農業試験場での収穫の秋
幼女編の最終回です。
もう少し引き締まったお話にしたかったですが……。
季節は秋、実りの秋です。農業試験場となった讃岐は賑やかです。
暴風雨、たぶん台風が来たときは青ざめましたが、被害は大したことなく済みました。
そのうち天気予報も考えたいと思います。
あとは温度計と湿度計が必要かな?
この時代の日本にはガラスの加工技術がありませんので、金属か陶器で作れますでしょうか?
やりたいことが後から後から増えてきます。
その度に『助けて~、猪名部エモン~』となるのはお約束です。
さて、本当は稲刈り日和です。
台風のお陰で水抜きに時間が掛かりましたが、田んぼに足を入れられる程になりました。
領民の皆さんは家族総出で稲刈りをしています。
私、かぐや(9)も領民ファッションに身を包み、今年は稲刈りに挑戦します。
指を切り落としても無くさなければ、治癒の光の玉で何とかなるでしょう。
「かぐや殿よ。其方は田んぼに入るとは聞いていたが、そこまでやるのか?」
月に一度くらいの頻度でやってくる御主人クン(11)は私が泥塗れになって稲刈りをするのを呆れて見ています。
「そうです。食は国の礎。何の不都合があるでしょうか?」
御主人クンの言葉を正論で蹴散らします。
お願いだから、私に求婚しようなんて考えないようにね。
「おねーちゃん、僕もやるー」
「真人様がもう少し成長されて、刃物を持っても良いと与志古様からご許可が得られてからにしましょう」
真人クン(4)はすっかりおねーさんっ子になりました。
与志古様の肝煎りで私に求婚すべく讃岐に滞在しておりますが、今のところ『竹取物語』の車持皇子のような屑になる気配はありません。
お願いだから素直に育ってね。
「真人ぉー、オレは父上から許可頂いたぞ!」
麻呂クン(7)はずっと讃岐にいます。
どちらかというと真人クンのお供、兼お友達として中臣の宮にいる感じです。
程々の距離を取って接したいのですが、麻呂クンは真人クンといつも一緒なので、どうしても共に行動する事が多く、お転婆な私とワンパクな麻呂クンが悪目立ちする様になってしまいます。
月に一度くらいの頻度で物部パパがやって来て、その度に親子で惜別の涙を流して、難波京へと戻って行きます。
お母様と一緒とは言え、大好きな父親と離れ離れで暮らす麻呂クンを邪険には出来ず、仲良くやっています。
でもこうしてみると、私と求婚者(候補)の三人と衣通姫は、まるで幼馴染五人の仲良しグループじゃない?
もしかして戦隊モノになるって事はないよね?
五人揃って、飛鳥戦隊かぐレンジャー!!
ちゅどーん!!
残りの求婚者が金とか銀になって追加メンバーに加わりそうだから絶対に嫌です。
私としてはもう一人女性が加わったら、打ち止めにして欲しいと思っています。
そうすれば数が合うし、現代で私が愛読していた漫画、セレブな男女六人の倶楽部活動みたいです。
……すると私は成金の娘?
【天の声】イチジョウ先生、ごめんなさい。そうならないようにしますので。m(_ _)m
◇◇◇◇◇
本日は天日干しした稲の選別作業をしています。
領民の皆さんは三台に増えた千歯こぎを使って脱穀作業しています。
猪名部エモンの仕事は早いので助かります。
「かぐやよ。其方は何をしているのだ?」
作業をしていたら突然の重要人物からのお声がけです。
中臣様は讃岐に宮が出来て三度目のご訪問です。
多少の緊張は取れましたが、やはり怖い方であるのに変わりありません。
「これはご挨拶が遅れてしまい申し訳御座いませんでした。
白米を栽培している試験用の田から採れました稲を選別しているところに御座います」
「何の選別だ?」
「このように刈った稲を並べて、穂の多い稲を選び、来年たくさんの穂を付ける親となる種籾を選別しております」
「なんだ、子が少ない私への当てつけか?」
「さすがに稲穂と人とを同じに考えるには無理がございます」
「どの様に違うというのだ?」
「人の子種は繊細な生き物に御座います。
良き食事、良き睡眠、良き休養、清潔な環境、心の平安、などが必要かと」
「食事以外は私に無縁の物だな」
「結論が出て何よりに御座います」
私の首、大丈夫かしら?
「本当に其方は九つなのか?
まあよい。それで収穫の方はどうなのだ?」
「まだ脱穀が全て終わっておりませんので詳細はこれからですが、今年初めて田植えから稲を育てた領民の田は昨年の二割増し、土作りから始めた試験用の田では一昨年前より五割増しくらいの感触であるとの報告が上がっております」
「それはすごいな」
あれ? この声は?
「倉梯様、ご無沙汰しております。突然のご訪問は如何されましたのでしょうか?」
「収穫を増やす試みが国政の上で重要だと位置づけたのは我らだ。その命を出しながら何もせぬ訳にもいくまい。収穫が終わったと聞いて、一日だけ暇をつけて来てみたがその甲斐はありそうだな」
「恐れながら。収穫は天候に左右されやすいものです。毎年の調査を精査した上で平均を求め、真の成果を見極めなければ、間違った結論が導かれるやも知れませんので、今しばらくお待ち下さい」
「相変わらず算術に長けた娘だな」
「恐れ入ります」
(意訳:いえ、元・文系の事務員です)
「彼方の方で開拓をしておったが、あれは来年に向けた準備か?」
「それも御座いますが、一部は小麦を栽培するつもりでおります」
「稲と小麦を交互に育てるのか?」
「残念ながら、もう少し温暖な地であればそれは可能かもしれませんが、麦のみの栽培を行います。例え稲が天候等の理由で不作となっても、麦の蓄えがあれば幾らかでも被害を軽減できるかと期待しております」
本当はパンケーキを食べたいだけなんですけどね。
「『女子は欲張りな生き物』だとはよく言ったものだな」
中臣様が私が正月に言った言葉で茶化します。
「今はまだ採れた稗や粟も豆も人の口に入りますが、いずれは鶏の飼料として卵や鶏肉の原料とするつもりでおります。この程度では満足するわけには参りません」
そう、鶏が手に入ったの!
狼に食べられないよう、大切に育てて増やしています。
美味しいパンケーキにまた一歩近づきました。
「欲張りである事を隠そうともせぬとは本当に残念な女子だ」
「お褒めに与り恐縮に御座います」
「褒めておらぬわ!
それよりな……あまり舎人達を苛めてくれるなよ。無理難題を押し付けられて出来なければ帰れ、と脅されたと泣き付かれたぞ」
「田畑に入らずして何を学ぶつもりでいるのか、とそれが出来なければお帰り頂くと申しただけにございます。もし本気であれば、今頃は肥やしの番をしているでしょう」
「外れにあるあの臭い建物か?」
「はい。中臣様より下賜されました牛は、とても良い肥やしの元となっております。
感謝申し上げます」
「これまで幾度となく礼を言われた事はあるが、牛の糞でお礼を言われるのは後にも先にも其方だけであろうな」
「お褒めに与り恐縮に御座います」
本当に私の首、大丈夫?
「だから褒めてはおらぬわ。
それと真人の事だが……色々と世話になっておるな。感謝する」
あれ? 中臣様って意外と子煩悩?
「真人様は大変利発で、将来がとても楽しみに御座います」
「ほう、其方から見てもそう見えるか」
「はい、真人様は国博士の高向様の様になりたいと、明確な目標をお持ちです。
できるだけ手助けして差し上げたく存じます」
「そのような事をか……、考えておこう」
え? 考えるって?
何なのか尋ねようとした時には中臣様は倉梯様と共に行ってしまいました。
[幼女編・終わり]
昨日の後書きにも記載しましたが、このお話で幼女編を終わりにします。
次話より数年後の話へと飛びます。
(あまり違和感は無いと思います。)
それに合わせて章を改めて、タイトルを修正します。
歴史に忠実であろうとすると、どうしてもシリアスになってしまいがちです。
笑いを忘れず、スカッとカタルシス成分山盛りを心掛けていくつもりでおりますので、今後ともよろしくお願いします。