チート幼女・デビュー
お待たせしました。
10日目にしてやっとタイトルにある「チート」が発現しました。
姫検地、二日目です。
秋田様はご用事があるとのことで欠席です。
家人のお兄さん(名前は源蔵さんというらしい)も傘持ちのお姉さんも一緒に参りました。
もちろん護衛の三人も一緒です。
「ごきげんよう。よろしく」
「「「「「ははっ」」」」」
今日は秋田様がいらっしゃらないので、すぐに出発です。
脚も軽いし♪
気のせいか私たちを受け入れる皆さんの雰囲気が柔らかくなっている様な気がします。
きっと慣れなんでしょう。
幼女が大の大人五人を従えてぞろぞろと出歩く姿は、人口千人程度の寒村ではちょっとしたイベントかも知れませんが、連日だと飽きますよね。
◇◇◇◇◇
調査は順豊に進み今日は昨日の倍、四十軒回れました。
新しい発見としては、親から譲り受けた田畑を兄弟で分け合っている家がかなりの件数あったという事です。
二十五年間、調査してこなかったらそうなるのは無理もありません。
地税は田畑に課せられるのでシェアできますが、人頭税はシェアできません。
気の毒ですが増税です。
その代わりと言っては何ですが、お爺さんに開墾をお願いするつもりです。
相続されずに荒れ果ててしまった休耕田がありましたので、それを再開墾するだけでもいいかも知れません。
田畑をシェアしなければ収入は倍になるので、税負担も楽になるでしょう。
特例として今年は見逃してもいいかも知れません。
飴とムチ。飴とムチはセットでなければなりません。
ムチが先ではみんな逃げてしまいます。
ムチがご褒美な人達は残るかも知れませんが、そんな領地は私が嫌です。
◇◇◇◇◇
今日も自分のお部屋に戻って、昨日と同じように光の玉を当てて脚の疲れを癒しました。
ふと気が付くと頬っぺたのあたりがヒリヒリします。
多分日焼けですね。
昭和や平成の時代では日焼けが健康のバロメーターだと信じられていたと聞き及んでいます。
吸血鬼ならば灰も残らないくらいに日光浴したり、触れると日焼けするような危ないお姐さんがいたそうです。
しかし令和の常識では男性でも日傘を差して、小学生でも日焼け止めは当たり前となっております。
日焼けとは一種の火傷です。治しましょう!
光の玉を浮かべて……ぽわっ。
『治れー治れー治れー』と3回唱えます。
顔に近づけようとしたのですが、眩しくて眼を開けてられません。
しかし眼をつぶったら何も見えません。
なので頭の上に光の玉を持ってきてゆっくりゆっくり下げていきます。
頭に触れた瞬間、体中の皮膚が反応したらしく、火照りが全然なくなりました。
たぶん治療は成功です。
……でも少し不可解ですね。
脚に光の玉を当てた時は日焼けの火照りが消えませんでした。
しかし頭に光の玉を当てたら体中の皮膚の火照りが消えたのです。
もしかしたら光の当たる場所ではなく、光の玉に念じた効果に限定されるからではないでしょうか?
例えば……
「禿よー、治れー」と念じた場合と……、
「禿よー、もっとピカピカになれー」と念じた場合とでは同じ光でも全く逆の結果をもたらすかも知れません。
価値観は人それぞれですから。
【天の声】かなり偏った価値観だな。
いっそフサフサな人に「キレイさっぱり抜けて、ピカピカになってしまえー!」と、攻撃に使える可能性だってあります。
髪と永遠にお別れさせるという非道な上に恐ろしい攻撃です。
まだまだ探求の余地がありますので、機会があれば試してみましょう。
実験第一号として、お爺さんの頭をピカピカにしてしまうのもアリかな?
【天の声】 止めておきなさい。
◇◇◇◇◇
さて翌日。姫検地も3日目です。
本日も秋田様はご用事があるとのことで欠席です。
家人のお兄さんも傘持ちのお姉さんも護衛の三人も一緒です。
今日はお婆さんが同行してくれることになりました。
「はは様、一緒。うれしい」
気のせいか私たちを受け入れる皆さんの雰囲気がきらめいている様な気がします。
野次馬らしき人も増えたような。
……たぶんきっと慣れなんでしょう。
今日の目標は四十件。そうすれば明日中に全部終わります。
百三十件あると思われる領民の皆さんを全部回るのは思ったより大変ですね。
しかし、家に引きこもってばかりでは分からない事ばかりなので、やはりフィールドワークは大切です。
私が幼女ということで、相手の警戒心もゆるゆるになりますので調査は順調に進みます。
ところがとある家に行った時、その家の人たちは皆外に出て、正座していました。
一家総出でお出迎え?
……と最初は思ったのですが、少し様子が変です。
「お名前教えて」
「太郎と申します。親父は家でずっと寝ています。もう長くはありません。
家の中は穢れておりますので、入らないほうが宜しいかと思います」
「ちち様どんな様子?」
「ち……父? ああ、親父は前々から調子が悪くて、十日くらい前から熱を出して、物が食えなくなって水だけしか口にしてません。食べてもすべて戻してます。
当初は血の入った便をしてたので腹の中を病んでいると思います。今じゃ便も出ません」
血便ですか。内臓系の疾患か寄生虫の可能性がありますね。
「わかった。診る」
私が中に入ろうとすると、お婆さんも家人のオジサンも皆止めようとします。
「穢れた場所に近づくと自分も穢れてしまうよ。近づくのは止めて」
「姫様、近づいちゃなんねぇ。危ないですだ!」
「姫様!」
「わかった。こうする」
お手拭き用の手ぬぐいの布をマスク代わりに口をふさいで、中に入っていきました。この時代の人達は病気がばい菌やウィルスによって引き起こされるなんて全然知りません。皮膚感染、飛沫感染に気を付ければ感染リスクは激減します。いざとなったら自分に光の玉を当てますから。
「「「「「姫様!!」」」」」
私が勝手に入ると、後ろにお婆さんが付いてきて「止めて」と言ってきます。
しかし私に治す力があるかもしれないのに見て見ぬふりをするのは無理なので、お婆さんの制止を振り切って奥へと入っていきます。
さて、かぐや姫のお宅訪問~。
築三十年くらいの弥生式竪穴住宅。間取りは1K。収納は皆無。
中は薄暗く、少しじめっとひんやりしております。
火を扱うキッチンエリアから一番離れた場所に藁を敷いて布をかぶせただけの簡易ベッドに横たわっているお年寄りがいました。
掛けているのも薄い布です。
息も絶え絶えに苦しそうな様子。
この臭いは……いわゆる死臭が漂っています。
横たわっているお年寄りの前に近づいて、膝をつき、えいっと光の玉を出します。
「おおっ!」
「ひえ!?」
「なんだあれは?」
「なんて眩しい!」
外で見ている人から声が上がります。
お婆さんは私が光の玉を作れることを知っているので驚きませんが、このシチュエーションにおろおろしています。
光の玉に、病原に蝕まわれて傷ついた内臓…胃、十二指腸、小腸、大腸、直腸をイメージしながら
『治れー治れー治れー』と心の中で唱えて、光の玉をお年寄りにお腹の辺りにくっ付けました。
するとお年寄りの体全体がぼんやりと光り、暫くしてから光が完全に消失しました。
そして十秒ほどして、荒かったお年寄りの息が静かになりました。
『え!?息をしていないの!? 私、トドメをさしちゃったの?』
一瞬焦りましたが、よくよく見ると胸が上下していて呼吸が楽になっているみたいです。
表情も柔らかくなっています。
でも念のため、もう一度光の玉を出しました。
今度は体の中に巣食う寄生虫がウネウネしている様子を思い浮かべて『治れー治れー治れー』と心の中で唱え、再び同じ場所に光の玉をくっ付けました。
先ほどではありませんが少しだけ体全体が光り、消失しました。
どうやら光を吸い込んだ後に発する光は効果のほどを表しているのかも知れません。
ともあれ貴重な人体実験が出来ましたので私は満足です。
外に出ようとすると、大勢の人が中を覗き込んでいるのが見えました。
先ほど対応していた太郎さんもいたので声を掛けました。
「大丈夫。たぶん」
太郎さんは数秒間ぼーっとして、急にガバっと土下座を始めました。
「お姫様は天からいらした天女様とのお噂は本当だったのですね。
親父を救ってくださり誠にありがとうございましたっ!」
そんな噂があったの?
だから野次馬が増えていたのですか。
否定しておかないと後が大変そうです。
「天女じゃない。大げさ。
良くなったか分からない。後で源蔵さんに教えて」
「ははぁ!」
さて、少し時間をロスしましたが、調査の続きをやってしまいましょう。
気のせいか、皆調査に積極的に協力してくれるおかげで調査はスムーズに進み、今日は五十件調査が出来ました。
気のせい、木の精♪ 花の精♪
家に帰る途中、お婆さんが話しかけてきました。
「あんな事も出来るんだねぇ。びっくりしたよ」
「一昨日知った。だから自信ない。
はは様調子が悪かったら言って。
はは様に長生きして欲しい」
それを聞いたお婆さんはぎゅっと私を抱き締めました。
人に抱きしめられるのって久しぶりですが、ものすごく心が温かく感じられました。
この世界に来て人に感謝されるのって、金を採取すると時のお爺さんくらいなので、私自身少し心が荒んでいたみたいです
家に帰ったら光の玉を当ててみましょう。
(つづきます)
いつもありがとうございます。
執筆のメインをスマホからiPadに変えた事で執筆スピードが少し上がってきましたが、時代考証や登場人物の調査がなかなか進まないため、このままだとストックが目減りして毎日の連投が途絶えそうです。
次の三連休で執筆環境を整えたいですね。
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