飛鳥時代の新スポーツ・・・(2)
初のスポコン小説です。
「かぐや様〜、これ痛いよ」
麻呂クンから苦情が出ました。イタいのは前話の厨二ポエムではなく、遊戯用の羽の試作品の中に入れた重石です。重しを布に包んで羽をピラピラさせるデザインは決定しているのですが、素材が決まりません。この時代の貧民でも作れる安い素材で作りたいので、蹴鞠の鞠の様な動物の皮や絹糸を使った高価な物は不可です。
後の時代ではお手玉に大豆を使いますが、餓死者すら出る様なこの時代に食品を遊具に使うのには抵抗があります。
余った端材とその辺で手に入るフリー素材で作らなければなりません。
なので麻の端切れを使う事は決定。
羽は鶏の羽根なら手に入りますが、ポリテープみたいなピロピロしたものがいいなあ。
バトミントンの羽根ってアヒルだっけ? ガチョウでしたっけ?
中国が生活の西洋化によって鶏の消費が増えて家鴨をあまり食べなくなったから、羽根不足になったって何かのテレビで見た様な気がします。
新体操の様なヒラヒラもいいかな?
南ちゃんなら絹の端切れで出来そうですので、縫部さんにお願いをしましょう。
ところで何年経っても新体操、イコール南ちゃんなのは何故でしょう?
【天の声】何年ではなく三十年前だぞ。
残りは重しです。木の実、小石、木の破片、糸巻き球、土、などなど。
麻呂クンと真人クンに実験台をお願いします。
で、冒頭の通り、石はボツとなりました。
試行錯誤の末、麻紐のグルグル巻きの糸巻きボールに落ち着きました。
タダで手に入る木のつるにしたかったけれどもグルグル巻きにするには硬く、グルグル巻きにしてもスカスカなボールになってしまいました。
麻の端切れで三重に糸巻きボールを覆って、キツく縫い合わせてヒラヒラを取り付けて完成です。
「はい、麻呂様。これを蹴ってみて下さい」
麻呂クンは器用にサッカー選手みたいなリフティングを披露しました。
「これ、面白ーい」
一緒に遊ぶ真人クンも楽しんでいます。
まだまだ改良点はありますが、とりあえずこれを三十個くらい作りましょう。
領民は最近少し数が増えて元が千人だったのが千五百人くらいになりました。
食料の生産が増えた事と、私が治癒の力で領民の病気や怪我を癒したり、殺菌の光の玉で乳児の死亡率を下げた事、そして水害のあった年に他所の領地から流民が大量に流れ込んできた為です。
なのでとても子供の数が多く、行き渡らせようとしたら百個あっても足らないかも知れません。
人気が出たらその時に考えましょう。
グルグル、チクチク、グルグル、チクチク、……。
私達が内職の様に作っている間、麻呂クンと真人クンはずっとこれで遊んでいました。
これ……、名前何にしましょう?
羽じゃないし、球でもないし、バトミントンでは羽をシャトルって言ってますね。射飛琉、洒奪留、社翔流、……、何か厨二っぽい当て字しか浮かびません。
うーん……。
ヒラヒラした布を蹴るから『蹴布』と書いてシューフにしましょう。
三時間ほどで三十個出来ました。
気がつくと、麻呂クンも真人クンも汗びっしょりです。
慌てて手拭いを持って来て汗を拭って、お付きの人に水を持って来て貰いました。
塩もちょっぴり入れておきました。
この時代のお塩は藻塩なので、ミネラル分たっぷりです。
飛鳥時代は言うに及ばず、千三百年後の昭和ですら運動中に水を飲む習慣はマラソン以外には無かったですから、水分補給をする重要性は認識されていません。
それどころか古代の熱血漫画では、
「水を飲むとバテるぞー」と禁止されていて、
水を飲んだら「弛んどるぞぉー」と鉄拳制裁されて、
罰として兎跳びをグラウンド十周やらされて膝壊して、
火の玉ノックする父親と共にど根性を鍛えて、
消える様に見える魔球を投げて、
手段を選ばず正々堂々と敵に打ち勝ったそうです。
【天の声】それ、アラサーの知識じゃないぞ。
完成した蹴布と魚獲り用に使う網を持って、舞の披露などに使われる広場へと行きました。
同行した源蔵さんに棒を立てて貰って網を掛けます。
高さは子供身長に合わせてテニスのネットくらい。
そしてバトミントンのコートより少し狭めにコートを地面に描きます。
「では麻呂様。少しお付き合い下さい」
私が麻呂クン相手に見本を見せます。
「網を挟んで対戦します。まず私から蹴ります。線の外側からですよ。そうしたら私の方へ蹴り返して下さい。地面に落としたら負けです。そして相手に返した蹴布が線の外に出ても負けです」
コートの外から蹴布を蹴り入れます。麻呂クンはそれを上手に蹴り返しました。
「言い忘れていましたが、三回までは蹴って良いです。手を使わなければ頭を使っても良いですよ」
ポン、ポン、ポーンと蹴布を返しました。
「かぐや様、それ先に言ってよ」
と言いながら、三時間みっちり練習した麻呂クンは見事に蹴布を蹴り返しました。
私は受け止める事はできたのですが、明後日の方向に飛んでいってしまい、負けてしまいました。
「麻呂様はとても上手ですね」
「これだったら誰にも負ける気がしないよ。もっとやりたい!」
「ええ、いいですよ。一回で勝負が決まるのは面白くないので、今ので一点と数えて、先に十点取った側が勝ったことにしましょう。
もちろん返した蹴布が線の外に落ちたら相手に一点与えます。
やってみますか?」
「よし、勝負だ! かぐや様。」
こうして足でやるバトミントンの勝負が始まりました。
しかし結果は、手も足も出ず十対一の完敗でした。
「はぁはぁはぁ、麻呂様には全然敵いませんでした。私の負けで御座います」
「おねーちゃん、僕もやりたい!」
「では麻呂様、よろしいですか?」
「真人、勝負だ!」
私は付き人の人に水分補給を忘れない様に言いつけ、二人のラリーを観ていると領民の子供達がゾロゾロと集まって観戦し始めました。
そこで源蔵さんにお願いして、網をもう一つ持って来て貰い、もうワンコート作ってみました。
「みんな、一緒にやってみましょう。蹴布はたくさんありますから」
すると子供達、最初はオズオズとどうしていいのか分からずにいましたが、一人が貰うと我先に受け取りに来ました。
「順番でやってみなさい。やり方は麻呂様と真人様がやっているのを真似して、先に十点取った人が勝ちです。数字は数えられるかな?」
「う、……うん。出来る」
「じゃあ、やってみなさい。喧嘩はいけませんよ。勝負がつきましたら、次の子に譲って、順番を守って、みんなで楽しんで下さいな」
「「「「「はいっ!」」」」
こうゆう事はルールを強制しても楽しめないので、子供同士で勝手にやらせます。
コートからあぶれた子は貰った蹴布でリフティングをしたり、二人、三人でパス交換しています。
ちょうど良い時間時なりましたので、空いたコートには順番待ちをしている子達に解放し、私は麻呂クンと真人クンを連れて中臣氏の宮まで送り届けました。
そしてその足でピッカリ軍団の宿舎へと行き、蹴布を二個渡しました。
仕事ばかりの毎日は精神が荒みますので、これで気分転換して貰うためです。
そして翌日。
「姫様、昨日子供達に配った玩具なんですが……」
源蔵さんが何か報告したそうですが、言い淀んでいます。
「昨日、子供達に渡した蹴布ですか?」
「はい。実はあれの取り合いや奪い合いが始まっているそうです」
ああ、三十個では足りなかったみたいです。
「分かりました。あとどのくらいあれば足りそうでしょうか?」
「申し訳ございません。予想がつかないのです。おそらく子供全員が、もしかしたら大人も欲しがっている様に御座います」
もしかして私やらかしてしまいました?
「分かりました。ではひと家族に三個、グローブ……ではなく蹴布を配ります。
縫部さんに連絡して材料を調達する様連絡して下さい。あと八十女さんに応援をお願いできるかしら?」
「はい、それは大丈夫で御座います。今すぐに」
私と縫部さんとお婆さんと八十女さん、そして衣通姫にも応援を頼んで三日で蹴布を六百個作りました。
これを納税調査の時に一軒一軒渡して周りました。
景品が付くと皆さん調査に協力的で、不法滞在者すら大人しくいう事を聞いてくれます。ピッカリにするよりこちらの方が効果的だったかも?
こうして蹴布と名付けた地域限定スポーツはたった五日で競技人口千人を超える主要競技となったのでした。
後日行われた競技会の様子はまたいずれ。
優勝者がピッカリ軍団である事だけ報告しておきます。
めでたし、めでたし。
「ご当地ゆるスポーツアワード」というイベントがあり、名前の通りご当地を代表する魅力たっぷりのゆるスポーツを募集しているそうです。グランプリを受賞すると賞金十万円だそうです。
蹴布の熱戦の様子は気が向いた時に幕間かSSに認めてみます。
しかし作者は球技が苦手で観る専門ですので、表現し切れるか……?




