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【幕間】衣通の回顧・・・(3)

タイトルの『異世界・かぐや姫』が、全然異世界っぽくない。

……と最近気がつきました。

 私は衣通そとおし忌部首いんべのおびと子麻呂の娘です。

 私にとってかぐや様は敬愛する天女様であると同時に、二人としていない大切なお友達です。

 不遜な事なのかも知れませんが、何故かかぐや様は特別扱いを好まない様に見え、普通のお友達として接する事がかぐや様にとっても喜ばしい様に思えるのです。


 ◇◇◇◇◇


 それは水無月のある日のこと、みやこに居るお父上様からの知らせがありました。

 お兄様はそのもっかんを見て一言、「やはりまことであったか!」と言い、やしろの全員を集めました。


 これまでに無い雰囲気です。一体何事なのでしょう?

 お兄様は皆の前に立ち、この様に申しました。


「中央で政変があった。皇子様が蘇我入鹿殿を討ち、蘇我氏一族全員を滅したと、氏上様から連絡があった。この騒乱により帝は退位されるとの事らしい。これは神代から続く帝の歴史の中で一度たりとも無かったことだ。前代未聞の事態がみやこで起こっている、と考えてくれ」


 すると、祭司の一人から質問がでました。


佐賀斯さかし様。蘇我が討たれたからと言って我々に何の不利益があると言うのだ? 氏上様は騒ぎ過ぎではないのか?

 こう言っては身も蓋もないが、みやこで血生臭さい出来事は日常茶飯事だ」


 何人かは頷いています。私もどのくらい大変なことなのか理解できませんでした。


「讃岐の天女様の事は皆知っているはずだ。

 天女様は半年前、このやしろにてこの事態を予見されていた。我々も半信半疑であったが申された事は全て現実となった。そして、こうも申された。

 『傲れる者は久しからず』……と」


 今の忌部ではかぐや様は神にも通じている尊い御方として崇められています。

 そのかぐや様が仰ったのであれば、只事ではないと思わずにいられません。


「我々に塵一粒たりとも疾しい事はない。だが言い掛かりとはその様な事はお構いなしにくる。

 忌部は蘇我氏の興盛と共に祭事を司ってきた経緯いきさつがある。いくらでも言い掛かりをつけられよう。それ故、氏上様は揚げ足を取られぬ様、振る舞いには十分気をつけてらした。

 皆もくれぐれも立ち振る舞いには気をつけられよ」


「「「「「はっ!」」」」」


 かぐや様のご威光は凄く、不安だった皆の心が一つになった感じがします。


「では今後の方針について説明する。この事は予め氏上様と話し合いをした上で取り決めた事だ。決して私の独断ではない事を付け加えておく」


 あまりの準備の良さに、本当にかぐや様のお言葉が真実であったと思わずにいられません。


「まず氏上様は常時(みやこ)に滞在し、何かあったら馬を飛ばして連絡が来る運びとなっている。

 天太玉命神社には私が氏上代行として常時滞在し指揮を取る。

 祭司はこれまで通り神事に励む様に。

 しかしやしろには最低限の者しか置かぬ様にする。先にも触れたが、言い掛かりをつけられる時は兵が来た後だ。犠牲になるのは我々だけでいい。

 避難する先は伝手を頼り用意する。追って知らせる。期間は大嘗祭までだ。新しい帝が即位するはずだから今年は大嘗祭となる。氏子を総動員せねばならぬであろう。それまでは個々の安全を優先せよ。

 以上だ!」


 お父上様とお兄様が皆の安全を優先するとはっきりと言ったからでしょうか?

 それともかぐや様が予見されたからと聞いたからでしょうか?

 反対する人は一人もなく、円滑に準備が進みました。

 私が荷造りしているとお兄様から呼び出しがありました。

 行ってみますと、お兄様方と秋田様、そして舞を担当する巫女様達がいました。

 私が一番前に座るとお兄様が話を始めました。


「其方達の行き先について話をするために集まって貰った。場所は讃岐だ。

 既に国造の造麻呂みやっこまろ殿には了承の返事を頂いている。

 おそらくかぐや様のお近くはこの上なく安全であろう。

 何せ予言のお力があるのだからな」


 それを聞いた時、こんな大変な時だと言うのにかぐや様にまた会える喜びを感じてしまいました。


「衣通よ、嬉しそうだな」


 顔に出ていた様です。お兄様にバレてしまってました。


「ごめんなさい。お兄様」


「いや、構わない。衣通がかぐや様と心から親しくしている事は我々にとっても有益な事だ。私は一度失敗しているので顔を合わせずらい分、宜しく頼むよ」


「はい、お兄様」


「ふむ。衣通は準備が出来次第、秋田殿と共に讃岐へ向かう様に。

 他の者は夏越なごえの祓が終わり次第、向かう。以上だ」


 こうして私は秋田様と共に、かぐや様のいる讃岐へと向かう事になりました。


 ◇◇◇◇◇


 秋田様からはかぐや様のお話をたくさん聞いてましたので、まるでつい昨日会ったかのような感じがします。

 その様な軽い気持ちでつい悪戯心が出てしまいました。


「ごきげんよう。秋田様。今回は大人数ですが何か御座いましたか?」


「かぐや様、ご無沙汰しております」


 秋田様の陰に隠れて、ピョコっと顔を出してご挨拶。

 かぐや様は目を大きく開けて驚いています。悪戯は大成功です♪


「衣通ちゃん!! じゃなくて、衣通様!

 ご無沙汰してます! 元気でした? こんな遠くまで大丈夫でした?

 どこか痛いところないですか?」


 そうしましたら、かぐや様はいつもの冷静さが全然なくて、まるで三十過ぎのお付きのおばさんの様な反応をするです。

 私こそビックリしてしまいました。


【天の声】鋭い……。


「かぐや様。衣通様はかぐや様にお会いしたいと常日頃仰っておりました。季節も良くなりましたし、造麻呂殿からかぐや様が新しいことを始めてお忙しそうだと聞き及んでましたので、ひと段落つくまで待っていたのですよ。聞けばまた新しい事を始めたとか?」


 秋田様も三ヶ月ぶりなので聞きたい事がたくさんある様ですが、私の事をバラしてしまうのはお止め下さい。

 それでしたら私も秋田様の秘密をかぐや様に話してしまうわよ!

 ……と心の中で頬っぺたを膨らませて抗議しました。


「田んぼに入って田植えをして、悪者を懲らしめただけ」


 しかしかぐや様のお答えは私が想像していたものと全然違っていました。

 田んぼ? 悪者?

 かぐや様ってお勉強と、舞と、領地経営を勤しんでいると秋田様から聞いていたのですが……思わず心の声が口から出てしまいました。


「かぐや様って本当にすごい方なんですね……」


 そして屋敷の中へ案内される途中、秋田様は何かを見つけたみたいです。


「かぐや様、あちらにあるのは何ですか? 以前来た時にはなかった様な気がしますが」


「えーと……玩具に御座います」


 何故か言い淀む様子のかぐや様。何か見られたくない物なのでしょうか?

 とりあえずかぐや様が実演するという事でどんなものか期待して見てみます。


「この木片の影に印をつけます。前の印と今の印の間に線を引きます。……これでお終いです」


 え?これが玩具?


「これだけですか?」


 意外過ぎて失礼な聞き方になってしまいました。

 しかし秋田様は違って見えたみたいです。


「かぐや様はひょっとして占星術をおやりになるつもりですか?」


 これって占星術なの?


「いえいえいえいえいえいえ、そんなつもりは毛頭御座いません」


 一生懸命否定するかぐや様に質問を繰り返す秋田様が少し意地悪そうに見えたので、私から関係のない話を振ってみました。


「お日様の位置はこれで分かるもの何でしょうか?」


「ええ、ここにこの十日間の影の記録がありますでしょ?

 日を追うごとにこちら側に動いているのが分かりますか?」


 確かにそう見えます。


「ええ、動いてますね。どうしてですか?」


「影が短くなっているという事は、お日様の位置が高くなっているからです。逆に冬になると影が長いって感じませんか?」


「言われてみましたら、その様な気がします」


「なので私は一年の中で一番影が短い日と一番影が長い日、そしてその丁度真ん中の日がいつなのかを調べようと思っているのです」


 かぐや様の行うことは不思議な事は多いですが、このような地味な事に何故興味があるのか分かりません。


「どうして、その様な事をお考えになったのですか?」


「草木は太陽の位置や日の長さ、暖かさ、寒さを感じ取って、芽を出し、花を開かせて、実を結ぶ訳です。逆を言えば、お日様の位置や日の長さを調べれば、稲の丁度良い植え時や収穫を予め知る事が出来ると思えての事です」


 今度こそ本心からびっくりしました。

 こんな簡単な道具で、かぐや様はとても大きなことを知ろうとしていたのです。

 かぐや様でしたら天女様のお力でどの様なことでも出来そうなものなのに、ご自身の天女のお力に溺れる事なく、常に研鑽を積んでいたのです。

 私はこの半年間、かぐや様のお友達として恥ずかしくないよう、一生懸命にお勉強を頑張ったつもりでしたが、かぐや様は遙か先の事をお考えなのでした。


 やはりかぐや様は特別なお方なのだと思い、改めて尊敬するのでした。



(つづきます)

第54話『目指せ、気象予報士!』前後の衣通姫サイドストーリーです。

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