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DEAD-LOCK  作者: 西浪
密室なんてありえない

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21/75

密室なんてありえない_⑧

 パーティールームには、まばらに飲み物や食事が残っている。クッキーをつまもうとする碧波を窘めながら、部屋を見渡した。…現場がここで完結していたなら、もっと解きやすかったのに。

 いくらか調子を取り戻した碧波が口を開く。互いの頭にある推理を、整理するように。

 「外傷なし、今の所大きな病歴なし。殺人なのは確実。このパーティールームにいながら、別室にいる榊を殺したい。そんな時にうってつけのやり方が一つ。さぁ大紫兄、考えられる殺害方法は?」

 「毒殺。だ、けど……」

 すっと頭が冷たくなった。冴えてるわけじゃなく、ものすごく悪い意味で。数時間前までの相棒の行動が脳内を駆け巡る。

 「さっき散々飲み食いしてたよな、碧波⁉」

 「したよ。美味しかったねぇ」

 満足そうな碧波は、俺が振り向いた時にはアイスティーを飲み干していた。

 「馬鹿馬鹿!この流れで新しいもん口に入れるな!」

 「喉乾いたんだもん。毒入りならその時はその時だ」

 「だーッ、吐け!全部吐け!!」

 「吐けるかぁこんなとこで!」

 後ろから碧波を抱えて振り回す。そんなアホな最期、許すもんか。

 「大丈夫だって。アイスティーもクレープも、みんなだって口にしてた。でも三時間経った今、ピンピンしてるでしょ?」

 「偶然当たらなかっただけだろ。どれに毒が入ってるかなんて、まだわから──」

 「じゃあもっと丁寧に言おうか。榊が口にしたのは、アイスコーヒーとフライドポテトだけ。毒を盛りやすいのはどっち?」

 「……コーヒー、だな」

 一気に力が抜けて腕をほどく。碧波は机にあったお盆を取り、コーヒーのグラスの上に伏せた。十個のグラスの中身は一定の量とは言えず、ばらばらに注がれている。

 「慌てすぎだよ」

 「当たり前だ」

 「…だね。ありがと」

 しばらく二人とも無言で服の裾などいじっていたが、碧波のスマホの着信音を聞いて顔を見合わせた。スピーカーにした碧波のスマホに顔を寄せ、龍馬の声がするのを待つ。

 『お疲れ。どうだ、進捗は』

 「お前の話による」

 『そもそもどういう事件なんだ?』

 「密室だよ。完全なね」

 『…じゃあ結局別の謎なんだろ』

 電話の向こうで明らかに失望する龍馬。さすがはミステリ好きだ。話が早い。

 「あとで全部教えてあげるから。龍馬くんか小園(こぞの)くんには、寄り道して貰うことになるだろうけど」

 『ん?それはどういう…いや、俺の報告が先か』

 白い横顔を盗み見る。碧波の調子が乗らないのは死体を見たからだが、そのままの単純な意味ではない。

 恐怖。

 怒り。

 羨望。

 執着。

 『殺人』や『死体』に対する碧波の感情はあまりにも複雑で繊細で、にも関わらず他人事のように冷めている。そこだけは俺も同じように、どこか冷めている。

 冷めようとしている。

 強制的に冷めることで、言語化できない感情は俺たちの中で凪を保っている。それが時々、こんな風にふらふらと揺蕩う。言葉にしたなら、この感情はきっと殺人者よりもどす黒い。

 一度血溜まりの中に突っ込んだ足は、今も掠れた血をこびりつけたままだ。

 〈どしたの?〉

 怪訝な面持ちの碧波が口の動きで問いかけてくる。いつの間にやら見つめ合っていたらしい。いや何も、と首を振ると、薄く笑って目を逸らした。

 『…俺からは以上だ。役に立ちそうか』

 「充分だよ、ありがとう。寄り道は?する?」

 『もちろんだ。小園を向かわせる』

 通話が切れたのち、どちらからともなく自嘲的な笑いが込み上げた。

 こんな簡単な謎の何に悩んでいたんだか。


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