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第1話:転生して、笑いの勇者に!


「えっ、まさか俺、死んじゃったの!?」


目を覚ました瞬間、俺・佐藤太郎(28歳・元社畜)は、自分がふわふわと宙に浮いていることに気づいた。周りを見回すと、なんだかキラキラしたオーロラみたいなものが漂っている。


「ここ、天国?いや、俺みたいなブラック企業の使い捨て社員が天国なんか行けるわけない...じゃあ、地獄?」


最後に覚えているのは、会社のデスクで山積みの書類と格闘していた時のこと。「この仕事、死ぬまでやらなきゃならないのか...」なんて冗談を言った直後、本当に死んでしまったらしい。


「くそっ、せめて有給消化してから死にたかったなぁ...」


そんな後悔をつぶやいていると、突然目の前に眩い光が現れた。


「いらっしゃいませ〜!異世界転生窓口へようこそ♪」


現れたのは、まるでアイドルのような可愛らしい少女。純白のドレスに身を包み、頭上には天使の輪っかまでついている。


「え?ちょっと待って。異世界転生!?俺、なろう小説の主人公にでもなったの!?」


少女は、きらきらした目で俺を見つめながら答えた。


「はい、そうです!佐藤太郎さん、あなたは異世界に転生することが決定しました。おめでとうございます!」


「おめでとう...って、俺に選択権はないわけ?」


「もちろんありません♪」少女は屈託のない笑顔で言い切った。「でも安心してください。あなたには特別な使命があるんです!」


「特別な使命?まさか、剣と魔法で魔王を倒す系?」


「いいえ、もっとすごいんです!」少女は両手を広げ、劇的なポーズを取った。「あなたは...笑いで世界を救うのです!」


「...はぁ?」


俺の頭の中で、ブザー音が鳴り響いた。


「ちょっと待って。笑いで世界を救うって...俺、お笑い芸人にでもなるわけ?」


「そうです!あなたは『笑いの勇者』として、笑顔を失った異世界の人々に、再び笑う力を与えるのです!」


「いやいやいや、無理でしょ!俺、一度も人を笑わせたことないよ!会社の飲み会でも、ウケ狙いのギャグ言っても誰も笑ってくれなかったし!」


少女は首を傾げた。「え?でも、あなたの前世でのギャグ、すごく面白かったですよ?」


「はぁ!?」


「はい!例えば...『この仕事、死ぬまでやらなきゃならないのか』っていうの、最高でした!」


「それ、ギャグじゃないから!現実だから!」


少女は少し考え込んだ後、「あ、そうか。人間界では『死ぬ』っていうのはタブーな話題なんですね。ごめんなさい、天国ではみんな死んでるから、死ぬネタは大うけなんです♪」


「いや、それはそれで闇が深すぎるだろ...」


俺は頭を抱えた。これが異世界転生のオリエンテーションなら、これから始まる「笑いの勇者」としての人生は、相当むちゃくちゃなものになりそうだ。


「さぁ、それではいよいよ異世界へ旅立つ時間です!」少女が手をパチンと鳴らすと、俺の足元に光の輪が現れた。


「ちょ、ちょっと待って!心の準備が...」


「大丈夫です!きっと楽しい冒険になりますよ♪」


そう言って少女に背中を押された瞬間、俺の体は光の中に吸い込まれていった。


「うわぁぁぁぁ!せめて異世界でもテレワークさせてくれぇぇぇ!」


...そして、気がつくと俺は見知らぬ街の中心にいた。


周りを見回すと、中世ヨーロッパ風の建物が立ち並び、行き交う人々は皆、RPGゲームに出てきそうな服装をしている。


「マジか...本当に異世界に来ちゃったよ...」


呆然としていると、通りすがりの少年が俺を指差して叫んだ。


「お、お母さん!あの人、変な格好してる!」


「シーッ!見ちゃダメよ。あの人、『異世界転生者』っていうの。気をつけないと笑わされちゃうわよ」


「...はぁ!?」


どうやら、この世界では「異世界転生者」イコール「お笑い芸人」らしい。俺の服装(会社のスーツ)が、ピエロの衣装みたいに見えるのかもしれない。


「くそっ...とりあえず、何か情報を集めないと」


そう思い、俺は「冒険者ギルド」という看板のある建物に向かった。ファンタジー小説では、だいたいそこで冒険が始まるはずだ。


ギルドの扉を開けると、中は騒がしい冒険者たちでごった返していた。


「す、すげぇ...これが異世界のギルドか」


俺は感心しながらカウンターに向かう。そこには、笑顔の可愛らしい受付嬢が待っていた。


「いらっしゃいませ!冒険者ギルドへようこそ。今日はどのようなご用件でしょうか?」


「あ、あの...俺、冒険者になりたくて。登録をお願いしたいんだけど...」


「かしこまりました!では、まずこちらの『冒険者初心者登録フォーム』をご記入ください」


そう言って、受付嬢は俺に厚さ5センチほどの書類の束を渡してきた。


「...は?これ全部?」


「はい。まずは基本情報、それから過去の冒険経験、使用する武器の種類、好きな食べ物、嫌いなモンスター、そして万が一のための緊急連絡先など、必要事項をすべてご記入いただきます」


「いや、待て待て!これ書類の量おかしくない?冒険者登録って、もっとシンプルじゃないの?」


受付嬢はにこやかに答えた。「ご安心ください。これでも最近は簡略化された方なんです。以前はもっと多かったですよ」


「もっと!?これ以上増えるって、一体どんな冒険者ギルドだよ!」


俺は呆れながらも、仕方なく書類を書き始めることにした。しかし、ページをめくるたびに新たな項目が現れ、その内容がどんどんおかしくなっていく。


「モンスター遭遇時の感情?『怖かった』とか書けばいいのか...いや、これ、モンスターの感情まで書くのかよ!『スライムは悲しそうにプルプルしていた』とか?どうやってそんなの分かるんだよ!」


俺はツッコミを入れながらも書類を進めていくが、内容がどんどん現実離れしていく。


「次は...『ポーション使用許可証』?ポーション使うのにも許可がいるのかよ!?」


俺は目を疑った。ポーションって、普通に飲むもんじゃないのか?なんでいちいち許可が必要なんだ?


受付嬢は淡々と答える。「はい、過去にポーションの乱用が問題になりまして、適切な許可がないと使用できません。乱用により、体が透明になったり、回復しすぎて逆に死にそうになる事例がありまして...」


「いやいやいや、回復しすぎて死ぬってどういうことだよ!?異世界のポーション、危険すぎだろ!」


「ご安心ください、適切に使用すれば大丈夫です。では、次は『戦闘後の処理報告書』です」


「処理報告書!?倒したモンスターの後片付けも冒険者の仕事なのか?」


「はい、モンスターを倒した後は、環境汚染防止のために必ず清掃を行っていただきます。モンスターの残骸を放置すると、他のモンスターが寄ってきたり、腐敗して悪臭が広がる恐れがありますので」


「もう、戦うより掃除の方が大変じゃねぇか!冒険者ってこんなに事務仕事が多いのか!?」


俺は完全に心が折れかけていた。冒険者になってモンスターと戦うどころか、書類と戦う羽目になっている。これじゃあ、ブラック企業と変わらないじゃないか!


なんとか書類を全部埋め終わり、やっと冒険者としての登録が完了した。だが、これが終わりではなかった。受付嬢はさらに別の書類を差し出してきた。


「次は『クエスト申請書』です。これに記入していただき、正式なクエストを受ける準備が整います」


「また書類!?もういい加減にしてくれよ!冒険者って書類作業ばかりじゃないか!」


受付嬢はにこやかに笑顔を保ちながら、「はい、冒険者も安全に活動するためには、きちんとした手続きが必要ですから」と言った。


俺はその言葉に絶望感を覚えながら、再びペンを握った。そして、ふと思いついた。


「よし、ここは『笑いの勇者』の出番だ!」


俺は立ち上がり、大きな声で宣言した。


「皆さん、聞いてください!この異世界の冒険者ギルド、書類が多すぎませんか?」


ギルド内にいた冒険者たちが、俺の方を振り向いた。


「そうだよな?モンスター倒すより先に、書類に倒されそうだよな?」


会場からクスクスと笑い声が聞こえ始めた。


「だってさ、モンスターの気持ちまで書かなきゃいけないんだぜ?『ゴブリンは悔しそうに倒れた』とか『ドラゴンは憤怒に燃えていた』とか、モンスターの心の声が聞こえるわけないじゃん!」


笑い声が大きくなる。


「それに、ポーション使うのにも許可が必要だってさ。『すみません、今から回復していいですか?』って言ってる間に死んじゃうよ!」


ギルド中が笑いに包まれた。


「もう、これじゃ冒険者じゃなくて『文書士』だよ!剣より、ペンの方が強くなりそうだぜ!」


大爆笑が起こった。冒険者たちは腹を抱えて笑い、中には涙を流して笑っている者もいた。


そして突然、ギルドのドアが勢いよく開いた。


「一体何事だ!?」


現れたのは、立派な髭を蓄えた中年の男性。どうやらギルドマスターらしい。


「笑い声が聞こえたが...まさか、『笑いの勇者』が現れたのか!?」


俺は驚いて聞き返した。「え?『笑いの勇者』って、本当にいるの?」


ギルドマスターは厳かな表情で答えた。「伝説によれば、『笑いの勇者』は、堅苦しくなった世界に笑いを取り戻し、人々の心を開放する存在だ。そして、その笑いの力で、世界を脅かす『真面目の魔王』を倒すのだ」


「...はぁ?」俺は思わず天を仰いだ。「『真面目の魔王』?そんなの聞いたことないぞ。普通、魔王って邪悪で恐ろしいもんじゃないのか?」


ギルドマスターは首を横に振った。「いや、この世界の魔王は違う。奴は『真面目』の権化なのだ。世界中の人々を窮屈な規則で縛り、笑顔を奪っていく...」


「ああ、なるほど」俺は思わず頷いた。「要するに、ウチの部長みたいな奴か」


「部長?」ギルドマスターは首を傾げた。


「いや、なんでもない」俺は慌てて誤魔化した。「で、その『笑いの勇者』は一体何をするんだ?」


「笑いの勇者は、その類稀なる『ボケ』と『ツッコミ』の能力で、人々を笑わせ、硬直した心を柔らかくしていく。そして最後には、真面目の魔王との『笑いの決戦』に挑むのだ」


「笑いの決戦...」俺は呟いた。「まさか、魔王と漫才でもするのか?」


「そうだ!」ギルドマスターは力強く頷いた。「そして、魔王を爆笑させることができれば、世界は救われるのだ!」


俺は完全に呆れ果てた。こんな馬鹿げたストーリー、聞いたことがない。しかし、周りの冒険者たちは真剣な表情でギルドマスターの話を聞いている。どうやら、この世界では本当に重大な問題らしい。


「で、俺が『笑いの勇者』だっていうのか?」


「その通りだ!」ギルドマスターは俺の肩を力強く掴んだ。「君の『ツッコミ』は素晴らしい。さっきの冒険者登録の書類に対する反応を見ていれば、誰にでも分かる」


「いやいや、あれは普通の反応だろ!誰だってあんな大量の書類見せられたら文句言うよ!」


「いいや、違う」ギルドマスターは首を横に振った。「この世界の人々は、どんなに理不尽な決まりでも、黙って従うようになってしまった。笑いを忘れ、疑問を持つことすら忘れてしまったのだ」


俺は周りを見回した。確かに、さっきまで爆笑していた冒険者たちも、今は真剣な顔つきで俺とギルドマスターのやり取りを見守っている。


「マジかよ...」俺は溜め息をついた。「で、俺は何をすればいいんだ?」


ギルドマスターは満面の笑みを浮かべた。「まずは、この街の人々を笑わせることだ。そして、笑いの力を高めていき、最終的には魔王の城に乗り込むのだ!」


「はぁ!?」俺は思わず声を上げた。「いきなり魔王の城って...俺、お笑いなんて素人だぞ?プロの芸人でもないのに、そんな無理ゲーはクリアできないって!」


すると、ギルドマスターは不思議そうな顔をした。「無理ゲー?クリア?君は一体何を言っているんだ?」


「あ、いや...」俺は慌てて言い訳を考えた。「その...異世界の言葉だ。『困難な課題』とか『達成する』とかそんな意味だ」


「なるほど」ギルドマスターは納得したように頷いた。「異世界の言葉か。さすが笑いの勇者だ。既に面白いことを言い始めている」


「いや、これマジで冗談じゃ...」


俺の言葉を遮るように、ギルドマスターは大声で叫んだ。「さあ、諸君!我らが『笑いの勇者』の誕生だ!彼の冒険を、精一杯サポートしようではないか!」


ギルド中から歓声が上がった。冒険者たちは拍手喝采し、中には涙を流して喜んでいる者もいる。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ...」俺は必死に状況を理解しようとした。「本当に俺なんかで大丈夫なのか?」


ギルドマスターは優しく微笑んだ。「大丈夫だ。君には才能がある。それに...」彼は声を低めた。「実は、君以外にも『笑いの勇者候補』がいるんだ」


「え?」俺は驚いて聞き返した。「他にもいるのか?」


「ああ」ギルドマスターは頷いた。「君と同じように異世界から召喚された者たちだ。彼らも今、この世界のどこかで奮闘している」


俺は少し安心した。自分一人に世界の命運がかかっているわけじゃないんだ。しかし同時に、何か引っかかるものがあった。


「待てよ...」俺は眉をひそめた。「もしかして、これって『笑いの勇者』オーディションみたいなもんか?」


ギルドマスターは苦笑いを浮かべた。「まあ...そういう見方もできるかもしれないな」


「つまり」俺は息を呑んだ。「一番面白い奴が、本当の『笑いの勇者』になれるってことか?」


「そうだ」ギルドマスターは真剣な表情で答えた。「だが、それは競争ではない。君たち全員が力を合わせて、この世界を救うんだ」


俺は深く考え込んだ。こんな状況、想像もしていなかった。でも、今さら逃げ出すこともできない。それに...


「そうか」俺は急に思いついた。「これって、俺にとってのチャンスかもしれない」


「どういうことだ?」ギルドマスターは興味深そうに尋ねた。


「だってさ」俺は苦笑いを浮かべた。「前世...いや、元の世界じゃ、俺なんてただの使い捨ての社畜だったんだ。誰からも必要とされなかった。でも、ここじゃ...」


「ここでは、君は希望の星だ」ギルドマスターが言葉を継いだ。


「そう」俺は頷いた。「ここなら、俺にも世界を変える力があるかもしれない。それに...」俺はニヤリと笑った。「お笑いで世界を救うなんて、それ自体がもう最高のギャグじゃないか」


ギルドマスターは大きく笑った。「その通りだ!その調子でいけば、きっと君は立派な『笑いの勇者』になれる」


俺は深呼吸をして、決意を固めた。「よし、やってやろうじゃないか。この異世界で、俺が『伝説のお笑い芸人』になってやる!」


ギルド中から再び歓声が上がった。冒険者たちは興奮して俺の名前を呼び、祝福の言葉を投げかけてくる。


こうして、俺の『笑いの勇者』としての冒険が本格的に始まった。ブラック企業での理不尽な日々も、異世界での奇妙な冒険も、全て笑いに変えてやる。そう、俺は心に誓ったのだった。


...次回に続く。

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