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【幕間】衣通の回顧・・・(5)

第61話『天太玉命神社、再び』の裏話です。

意外と衣通姫は(したた)かです。


 私は衣通そとおし忌部首いんべのおびと子麻呂の娘です。

 讃岐では国造くにやっこのお爺さんお婆さんに家族同然に受け入れて頂き、領地での七夕の舞を振舞うかぐや様や、徴税をお手伝いするかぐや様をすぐそばで見てきました。

 かぐや様のお優しさが領民の隅々まで行き渡っていると思うと、私まで誇らしい気持ちになります。

 だけど領民の皆さま、お願いです。

 拝むのはかぐや様だけにして下さい。

 横にいる私はただの娘です。

 私()()かぐや様を拝んでいたいのです。


 ◇◇◇◇◇◇


 一段と寒さが増してきた頃、大嘗祭へ行っていた秋田様がたくさんの荷物をもって讃岐へとやってきました。

 一番驚きましたのは牛さんです。遠目には何度か見たことがありますが、間近で見るのは初めてで、とても大きくておっかないです。でもお乳の出る牝牛ではなく、牡牛のようです。どうしてかとかぐや様に聞いてみたら、荒地を耕したり、田んぼの土をひっくり返すのを牛さんにやってもらうのだそうです。

 そのためにすきという道具を大陸から来た渡来人の方に譲って頂いたそうです。

 かぐや様は張り切って牛さんのお家を作ると言っていました。


 牛さんが引っ張ってきた台にはたくさんの荷物が載っていました。その台は輪っかが左右に二つ付いていて、ごろごろと転がりながら台が引っ張られ、とても楽チンそうに見えます。

 私も乗ってみたいとかぐや様に言いましたら「酔ってしまいますよ」と言われました。

 酔う……のですか?

 あれに乗るとお酒を飲んだ時のお父上様みたいに女性のお尻を触りたくなるのでしょうか?

 そう思うと少し怖いですが、かぐや様のお尻なら酔っていなくても触ってみたいです。


【天の声】それを本人に言ったら人生が(ある意味)終わるぞ。


 そしてこれらの荷物を受け取った後、秋田様から驚くお話がありました。


「翌る年、飛鳥宮の新春の宴にて舞を披露して頂きたいと事です」


 何と言う事でしょう!

 かぐや様の舞の評判は帝まで届いたのです。

 帝直々に舞を所望されるなんて、何て素晴らしいことなのでしょう!

 友達である私も誇らしい気持ちになります。


 ところが何故かかぐや様はそれを嫌がっているみたいです。

 駄々を捏ねるお姿は、かぐや様が幼子であることを忘れていた、という事を思い出させてくれます。

 しかし先ほどの牛さんはかぐや様に舞を舞うための報酬だそうで、断る事も出来ません。

 そもそも帝のご命令は神様からのご命令に等しいので、断るなんてありえない話です。

 それを分かっていながらわざととぼけているかぐや様と、何としてでも言う事を聞いて欲しい秋田様とのやりとりが可笑しくて可笑しくてつい笑いが止まりませんでした。


 ドナドナドナドーナ♪


 ◇◇◇◇◇◇


 やしろへ出発する前、私の事を家族同然と言ってくれたまた来ますと約束しました。

 だってかぐや様がいるのですから。

 社へはこれまでずっと一緒にいてくれた私の付き人の他、護衛さん、そしてかぐや様のお付きの人も同行しました。

 男性の付き人は源蔵さんといって、重い米俵を軽々と背負う物凄い力持ちで、皆驚いています。

 女性の付き人は八十女やおめさんといって、いつもかぐや様の傍に居ましたから私もよく知っています。お胸が物凄く大きくて皆驚いています。

 やしろの前にはお兄様をはじめ、皆が出迎えてくれました。


「ようこそ、かぐや様。忌部首いんべのおびく氏上代行をしております佐賀斯さかしと申します。此度は新春の宴にて三度みたび舞をご披露頂ける事に感謝申します。妹も大変お世話になり患者の念に絶えません」


 お兄様にしては少し固い感じの挨拶の様な気がします。かぐや様を前にして緊張しているみたいです。


「こちらこそ衣通姫には並々ならぬお世話と御友誼を頂き、日々感謝の毎日を過ごさせて頂いております。私の拙い舞のため、忌部氏の方々には多大なご支援を頂き、大変に恐縮に御座います。

 これは我が土地で獲れました米です。まだ僅かしか獲れぬ珍しき米なので、量は少しですが是非お召し上がり頂きたく思います」


 かぐや様は大人の様な挨拶をさらりと口にします。

 讃岐にいる時は子供っぽい口調なのに……。

 巫女さん達に再会の挨拶をして、舞の様子を見た後、お兄様達夫婦、私、かぐや様でお食事です。

 食事の前、お兄様から「かぐや様は私の事を嫌っていたりしないか?」と聞かれました。

 今年の正月、お兄様達はかぐや様を拐かそうとして、呪いをかけられたと聞き及んでいます。

 でも実は呪いじゃなくて髪の毛が抜けるだけだってかぐや様は言っておりました。領地の雑用を担っているピッカリ軍団も皆同じだとも。

 でもお兄様には内緒です。


「かぐや様は半年間、私を預けてくれたお兄様にお礼をしたいと、自らで作ったお米をお持ちしたのですよ。嫌っている相手にそんな事はしません。それにかぐや様はとても心が広い御方ですので、安心して下さい」と、答えておきました。


 そして食事時。久しぶりの家族とのお食事とかぐや様を自慢したい気持ちが弾けて、お喋りが止まりません。


「かぐや様は自ら田んぼに入って農業のご指導をされてたのですよ。天空の星々も色々とご存じで、本当に素晴らしい知識をお持ちなんです」


 だけどありきたりなお話では驚いて貰えなさそう。

 そうだ! 徴税の時、言う事を聞かない流民を懲らしめた話がありました。


「そうそう、かぐや様は徴税のお手伝いもされていたのです。領民の皆さんから慕われているんですよ。中には言うことを聞かない……」


「そ、衣通姫様!

 こ……このお米どうでしょう?」


 すると突然、かぐや様からお米について訊かれました。

 このお米もかぐや様が考案したのでしよね。

 だけど奥ゆかしいかぐや様は決してご自分の手柄とは言わないので少し物足りないのです。

 一生懸命説明しようとしたのですがお兄様にたしなめられてしまいました。


「衣通、久しぶりの家が嬉しいのは分かるが、少しはしゃぎ過ぎだぞ

 かぐや殿のすぐ側に居たのなら見習うべきことも多かっただろう」


 何て非道い兄上様なの!?

 かぐや様と私なんかを比べるだなんて、不遜が過ぎます。

 思わず文句を言ってしまいました。


 ◇◇◇◇◇◇


  みやこへの出発は新春の儀の十日前です。

 帝の御前で舞うのですから何一つ欠けてもなりません。

 全て倍用意しました。

 予備の道具、予備の人員、ついでに予備のかぐや様がいれば良いのですが私ではお役に立てません。その事をかぐや様に言いましたら、「衣通様は大切な保存用ですよ」と言われました。

 ホゾンヨウ……どうゆう意味なのでしょうか?


 かぐや様が京へ行くのに当たって私も同行したいとお兄様にお願いしましたが、お兄様からは京にはまだ不穏な空気が漂っているから止めておきなさいと反対されました。

 しかしかぐや様が心配で居たたまれないと懇願して、ならばかぐや様に相談して決めようとお兄様に言われ、三人で相談しました。

 でも本当はかぐや様と飛鳥の京を一緒に歩きたいのは内緒です。


「半年もの間、讃岐へ避難して危険から逃れてきましたのに、危険なみやこへ行くのは危なすぎます」 


 三人での話し合いで、かぐや様からはこう言われてしまいました。


「衣通よ、かぐや様もこう仰られているのだ。今回は諦めたらどうだ?」とお兄様からも反対されてしまいます。

 しかし、かぐや様は言いました!『諦めたらそこでシアイ終了ですよ』と。

 意味は分かりませんが、大和にほんだけでなくちゅうごくでも絶賛されそうなくらい心が揺さぶられる言葉セリフです。


みやこは危険だと申しますが、それでは安全なところって何処なのですか?

 やしろですか? 讃岐でしょうか? 私はかぐや様のお側が一番安全だと思うのです」


「いやいやいやいや、衣通ちゃん……じゃなくて衣通様。そこが一番危ないんですって」


 かぐや様は慌てますと、お子様口でも丁寧な口調でもなく、おばさまの様な口調になるのです。

 ここは畳み込むいい機会です。


「何せかぐや様は十人以上の山賊もやっつけてしまうのですよ」


「そうなのか!?」


 お兄様が驚いています。


「はい、山賊本人から聞きましたから」


「本人!? 山賊本人とはどうゆう事だ?

 まさか山賊に出会ったのか?」


「かぐや様はすごいのですよ。何と山賊を懲らしめて、改心させて、領地の雑用に従事させているのです。えーっと、確かピッ……」


「わぁーーーー、衣通ちゃん、一緒にみやこへ行きましょう!

 どのような事があっても私が衣通様を全力お守りしますので」


「そうなのか……。かぐや殿がそこまで申されるのであれば、仕方がないな。

 かぐや殿、衣通の事をお願い致します」


「は、はいぃー」


 やはりかぐや様はピッカリのことを隠したがっていました。

 お食事の時もその話題に触れたがらなかったのは気のせいでは無かったのですね。

 ふふふ。


 ◇◇◇◇◇


 宮へ到着するとお父上様が出迎えてくれました。

 半年ぶりに会ったお父上様はお元気そうです。


 しかし、みやこが本当に危ない所だとはこの時は知る由もありませんでした。



(つづきます)

幕間が当初予定を大幅にオーバーしまして、全部で7話になりました。

申し訳ありません。

作者がこうゆうサイドストーリーが大好きなので……。

読むのも、書くのも。

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