第2話:最初の笑いの試練!
♢♢♢♢♢♢冒険者デビュー♢♢♢♢♢♢
「はぁ...はぁ...」俺は、ようやく冒険者登録を終えた安堵感と疲労感で息を切らしていた。
「お疲れ様でした、冒険者登録が完了しました♪」
ギルドの受付嬢が、まるで大量の書類作業など何でもなかったかのように、にこやかに告げてきた。
「完了って...俺の人生の数時間が完璧に消え去っただけだよ...」俺は心の中でつぶやいた。
「次は何をすればいいんでしょうか?」俺は、できるだけ普通の表情を装って尋ねた。
「そうですね〜」受付嬢は、新品のクエストボードを指差した。「初心者向けのクエストでおすすめなのは、近隣の村でモンスターを退治する任務です♪」
「おっ、モンスター退治ですか?」俺は少し興奮した。やっと異世界ファンタジーらしいことができる!
「はい♪ でも、ちょっと特殊な状況なんです」
「特殊?」
「実は、その村の人々が最近笑顔を失ってしまって...」
「はぁ?」俺は首を傾げた。「笑顔を失う?それってどういう...」
「そうなんです」受付嬢は真剣な顔になった。「村人たちは長い間モンスターに苦しめられ、次第に笑顔を忘れてしまったんです。そんな彼らに笑いを取り戻してほしい、というのがこのクエストの目的なんです」
「ちょ、ちょっと待って」俺は額に手を当てた。「俺がモンスター退治じゃなくて、お笑い芸人になるってこと?」
受付嬢は明るく笑った。「そうです♪ 笑いの勇者様にぴったりのクエストですよ!」
「いやいや、俺、そんなの...」
でも、言葉の途中で俺は思い直した。確かに、これこそが「笑いの勇者」の仕事なんじゃないか?
「...わかりました。やってみます」
「素晴らしいです!」受付嬢は拍手した。「では、こちらが村への地図です。頑張ってくださいね♪」
俺は渡された地図を見つめながら、これから始まる奇妙な冒険に身を震わせていた。
♢♢♢♢♢♢村への道中♢♢♢♢♢♢
「よっしゃ!異世界で初めての冒険だ!」
俺は意気揚々と村への道を歩き始めた。しかし、その高揚感もつかの間...
「あれ?」俺は周りを見回した。「なんか...静かすぎないか?」
確かに。周囲には鳥の声も、虫の音も聞こえない。まるで、音を消したビデオゲームの中を歩いているような感覚だ。
「もしかして...」俺は不安そうに呟いた。「ここ、本当に異世界なのか?それとも、俺がいつの間にか聴力を失ったとか?」
試しに、俺は大声で叫んでみた。
「おーい!誰かいませーん!?」
...反響音だけが返ってきた。
「うわ、マジで誰もいねぇ...」俺は寒気を感じた。「これ、完全にホラーゲームの序章じゃねぇか...」
そんな不安を抱えながら、俺は村の入り口にたどり着いた。
♢♢♢♢♢♢村人たちの無表情♢♢♢♢♢♢
「これが...笑顔を失った村?」
俺の目の前に広がっていたのは、まるでモノクロ写真から抜け出してきたような光景だった。
道端で農作業をしている村人たち。畑で野菜を収穫している子供たち。井戸で水を汲んでいるおばあさん。
彼らの動きはスローモーションのようにゆっくりで、何より驚いたのは、全員が同じ表情をしていることだった。
「おい...みんな大丈夫か?」
俺は恐る恐る声をかけてみた。しかし、誰も振り向かない。
「あの...すみません?」
今度は、近くにいた農夫らしき人の肩を軽くたたいてみた。
「うわっ!」
その瞬間、農夫がゆっくりと振り向いた。そして...
「...」
無表情のまま、俺をじっと見つめている。
「え、えっと...こんにちは?」俺は緊張しながら挨拶した。「僕、笑いの勇者として...」
「...」
農夫は一言も発せず、またゆっくりと畑の方を向いた。
「おいおい...これマジでやばくねぇ?」俺は冷や汗を流した。「完全にゾンビ映画の世界じゃん...」
しかし、ここで諦めるわけにはいかない。俺は深呼吸をして、再び挑戦することにした。
「よーし、笑いの勇者の出番だ!」俺は気合を入れ直した。「みんな、聞いてくれ!俺、実は異世界から来たんだけどさ...」
「...」
「あのさ、こっちの世界って面白いよね?だって、モンスターとか魔法とか当たり前にあるんでしょ?」
「...」
「俺の世界じゃ、そんなのファンタジーの中だけなんだぜ?あ、でも俺の元上司は完全にモンスターだったかも。毎日『残業しろ!』って叫んでたし」
「...」
村人たちは一切反応を示さない。むしろ、俺の話を完全に無視しているようだった。
「あれ?もしかして」俺は不安になった。「俺のギャグ、異世界では通じない...?」
その時、俺は恐ろしい現実に気づいた。
これは単に笑顔を失った村じゃない。完全に「笑い」という概念を忘れ去ってしまった村なのだ。
「くそっ...」俺は歯を食いしばった。「これは思ってた以上にやべぇ状況じゃねぇか...」
♢♢♢♢♢♢村長との会話♢♢♢♢♢♢
「困ったな...」
俺が途方に暮れていると、一人の老人が近づいてきた。他の村人と違って、こちらをしっかりと見ている。
「お主、笑いの勇者じゃな」
「え?」俺は驚いた。「はい、そうですけど...あなたは?」
「わしは、この村の村長じゃ」老人はゆっくりと答えた。「お主の来訪は聞いておった」
「あ、はい...」俺は少し安心した。「あの、村長さん。この村、一体どうなってるんですか?みんな、まるで...」
「ゾンビのようじゃろ?」村長が言葉を継いだ。
「えっ」俺は驚いた。「村長さん、ゾンビって知ってるんですか?」
「知っとるとも」村長は苦笑いした。「昔は、この村でもゾンビ映画を楽しんでおったのじゃ」
「へぇ...」俺は感心した。「でも、今はみんな...」
「そうじゃ」村長は深いため息をついた。「この村の人々は、長年モンスターに苦しめられ、笑顔を失ってしまった。いや、正確に言えば...」
「笑いそのものを忘れてしまった?」
「その通りじゃ」
俺は唖然とした。笑いを忘れるなんて、そんなことがあり得るのか?
「でも、村長さん」俺は必死に訴えた。「笑いは大事ですよ!笑うと免疫力が上がるし、ストレス解消にもなるし...」
「わかっておる」村長は俺の肩に手を置いた。「じゃが、何をやってもこの村人たちは笑わぬ。何度も冒険者が笑わせようとしたが、皆失敗した」
「そうですか...」俺は肩を落とした。「でも、俺は...」
「お主は違うかもしれんな」
「え?」
「お主の目を見ると、なんだか懐かしい気持ちになる」村長は少し微笑んだ。「かつてこの村にあった、あの輝きを思い出すのじゃ」
「村長...」
「頼む」村長は真剣な表情になった。「この村を、笑いで救ってくれんか?」
俺は大きく深呼吸をした。そして、
「任せてください!」俺は力強く宣言した。「俺が必ず、この村に笑顔を取り戻してみせます!」
村長は安堵の表情を浮かべた。「期待しておるぞ、笑いの勇者よ」
♢♢♢♢♢♢笑わせるための挑戦♢♢♢♢♢♢
「よし、まずは村人たちの生活を観察しよう」
俺は村を歩き回り、村人たちの日常を細かく観察し始めた。
「ふむふむ...」俺はメモを取りながら呟いた。「みんな黙々と働いてる...楽しそうじゃないけど、効率は良さそうだな」
そんな中、俺の目に飛び込んできたのは...
「うおっ!これは...」
俺の目の前には、見たこともない奇妙な野菜や肉が並んでいた。
「あの...これ、食べ物ですか?」俺は近くにいた村人に尋ねた。
「...」村人は無言で頷いた。
「へぇ...」俺は興味深そうに食材を観察した。「これ、なんて言う野菜ですか?」
「...プルプルキャベツじゃ」
突然、後ろから声がした。振り返ると、村長が立っていた。
「プルプルキャベツ?」俺は首を傾げた。「なんか、スライムみたいですけど...」
「食べてみるかね?」村長が尋ねた。
「え?あ、はい...」
俺は恐る恐る、プルプルキャベツを口に運んだ。
「うわっ!」
口の中でキャベツが動き回る感覚に、俺は思わず声を上げた。
「これ、まるで生きてるみたいですけど!?」
村長は少し楽しそうに答えた。「そうじゃ。プルプルキャベツは、口の中で踊りながら消化されていくのじゃ」
「踊りながら!?」俺は驚愕した。「じゃあ、これって食べ物なのか娯楽なのか...」
次に、俺の目に入ったのは...
「これは...肉?」
「ギャリギャリステーキじゃ」村長が説明した。「噛むのに特殊なスキルが必要なほど固い肉じゃ」
「はぁ!?」俺は目を丸くした。「食事にスキルが必要って...これ、もう修行じゃないですか!」
そして最後に...
「村長、これは...卵ですか?」
「ああ」村長は頷いた。「モンスターの卵じゃ」
「モンスター!?」俺は悲鳴を上げそうになった。「これ、食べて大丈夫なんですか!?中から赤ちゃんモンスターとか出てこないんですか!?」
村長は肩をすくめた。「さあな。食べてみれば分かるじゃろう」
「いや、それは...」
俺は冷や汗を流しながら、これらの奇妙な食材を見つめた。そして、突然閃いた。
「そうか!」俺は拳を握りしめた。「これだ!」
「何じゃ?」村長が不思議そうに尋ねた。
「村長」俺は真剣な顔で言った。「俺に、村人全員を集めてもらえませんか?」
「全員をか?」
「はい」俺は自信満々に答えた。「俺には、みんなを笑わせる方法が分かりました」
♢♢♢♢♢♢ついに笑顔が戻る♢♢♢♢♢♢
「みんな、集まってくれてありがとう!」
村の広場に集まった村人たちに向かって、俺は声を張り上げた。しかし、返事はない。みんな無表情のまま、ただ俺を見つめている。
「えー、今日はみんなに、この村の素晴らしい食文化について語りたいと思います!」
村人たちの表情に変化はない。でも、俺は諦めない。
「まず最初に、みんな大好きな『プルプルキャベツ』!」俺は大げさなジェスチャーで、手に持ったプルプルキャベツを掲げた。「これ、すごいよね。だって、食べ物なのに逃げようとするんだもん!」
村人たちの中に、かすかな動きが。
「いやぁ、初めて食べた時はびっくりしたよ。口の中でダンスを始めるなんて。『おい、やめろよ。胃液パーティーに招待したわけじゃないぞ!』って言いたくなったもんね」
すると、村人の一人が目を瞬かせた。
「それに、このキャベツ、栄養たっぷりらしいね。でも、栄養を取る前に追いかけっこで消費しちゃいそうだよ。これって、ダイエット食品なんじゃない?」
村の片隅で、誰かがクスッと笑った気がした。
「次は、みんなお待ちかね、『ギャリギャリステーキ』!」俺は岩のように固いステーキを掲げた。「これ、食べるのに特殊スキルが必要って...完全に RPG の世界じゃん!」
村人たちの間で、小さなざわめきが起こった。
「想像してみてよ。家族で食事してる時に、『ごちそうさま』の代わりに『レベルアップ!』って叫ぶんだぜ?」
ついに、何人かの村人が明らかに笑いを堪えている。
「そして最後は、怖いけど気になる『モンスターの卵』!」俺は大きな卵を手に取った。「これ、本当に食べていいの?割った瞬間にヒヨコモンスターが『ピヨピヨ』って出てきたりしない?」
村全体に、クスクスという笑い声が広がり始めた。
「でもさ、考えてみると面白いよね」俺は真剣な顔で続けた。「もし本当にモンスターが出てきたら、『すみません、目玉焼き頼んだはずなんですけど...』って言えば良いんだよ!」
その瞬間だった。
「プッ...ahahaha!」
村人の一人が、大きな声で笑い出した。そして、その笑いは瞬く間に村中に広がっていった。
「あはは!」「うっはっは!」「くっくっく!」
様々な笑い声が、村を埋め尽くす。
俺は目を見開いた。「やった...みんな、笑ってる!」
村人たちの顔に、久しぶりの笑顔が戻っていく。まるで、色彩を取り戻したかのように、村全体が明るくなっていく。
「すごい...」村長が涙ぐみながら俺に近づいてきた。「お主、本当にやってくれたな...」
「いえいえ」俺は照れくさそうに頭をかいた。「みんなの中に、笑いの種があったんです。俺は、ただそれを少し水をあげただけですよ」
村長は俺の肩を叩いた。「お主は本物の笑いの勇者じゃ。我が村を救ってくれて、本当にありがとう」
俺は村人たちの笑顔を見て、胸が熱くなるのを感じた。こんな気持ち、今まで味わったことがない。
「よーし!」俺は拳を突き上げた。「これで第一歩。でも、まだまだ笑顔を取り戻すべき人たちがいる。俺の旅は、ここから始まるんだ!」
村人たちは、俺に惜しみない拍手を送ってくれた。その音は、まるで俺の新たな冒険への応援歌のようだった。
こうして、俺の「笑いの勇者」としての本当の冒険が幕を開けた。次はどんな笑いが、どんな人々を待っているんだろう?
俺は、期待と不安が入り混じった気持ちで、次の目的地へと歩み出した。
...to be continued.