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事情聴取

新しい登場人物です。



 騒乱状態の宮を出て、私と衣通(そとおし)姫は忌部(いんべ)氏の宮へと戻りました。

 まだ宮中外の異変は気付かれてなく、ごく普通に迎え入れられました。

 暫く経ってから氏上(うじのかみ)様が慌ててお戻りになり何事があったのかと聞かれたので、端折って説明しました。


「宴の席に十名ほどの乱入者があり襲撃を受けました。

 彼らは中臣様と倉梯(くらはし)様と倉山田様の身内を探っていた様です。

 運悪く舞の衣装が目立った私も攫われかけました。

 しかし馬が暴れてそれどころではなくなり、どうにか逃げおおせました」


 ウソは言ってないよね。


「ふむ……、連中の狙いはなんだったのか?」


 氏上様が不思議そうに聞いてきます。


「人質、と言ってました。何か交渉するつもりだったのでしょうか?」


「人質を取ったとして大した要求は出来まいに」


「人質を楯に攻め込むつもりだったとか?」


「身内だからと人質の命欲しさに敵の横暴を許す者などいないだろう。

 親兄弟での骨肉の争いは日常茶飯事だ。

 叔父と甥の争いなんて、むしろそうでない方が珍しいくらいだ」


 そうか知れませんね。

 この時代の家督相続権は長男じゃなくて兄弟にあるから、揉める事多いのです。

 しかも五代前まで遡れるとかで、ほぼ赤の他人にも家督を相続する権利が認められていたらしく、オレがオレがで、オレレのレ〜状態だったのでしょう。(意味不明)


「つまりは……愚か者の仕業?」


「そうとしか考えられぬ。

 同じ騒動を起こすのなら身内を拐うのではなく当人を討つだろう。

 家督が欲しいのなら力づくで奪うだろう。

 だが連中は女子供の宴に殴り込んで、子供一人捕らえられず、挙句自分らの馬に蹴られて壊滅だ」


 馬の暴走は私のせいです。ごめんなさい。


「しかし狙った相手が悪い。

 手加減はせぬだろう。一家浪党、処せられるに違いない」


 うわー、古代モラルですね〜。


「かぐや殿もどの様な巻き添えがあるやも知れぬ。

 騒動が落ち着くまではここに居られるのが良かろう」


 えぇー!!まだ帰れないの〜!?

 ……と思った事が顔に出たみたいです。


「かぐや殿、造麻呂(みやっこまろ)殿に害が及ぶのは本意ではないだろう。

 我々が全力で守るので、しばし我慢してくだされ」


「い、いえ、とんでもございません!

 忌部様が私の身を案じて下さることに感謝しております。

 ただ里心がほんの少し過っただけに御座います。

 それに衣通姫は五ヶ月間も家を離れて暮らしていました。

 それと比べれば私なぞ恵まれ過ぎているくらいに御座います」


 とはいえ、お屋敷のお風呂が恋しいです。

 (ロース)ちゃんが元気なのかとっても気になります。


 ◇◇◇◇◇


 宴の襲撃事件から三日が過ぎました。

 その間は衣通姫といつも一緒です。

 今更ながら衣通姫とお友達になれたことはこの世界に来て二番目の幸運だったと思います。

 もちろん一番目はお爺さんお婆さんに出会えたことです。

 秋田様が(もっかん)を讃岐へ届けて下さって、お爺さんお婆さんへ連絡しましたが、いつになったら帰れるのかなぁ……。


 ……なんて呆けていたら、えへっ、来ちゃった~♪ 事情聴取。

 もし忌部の宮に居なかったら問答無用で引っ捕らえられていたかも知れません。

 事情聴取には衣通姫と氏上様も同席されました。


「宮の衛部を任されている物部宇麻乃(もののべのうまの)と申します。

 忌部殿、お久しぶりで御座います」


「物部殿もお元気そうで何よりだ。幼い子供故、私も同席させて貰っているが良いかな?」


「いえ、一向に構いません。大した事ではありません。宴で見た事を話してくれればそれだけで結構ですよ」


 氏上様と物部様とはお知り合いみたいです。というか物部氏ってまだあったんだ。

 すっかり蘇我氏によって滅亡されたのかとばかり思っていました。


「まずはそちらのおチビさんから良いかな?」


 私? 私だよね。

 衛部というから厳ついイメージでしたが、妙に子供慣れしているみたいです。


「はい。私は讃岐造麻呂(さぬきみやっこまろ)が娘のかぐやと申します。

 命により私は宴で舞を披露させて頂きました。

 舞の後も催事場に残り、皆様とお話させて頂きました。

 宴が終わりそうな頃、突然十名ほどの乱入者が門から雪崩れ込みました。

 その時、私はこちらの衣通様と共に舞台に対して青龍(東)の位置におりました。

 乱入者の中の一人が私達の方にやってきまして、『中臣様か、倉梯様か、倉山田様の者か』と聞いてきました。そうだとは申しませんが、言い返したら癇に障ったらしく門の外まで連れて行かれました。

 しかし賊は馬が暴れてそれどころではなくなり、どうにか逃げおおせた次第です」


「ふむ……、少し聞いて良いかな?」


「はい、何で御座いましょう?」


「かぐや殿はおいくつかな?」


「あ、はい。九つになりました。」


 数えで年齢を数えるのにも慣れてきました


「九つかぁ。九つになるとこんなにハキハキと受け答えができる様になるのだねぇ」


 え、疑われている? 私怪しい?


【天の声】思いっきり怪しかったぞ。


「物部殿、かぐや殿は特別だ。神童と言ってもいい」


 氏上様からフォローが入ります。

 十で神童、十五で才子、二十過ぎれば只の人、三十過ぎたら喪女決定!

 と、心の中で相槌を打ちます。


「ああ、そうなのですね。

 いえ、私の息子が七つになりましたが、あと二年でここまで成長できるのかと思うとチト心配になりました」


 ああ、だから子供慣れしているのですね。


「お恥ずかしながら、田舎では同じ年頃の子が居らず、大人に混じって過ごしております故、子供らしさが欠けてしまっているみたいです」


「命により、と言ってたが何方(どなた)なのかな?」


「申し訳ありません。

 その席で皇子様で在らせられるのは分かりましたが、お名前を名乗られませんでしたので……」


 すると氏上様が代わりに答えてくれました。


「中大兄皇子様だ。新年の儀の後、招かれたのだ。

 私もその場にいたし、中臣殿と倉梯殿もいらした」


 ああ、やっぱり謎の人①は中大兄皇子だったんだ。

 ……がっかり。

 予想はしていましたが、外れて欲しかったです。


「成る程。ならばかぐや殿は元々宴に出る予定ではなかったのだね?」


「はい。本来ならば今頃は国へと帰りちち様、はは様と新年を祝っていたと思います」


「そうか……。その辺りは年相応な子供なのだね。少し安心したよ」


 すると氏上様が物部様に質問が。


「物部殿。随分と詳しくお調べの様だが何かあったのかな?」


 すると少し気まずそうな顔をして、物部様が答えました。


「此度の襲撃はおかしな処があってね。被害を被った者が居ないのだよ」


 ……?


「ならばそれは良き事ではないのかな?」


「そうなのですが、妙なことに剣で斬られたはずの衛兵すら傷一つ無いのですよ。

 衣が血で真っ赤に染まったのにも関わらず、です」


 あ……まずい。それは私の仕業(チート)だ。


「何かの間違いでは無いのか?」


 知ってか知らずか、氏上様がすっ惚けた返答をします。


「まあ、それは兎も角として、襲撃した連中の目的が随分といい加減なんだ。

 人質を取って何をしたかったのか要領を得ない。

 宮中を襲撃するだけで処刑は免れないだろう。

 命懸けで一体何をしたかったのか、サッパリです。

 しかし宮への侵入は鮮やかだったし、周到な準備が必要だ」


「つまりは協力者か首謀者が居ると?」


「たぶんね」


 物部さん、軽い。


「我々にそれを言って良いのかね?」


「忌部殿は穏健派ですし、昔からの知り合いです。祭事の最中に襲撃などと思いも依らないでしょう」


「まあ、信用して貰えるならそれに越した事はない」


「ではもう一人のお嬢さん。話をお願いできるかな?」


「は、はいっ!

 わ、私はそ、衣通と申しますっ。

 襲撃の時は何が何だかさっぱり分からず、かぐや様が連れて行かれた時はずっと泣いてました。

 外に出たらかぐや様がご無事で泣いてしまいました」


「うんうん。怖かったね。外には他に誰か居たかい?」


阿部倉梯(あべのくらはし)御主人(みうし)様がいらっしゃいました」


「そーかい。みんな無事でよかったねー」


「はい……」


 物部様は一通り聴けた様子で頷き、それではとお暇しました。

 そして去り際にこう聞いてきました。


「かぐや殿は讃岐へいつ戻るのかい?」


「今回の騒動が収まるまでと思っています」


「なら大丈夫だ。もう帰っても誰も引き止めたり咎めたりしないよ」


「えっ、そうなんですか?」


「ああ、連中の狙いは中臣様と倉梯様の身内だった。

 こう言っては何だけど、国造如きが関与できる案件ではないよ。

 衛部の責任者である私が言うんだ。安心して帰るといい。

 聞きたいことが出来たら私がそちらに赴くからね」


「はい、ありがとうございます!」


 家に帰れる喜びにうかれた私は、物部様の目の奥に宿る鋭い眼光に全く気づかずにいました。



物部宇麻乃(もののべのうまの)は実在した人物で、本当に衛部にいた方です。

ネットなどで調べてみると竹取物語に無関係でない事が分かる、かも知れません。


※ネタバレ注意

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