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【幕間】衣通の回顧・・・(6)

衣通姫はミウシくん(とかぐや)を応援しています。


 私は衣通そとおし忌部首いんべのおびと子麻呂の娘です。

 新たに即位された帝の前で舞を披露するかぐや様。

 天女様のお力を持つかぐや様なら当たり前なのかもしれませんが、私にとっては一大事です。

 些細な事でもいいので役に立って差し上げたいと思い、京までついて来ました。


 ◇◇◇◇◇


 新春の宴当日、まだ夜が明ける前にかぐや様は宮へと行ってしまわれました。

 私もお見送りしたのだけど暗くて見えなかったと思います。


 何もできないままひたすら待つこと約半日。

 無事、正午前に皆さんは戻ってきましたが、何故かかぐや様だけはお見えになりません。

 巫女さん達に聞くと、お着替え中に秋田様がかぐや様を呼びに来たそうです。

 そして間違いなく秋田様は巫女さんの着替えの時を狙って来たのではないかと皆は言ってました。


 宴では鈴が使えなかったりして思うようにいかない部分はありましたが、かぐや様が機転を利かせて盛り上げてくれて盛況のうちに終える事が出来たそうです。

 さすがはかぐや様です。

 かぐや様のお言葉を借りれば『さすかぐ』ですね。


 程なくして、晴れ晴れとしたご様子のかぐや様が戻って来ました。

 お腹がペコペコだったらしく、私の四倍以上は食べたような気がします。

 お食事中、何故呼び出されたのかを聞いてみましたところ……、

「氏上様と偉い方々に呼び出されて、秋田様が氏上様に出した文について問いただされたのです。幸い事なきを得ましたが、明後日の宴で鈴を使った舞を披露するよう言われました」

 とお答えになりました。

 それを聞いた萬田様と巫女さん達は急いで夕餉を済ませ、舞の稽古へと戻っていきました。

 ただし、かぐや様だけはお休みさせて欲しいと辞退したようです。

 お忙しい一日でしたので無理もありません。


 翌日、かぐや様はみやこの市場へと繰り出しました。

 私もついて行きたかったのですが、お父上様はずっと宮を空けているため外出の許可を頂けず、同行できませんでした。

 みやこまで来た一番の目的が果たせず、残念で泣いてしまいそうになりました。

 かぐや様は「氏上様のご許可が出て、時間が取れましたら一緒に行こうね」と言ってくれましたが、おそらく明日の宴が終わりましたら、かぐや様は讃岐へと戻られてしまうだろう思います。

 かぐや様がもっと長くみやこに残ってくれたのならなぁ。


 しかしそう思った私が愚かだったことは後になって分かりました。


 ◇◇◇◇◇


 宴で披露したかぐや様の舞はとても洗練されていて、その場にいる皆を魅了しました。

 忌部の縁戚に当たる子達も舞を舞うかぐや様に感動したと言っていました。

 友達としてとても誇らしいです。

 舞の衣装をまとったままのかぐや様は周りの注目を集め、たくさんの方が話しかけて人気者でした。

 友達として少し寂しいです。

 沢山の方々とお話をし終わって、さあ次は私に声を掛けてくれる、と思った瞬間、別の男の方がかぐや様に声を掛けました。


「かぐやよ、良い舞であったな」


 見覚えがある方です。

 昨年の宴でかぐや様と仲良さげに歌を交換した方ではないでしょうか?


「これは気付きませんで申し訳ございませんでした。

 本日はお忙しい中、お目汚しの程、大変失礼致しました」


「いや、昨年観た舞も見事だったし、本日観た舞は更に良かった」


「お褒めのお言葉、有難たく存じます」


「いや、……その……」


 でも、何故かぎこちない感じです。

 一年ぶりに再会してお互いに気恥ずかしいのでしょうか?

 もどかしいその様子が見ていられなくてつい声を掛けてしまいました。


「かぐや様、その方は確か……」


「衣通様、こちらは阿部倉梯あべのくらはし御主人みうし様です。左大臣・阿部倉梯あべのくらはし様の御嫡男に御座います」


「そうでしたわね。一年振りです。忌部首いんべのおびと子麻呂こまろが娘、衣通郎女そとおしのいらつめに御座います」


「ああ、久しいな。讃岐では楽しい宴であった事を思い出されるよ」


 やはりお似合いのお二人です。


「はい、とても良き思い出に御座います。あの宴をきっかけにかぐや様とは友誼を結ばせて頂いております。宴でご一緒に舞をご覧になっている時もお二人が楽しそうに歓談されていたのを思い出されますわ」


 歌の交換なんてうらやまけしからん!

 (という言葉をかぐや様から教わりました。)

 するとかぐや様から別の話題が……。


「先日は倉梯様にお話を頂く機会がございました。私の不躾な話に耳を傾けて下さって、大変申し訳なく思います」


「そうなのか? ……」


 何やら深刻なお話をしています。

 左大臣様ということは臣下の中では一番高位の方のはずです。

 かぐや様はその様な方々とお会いしていたのですね。


「左大臣の職は私の様な凡庸な者には想像が出来ぬほどの重圧があるものかと想像するしか御座いません。御主人みうし様が1日も早く手助けができる様ご成長なされる事が、倉梯様にとって一番の手助けとなりますでしょう」


「そうだな。私もそうあらねばならないと思っている。しかし山の頂が一向に見えぬ様だ」


「山の頂……ですか。

『人生は重き荷物を背負いて長き坂道を登るが如し。焦るべからず』

 ……で御座いますよ」


「あ、ああ。ありがとう。頂が更に遠くなった様な気がするが……」


 ああ、かぐや様。

 聡明なかぐや様は時としてとてつもなく鈍感な時があるのです。

 そのようなお言葉では全然励ましになっておりませんですよ。

 我慢がならず、倉梯様に申し上げてしまいました。


「倉梯様。私は昨年半年間、讃岐に居てかぐや様とずっと御一緒させて頂きました。

 山の頂(かぐや様の御心)はとてもとても高う(難攻不落に)御座います。

(ですから頑張ってください!)」


「そうなのか?

(ならば私ももっと精進せねば!)」


 一年前の私には考えられない事ですが、かぐや様という共通の相手てきに相対している時は、例え初見に近い男の人でも通じ合うものがあると実感しました。


【天の声】三人が三人とも誤解している……。


 ◇◇◇◇◇


 もうそろそろ御開おわりのお時間なりました時、宴の場が突然騒がしくなりました。乱入者? ……え? 剣?!

 何か騒いでいます。ヤダ! こっちへ来ないで!


「そこの変わった格好をしている童子。お主は中臣の者か? 阿部の者か? それとも倉山田の者か?」


 違う! 私は忌部、かぐや様は国造の娘よ!

 そう言いたかったのですが、喉から声が出ません。

 するとかぐや様が凛とした声でお答えになりました。


「それを聞いてどうなさるおつもりですか?」


「決まっている! 人質だ!」


「宮の中で人質取っても、矢の的では御座いませんか」


「うるさい。早く答えろ!」


 やめて、かぐや様! かぐや様は関係ないではありませんか!


「私を人質にした所で、何も得られませんよ」


「いいから来い! 己が子供の命が掛かっていれば言う事を聞くはずだ」


 きゃああああ!


「かぐや様!!」


 やっとの思いで声が出ました。でもしかし、かぐや様は顔を変にしかめています。

 どうしたの?

 目がかゆいの?

 歯が痛いの?

 それとも『こんな連中、私がピッカリにしてやる!』という意味なの?

 訳が分からず、大変な時に何も役に立てなかった私はずっと泣いていたのでした。

 暫くすると、外から馬のけたたましい鳴き声が聞こえてきました。一体何事かと、ますます心配になってきましたが、外に出られずずっとと立ち尽くすだけでした。


 どれくらい経ったのでしょうか?

 静かになってしばらくすると、外に出る人がいたので、私も後について一緒に外へと出ました。

 するとそこには攫われたはずのかぐや様がそこにいたのです。

 思わずかぐや様に飛びついてしまいました。


「かぐや様〜!」


「衣通姫、大丈夫でしたか?」


 こんな時でもかぐや様はご自分よりも他人ひとの心配ばかりです。


「それは私の言葉です。かぐや様が連れ去られてしまって生きた心地がしませんでした」


「心配かけてごめんね。私は大丈夫。何とも無かったから」


 かぐや様は私が無事な事を喜んでいましたが、私こそ心配でなりませんでしたのに。

 すると傍らから声がしました。


「かぐやよ」


 倉梯様です。しかし倉梯様がかぐや様の行動を嗜め、お話ししたことは驚く様な内容でした。

 刀を持った男に飛び掛かられた? どうしてかぐや様がご無事なのかすら想像できません。

 倉梯様も心なしか青ざめております。そして何だか悔しそうに見えます。

 想い人が危険な目に会わされれば仕方がないのかも知れません。


「この場に居合わせなかった事に出来ませんでしょうか?」


 しかしここでも鈍感なかぐや様はと何もなかったことにして立ち去ろうとするのです。

 「行くがいい」と言って私たちを見送った倉梯様はとても残念そうな様子でした。


 倉梯様が少し気の毒な気がしてきました。

 応援しますので頑張って下さいませ!



(つづきます)

次話にて衣通姫を主人公にした幕間は終わりです。

長くなってしまい大変申し訳ございませんでした。


でも前からどうしてもやりたかったので、作者的には満足しております。

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