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【幕間】衣通の回顧・・・(2)

かぐやの重大な秘密が明らかに!?


 私は衣通そとおし忌部首いんべのおびと子麻呂の娘です。

 尊敬するお父上様は常日頃申しております。

忌部氏いんべうじは祭事を執り行う事で国と民に奉仕する事を最上とする私心なき氏である事を誇りとせよ』と。

 私も忌部氏の一員として、この言葉を胸に日々神様に信心を捧げる日々を送っています。


 その想いが通じたのでしょう。

 私はかぐや様と友誼を結べる機会を得たのです。


 ◇◇◇◇◇


 夕餉の後、お風呂に誘われて一緒に湯浴みをしました。

 今でこそ忌部の宮にもあるお風呂ですが、その時は初めてのお風呂に戸惑ってどうしたらいいのか分からず、ただ立っているだけでした。

 するとかぐや様は、寒い最中、纏っている衣服を脱いで裸になって手を引くのです。

 どうしましょう?

 私も衣服を脱ぐのかしら?


「衣通様、ここでは衣服を脱いで暖かいお湯の中に浸かるのです。とても気持ちが良いですよ」


 かぐや様がそう仰るのであれば私も覚悟を決めるしかありません。

 恥ずかしいのですが意を決して衣服を脱ぎます。

 お風呂に入る前、かぐや様と私は付き人にお湯を掛けて貰って、汚れをゴシゴシと洗い流しました。

 そしてゆっくりとお湯に浸かりますと最初はくすぐったかったのですが、だんだんと気持ち良くなってくるのが分かります。

 そして身体の芯まで温まったところで髪を洗いました。


 冬の間は滅多に髪を洗わないのですが、屋敷の中にある暖かい屋敷の中のお風呂なら年中洗えるのですね。

 かぐや様の清潔感の理由が分かった様な気がします。

 かぐや様のお付きの方は長い髪を洗うのに慣れていて、とても気持ちが良くて目がトロンとなってしまいました。


 かぐや様と一緒にお風呂に入って驚くことばかりでしたが、一番驚いたのはかぐや様の身体です。

 かぐや様の身体には何も無いのです!


 ………いやだ、違います。

 もちろん胸にぽちっとしたものや、おへそ、そして女の子の……その女の子であることを示すものはあります。(赤)

 かぐや様のお身体には、傷跡とかシミとかが全く無いのです。

 私にだって膝には昔転んだ怪我の痕があって、腕やお腹や背中には虫に食われた痕がポツポツとあります。

 しかしかぐや様にはその様な汚れたものが全くありません。

 人のお姿はしていますが、やはり天女様なのだと私は確信しました。


 ◇◇◇◇◇


 その翌日、昨夜に引き続きかぐや様は私のお声を掛けて頂き、親しくなったと思える事がとても嬉しく感じます。

 本当はかぐや様とずっと一緒にいたかったのですが、『寒い中ずっと外にいるのは潰しのきくシャチクのお仕事なの』と、かぐや様が仰るので諦めました。

 シャチクのお仕事?

 ……きっと尊いお仕事は天女様であるかぐや様でした出来ないという意味なのでしょう。


 お父上様と私は、中央で一番の重鎮といわれている大夫まえつきみ阿部倉梯あべのくらはし様と席を並べて座ります。

 用意した貴賓席は風除けがあり、薪の炎も近いので暖かです。

 そして倉梯様とお父上様との間には私と同じくらいの歳の男の子が居ました。

 お父上様を挟んで反対側に座る私は何と言って話しかけて良いのか分からず、何も挨拶ができないままでした。

 同世代の男の子と話をする機会がないので、どの様にすれば良いのか分かりません。


 かぐや様はというと、舞が始まる直前までお仕事をされたらしく、舞台に来られた時はまさにこれから始まろうとする時でした。

 それでもかぐや様は笑顔を絶やさず、私を見ると手を振って下さいました。

 私もそっと手を振り返すと、それを見ていたお父上様が仰いました。


「衣通よ、かぐや殿をお招きしなさい。あそこの席は風を遮るものが無くて寒そうだ」


 私にとっても大変ありがたい提案です。

 私は急いで、かぐや様が座る席へと行き、お誘いしました。


「はい、喜んでご一緒します」


 かぐや様は嬉しそうにお答えになって私までも嬉しくなってしまいました。

 二人でお父上様の席へ行くと、お父上様はお父上様と倉梯様のご子息様との間に招きました。

 本当は私の隣に座って欲しかったのですが、かぐや様は倉梯様を歓待しなければならないお役目がありますのでしかたがありません。


「ありがとうございます。私の様な幼子にご配慮いただき誠に恐縮でございます」


 年に似合わない丁寧な言葉で受け答えするお姿は、さすがかぐや様だと思います。

 その受け答えをお聞きになった倉梯様がかぐや様へ話し掛けてきました。


「かぐや、と言ったかな。忌部殿からは昨日は素晴らしい舞を披露したとの聞いたが、今日も舞を披露するのか?」


「大変恐縮です。五穀豊穣を願う奉納舞の後、最後に私の舞をご披露する予定です。

 手足も短く身体も未熟なゆえ、満足のいく舞には程遠いですが、本日来られたお客様に感謝の意をお伝えしたく、舞を舞う所存です」


 何て完璧な受け答えなんでしょう!

 決して驕らず、控えめで、大人びて、感心することしきりです。

 ところがそこに意外な反応がありました。


「そこのかぐやとやら。面倒なのは飛ばして、今すぐ舞え!」


 倉梯様の傍に居たご子息様が突然の暴言です。

 こんな時、どうすればいいの?

 心の中では小さな私自身があわあわと慌てふためいています。


「恐れながら。豊作祈願の祈りとは一年を通じてとても大切なものです。

 人にはあがなえない、日照り、水害、虫害、病気、などの災いが起きぬ様、神々に祈るのです。食無くして人は生きられず、寡ない食糧を巡り奪い合い、国は荒れ、獣の如き生活となってなってしまうでしょう。此度の催しは、食の安定、民の幸福、ひいては国の安寧にとって大切な行事である事を夢夢お忘れなき様、お願いします」


 しかし、かぐや様は一部も隙の無い完璧なお答えをしました。

 その通り、と声を出しそうになるほど、かぐや様が言った内容はお父上様が常日頃仰っていることと同じでした。

 こう言われてはご子息様もご納得するしか無いでしょう。

 その後もご子息様とかぐや様は幾度かお話をされていましたが、私は少し退屈になって欠伸が出そうなのを頂いた扇子で口を隠すのでした。


 ……何でしょう?

 ご子息様が何か始めた様です。よく見えませんが筆と墨、そして木札でしょうか?

 ご子息様は筆と札を手に取り、サラサラと何か書き出しました。

 どうやらかぐや様への歌の贈り物みたいです。

 男性から歌を贈られるなんて女の子なら憧れの場面です。

 とても仲が良さげで少し妬けてしまいました。


 すると今度はかぐや様が何か始めたようです。

 扇子(?)に歌か何かを書き入れているようです。

 少しお時間が掛かったのは思いの丈を綴るのにお時間が掛かるからでしょう。

 私からは見えませんがきっとご子息様は扇子を受け取り喜んでいるはずです。

 気になりましたのは私の隣にいるお父上様が驚いているように見えたことでしたが、それほどまでに素晴らしい返歌だったのでしょう。

 私もあのような素敵な男性に歌を贈る日がやって来て欲しいと思いつつ、自分の引っ込み思案な性格では無理なのだろうと叶わない夢だと諦めるしかありません。


 ◇◇◇◇◇


 かぐや様の名付けを祝う宴の三日目。

 楽しかった宴も今日で終わりなのかと思うと残念でなりません。

 一昨日の自分に、宴はこんなにも楽しいものなのでもっと心ゆくまで楽しんで、と言いたくなりました。


 今日は後宮の御方が来ると聞いています。

 萬田様がご存じの方らしく、大変張り切っている様子でした。

 かぐや様は昨日と同様、“シャチク”なる方しか務まらないお仕事をしていて、お父上様もかぐや様と一緒にご挨拶に行ったりしてお忙しそうです。

 思い返せば、昨夜も遅くまでシャンシャンと舞の稽古をしている音がしていました。

 かぐや様は本当に大丈夫なのでしょうか?

 少し心配です。


 もうすぐ宴が始まろうとする時、かぐや様は幼い男の子を連れてやってきました。


「かぐや様、その可愛らしい子はどなたなのでしょうか?」


「御簾の向こうにいらっしゃる与志古よしこ夫人のお子様の真人皇子です。お守りを仰せつかりましたの」


「まあ、皇子みこ様なのですか? これは失礼しました」


 初めて見るご皇族の方です。可愛らしいと言ってしまい申し訳なく、謝罪しました。


「真人様、こちらが忌部氏のお姫様の衣通様です」


「…………」


 しかし真人様は私を見ると、かぐや様の陰に隠れてしまいました。

 かぐや様と違って、私はこんな小さな男の子にすら見向きもされないのだと少し落ち込みます。


「それでは真人様、ここに座りましょう」


「うん」


 かぐや様は気を使ってか、私とかぐや様の間に真人様を座らせて、扇子を与えて遊ばせています。

 かぐや様は見掛けこそ幼子ですが、私なんかよりずっとお姉様っぽくて子供のあやし方も手慣れた感じです。

 私なんか真人様が扇子を壊すのでは無いかと気が気でならないのに。


「おねーちゃん、ピカピカやってー」

「ピカピカ〜」


 かぐや様は幼い子供の言葉を理解しているらしく、上手に真人様をあやしています。

 真人様はかぐや様の仕草を真似て楽しそうです。

 何故真人様があんなにまで夢中なのか分からず、不思議でなりません。

 私には満足に言葉を操れない幼い子にあれほどまで真摯に遊んであげる自信はなく、全てにおいて別格なのだと、ますます落ち込んでしまいそうになります。


 しかしそう思う心は時として悪いものを引き寄せてしまうのかも知れません。

 最後の見事な舞を舞った後、かぐや様はお倒れになってしまったのです。

 子供の私よりも更に年下のかぐや様が、大人でも大変なお仕事をして、舞を舞って、お客様をおもてなしして……私でしたらどれか一つだけでも出来ない事ばかりです。

 翌朝、かぐや様は変わりなく挨拶をして、心配掛けてごめんなさい、と言いましたが、私こそかぐや様の不調に気づいてあげられずごめんなさいと一生懸命に謝りました。

 そんな事ないよとかぐや様は仰いましたが、謝らずにはいられなかったのです。


 かぐや様のお友達になれた幸運を喜ぶ前に、私はかぐや様のお友達に足りるだけの実力を身に付けなければならないのだと決意しました。



(つづきます)


【幕間】衣通姫サイドストーリーが長引きそうです。

6話にはまとめたいです。

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