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突然の皇子様の来訪・・・(2)

植樹祭で天皇陛下が来られる時、ある日突然、アパート前の道が再舗装されてびっくりした事があります。

今は知りませんが……。

 超重要人物みこさまの讃岐滞在、二日目。


 現代においてもご皇族のご来訪となれば一大イベントです。

 数週間前から段取りを決めて予行演習リハーサルとかやって、お役所の方は東奔西走とうほんせいそう南行北走なんこうほくそう、慌ただしいく駆けずります。

 通行予定ルートの道路のアスファルトを改修したり、場合によっては道そのものを改修工事したりします。

 お陰で便利になったと地元から喜ばれたりします。

 宿泊となれば受け入れ先のホテルは持てる限りのお持て成し(サステナビティ)を惜しみなく振舞います。

 ご視察は分単位でスケジュール管理されていて、そのスケジュールを耳にするだけで、もう少しゆっくりなさって欲しいと思ってしまう程にビッシリです。


 なのにこの時代の皇子様は前日に突然の訪問の連絡が来て、地元の国造そんちょーとは会うつもりはなく、ただ食事と娯楽ひまつぶしの提供のみです。

 今回が特殊なのか、これがこの時代の標準スタンダードなのかは分かりません。


 ◇◇◇◇◇


 今日の朝食は、白米のご飯とお味噌汁、蕪の漬物、焼き魚のしそ和え、炒り卵、食後の菓子パンです。

 反応レスポンスがあれば献立にも工夫のしようがありますが、今のところ何もありません。

 もっとも何事もなくこの三日間が過ぎるのが一番なのですけど……。


 朝食を納めて夕餉の仕込みをしていると、物部様がお越しになりました。


「やあ、お嬢ちゃん。食事の手配ご苦労様だね。君は食事の番までやっているのかい?

 働きすぎじゃないか?」


 開口一番、軽い口調でご挨拶です。


「大したことは出来ませんが母様のお手伝いをしております。物部様に比べましたら私なぞ怠け者の誹りを受けてしまいそうですので、ご心配なさらずとも」


「厳しいねえ。ところで食事に出ていた丸い菓子の様な物はここでしか作れない物なのかい?」


「材料があれば、誰にでも作れます。しかしその材料を取り揃えるのにも作るのにも手間が掛かりまので今すぐにとは参りません」


「私もご相伴に与ったけどあれは良いね。手軽に食事が取れて、美味しいし、滋養もありそうだ」


「そう言って頂けますと、頑張った甲斐が御座います」


「それではこちらに人を遣すから、材料と作り方を教えてよ。

 これは中臣様からの依頼なんですよ」


「はい、承りました」


「それとこれは皇子からの伝言。

 今すぐ来い、との事です」


「はい、承りました」


 私の中に残っている会社員しゃちく成分を振り絞って、無茶振りとも言える命令にイヤな顔を微塵も見せず、さも当たり前の様に返事をしました。

 幽霊屋敷で一度も悲鳴を上げたことの無い鉄の精神メンタルのなせる技です。

 元カレからは、もっと怖がってしがみ付いて欲しいとか、可愛げが無いと言われましたが……。


「国造の父様は同席されましょうか?」


「いや、君だけだね」


 はい! 面倒ごと確定です。

 三年前、今回の原因を作った秋田様には生え際後退の光の玉をお見舞してやる!


「せめて、お着替えをするお時間を下さい」


「ああ、申し訳ないけど、着替えには女性の監視を付けさせて貰うよ。いちいち服を脱がせて検査しなくて済む様に、ね」


「はい、お心遣い感謝致します」


 台所の離れを出て、自室へと向かい、監視の女性を待ちます。来たのは与志古様でした。


「此度はご面倒おかけして恐縮に御座います」


 わざわざ内臣うちつおみの奥様に御足労させてしまったお詫びをしました。


「いいのよ。むしろ子供の貴方に負担を掛けてしまって申し訳ないと思っているくらいだから。

 皇子みこ様への配膳は私たちでやっているのですが、食事は国造で用意させているのだし、こちらも手が足りなくて萬田も借りているくらいなの。

 彼女は短い間とはいえ膳司かしわでのつかさに居たこともあるのだから、慣れたものよ」


「お忙しい所をますます恐縮に御座います」


「とにかく急ぎましょう」


「はい」


 変に着飾ると何を言われるのか分かりませんので、普通の子供が着用する衣服に身を包みました。寒くはないので、裳の下にパンツは履きません。

 ノーパンです。イヤン♪

 何か隠しているだろうと言われないためにもできるだけ普通の格好を心掛けました。

 扇子も暗器かも知れないと指摘されたので、持っていきません。


「お待たせしました」


 部屋を出ますと、物部様が待機していました。


「それじゃ行こうか」


 私と物部様、そして与志古様は皇子が滞在する中臣様の宮へと向かいました。衛部の責任者が同行しているので、厳しいチェックはありません。直ぐに皇子みこ様が控える間へと通されました。


「讃岐造麻呂の娘、かぐや殿が到着しました」


「通せ」


 物部様の呼びかけに答えたのは……中臣様?

 先ずはお辞儀、というより丁寧な土下座し、遅れたわけではありませんがお詫びから入ります。


「お待たせしてしまい大変申し訳ございません」


 ……あれ? 否定して欲しいのだけど、全く反応がありません。

 しばらくの沈黙の後、御簾の横にいる中臣様が口を開きました。


「かぐやよ。此度の皇子の滞在に際して、欠けることなく準備を進めてくれたことに感謝する。

 幾つか聞きたいことがあったので来てもらった」


「はい、何なりと」


「では、これまでの収穫を増やすために行った取り組みについて簡潔に話せ」


「は」


 準備する余裕の欲しい話を無茶ぶりするのは止めて下さい、と抗議したい気持ちをぐっと我慢して、頭の中で過不足のない説明項目をリストアップします。


「収穫を増やすために行ないました事は主に三点に御座います。

 一つは種籾の選別。

 一つは田植えの導入。

 一つは土作りに御座います」


 プレゼンの基本は、簡潔に説明するため論点を3つに絞る事。

 次は詳細の説明。


「まず種籾の選別は、塩水に種籾を入れ、浮きあがった種籾を除くことで実の詰まった質の良い種籾ばかりを選別しました。またこれらの種籾は、全て実りの良い稲穂からの種籾を選びました」


 どうせ全部話すことは出来ないのだから、細々した説明はばっさり切り捨てます。


「次に田植えです。

 田に直接種籾を蒔かず、六寸くらいになるまで別の苗床にて育てます。

 育てた苗を均等に植え付けることで、鳥に啄まれる事なく、間に生えているノビエなどの除草の効率が上がりました。また稲刈りが大変楽だとの声もあり、いったん植えてしまえば作業効率の上でも改善されます」


 すこし長かったかな?


「最後に土作りです。

 田の土は稲ばかりを育てますと、土の中の稲の生育に必要な滋養が減ると思われます。

 それを改善するため、堆肥と呼んでいる栄養を与えることで収穫の改善が見られました。

 また牛を使い、土をかき混ぜ、土の粒を細かく砕くことで、中の小さき生き物が息の出来る土作りを目指しております」


 何とか言い切れました。


「かぐやよ。堆肥を与えるとのことだが、堆肥とは糞尿だと聞く。其方は私に糞尿まみれの米を食わすのか?」


 御簾の向こうの皇子がかなり不機嫌モードです。逃げたい!


「恐れながら。堆肥の原料は糞尿ですが、堆肥として直接は使いません。むしろそれは害となります。

 糞尿の中にある不要な物を時間を掛けて取り除き、滋養のみが残ったものを藁などと一緒に土に混ぜて堆肥として使用しております。また、落ち葉や雑草を燃やした灰などを混ぜることで、稲ばかりを育て偏ってしまった土を本来あるべき土に戻すための堆肥に御座います」


「ではその堆肥とやらはどうしても必要なものなのか?」


「今のところそれ以外は見つかっておりません」


「はっ、糞尿まみれの女子とは相変わらず残念な女子よの。民を食わすためだ、そのまま続けよ」


「はい、有難うございます。」


 いい加減、お辞儀したまま話すのは辛いので、解放してくれない?


「あとな……。余の食事を用意しているのは其方らと聞く。

 丸く柔らかい物があったが、あれは気に入った。もう少し増やせ。他は無くても良いくらいだ」


「承りました。増やすことは吝かでは御座いません。

 しかしながら先ほどの土の話ではありませぬが、同じ物ばかりを食べますと滋養が偏り健康を害すことが御座います故、他の食事もお持ち運びさせて下さい。

 何卒お願い致します」


 低くしている頭を更に下げて、”土下寝”になりそうなくらいにお願いします。


「ああ、構わん。あれが増えるのであればな」


 菓子パンばかり食べて体調を崩して、それを私のせいにされては溜まりません。

 どうにか聞き入れて貰いホッとするのでした。



(つづきます)


長いので一旦切ります。


パンのレシピにつきましては本当に出来るのか……と言われますと、悩むところです。

料理は苦手ですので。

……ネットスーパーのチートが欲しい。

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