いつもと違ういつもの正月
明けましておめでとうございます。
新年早々、能登が大変な事になってしまい、お見舞い申し上げます。
今年もいよいよ終わりです。
明日の元旦は近隣の有力者を集めて宴ですので、晦日から準備をしております。
どの地域も水害被害を被ったため、正月の宴が中止になりましたので二年ぶりです。
いち早く復興した讃岐が今回も主催者です。
いつぞやの御子息達は、少しは成長しているでしょうか?
もっとも私自身は身長以外、成長しているとは思えず、むしろ精神年齢が身体年齢により近づいて幼くなっている感があります。
なので、まえゆう的な指摘は止めておきましょう。
現代の職場でも、月末の駆け込み処理が殺到するのは毎度の事でしたが、承認処理を放置したままの課長さんが、「事務処理は迅速にする様に」と偉そうに言う姿は部下から顰蹙を買っていました。
顰蹙を売っていた側としましては、同じになりたくありません。
出席者の顔ぶれからしますと、食事は質より量の傾向がありますので、お腹が膨れる料理を用意しました。
貴重なタンパク質を贈呈するため、卵を産まなくなってきた雌鶏を潰すことにしました。
可哀想ですが、私達人間が他の命を頂きながら生きていくことは古代も現代も変わりありません。
ただその命が目の前にあるかないかだけの違いです。
年老いた鶏の肉は硬いのでつくねにして、残った肉は元旦の領民に振る舞う雑炊の出汁の基にしました。
明日は早いので早めの就寝です。
おやすみなさい。
◇◇◇◇◇
初日の出を迎えました。
正式ではありませんが、時計がないこの時代は日の出からが新年です。
あけましておめでとうございます。
たった今、私は数えで十二歳になりました。
レッツ炊き出しです。家人さん、頑張って〜。
私は大鍋の後方で、お雛様の様にちょこんと座って皆さんにご挨拶です。
お内裏様は居ません。……たぶんずっと。
水害の傷跡が癒えなかった昨年の正月と違い、この雑炊がこの冬の貴重な食料の一つとして計算しなければならないほどの悲壮感はありません。
しかし相変わらず、領民の皆さんは私を見ると手を合わせて拝むのです。
だからご利益はないですってば。拝む時間が長くなっているのは気のせい?
太郎おじいさん、土下座はいらないからね。
最近土下座の作法が堂に行ってます。土下座道(DOGEZA-DO)の開祖になる日は近いか?
あ、サイトウが居ました。髪の毛が復活しているとサイトウっぽくありません。
しかも隣に女性!?
サイトウのくせに、サイトウのくせに!
思わずピッカリの光の玉をお見舞いしたくなりました。
こうして愉快な領民の多い我が領は平和な新年を迎えました。
◇◇◇◇◇
午後は近隣の有力者が集まり、ささやかな宴です。
特別ゲストは……。
中臣氏の宮に居る与志古様と嫡男の真人クン。
そして同じ宮に同居する麻呂クンとお母様。
そして忌部氏の宮の留守を与る佐賀斯様夫妻。
……などなど錚々たるメンバーがお越しになります。
内臣様のお妃様をお招きするのですから、皆、気合が入っています。
しかもお爺さんが分不相応な冠位を賜り、この辺り一帯で一番上位の有力者となってしまったので、宴にもそれなりの格付が求められます。
とは言え、現代人ですら高級A5ランクの牛肉とカンガルーのお肉との区別が付かなかったり、ウン十億円のバイオリンの音と練習用のバイオリンの音の区別が付かない映す価値のない芸能人がいるくらいですから、見栄えさえ良ければおおよそ誤魔化せるはずです。
日が高くなった頃、ご近所の国造がいらっしゃいました。例の酔っ払いのオジサン一家です。
「巣山造麻呂様。遠路はるばるお越し下さいまして、感謝の念に絶えません。本日は我が屋敷の者一同、皆様を心よりお迎え致します。
どうがごゆっくりとお寛ぎ下さいまし」
これでもか!と言うくらい丁寧な挨拶をぶちかまします。
「お……おお、かぐや殿、もはや大人に負けぬ礼節を身につけられて、ますます美しくなられましたな。讃岐の宴は年に一度の楽しみとなっている。心ゆくまで堪能させて頂くよ」
「この度はメシをありがとうにございまする。早く食べたくて来ましてにございまする」
御子息クンも頑張っているけど慣れない言葉使いが痛々しいです。
いきなり「腹減った、飯食わせろ」よりはまだマシですね。
「ご期待に添えます様、精一杯歓待させて頂きます。
どうぞごゆるりとお寛ぎ下さい」
と、丁寧に返礼申し上げます。
横には見覚えのある御息女コンビもおりました。
「遠路はるばるお越し下さいまして……<以下略>」
「まあ、讃岐造麻呂様に拾われました養女様はいつもお綺麗ですね。
ほほほほほほ」
「お綺麗なご養女様って、いつの間に拾われたか全然知りませんでした。
ほほほほほほ」
「そんな事は御座いません。世辞はお止めになって下さい。
ほほほほほほ」
はいはい、私は竹林で拾われた身元不明の子供ですよー。
でも嫌味を言う相手が悪かったですねー。
全然気にもしていませんのでー。
ほほほほほほ。
何名かのご来訪の挨拶の後、最後にご近所の貴婦人がいらっしゃいました。
「与志古様、ようこそお越し下さいました。本日は我が屋敷の者一同、皆様を心よりお迎え致します。どうがごゆっくりとお寛ぎ下さいまし」
「かぐや様、楽しみにしているよー」
「おねーちゃん、ごきげんよう。楽しみー」
麻呂クンも真人クンも一緒です。
「どうぞ、奥へとお通り下さいまし」
さて、貴婦人とおぼっちゃまと酔っ払いとお猿さんが入り乱れる宴が始まりました。本日の献立は、白ご飯と鶏のつくね汁、カブの漬物に、青菜のおひたし、デザートは干し柿です。
まずは主催者の挨拶。
「本日はようこそお越し頂き感謝します、じゃ。一昨年は皆大変じゃった。今までの皆の苦労を思うとワシは涙が止まらんのじゃ。せめて皆の苦労を癒したく美味しい食事を用意した。本日だけは憂いを忘れ、楽しんで下され、じゃ」
冠位を賜ってもお爺さんはお爺さんですね。
しかしお爺さんのご挨拶は目の前のご馳走に目を奪われた皆様には届いていない様です。
挨拶が終わるや否や、皆んな一斉にガツガツ、ジュルジュルと食べ始めました。
国造は国造同士で語り合い、お婆さんはご婦人方とお話ししています。
子供は食欲が赴くまま、おかわりを要求しています。
私は何時ものように貴婦人様と歓談です。
「いつもお世話になり、この場をお借りしてお礼申し上げます。
お身体は大丈夫でしょうか?」
実は与志古様。ご懐妊されていて、お腹が少し大きいです。
先日、真人クンが教えてくれました。
半年前、中臣様がにここに来ましたから、いつ何があったかは容易に想像が付きます。
「あらあらあら、そんな堅苦しい挨拶は抜きにしてもう少し楽しいお話しをしましょうよ」
宇麻乃様の奥様からも感謝の言葉を頂きました。
「かぐやさん、いつも麻呂がお世話かけて申し訳なく思っています。
こちらこそお礼を言いたいわ。本当にありがとう」
宇麻乃様の奥様は地元の石上神宮の元巫女さんだと伺っています。
きっと恋愛の末に結婚したのだろうな。
「そんな、勿体無いお言葉です。むしろ私のお転婆が麻呂様に悪い影響を与えてしまっているのではないか、心配なくらいです」
「ふふふふ、私も与志古様も幼い時はもっとお転婆でしたから気にしなくていいのよ」
「え?そうなんですか!?」
「そうよ、かぐやさん。私は東の上野国の出で、幼い時は男の子と一緒に野山を駆け回っていました。後宮に入内した時は東言葉が抜けなくて苦労しました」
与志古様が上野国……と言うと関東かな?
「私は摂津国の巫女でしたので、雑仕女とさほど変わりがありません。京の言葉と違い苦労していて、与志古様はそんな私にお声を掛けてご親切にして頂いております」
「私も同じ男の子の母親として共感できる事が多いですからね」
「最近は蹴布と呼んでいる遊びに夢中です。暇さえあればポンポン蹴っています」
「ああ、申し訳御座いません。領民の皆に娯楽の提供と健康の増進を図ろうとしただけなのですが……」
「別に気にしなくてもいいですのよ。物部は武の家系なので体を動かす事はいい事だと、宇麻乃様も申しております。この前、宇麻乃様が一日だけ戻った時に蹴布に興じておりましたけど、どちらが子供か分からないくらい夢中になっていました」
ははは、宇麻乃様の親バカぶりが目に浮かびます。
「宇麻乃様がいらしていたとは存じませんでした。ご挨拶が出来ず恐縮に御座います」
「鎌足様の書をお運び頂いただけなので、麻呂とひとしきり遊んだらそのまま行ってしまわれました」
「まだまだ大変な最中におられるようですね。鎌足様も宇麻乃様もご自愛頂きたく御座います」
私達が世間話をしている間に食事を済ませた御子息軍団は、大広間で麻呂クンの持ってきた蹴布に夢中になっていました。何だかんだと麻呂クンは、真人クンの様な優等生でも、御子息でも、どんな子からも好かれる人気者タイプのようです。こんな子が将来、ホントに女好きの求婚者になるのかな?
ちなみに御子息共にはお土産代わりに蹴布を五個ほど持たせました。
「もっと持たせなさいよ。讃岐造麻呂の娘はケチですのね」
「これっぽっちなんて、本当に讃岐造麻呂の娘はケチですのね」
『ピキッ!』
新年という事で、完結しました前作『異世界・桃太郎』のSSをアップしました。
是非ご覧下さい。
今年もよろしくお願いします。