられた力。ここを通る者よ、笑いを忘れよ」
「...」
「...」
「なぁ、フィル」俺は看板を指差した。「これ、なんかダサくね?」
「わかる」フィルも頷いた。「『笑いを忘れよ』って、厨二病かよ」
そのとき、遺跡から不気味な声が響いた。
「笑いを愚弄する者どもよ...」
突然、遺跡から無数の「無表情の魔物」が現れた。文字通り、顔のない白い人型の魔物だ。
「うわっ」俺は驚いて叫んだ。「なんだこいつら!?」
「無表情の魔物たちじゃ」村長が説明する。「笑いを奪う呪いの化身じゃ」
魔物たちは無言で近づいてくる。
「くそっ」フィルは杖を構えた。「『スーパー・ウルトラ・メガ・ファイアボール』!」
いつもの小さな火の玉が出現。
「おい」俺は呆れた。「こんな時までそれかよ!」
しかし、驚いたことに魔物たちは火の玉を見て立ち止まった。
「え?」フィルも驚く。「効いたのか?」
魔物たちは首を傾げている...というか、顔がないのに何故か首を傾げているように見える。
「まさか...」俺は閃いた。「フィル、もしかしてこいつら、『面白さ』が分からないから混乱してるんじゃ...?」
「そうか!」フィルも理解した。「つまり、ボケとツッコミの概念自体が理解できないってことか!」
俺たちは顔を見合わせた。
「よし」俺は拳を握った。「なら、とことんふざけた魔法で攻めるぞ!」
「任せろ!」フィルは杖を振り上げた。「『ビッグ・バン・バーガー』!『プチフリーズ』!『エレクトリック・バナナ』!」
次々と繰り出される意味不明な魔法の数々。空からハンバーガーが降り、地面が少しだけ凍り、バナナ型の雷が走る。
魔物たちは完全に混乱し始めた。
「さらに行くぜ!」フィルは調子に乗って叫ぶ。「『メガトン・プリン』!『スーパー・カレー・レイン』!『ウルトラ・もやし・ストーム』!」
プリンが爆発し、カレーが降り注ぎ、もやしが竜巻となって吹き荒れる。
魔物たちは理解不能な現象の連続に、ますます混乱を深めていく。
「トドメだ!」俺は叫んだ。「フィル、最後の魔法を!」
「おう!」フィルは杖を高く掲げた。「『アルティメット・ギャグ・エクスプロージョン』!」
...
しかし、何も起こらなかった。
「え?」フィルは困惑する。「おかしいな...」
その瞬間、魔物たちが突然震え始めた。そして...
「プッ...」
「え?」俺とフィルは驚いた。
「アハハハハハ!」
魔物たちが爆笑し始めたのだ。
「何も起こらないのが面白かったのか!?」俺は驚きながらツッコんだ。
魔物たちは笑いすぎて、次々と消滅していく。そして、遺跡全体が光に包まれ始めた。
◇笑いの力で呪いを解く◇
光が収まると、遺跡は消え去り、代わりに一冊の本が残されていた。
「『笑いの禁書』...」村長が拾い上げる。「これが呪いの源だったのじゃ」
俺は本を開いてみた。
「えっ」俺は驚いて言った。「これ、ギャグ本じゃねぇか!」
「なに!?」フィルも覗き込む。
確かに、そこには古代のギャグが記されていた。しかし、あまりにもレベルが低すぎて、誰も笑えないようなものばかり。
「なるほど」村長が頷いた。「面白くないギャグに呆れた古代の賢者が、『笑い』自体を封印してしまったということか...」
「いや」俺は本を閉じた。「それただのイジメだろ」
その瞬間、村全体が明るい光に包まれた。そして、村人たちの表情が少しずつ変わり始める。
◇笑いの力で呪いを解く◇
村全体が光に包まれ、村人たちの表情が変わり始めた。
「お、おい...」俺は驚いて村を見渡した。「みんなの表情が...」
最初に変化が現れたのは、延々とぐるぐる回り続けていた若者だった。
「あれ?」若者は回るのを止めた。「俺...なんでこんなところでぐるぐる回ってたんだ?」
「よかった!」村長は安堵の表情を浮かべた。「皆の表情が戻って...あっ」
村長は自分も表情を取り戻したことに気づいて驚いた。
次々と村人たちが我に返り、周りを見回し始める。そして...
「ブッ!」誰かが笑い出した。「なんだよ、空から巨大ハンバーガーが降ってきた跡があるじゃん!」
「うわっ!地面の一部だけ凍ってる!」
「あっちにはプリンが爆発した痕が...」
村人たちは次々と、俺たちの戦いの痕跡を見つけては笑い出した。
「やった!」フィルは杖を掲げた。「みんな笑ってる!」
その瞬間、フィルの杖から小さな火の玉が飛び出した。
「あ」フィルは慌てた。「また出ちゃった...」
村全体が大爆笑に包まれた。
「はは!」若者が近づいてきた。「すみません、僕が悪ふざけで封印を解いちゃったせいで...」
「いやいや」俺は首を振った。「むしろ、お前のおかげで面白い冒険ができたよ」
「そうそう!」フィルも笑顔で言った。「これも『笑い』の修行になったしな!」
村人たちは輪になって、俺たちの冒険話に耳を傾けた。特に、意味不明な魔法の連発で魔物を笑わせて倒したくだりは大ウケだった。
「本当にありがとう」村長は深々と頭を下げた。「君たちのおかげで、村に笑顔が戻りました」
「いえいえ」俺は照れくさそうに答えた。「笑いの勇者として当然の...」
「あ!」フィルが突然叫んだ。「そうだ!この『笑いの禁書』、もしかして...」
俺も気づいた。「ああ、これって『笑いの魔王』に関係あるかもな」
本の最後のページには、確かに「笑いの魔王」についての記述があった。しかし、その部分は判読できないほど古く、かすかに「封印」という文字だけが読み取れた。
「よし」俺は本を持って立ち上がった。「この本を手がかりに、笑いの魔王の正体を突き止めるぞ!」
「おう!」フィルも杖を構えた。
その瞬間、またしても小さな火の玉が飛び出した。
「もう!」フィルは杖を叩く。「いい加減にしろよ!」
村全体が再び笑いに包まれる中、俺たちは次なる冒険への一歩を踏み出した。果たして、「笑いの魔王」の正体とは...?
...to be continued.