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麻呂クンの増長・・・(1)

久々に思いっきりぶっ込んでみました。

分からない方、ごめんなさい。

分かった方、スゴいです。


 麻呂クンとの剣の稽古も少しは様になってきました。

 同時に元来がワンパク小僧の麻呂クンは、何かにつけて棒を振り回す様になってきました。

 餌食になるのはその辺の木や竹、草、大きな石などの反撃しない物と、反撃できないお付きの人です。

 さすがに真人クンに無体な事はしません。

 可愛い弟分であるし、父親の上司のご子息様でもありますから。


 どうして麻呂クンがこうなってしまうのかと言えば、剣の稽古が面白く無いからです。

 この時代の剣術はまだ未発達で、体系立っておらず、高度な技とかは無いみたいです。

 燕返しとか、三段突きとか、円月殺法とか、地擦り八相とか、木の葉落としとか、風車とか、……。


【天の声】ヤケに詳しいな? しかも全部古い!!


 稽古にしても護衛さんからすれば子供をポカポカと叩くわけにもいかないし、ひたすら棒を持って素振りをして、棒を持って型をやって、棒を持って素振りをして、棒を持って型をやるわけです。

 竹刀と防具を完備して、直接打撃フルコンタクトの剣術をやれば擬似的に戦闘が出来るかも知れませんが、この時代に稽古用の防具なんてありません。

 甲冑ならばある事にはあります。

 みやこで一回だけ見ましたが、埴輪の甲冑っぽくて後の時代の鎧兜とは少しタイプが違いました。

 しかも金属でできていて、それを身に付けて歩くだけで筋トレになりそうな代物です。


 現代知識チートを駆使して新しく練習用の防具を作ろうにも、剣道と無縁でした私には全然思い出せません。

 防具の胴の部分って強化プラスチックで出来ているのでしたっけ? それとも竹?

 胴につるんとした赤い光沢の塗料で塗って真ん中に鈴の意匠マークを入れれば……


『ぬぬぬ……ちょこざいな小僧め、名を、名を名乗れ!』

『赤胴鈴○助だっ!』


【天の声】それにしても古過ぎる。


 そんな状態ですので麻呂クンも稽古に実が入らなくなってきて、それにつれて剣も荒れてきます。

 普通でしたら指導者が注意するのですが、平民が偉い御方のご子弟を叱るなんて出来るはずもありません。

 結局、注意するのは私の役目になってしまうわけです。


「麻呂様、もう少し真剣にやりませんと強くなれませんよ」


「オレはもう十分に強いんだ! 誰もオレには敵わないんだからな」


「それは違いますよ。棒を振り回して強くなった気分になっているだけです」


「じゃあ、オレと勝負してみろよ」


「私は痛いのは嫌でございます」


「痛いってのは勝てないって事だろ? やっぱオレの方が強いんだ」


 現代で言えば麻呂クンは小学生低学年です。

 仕方ありませんが、将来が心配になる程の増長度です。

 本当に強いのであれば良いのですが、実際は棒を振り回しているだけです。

 強いって言うより危なっかしいと言った方が適切ですね。

 まるで家庭内暴力でバットを振り回す長男みたいに『うぉー、オレの部屋に勝手に入るんじゃねぇぇ〜』って感じでしょうか?

 麻呂クンも将来、宇麻乃うまの様に楯突くのかしら?

 敵わないだろうけど、宇麻乃パパ泣いちゃうかも?

 私もそんなのに求婚されるのは嫌だなぁ。


 こうゆう場合、小説ラノベ的展開なら一見弱そうで見下されている私が増長した勇者マロくんを完膚なきまで叩きのめして自分が弱い事をトコトン思い知らせるのですが、残念ながら私も初心者です。

 しかもお付き合いで剣を振っている程度のド素人です。

 なので凹ませる役割は、宇麻乃うまのパパにお任せすることにしましょう。


 ◇◇◇◇◇◇


 カン!カン!カン!カン!カン!


 本日の麻呂クンの餌食は竹です。ここは竹の産地だけあって、見事な真竹が生い茂っております。

 麻呂クンにとってはいい音がする獲物ターゲットな訳です。

 特産品をポコポコと叩かれるのはあまりいい気分はしませんが、かの物部氏の末裔であり、みやこではそれなりの地位におられるやんごとない方のご子息です。

 それに傷ついた竹の下の部分を切り落とせば使えますし、最悪は宇麻乃うまのパパに請求書を突きつけます。


 麻呂クンがカンカンと竹を叩いて鳴り響かせていると、ガサっと音がして何かが飛び出してきました。


 プピィィー! プピィィー!


 甲高い鳴き声をあげて走っていく茶色い物体はウリ坊……、二匹いるみたいです。

 体長は一尺(30センチ)くらいで明らかに怯えています。


「麻呂様! 追い掛けてはなりません!」


 私は大声で麻呂クンを止めます。

 しかし増長度MAXの麻呂クンは、私の言うことなぞ聞く耳を持ちません。


「猪は作物を荒らす悪い獣だろ! オレがやっつけてやる!!」


 プピィィー! プピィィー!

 追い立てられるウリ坊たちは必死に逃げます。

 『弱い者いじめはオレの特技だ』の麻呂クンはここぞとばかりに追い掛け回します。


 ガササッ!


 するとウリ坊の行く先に大きな猪が出てきました。

 ウリ坊達の母親だと思います。

 竹藪は猪の住処になり易く、しかも農業試験場と称して様々な作物を育てているので、猪にとってここは良好な餌場なのです。

 猪の被害は悩みの種ですが、同時に私達にとっても猪肉はご馳走です。

 残念な事に今は麻呂クンがご馳走にされそうですが……。


「麻呂様、動かないで!!」


 驚いて硬直してしまった麻呂クンに声を掛けます。

 その距離約20メートル。


 私は麻呂クンに方へと猪を刺激しない様にそーっと近づいて行きます。

 そーっと、そーっと、そーっと……あと5メートル。

 しかし次の瞬間、母猪は麻呂クンの方へ突進を始めました。私は全力で麻呂クンの方へ走り出し、麻呂クンを突き飛ばしました。


 がんッ!


 あれ?

 空が見えている。

 体が軽い。

 フワフワしている。


 ……いえ、猪に跳ね飛ばされて体が宙に浮いているのだわ!

 それじゃ次に来るのは……


 ドサッ!

 ゴロゴロゴロゴロ……。


 身体を地面に叩きつけられました。10メートルくらい飛ばされたのではないでしょうか?

 まるで軽自動車にでも跳ね飛ばされたかのようです。

 不思議なことに痛みは感じませんが、体が動きません。


「おねーちゃーん!!」


 麻呂クンの声がしますが、頭がグワングワンして何を言っているのか聞き取れません。


 落ち着け!


 このまま私が倒れていたら次は麻呂クンがやられる。

 私はありったけの光の玉を自分に向けて当てました。

 十数秒前までの健康だった自分の体をイメージして。


 骨は? チューン!

 関節は? チューン!

 筋肉は? チューン!

 内臓は? チューン!

 頭は? チューン!


 治療が進むごとに意識が明瞭になってきました。

 そして猪にぶつかった右腕から血が滲んでいるのが分かりました。

 猪の毛というのは針金のように固いのです。

 光の玉を当ててケガを治療します。


 チューン!


 多分、痛みを感じない今の自分はアドレナリンがドバドバと出ていて極度の興奮状態にあるかも知れません。

 口の中がアドレナリンの味がします。(by かわぐちかいじ大先生)

 精神こころを落ち着かせます。


 チューン!


 そして私は何事もなかったかのようにスッと立ち上がり、猪と対峙しました。

 懐の中から扇子を取り出して、猪の方に向けます。

 麻呂クンは私の後方です。


「おねーちゃん」


「麻呂様、逃げなさい!」


「だって、おねーちゃんが……」


「私は大丈夫。貴方は大人を呼びに行きなさい!


「だけど、オレは……」


「貴方がここに居ても何も出来ません。

 はっきり言って邪魔です!

 足手まといです。

 早く逃げなさい!!」


「わ…わかった!」


 麻呂クンは泣きながら護衛さんのいる屋敷の方へと走って行きました。



(つづきます)


長くなってしまったので一旦切ります。

落としどころをもう少し考えさせて下さい。


今年は熊の被害が顕著ですが、猪被害も多発しているみたいです。

作者の地元でも、指を食い千切られる被害に遭った方がいます。

お気をつけ下さい。

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