悪役令姫の掘った墓穴の大きさに驚く
本日2つ目の投稿です。
前話はSSなので読み飛ばしても差し障りは全く御座いません。
秋田様と萬田様は仲睦まじく護衛の方を伴って行ってしまいました。
リア充どもめ、爆ぜろ!!
最近、身の回りでめでたい事が多いのは何故か考えてみました。
出てきた結論は……。
章を跨いで二年飛ばした近況を概略でお届けしているからではなく……。
こうでもしないと物語が盛り上がらないからでもなく……。
作者のアイディアが枯渇しているからでもなく……。
緩い古代倫理観でジャンジャンとくっついて、ポコポコと子供を産まないと社会が保てないからだという事です。
【天の声】ドサクサに紛れて舞台裏を暴露するのは止めなさい。
この世界に来て三年半、毎年戸籍調査やっているのでだいぶ分かってきましたましたが、やはり亡くなる人は多いです。平均寿命は四十歳以下で、乳幼児の死亡率を考えるともっと低いかも知れません。令和みたいに出生率1.3程度でしたら、あっという間に日本人は消えて無くなります。
国造の娘として、領民の出産には出来るだけ立ち会い、新鮮な布とお湯を用意して、あたり一面を光の玉で殺菌して回っています。
ですが衛生も栄養も不十分な環境で幼児になれない子は三人に一人くらいいます。
成人する子は多分三人に一人、孫の顔を見れる幸せな人生を歩めるのは十人に一人居るか居ないかでしょう。
その勝ち組の一人が太郎おじいさんという訳ですが……、うーん。
どうしてこのような事を考えるのかというと、今私は赤ちゃんを抱っこしているからです。
忌部氏の氏上様、忌部首子麻呂様のご長男、佐賀斯様のお子様、男の子です。つまり氏上様のお孫さんですね。
将来は忌部氏を背負うのでしょうか? この時代の子供の死亡率の高さを思うと、この子が成人してくれるのかという不安はかなりリアルな心配です。
「かぐや殿、我が子を抱いてくれてありがとうございます。きっと無事に成長出来る事でしょう」
同じ言葉を領民の赤ちゃんを抱っこした時によく言われます。
実は体の周りのバイ菌を見えない光の玉で死滅させているのですけど、噂が噂を呼んで他所の地域からも赤ん坊を抱いてくれという依頼が来ます。
出来るだけその要望には応えてあげたいけど、赤ん坊に負担を掛けてまでウチにやってくるくらいなら、家でじっとしていた方が良いですから、と言いたい。
「赤子は国の宝です。健やかに育つ事をお祈りしています」
赤ちゃんを衣通姫のお兄さんの奥さんに返しながらそう言います。
「かぐや様は真人様といい、小さなお子様にとても慣れていらっしゃるのですね。私なんかちょっと抱き上げただけで大泣きされてしまうと言うのに」
衣通姫が羨望とも愚痴とも取れる発言をします。
ごめんね、衣通ちゃん。私には渦巻き印の丸薬の効果を持つ光の玉という救命技があるのです。
「ちょっとしたコツみたいなものです。衣通様もお子様を産めば分かるかもしれませんよ」
「そんな、まだまだ先のことで御座います」
それはそうですよね。数えで十三という事は満年齢で十一歳か十二歳。現代ならランドセルを背負った小学6年生くらいですから。
しかし、領民は数えで十六歳くらいから子供を産み始めているから、そんなに先でもないのかも知れません。
その時は私が衣通ちゃんの旦那になる人をしっかりと見定めてましょう。
あのセリフを言えるかも?
「お前なんぞに、私の衣通はやらーん!」
◇◇◇◇◇
こうして私は秋田様達が戻ってくるまで、何故か子守りをしながら忌部氏の宮に入り浸る毎日を送っていたのでした。
そんなある日、久しぶりに御主人クンがやってきました。
男女が二人きりで面談するのは流石に問題なので、衣通姫と御主人クンに同行した物部宇麻乃様に同席をお願いしました。
「衣通殿、かぐや殿、久しぶりです」
御主人クン、少し大人っぽくなっていますね。
この時代の子供は十五歳を過ぎると大人と同じ働きを求められるので、そうならざるを得ないのかも知れません。
「暫くぶりに御座います。ご機嫌いかがで御座いましょうか?」
こちらも負けじと大人の挨拶で応戦します。
「最近は飛鳥の宮で見習いの仕事をする事が多く、こちらにはなかなか来れなくなり、足が遠のいてしまった。来年の正月には元服することになったし、そろそろ阿部の一員としての役目を果たさなけれなばならなくなりそうだ」
阿部氏を背負うプレッシャーなのか少々浮かない感じです。
「すると難波の宮へ?」
「いや、父上様より仕事を仰せつかった。実はそれについて相談に来たのだ」
「相談? ……ですか」
何故私にと思いながら恐る恐る聞いてみます。
「そう、父上様より『火に燃えぬ布を探して参れ』と言われたのだ。そしてその燃えない布についてかぐや殿が知っていると聞いたので、是非教えて欲しいと思い参った次第だ」
『ピシッ』
あああああああ〜。
どーしてこーなった〜〜〜!!
これじゃ『竹取物語』で悪役令姫が阿部御主人に『結婚したければ火鼠の衣を持ってこい』と言ったのと全然変わらないじゃないですかー!
誰だーっ!
余計な事を言ったスットコドッコイのトウヘンボクのトンチキチーは!?
私かーい!!
他人の目が無かったら、今頃私はゴロンゴロンとのたうち回っていたと思います。
掘った墓穴が大き過ぎ!
一体何人入れる墓穴を掘ったんだー!
はぁはぁはぁはぁ。
頭の中の阿鼻叫喚を悟られない様、出来うる限り心を鎮めて質問をします。
「ど、どうしてその様な話を?」
「皇子様が火災の炎から身を守れる火鼠の衣を探す様、厳命されたそうなのだ。
だが父上様はあるかどうかも分からぬ不確かな物に時間と人員を割くのは反対された。
しかし、火災から身を守る手段はあった方が良いと代替策を探ることにしたのだ。
中臣様より伺ったところ、かぐや殿が『燃えぬ布』なるものを知っていると聞いたのだ。
どの様な物なのか詳しく教えて欲しい。この通りだ、頼む!」
御主人クン、御主人クンのくせにすごく好青年っぽいじゃないの。
「い、いえ! そんな大層な情報では無いのです。頭をお上げ下さい(汗)」
「お嬢ちゃん、炎から身を守る布という物があれば衛部としても非常に助かる。中臣様にお話しされた内容と合わせて、是非教えて欲しいのだよ」
物部様が畳み掛けてきます。取調室で追い詰められた犯人の気分です。
まずは心を鎮めましょう。
チューン!
「分かりました。順を追って説明します」
こうなったら腹を括るしかありません。
少なくとも火鼠なんて架空の生物を探し求めるよりはマシですから。
それに今回の件で求婚の話なんて出ていないし。
「ここへ皇子様がいらした事はご存知だと思います。
その時に皇子様より火災を防ぐ方法について問われましたが、何故その様な事をお聴きになるか分からず、尋ねられた質問のみにお答えいたしましたが、皇子様はお気に召され無かったみたいでした。
その後、物部様に案内されて中臣様に火鼠の衣の様な身を守る方策を必要としている、と伺ったのです」
「そうだったね。お嬢ちゃんの火災についての話はこちらでも参考にさせて貰ったよ。被害を最小限度にする方法をあそこまで分かり易く整然と言ってくれた人は初めてでね。自分の未明を恥じ入るばかりだよ」
「いえ、そんな。思いつくままに申し上げたので、穴の多い話で恥ずかしいのは私の方でした」
「そう言われてしまうと私は立つ背がないのだけどね。話を続けてくれ」
「はい……。中臣様から『燃えない衣が存在するのか』と聞かれましたので、私は石綿という繊維質の鉱石についてお話をしました。石綿とは名前の通り、石が真綿の様な形状をしていて、それで布を織れば燃えない布が出来る、と説明しました。しかし、それを吸い込んで肺に入れれば肺を傷つけるので取り扱いにもご注意が必要との事も説明申し上げました。
肝心の石綿の鉱石の在処につきましては私は存じておらず、全国の国造に問い合わせるのが良いでしょうとご提案させて頂きました。
以上が中臣様にお話しした内容です」
「かぐや殿。その石綿というのはどの様な形状をしているのだ?」
「申し訳御座いません。毛羽だっていて、綿がまとわり付いた鉱石としか分かりません。色は白い糸、茶色い糸、青い糸が御座いますが、白色が扱いやすいと思いました」
「何処に在るのか全く見当がつかないのか?」
「申し訳御座いません。少なくとも平地にはないので鉱山を探すしかないかと思います」
日本で採れたかどうかも怪しいけど、かの平賀源内が石綿で布を作ったという逸話が残っているので日本の何処かでは入手可能なはず。こんな事になるのならアスベスト廃棄の手続きの時にもっと真面目に資料に目を通しておけばと後悔します。
「お嬢ちゃん。疑っている訳ではないけど、石綿とやらの珍しさは火鼠の衣とさして変わらないなんて事はないよね?」
「実在するかどうかという意味で言えば、火鼠なる生物は絶対におりませんが、石綿なる鉱物があるのは確実です。恐らくですが、石綿で作った布を架空の火鼠の衣と詐称したのだと、私は考えております」
「なるほどね。普段は控えめにしか言わないお嬢ちゃんがそこまでハッキリ在るというのだから、きっと在るのだろう」
「あまりお役に立てず申し訳御座いません。まさかこのような大事になるとは思いも寄りませんでしたので」
「いや、かぐや殿の情報に感謝する。居るはずのない火鼠を探すよりは遥かに有益な情報だ」
御主人クン、こうゆう時は『役に立たぬ女子だな』と貶すのではないの?
何故なのか、第一印象最悪の御主人クンが段々と男前になっています。
『竹取物語』通りのストーリーが進行しているのに、登場人物の性格が違い過ぎていません?
【天の声】一番のイレギュラーはかぐや本人なのだけど……。
クリスマスはやはりケンタですね。
お読みになって下さる皆さん、メリークリスマス〜♪