飛鳥宮で二度目のチート舞(3)・・・密かに救出
ドラ○もん?
男に手を引かれ門の外へ連れていかれた先に、予想通り御主人クンが居ました。
「かぐやよ、どうしてここにいるのだ?!」
「問答していましたら拐かされてしまいました」
「一体何をしておるのだ! 其方は!」
まさか御主人クン、キミを助けにきたと言っても信じて貰えないでしょうね。
でも私なら刀で切られた怪我程度は光の玉で治せます。
闘う事も出来ます。山賊に襲われた時もチートで撃退しましたから。
そう言えば、あれから丁度一年経ったのですね。
……などと考えていると首謀者らしき男がやってきました。
「こいつらが阿部の子供達か?」
「私が阿部内麻呂の嫡男、御主人だ。
しかしこの女子は関係ない。解放せよ!」
御主人クン、さすがオレ様!
TVアニメではいじめっ子で理不尽の権化なのに、夏休みの映画祭になると男気をみせて活躍するキャラクターみたい。
「ふん。だが無関係では無さそうであるな。子供の人質が一人二人増えた所でどうって事はない。連れて行け!」
「「「「「はっ!」」」」」
宮の外には十頭の馬が居て、用意の周到さが伺えます。
でも残念。
チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン!
耳の穴が痒くなったお馬さんが暴れ始め、辺りは修羅場と化しました。
「痒い! 痒い! 痒い〜!」
あ、一個外れて賊に当たってしまいました。
私はいち早く私は御主人クンの手を引き、馬から離れます。
「おい、待て!」
先ほどの首謀者らしき男が私たちを追いかけてきました。
「そこに居たら馬に蹴られるよ!」
私の言葉に男が振り返ると、仲間が馬に蹴られて動かなくなっている姿を見て呆然としています。
ある者は頭を抱えて蹲り踏まれ、ある者は手綱を必死に引っ張って馬を押さえ込もうとして跳ね飛ばされ、ある者は一目散に逃げようとして蹴られたみたいです。
「娘! 何をした!?」
「何もしていないよ。オジサンの顔が怖いんじゃないの?」
「おのれっ!」
真っ赤な顔の首謀者は激怒して、剣を抜きながら私に飛びかかってきます。
不味りました! 光の玉が間に合いません。
男は剣を持っていない左手で私を捕まえようとしました。
私はそれをクルリと躱しながら、男の懐に潜り込みます。
一ヶ月間の舞の稽古の成果です。
普通でしたら翌日になると体が動かなくなりそうな厳しい稽古を、光の玉で強制的に癒し、毎日毎日毎日毎日鍛えた結果、私は小学一年生とは思えない身体能力を身に付けていました。
マッスルかぐや姫の爆誕です!
【天の声】そのネーミングは勘弁してくれ。
これが本格的ボクシング漫画ならレバーブローで悶絶させるか、ガゼルパンチかカエル跳びアッパーで男のアゴを打ち抜いていますが、小学一年生のパンチ力では大した効き目はありません。
かと言って、男の急所を殴るのも手が嫌だと言っています。
私は右手の掌を男の脇腹に触れました。
チェックメイトです。
チューン!
「痛っ!」
ゼロ距離で光の玉を受けた首謀者は両足に激痛で立つことが出来ず、うめき声をあげて倒れ込みました。
一人だけこちらの様子に気づいた手下がこちらにやって来るのが見えたので、いつもの不可視の光の玉で無力化しました。
運が悪い事に光の玉を受けて動けなくなった手下は暴れ馬にグシャっと踏まれてしまい、大怪我を負った模様です。
おかげで私の仕業であるのか……たぶんバレていないでしょう。
遅ればせながら宮の門が開き大勢の護衛が出てきて、馬に蹴られて瀕死の乱入者達をひっ捕えていくのでした。
賊の何人かは逃げましたが、首謀者は私の足元に蹲って動けずにいます。
しかしこのまま馬が暴れたままだと護衛さんが危ないので光の玉で耳の痒みを止めました。
とりあえず危険は去ったと考えて良さそうです。
そう言えば御主人クンは?
キョロキョロ探していると護衛の人に保護されていました。これで一安心ですね。
「かぐや様〜!」
宮の門から衣通姫が飛び出してきました。
「衣通姫、大丈夫でしたか?」
「それは私の言葉です。かぐや様が連れ去られてしまって生きた心地がしませんでした」
「心配かけてごめんね。私は大丈夫。何とも無かったから」
私達は抱き合ってお互いの無事を喜びました。衣通姫は号泣です。
「かぐやよ」
……? 御主人クン?
「倉梯様、お怪我は御座いませんでしょうか?」
「ああ、私は何ともない。
それよりかぐやよ、どうしてあの様な危険な真似をしたのだ!」
「ご心配おかけして申し訳ございません。田舎育ちの粗野な娘なので、お目溢し頂けましたら有り難く存じます」
「剣を持った男に飛び掛かれた時はもう駄目かと思ったぞ!
其方は平然としておるが、私は……。少しは自重してくれ!」
傍で聞いている衣通姫も顔色が真っ青です。
あまり喋って欲しくないのだけど、女性に守られたとあっては御主人クンのプライドに差し障るのでしょう。
こういう時はひたすら謝るに限ります。
「申し訳ございません。私もつい賊に言い返してしまったら逆鱗に触れてしまったみたいです。思い返すだけで恥ずかしい気持ちです」
「アイツらは賊ではない、政敵だ。人の命など蚊ほどにも感じぬ外道なのだ」
「倉梯様は連中をご存知ですので?」
「ああ、見覚えがある。屋敷に押し掛けてきた事もあった。アイツらは私の顔を知っていたから真っ先に連れて行かれたのだ」
という事は御主人クンも無事だったしこれ以上深入りしない方がいいね。
「倉梯様がご無事であった事は何よりもの行幸に御座います。ただ私は巻き込まれただけで、特に特に酷い事もされておりません。出来ましたら私はこの場に居合わせなかった事に出来ませんでしょうか?」
「かぐやよ、何を言っておるのだ?」
「正直に申します。
私の様な地方の国造の娘が今回の事件に関わっていたと知られると、賊だけでなく宮の者からも非ぬ疑いを招くやも知れません。
手招きをしたと言われてしまえば、反論するのも出来ませぬまま処せられる事でしょう。
何卒宜しくお願い致します」
「う……分かった。では行くがいい」
「恐れ入ります」
ペコリと頭を下げて、招待客に紛れて泣き腫らした衣通姫と一緒に宮を後にしました。
ふー、危ない、危ない。
御主人クンも怒っていたし、お淑やかとはほど遠い私なんかスッカリ嫌いになったはずです。
だから私への求婚のために財産すり減らしたり、三年も待って人生を浪費する事が無いよう、明るい未来に邁進してね。
御主人クンも私みたいな悪役令姫に二度……じゃなくて三度と会いたく無いでしょう。
永遠にさよーなら〜〜♪
【天の声】その台詞、コピペだろ。
実は本日12月1日は作者の誕生日です。
愛子様と同じ日です。
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