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麻呂クンの増長・・・(2)

安定の北斗&DBネタ!


 猪の注意が走り去って行く麻呂クン方に向きそうなので、その間に私が割って入ります。

 扇子は猪へ向けたままです。

 麻呂クンが十分遠くへ行った事を確信すると、私は扇子から光の玉を発射しました。


 チューン!


 何も効果のない光の玉です。

 しかし元来が臆病な動物である猪には十分に効果的で、その光の玉を必死に避けようとします。


 チューン! チューン! チューン!

 チューン! チューン! チューン!

 チューン! チューン! チューン!


 猪を足止めするため、連続して何発も何発も光の玉を繰り出します。

 しかし猪も何発か光の玉を食らっても何も無いことが分かってきたみたいで、段々と避けなくなってきました。

 そしてピタっと止まった後、私の方へと突進してきました。


 こわーっ!


 先ほど跳ね飛ばされた時に軽自動車に跳ね飛ばされたような気がしていましたが、もし今、私が軽自動車に乗っていたとしても勝てる気がしません。全力の横っ飛びで回避しました。

 ごろごろごろ。


 そして立ち上がろうとした時、猪は既に折り返してこちらに向かって来ていました。

 誰よ、猪が猪突猛進だって言ったのは!?

 全然フットワークが軽いじゃないのよっ!


 特大の光の玉浮かべて、私は再び横っ飛びで逃げます。

 猪は光の玉に突っ込んでいきました。

 猪からしたら手ごたえのあるはずが、突如として空振スカされた感触でしょう。

 そこで攻撃が一旦止みました。


 私は体勢を整えて、三度みたび猪と対峙しました。

 もう、私の手札はありません。扇子はさっき転がった時に落としてしまいました。

 扇子が武器ではないとはいえ、素手というのはやはり心細いです。

 野生動物というのは大体が痛みに耐性がありますから、痛みを与える光の玉が動物に効くかは微妙です。

 ピッカリの光の玉で猪毛が抜けてなまめかしい禿げ豚さんになったとしても、攻撃を止めるとも思えません。


 悩んでいる間も無く猪が突進してきました。

 体勢を崩すのは却って危険だと判断して、今度は横っ飛びではなく、するりと最小限度の動きで躱します。

 二年前の飛鳥宮での騒乱の時のように、舞で鍛えた体幹を全力フルに使って、闘牛士のようにくるっと躱しました。

 オーレイ!


 そして猪が体勢を整える前に麻呂クンが行った逆の方向へと私は走ります。

 また猪が突進してもするりと躱して、走り、躱して、走り、を繰り返して田んぼのすぐ近くまで来ました。幸か不幸か、田んぼには誰もいません。

 私は田んぼを背に猪を迎え撃ちます。


 猪が私めがけて突進してくるのを、私は眩しい光の玉を猪目掛けて発射しました。

 が、光の玉に何の効果が無いと学習してしまった猪はそんな事お構いなく突っ込んで来ます。

 私はギリギリまで引き付けてから思いっきり横へと飛びました。

 眩しい光で視界を遮られた猪は、そのまま青い田んぼへと突っ込み、沼……ではなく泥にはまりました。

 そしてここぞばかりに、私がつい先ほど猪から受けた衝撃の新鮮なイメージを載せた光の玉を連打します。

 超絶格闘漫画に出てくる地球育ちの緑色をした宇宙人が同じ様な技を繰り出していた姿とダブります。


 チューン! チューン! チューン!

 チューン! チューン! チューン!

 チューン! チューン! チューン!

 チューン! チューン! チューン!

 チューン! チューン! チューン!


 この時代の田んぼの泥は、大人が腰まで沈むくらいの深さがあります。

 そこへ右半身を麻痺させて動けなくしました。


 ピギーッ! ピギーッ! ピギーッ!


 猪は必死に田んぼから這い上がろうとしますが、体が言うことを聞かず、その巨体を田んぼから脱出させられずに足掻きます。


 ピギーッ! ピギーッ! ピギーッ!


 そこへ麻呂クンが呼びに行った護衛さん達が到着しました。


「姫様っ! 御無事でしょうか?!」


「私は大丈夫。猪は田んぼから出られません。今のうちに止めを刺してください」


「「「はっ!」」」


 護衛さん達は剣では届かないと分かると、竹を切って竹やりを用意してブスブスと猪に竹やりを突き立てていきました。


 ピギーッ! ピギーッ! ピッギー…… ピッ……


 最初は激しい抵抗を見せていた猪も次第に動けなくなり、やがて息絶えました。

 これで一安心です。


「ご苦労様。あとは任せて大丈夫かな? 私は麻呂様を宮まで送り届けます」


「「「はっ!」」」


 護衛さん達を慰労して、私達はその場を離れました。


 泣きじゃくってぐしょぐしょな麻呂クンの手を引いて歩いていきます。

 こっそりと精神を落ち着かせる見えない光の玉を麻呂クンに3つくらい当てました。


 チューン! チューン! チューン!


「麻呂様、お怪我はありませんか?」


「……オレは大丈夫。だけどかぐや様は大丈夫なのか?

 身体は痛く無いのか?」


「私は大丈夫。何処も痛くは御座いません」


「だって……血が出ているじゃないか」


 見ると、白い衣の右腕部分が引き裂かれて、衣の袖が真っ赤に染まっていました。

 治癒ヒールの光の玉で完治していますが、思いの外出血していたみたいです。


「あら、本当? 後で治療しておきましょう。気にしなくて大丈夫です」


「本当はかぐや様って強いんだな」


「そう?」


「オレ……何も出来なかった。逃げるだけだった」


「それが普通よ」


「強いって言ってたのに、オレは恥ずかしい」


「それが分かったのなら良いんじゃないの?」


「オレは弱いんだ。恥ずかしいよ」


「ではこれから強くなりましょう」


 歩きながら麻呂クンのポツリポツリと話す言葉に相槌をうちます。

 満年齢でいえば7歳の小学生です。

 優しい担任の先生になった気分で励まさないと。


「かぐや様は女なのにどうして強いんだ?」


「私は強くはないよ。一緒に稽古をしているから知っているでしょ?」


「だって、あんなに大きな猪をやっつけたじゃないかよ」


「あれは猪が自分で田んぼに突っ込んだだけ。運が良かっただけ」


「でもオレだったら猪にやられてた。かぐや様は逃げなかったじゃないか」


「そうね。力は麻呂様の方があると思います。でも心は私の方が強いかも知れませんね」


「心が強いって何だよ」


「大きな猪を目の前にしても自分を見失わない心とか。

 猪が自分の方へ走って来ても諦めない心とか。

 どんな危険からも他人を守ってあげられる優しい心とか。

 いろいろ?」


「何言っているのかわかんねーよ。そんなの全然強そうじゃない」


「そうね……。

 昔、唐の国が出来るずっと前、呂布というとても強い将軍が居たの。

 戦場では誰も敵わなくて、一人で千人の兵をやっつけたそうよ」


「すげえ。オレもそうなりたい」


「だけど呂布は心の弱い人で、名馬が欲しいため主人あるじを殺して、義理の父親を殺して、短気で自分の得になることしか考えない人だから味方が少なくて、最後は敵に捕まって処刑されたの。もしかしたら本当は心の優しい人だったのかも知れないけど、心が弱くて尊敬される武人ではないの。

 麻呂様はそれでも凄いと思いますか?」


「嫌だ。オレはそうならない」


「そうね……。

 同じ時代に関羽というとても長いお髭の将軍が居たの。関羽将軍もとても強くて、義兄弟の盃を交わした主人に支えていたの」


「そいつも裏切るのか?」


「ううん。関羽将軍は敵に捕まっても主人への忠誠を忘れない人で、味方からも敵からも尊敬されていたの。数百年経った今でも、唐では美髯公びぜんこうと呼ばれて尊敬されているそうよ」


「じゃあ、オレも関羽みたいになる」


「ちなみに関羽将軍は難しい書を暗唱できるくらい学芸にも秀でていたそうだから、そっちも頑張らなきゃね」


「えーーー」


 中臣様の宮に着く頃には麻呂クンはすっかり元気になって元気良くお母様のところへと走って行きました。

 私はというと袖口を真っ赤に染めていたから、驚いた守衛さんに何事かと尋ねられましたが、転んだだけだと誤魔化して早々に退散しました。

 屋敷に戻った時はお婆さんにもの凄く驚かれましたけど……。


 翌日の御馳走が猪肉になったことは言うまでもありません。領民の皆にも分けてあげました。


 その結果……、

 姫様は猪を右腕一本で叩きのめしたとか、

 姫様は猪を持ち上げて田んぼに投げ入れたとか、

 姫様は猪を指先一つでK.O.(ダウン)するくらいに強いとか、

 身に覚えのない武勇伝が誕生しているのを知ったのはしばらく後の事でした。


 一体、何処の世紀末覇者ですか!?


【天の声】お前はもう……、鍋になっている。


♪ 元気いっぱい 

一度や二度の失敗なんかに挫けない、

頑張れ、強いぞ ♪

……と麻呂クンを励まそうとしましたが、上手く文章がまとまりませんでした。


無念です。

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