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蹴布(シューフ)にかけろ!

前話に引き続き、スポ根要素を入れてみました。

この先の麻呂クンの性格(キャラ)が少し心配です。


 領民に課された労役は、年に三十日ほど領内で屋敷の建設や街道の改修などに参加して賄われます。

 昨年は水害後の土塁積み上げに領民ほぼ全員が強制参加でしたが、今年は領民の皆さんには農閑期を利用してため池工事に参加して貰っています。

 米の収穫が終わったので、工事現場は賑やかです。


 工事現場の視察へ行ってみますと、他領の国造の領民の人に混じっていてもウチの領民はひと目で分かります。身なりが良くて、元気が溌剌ハツラツとしていますから。

 他領に比べてウチの領民が何故溌剌ハツラツに見えるのか、理由を考えてみました。


 まずは栄養です。昨年の水害では皆一様に被害を受けました。しかし讃岐では一昨年の豊作の分を倉に貯蓄していたので、それを領民に解放することで飢餓を回避しました。

 税も免除しました。おかげで領民全員が水害の爪痕からいち早く脱することが出来たのです。

 米だけでなく、葉野菜、根野菜、大豆といった炭水化物以外の栄養素も豊富に含んだ作物を肥料を与えて栽培しているので、日本人にありがちな栄養の偏りが少ないと思われます。

 鶏はまだ数が少ないので卵も高貴な方々しか食す事ができませんが、竹藪をつっつけば猪が出る事があるので、月に1、2度は領民も肉が食べる事ができます。

 おかげでガリガリに痩せ細った人は少ないです。


 現代でも古代でも肉料理は偉大デリシャスですね。

 一説には数ある類人猿が進化の途中で滅んでく中、ホモサピエンスが勝ち残った理由の一つが肉食なのだそうです。

 これで焼き肉のタレとか、すき焼きのタレとか、生姜焼きの元とか、スタミナ焼きのタレとか、とんかつソースとか、豚丼の元とか、があれば……。

 あー、どうして月読命つくよみのみこと(仮)様はネットショップで欲しい物を購入出来るチートを授けてくれなかったのでしょう。そうすれば伝説の神狼フェンリルドラゴンがやって来てオレと契約テイムしてくれと言ってくるはずなのに。


【天の声】そんな事したら模倣パクリの苦情で炎上するぞ。


 そしてもう一つ。ウチの領民の人の目つきが違うのです。

 他の領民の目には今後の人生に希望を見出せていない感じがありますが、ウチの領民の人の目には活力が漂っているのです。

 食料、医療、住居、全てにおいて他領より頭一つ抜きん出ているのは間違いありません。

 しかし決定的な違いが蹴布シューフなのです。


 娯楽一つで何で? ……と思われそうですが、蹴布シューフには予想以上の効果があった様です。

 毎日飢えないための食糧生産に追われる生活というのは、精神メンタルを変質させます。例えば無人島で終わりのないサバイバル生活を送れば、生きていく事だけが目的になる訳ですから、将来に夢が持てなくなります。

 この時代の人は生まれてから死ぬまで、それが当たり前の生活をする訳です。


 娯楽が全く無い訳ではありません。子供が石遊びをしている姿を見ます。

 でも大人になると娯楽の殆どが性交セックスです。

 「子供の前で」なんて言葉はこの時代にはありません。

 見られたくなかったら竹藪の中か、木陰か、背の高い稲の影くらいです。

 だけど夜は真っ暗ですし狼が出るかも知れませんので一つ屋根の下で、します。

 殆ど獣みたいな感じですね。


 ところが蹴布シューフは勝負事という娯楽だけはでなく、応援するだけでも楽しめる仲間意識シンパシーや二人制/六人制で共闘プレイする時に得られる仲間との一体感チームワーク、頑張ることによって自分が成長するという達成感、といった新しい価値観が領民の中に生まれたみたいなのです。

 別の言い方をすれば、蹴布シューフを通して「努力、友情、勝利」といった幸福感の多様化に目覚めたのでは無いかと思っています。


 その結果、生きていく事が楽しいと思える事で目に活力が宿る様になったのではないか無いのか……というのが私の予測です。

 蹴布シューフがもっと普及したら、書にしたためて週刊連載すると面白そうですね。


 超ウルトラスーパーマグナムギャラクシースカイラブハリケーンジャコビニ流星群ドライブシューーーート!!


 ……ぱすん。


 ◇◇◇◇◇


 そしてここにも蹴布シューフに生き甲斐を感じている男の子が一人。

 麻呂クンです。

 今日も敷地内に作ったマイ競技場コートで麻呂・真人コンビ 対 付き人A、付き人Bで対戦です。


「いくぞ、真人!」

「応っ!」


 ポーン、ポーン、ポーン、……ポトッ。


「あ、負けてしまいました。流石は麻呂様、真人様ですね」


 ……アンタら。

 いくら主人のご子息と、主人の主人のご子息だからといって、そんなミエミエの忖度はないでしょう。

 付き人さん達の接待ゴルフみたいなのを見ていられなくなり、思わず口を挟んでしまいました。


「麻呂様、ワザと負ける相手とやってばかりいますと上達しませんわよ」


 私の言葉に付き人さんの顔がひきつっています。


「そんな事はない。オレは蹴布シューフが上手いんだ。かぐや様だって手も足も出なかったじゃないか」


「私みたいなか弱い女子おなご相手に勝ったって自慢にならないでしょう。

 付き人さん達は大人だから身体も大きいし、足も長いですから、子供の麻呂様は不利なんです。

 だから付き人さんは本気でやって勝ってしまうと、麻呂様が気を悪くすると思ってワザと負けているのです」


「あ、あのかぐや様……」


「貴方はいいの。どうせ、一回負かした時に麻呂様がぎゃん泣きして大変だったのでしょう。

 でも偽物の勝ちしか知らずに成長する事は本人のためになりません。

 勝負事は負ける事があるから、勝つ事に価値が生まれるのです。

 そのための努力なのです」


「し、しかしかぐや様……」


「分かっております。

 貴方達が本気でやってしまったら麻呂様は一勝も出来ない事くらい。

 だからハンデを付けるのです」


「枷……ですか?」


「そうです。例えば、麻呂様は半分の五点で勝ちとするとか、相手をする貴方方はいつも使わない足だけで蹴るとか、麻呂様の競技場コートを狭くするとか、色々ある筈です」


「なるほど」


 なるほど、ってやっぱり忖度しているのを認めるんかーい!


「麻呂様。麻呂様は負けて悔しいのは当たり前です。

 しかし誰しもが負けます。全て勝てる人なぞおりません。

 負けたくないのなら練習なさい!」


「オレはたくさん練習しているよ!」


「分かっています。

 でもそれでも勝てないのならもっと練習なさい。

 初めてまだひと月も経っていないじゃないですか。

 一年間ずっと練習すればもっと上手になれます。

 ちょっと頑張った程度で増長して、付き人さんが麻呂様に言い返せない事を嵩に着て、負けを強要するのであれば貴方は最低です」


「かぐや様……そこまで言わずとも」


「いいえ。このまま本人が自分自身を誤解したままでいる事は、一種の虐待です。

 いずれ人の上に立つ人としての資質に関わる問題です。

 見捨てるわけには参りません」


「どれだけ練習すればいいんだよ。

 オレ達はやらなきゃならない事が沢山あるんだ。

 書とか、歌とか、剣とか、弓とか。

 蹴布シューフばかりやっていると怒られるんだ」


「麻呂様。練習とは蹴布シューフを蹴るだけではないのですよ。

 基礎体力をつける事は大人になってからも役に立ちます。

 素早さとか、体の柔軟性、持久力を鍛えれば、剣を振るったり馬に乗るのにも有用です」


「そんな事あるはずがあるもんか!」


「では実際にやってみましょう。そうすれば麻呂様がどうして弱いのかよく分かります」


「オレより弱いかぐや様がどうやってオレに勝てるんだ?」


「後で分かります。

 そこの付き人さん、練習方法を教えますので私がどの様にやるかよく見ておいて下さい。

 お願いします」


「「「はっ!」」」


 まずは準備体操。体操といえばラジオ体操ですね。


「麻呂様、真人様。私の動きを真似て下さい」


 ♪ちゃんちゃんちゃ ちゃちゃちゃちゃ ちゃんちゃんちゃん ♪


 麻呂クン、一応真面目にやっています。

 真人クンは一生懸命にやっていて可愛い♡


 次はストレッチです。


「それでは身体を伸ばします。

 はい、グーっとゆっくり。力を入れすぎずに……。

 はい、次は反対側です。グーっと……」


 全身くまなくストレッチして身体が温まってきました。


「では、麻呂様。宮の外側を六周、走って周ります。付いて来て下さい。

 真人様はゆっくり三周歩いて下さいね。

 付き人さんは真人様がお一人にならぬ様付き添って下さい」


「はっ!」


「麻呂様、行きますわよ」


「オレは足も速いんだ。平気へっちゃらだ」


 一周が約150メートルですので6周で1キロ弱です。

 小学生の低学年には少しキツいかも知れません。


「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、……麻呂様、頑張って」


「ゼェ、ゼェ、ゼェ、ゼェ、……オレは……平気……だ」


 麻呂クン、かなり苦しそう。最初飛ばし過ぎてバテています。

 六周目は、ヘトヘトになって殆ど歩きみたいな状態でゴールしました。

 私はというと、この程度は光の玉を使わなくても舞で鍛えているので平気なのです。


「麻呂様、よく頑張りましたね。では今から私と蹴布シューフで勝負をしましょう」


「かぐや様〜、少しは休ませてよ」


「ダメです。麻呂様は蹴布シューフの途中で『オレは疲れたから休む』と仰るのですか?

 疲れている時にこそ練習の成果は出るのです」


 有無を言わさず、息も絶え絶えの麻呂クン相手に私は容赦なく蹴布シューフを叩きつけました。

 結果は10対0の完勝です。


「かぐや様、これは狡いよ。これはオレの実力じゃない」


「いいえ、麻呂様。持久力も実力の一つです。

 打ち合いが長引いた時、最後にものを言うのが持久力なのです。

 もし私が真剣勝負に臨むとしたら、麻呂様を疲れさせて実力を出させない方法で闘います」


「そんなの卑怯じゃないか!」


「いいえ、卑怯ではありません。持久力の鍛錬を怠った麻呂様の怠慢が原因です」


「じゃあ持久力を付ければいいのか?」


「そうです。しかし持久力だけでは御座いません。走る前に身体を伸ばしましたね?

 あれを念入りにやれば、身体をしなやかに動かす事が出来る様になります。

 また走るのは長い距離だけではありません。

 短い距離を全力で走るための瞬発力が備われば、脚を使う蹴布シューフで優位に立てます。

 蹴布シューフを蹴るだけが練習ではないという意味が分かりましたか?」


「あ……はい、分かった。頑張ってみる!」


 妙に素直な気がしますが、聞き分けの良い事は悪い事ではありません。

 元々、身体を動かす事が好きな子ですので、きっと蹴布シューフも運動も出来る様になると思います。

 この日以来、麻呂クンが一生懸命運動に励んでいる姿が見られる様になりました。


 ところで一体……私は求婚者候補に何をしているのでしょうか?

 ふと我に返ると、頭を抱えたくなりました。


いつもありがとうございます。

『悪役令姫・かぐや姫』も100話目に到達しました。

お読みになってくれる方がいるというだけでも執筆の原動力になっています。


これからもよろしくお願いします。

m(_ _)m

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