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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編ホラー

縦断

作者: 壱原 一

記録。20##年33月77日。


午後11時ごろ就寝。翌午前1時ごろ意識が浮上。居室のドアを隔てた先の台所のコンロにて、笛吹きケトルでお湯が沸いていると感じる。


半分ねむたい意識のまま、お湯が沸いていると感じる原因を探り、ぴいーーーという甲高く途切れない一定の音を聞き取っていると判別する。


火を止める義務感を催して目を開けようとするも、笛吹きケトルを持っていないと思い出す。


いま聞こえている甲高い音は耳鳴りで、笛吹きケトルの音と誤認のうえお湯が沸いている連想をしただけと合点し、寝直すべく寝返りを打とうとしたところ体が動かないと気付く。


これは俗にいう金縛り。音やら光やらの刺激や、寝姿勢の癖なんかによって、寝ているあいだ妙な具合に体へ力が入ったせいで体が動かなくなる仕組みと見聞きした事を想起する。


気持ちを穏やかに保ち、のんびり息をしていれば、やがて金縛りは解ける。


仰向けに目を閉じた状態で上記のように思い定め、しかし本当に動かないものだなとしげしげ感慨を覚えたと同時、全身をフリーザーバッグに詰められ水へ沈められて空気を抜かれ真空パウチされたかのような皮膚に張り付く圧着感、まとわりつく重量感に見舞われ虚を突かれる。


間を置かず居室のドアからなにか来る。


ドアが開閉した訳ではない。耳鳴りがするし目を開けられないしで定かでないが、乗用車の走行音が行き来する一般道の歩道で、ふと勘付いて脇を向くなり隣の車道を4tトラックの巨影がゆうゆう過ぎてぎょっとする瞬間のように、予想だにせぬ静かさで想定外に大きなものが知らぬ間に肉薄していたと覚った時の緊張と動揺が噴出する。


居室を通っている。とても大きい。法外にでかい。ドアを潜れるサイズではなく、空気の動きも感じないので、壁だの天井だのは関係ないのだと脳裏に閃く。


間違っても通行を阻みたくない。今すぐ道を開けたい。だのに体は動かず、何をする事もできず、もしこの大きな不明のものが害意を持っていたらと思い付いてどっと心臓が跳ねる。


なむあみだぶつ。なむみょうほうれんげきょう。


咄嗟に出てきた文句を慌てて内言しそうになって、けれど普段信心の欠片もない癖にあまりに不遜ではとためらう。


唱えて反応を示すのは却って危険ではとあやぶむ。


ぴいーーーという甲高く途切れない一定の耳鳴りは頭の中へ潜り込む風に高らかに内へ内へと寄せ来て、途轍もなく大きなものは鳥肌立つ体側のすれすれを密かに過ぎるトラックの如くゆうゆうと縦断する。


頭から爪先に向かって、はるか彼方へ行き過ぎるまで、今にも腕や足を掴まれたり、覗き込まれてなにか言われたり、この場に留まられたりするのではと息もできない心地だった。


去ってみると己の想像力に苦笑いが起こるばかり。


金縛りを来した折は、気持ちを穏やかに保ち、のんびり息をすれば良い。


大人しく堪えてさえいれば、やがて必ず解けるのだ。



終.

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