真相は時の中で_③
いつの間にやら、外は大荒れの天気だ。まるで大型台風に直撃しているよう。これでは警察も救急車も出動できまい。
「こんなお約束展開、あるもんだな」
溜め息をつきながら、大紫兄が湯呑みを差し出す。淡い黄緑色の液体に口をつけると、僅かに茶葉の風味が広がった。
「薄いよ」
「ん?もうちょい待たなきゃ駄目だったか」
「私淹れようか」
「碧波のは濃すぎるから…てか大人しくしてなさい。うん薄いな」
二人してかぱかぱとお茶を飲みながら、殆ど手を付けられていないおやつに手を伸ばす。龍馬くんと小園くんはまだ戻って来ない。できる範囲で捜査を進めているのだろう。
「そろそろ現場の様子教えてよ。聞く分には大丈夫だって」
「…まず部屋の中。男が一人、仰向けに倒れていた。額に大きな切傷があって、血と…あと、色々中身がね。それらが飛び散ってる。龍馬が視て、その場で死亡が確認された」
「頭だけ?もっと血の匂いしてたよ」
「それは多分、もう一人の血だ。碧波が見付けた男は、全身に深い切傷があってね。…その、まぁ」
顔を曇らせ、大紫兄は三杯目のお茶を飲み干す。少し考えていたようだが、諦めた表情で頭をかいた。
「濁してもしょうがないか。後頭部と両手両足、腰あたりに傷があったらしい。…右手は殆ど取れかけてたって龍馬が」
「そりゃ凄惨な…聞き覚えあるね、それ」
「うん。すぐに事切れたそうだけど、こんな言葉を龍馬が聞いたんだってさ。
『でーじなとん、たっぴらかす』」
ゆっくりと発せられたその言葉は、まるで意味がわからなかった。
「…本当にそう言ったんだよね」
「あいつの聞いたことだし、確かに言ったんだろうね。何か意味のある言葉なのか、混濁した意識の中で発した滅茶苦茶な言葉なのか…とにかくそう言ったのは事実だ」
「被害者二人の名前は?」
「身分証なんかは持ってないらしい。旅館の受付では、部屋で死んでた方が『桃原和馬』、庭で死んでた方は不明ってことになってる。中岡とでも呼んどく?」
「そういう立ち位置だよねぇ…身分証は盗られたのかな」
「そうかもね。そもそも持ってなかったって線もある。後者なら変な話だけど」
チーズかまぼこを飲み込み、急須を持ち上げる。空だ。いそいそと茶葉を詰めながら大紫兄の顔を覗き込んだ。大紫兄は何もついてない口の端を袖で拭く。
「なんかついてる?」
「ついてない。今回、どうしようと思ってる?」
「依頼されない限りは動かない、でいいんじゃないかな。俺達は『探偵役』じゃなくて『探偵』だ。求められていないのに首を突っ込むのはいただけない」
「だよね。ただ、京都府警はここに来られない。この場にいる人で捜査の権限を持つのは、あの二人だけ」
「つまり十中八九依頼は来る。…来るんだよなぁ」
気乗りしない顔で、大紫兄が廊下に目をやる。速い足音が大きくなっていき、これまた素早いノックが三回。開けたドアの先で、しかめっ面の龍馬くんが立っていた。
「悪いが手伝って貰えるか。…依頼だ」
「いいぞ。報酬はいらない、さっさと済ませよう」




