【幕間】衣通の回顧・・・(4)
『異世界・かぐや姫』のタイトルを変えようと思っています。
たぶん1週間くらいまでに。
突然タイトルが変わったからとお見捨てにならないで下さい。
お願いします。
m(_ _)m
私は衣通郎女、忌部首子麻呂の娘です。
これまで私が見てきたかぐや様の凄いところは、天女のお力と恵まれた才能によるものばかりだと思っていました。
しかし讃岐でありのままに過ごすかぐや様は、常に研鑽をして普通の人では考えられない様な創意工夫を凝らす努力を怠らない方だと知りました。
せっかくご一緒出来るのだから、たくさん見習わなければ。
しかし何をすれば良いのか分かりません。
そこで、手始めとして“日時計”のお手伝いを願い出ました。
お日様の出ていない曇りや雨の日以外、毎日欠かさず、お日様が出る前に起きて、日時計の記録をしました。
すると、お日様の動きというものがとても規則正しく変化していることが分かってきました。
そう思えてくると段々と楽しくなってきました。
「本当に影の長さが動いているのですね。毎日見ているはずのお日様にこんな秘密があるとは思いませんでした」
「世の中は知らない事がいっぱいです。だから楽しいのです」
「え? かぐや様にも知らない事があるのですか?」
「知らないことばかりです。だから書をたくさん読んでいるのですよ」
昨日、秋田様の問いに揺るぎのないお答えをしていたかぐや様の姿が思い起こされます。
秋田様は忌部でも舎人からは蔵書家として、祭司からは知恵者として、巫女さん達からはお胸ばかり見ている人として、皆から一目置かれている方です。
その秋田様ですら驚くほどの知識を披露していたかぐや様に知らない事がある事が信じられません。
かぐや様が何気もなく折りたたんで作った三角の紙が、スーッと宙を泳ぐように飛んだのには私もビックリしました。
「かぐや様は秋田様ですら知らない事を知っているから、本当に凄いですね。私なんて何も知らなくて恥ずかしいです」
つい普段思っている事がポロリと出てしまいました。
「知らない事は全然恥ずかしくありません。知ろうとしない事が恥ずかしい事なんですよ。ですから私は衣通様の事を恥ずかしいと思った事は一度もありません」
ですがかぐや様は、私の事をお認めになる言葉を言うのです。嬉しくて嬉しくて堪りません。
「そうおっしゃって頂けると私も嬉しいです。かぐや様もこれからもっと私の知らない事を教えて下さいね」
それ以来、かぐや様はたくさんの事を教えてくれました。
そしてかぐや様の秘密も教えてくれましたのでした。
日が暮れて星が見える時間に外に出て星を観察している時のことです。
北斗七星の絵を描きたかったのですが、周りが暗くて出来ませんでした。
「これならどうかな?」
かぐや様がこう言うと、ポワッと手元が明るくなりました。
何だろうと影と反対側を見てみますと光の玉がふよふよと宙に浮いているではありませんか!
驚き過ぎて声も出ません。
「驚かせてごめんなさい。でも光るだけだから害はないのよ」
不意に目に浮かびましたのは小正月の宴の時、かぐや様の舞が終わった直後に現れた空を覆い尽くす光の花のことです。
やはりあれはかぐや様のお力だったのですね。
不思議な事なのですが、同時にものすごく納得してしまいました。
だってかぐや様ですもの。
でも一つだけ気になったので聞いてみました。
「かぐや様はこの光を出して疲れたり倒れそうになったりしないのですか?」
宴の時、かぐや様が気を失った時の記憶が甦ります。
もしも私のせいでかぐや様が倒れてしまったら、私は普通ではいられないと思います。
「大丈夫。力の使い方を間違わなければ全然疲れないの。あの時は使い方を間違っただけだから。
じゃあ北斗七星を描き写しましょう。北極星と一緒に描くと位置が分かり易いはず」
かぐや様の秘密に触れ、誰よりもかぐや様と親しくなれたと思うと嬉しくなりました。
この夜の出来事を私はいつまでも忘れないと思います。
【天の声】R18に抵触するような発言は控えてね。
こうして毎夜、星を書き写しているうちにお星様が動いている事に気が付きました。
何故だろうと思ってかぐや様に聞いてみましたら、『明日教えるよ』と言うのです。
星の話なのにどうして明日? ……と思ったのですが、それがかぐや様ですので納得するしかありません。
次の日、日時計の前でかぐや様のお話が始まりました。
「衣通様、星が動いていて、お日様も動いています。衣通様はどうしてだと思いますか?」
いきなり難しい質問ですが、私も考えてあります。正解を言ってかぐや様を驚かせてみようと張り切って答えました。
「それは、お空にはとても高い天井があって、その天井には穴が空いているのです。小さい穴がお星様、大きな穴がお日様ではないでしょうか?」
するとかぐや様は残念そうな表情で……
「うーん、そう見えてしまうのは仕方がありませんね。見えたままで考えてしまうと、その様に見えてしまうのです」
「違うのですか?」
私の質問にかぐや様は答えず、質問を繰り返します。
「それじゃ、私達が立っているこの地面。どの様な形をしていると思う?」
え? 私が知りたいのはお星様の事なのだけど……。
でもかぐや様の質問には意味があるはずです。
一生懸命考えて答えてみました。
「ずっとずうっと向こうまで広がっていて、海があって海の向こうには……きっと滝の様に海の水が落ちてしまう所がこの地面の果てになっているのではないでしょうか?」
「たくさんの人が、大地は衣通様と同じように考えています。でも正解は『丸』なんです」
「丸? ですか」
「蹴鞠の毬のような球なのです」
「ええ? それでは下側の人はどうなるのですか? 横の人は大地にしがみついて生活しているのですか?」
「違うの。球の真ん中に……すべての物を引き付ける力みたいなのがあって、球の上にいる人はすべて球の真ん中に引き寄せられているの。
だから私達が下だと思っているのは引き寄せ力の源がある球の真ん中なの」
「そんな……」
これまで考えていたもの全てが間違いだったような気持ちです。
するとかぐや様はその辺の土塊を拾い集めて小さな球を作りました。
「これが私達の立っている大地だと考えてみて」
「こんなにちっちゃいのに?」
「大きな球を作るのは大変だから」
「分かりました。やってみます」
足の裏の地面の感触を感じてみます。そしてそれがまあるい形をしていると考えてみます。……出来ました。
それを小さくしたものが、今かぐや様が持っている球だとします……あ!
「かぐや様、私たちはこの球のどの辺りに居るのですか?」
「そうね……この辺りかしら?」
かぐや様が球の斜め上辺りを指さします。
あそこの場所に私たちが立っていて、下だと思っているのは球の中心……。
!!!
「かぐや様、出来ました!」
「さすが衣通様ですね。では次です。この球はこのように回っていたら私達には外の世界はどのように見えているでしょう?」
そう言いながら、球を手に持ったままかぐや様がぐるぐると回り始めました。
「あそこのお花がお日様だと考えてみて」
この大地が丸くてくるくる回っているとすると……!!!
「出来ました。お日様が動いているように見えるのですね!」
「そうです。動いているのはお日様じゃなくて、私達なんです。大地は球の形をしていて、一日一回、回っているのです」
すごいです。この様なことはどんな書にも書いてありませんでした。何故かぐや様はこのようなことをご存じなのかと思った時、不意に全て分かったような気がしました。
かぐや様はこの大地を外から見たことがあるんだ、と。
かぐや様はこの大地の外の世界からお越しになったんだ、と。
もしかしたら、いつかかぐや様は教えてくれるかも知れません。
『実は私は月の世界から来たんですよ』って。
この後も、かぐや様はたくさんの事を教えてくれました。
そして私は、この世でかぐや様しか知らない世界の知識をもっと知りたくて、お星さまのお勉強に夢中になっていきました。
◇◇◇◇◇
霜月となり、巫女さんや秋田様は大嘗祭があるため、社へと戻っていきました。
しかし私は皆さんのお役に立てないし、むしろ足手まといになってしまうので、讃岐に残りたいとお兄様へ伝えてありました。
お父上様やお兄様、義母様らと離れるのは寂しいですが、讃岐にはかぐや様がいますし、お爺さんお婆さんがとても優しいのです。
実は一度、お爺さん達にかぐや様について聞いたことがあります。
「かぐや様は養女だと伺いましたが、それ以前はどうされていたのですか?」
本人に直接聞くのは憚られるので、かぐや様がいないときにこっそりと。
そうしましたら、お爺さんがこのように答えました。
「わし等にも分からんのじゃ。
ある日突然、竹林の中にいたのじゃ。かぐやの周りは黄金に光り輝いていた。
かぐやが変化の(不思議な)子である事は知っての通りじゃ。
皆は天女様というが、本人は違うという。
何も言っておらなんだし、わしらもそれ以上聞こうとは思わん。
かぐやはかぐやだからのう」
お爺さん達にとってかぐや様はかけがえのない家族なんだと思うと少しだけ羨ましく思います。
「私もかぐや様は地上の人とは思えないことがあります。
でも私の事をお友達と言ってくれるかぐや様は天女様であっても関係ありません。
だからこれからもずっとかぐや様のお側にいます」
するとお婆さんがこう仰いました。
「それじゃ衣通ちゃんもウチの娘だね。家族のつもりで遠慮なんてしないでおくれよ」
私は讃岐で家族同様に迎え入れてもらえたのでした。
(つづきます)
第59話『パンツ仲間とお土産』中のワンシーンの衣通姫サイドストーリーです。