元・OL(シャチク)の血が噪ぐ!?
いつもありがとうございます。
この時代の税率の調査は続きます。
次はお婆さんですね。
何となくですが、お婆さんは家柄の良いお嬢様だった人が頑張って家事仕事をしている様な感じがするのです。
家人さんも増えたので、お婆さんにはもっと楽をして欲しいと思っております。
「はは様 、教えて」
「おや、どうしたんだい。おやつが欲しいのかい?」
お婆さんの中では私は食いしん坊になっているのかしら?
お食事で蘇をおかわりした印象が強いみたいです。
「ちち様のお仕事を手伝いたいの。だから税率を教えて欲しい」
「税率かい。もうそんな季節なんだねぇ。
いいとも、何でも聞きなさい」
やはりお婆さん、只者ではございません。
"何でも"の言葉にそこはかとない自信が感じられます。
スチャラカなお爺さんには勿体ない方ですね。
「はは様、ありがと」
やはり真の領主様はお婆さんで間違いなそうです。
そして色々と聞いてみて分かった事は、社会科で習った租調庸・雑役とあまり違いが無いこと。
つまり農地に掛かる地税と、成人に掛かる人頭税、そして労働や軍役などの奉仕活動。
この三本立てですね。
ただし奉仕活動に関しては、新しいお屋敷の建築の時に動員したので今年分は納税済みです。
まず地税。
地税に関しては豊作不作関係なく、一戸あたりに与えた田畑5反に対して一定税率です。
一戸とは家単位で、どんなに人が多くても、どんなに人が少なくても一戸は一戸です。
だいたいおじいさん、おばあさん、家長さん、奥さん、子供3~5人と言うのが一般的みたいです。
5反がどのくらいの広さか分かりませんが、収穫するお米だけでは家族全員で食べていくのがやっとなので、田畑じゃない荒れ地でキビとかアワを育てている様です。
そして人頭税。
男女に関わらず、成人一人に対して布を二反納めます。
しかし人頭税の根本は住民数の把握なのですが、これがかなりいい加減でした。
何せ二十五年くらい前に調べたきりとの事でした。
私の二十五年前といえば、幼稚園児だった私が両親に「たま〇っち買ってぇ~」と泣き叫んでいた記憶があります。
……じゃなくて、この時代の二十五年前。
その時生まれた赤ん坊が成人して子供をポコポコと産んでいます。
その時二十五歳だった人は人間五十年を迎えて、夢幻の如きになっています。
要は世代が変わっているのです。それなのに人頭税が変わっていないというのは少し許せないモノを感じますね。
私の中に残っている会社員の血が疼いてきました。
勤めていた会社は週休2日、有給休暇年20日、有給消化率80%、期末以外残業なし、サビ残厳禁、内部通報制度完備のホワイト企業でしたけど、薄給で飼われていたのは違いありませんでしたから社畜で間違いないです。
◇◇◇◇◇
「ちち様、調べたい事ある。お出かけしたい」
「何と!娘よ、それはあまりに危険じゃ。
外の世界は飢えた狼みたいな輩がいっぱいじゃ。
調べたいのならワシに頼むがええ!」
予想通り却下ですね。
確かにこの時代は危険に満ち溢れています。
力あるものは富み、力なきものは虐げられるのが当たり前、『力こそ正義』を地でいくような時代です。
しかし貧しい人達だけが危険にさらされるのではありません。
歴史を紐解いても、かの物部氏が排斥される切っ掛けとなった丁未の乱から、大友皇子と大海人皇子が争った壬申の乱までの約百年間は、嫁姑戦争さながらのドロドロとした権力争いが絶えず、あちらこちらでドンパチしていたみたいです。
【再び天の声】古代の戦争に鉄砲はありません。
とはいえ、引きこもりはハッキリ言って嫌です。
自室でゴロゴロするのは決して嫌いではありませんが、ここではゴロゴロする事も出来ません。
なんてったってアイ……お姫様ですから。
引きこもりの必須アイテムのスマホもパソコンもテレビも何も御座いません。
しかも外の世界では、学生時代に探しても探しても見つからなかった飛鳥時代の資料が現実の民衆の生活として垣間見れるのです。
今外に出なくて何時外に出るのでしょう?
今でしょ!
「危険知ってる。でも大人になったらもっと危険」
「うーむ、娘よ。何故外へ行きたいんじゃ?
何を調べたいんじゃ?」
「田んぼ、畑、家、人、全部調べたい。民衆の生活知りたい」
【再びx2天の声】
かぐやの言葉を聞いて爺さんは考えた。
『確かに年頃になった美しい娘が外を出歩くのは危険極まりない。とは言え、幼子と言えども見目麗しい娘は人さらいの格好の餌食にされかねん。反対するのは簡単じゃ。じゃが何でも頼むがええと言ってしまった手前、無下には出来ぬ。何より一度も外に出たことの無い娘が、宮中で世渡り出来るとも思えぬ。ここは一つ、子獅子を千尋の谷へ突き落とす親獅子のつもりで試練を与えてみるか』
【天の声おわり】
「娘よ、分かった。じゃが護衛を付けよう。
秋田殿なら民衆の生活に詳しいから同行して貰えるよう頼もう。
現地に詳しい者を加えよう。
日差しが強いから傘持ちを付けよう。
道が良くないから牛車は無理じゃが、御輿を用意しよう。
いいかな?」
「御輿はいらない。でも他はありがとう。
ちち様、やはりさすが。さすちち」
「わーはっはっはっは、娘のためならば何を惜しむものか。何なりとこの父に頼むが良い」
【再び×3天の声】
実に生温い千尋の谷であった。
※補足説明
1斗=10升、1升=10合、1合=150gで計算すると、2斗≒30kgくらいになります。ただし飛鳥時代の単位が後の時代に合っていない可能性は大いにあります。(升の大きさが統一されたのは秀吉の時代とのことです。)
ここでは単純に一戸あたり5反の田んぼから約600kgのもみ殻付きのお米が収穫出来て、5%を小作料として徴収するものとして計算しました。
ちなみに現代ならば、田んぼ1反から500kg以上の白米が収穫できます。
主人公が外に出て、何事もなく済む訳がないですね……。