飛鳥宮で二度目のチート舞(2)・・・乱入者
本日も投稿時間が19時過ぎとなりました。
暫くは今くらいの時間になりそうです。
今度こそはと頼れる友・衣通姫の方へ歩いて行って、声を掛けようとしました。
「そと……」
「かぐやよ、良い舞であったな」
すると左斜め前から声がしました。
御主人クン……だね。オレ様キャラは相変わらずみたいです。
視界に入れない様に努力していたのに水の泡です。
「これは気が付かず、申し訳ございませんでした。
本日はお忙しい中、お目汚しの程、大変失礼致しました」
「いや、昨年観た舞も見事だったし、本日観た舞は更に良かった」
あれ? キミ、他人を褒めるキャラだっけ?
「お褒めのお言葉、有難たく存じます」
舞を褒められるのは悪い気はしません。深々とお礼してお礼しておきます。
「いや、……その……」
でも、言葉が続きません。苦手意識植え付けてしまったみたいです。
まあ、仕方がありません。そうなる様に仕向けたのは私ですから。
今更ですが、ごめんなさい。
ですが、苦情や各種お問い合わせは月詠命様(仮)にお願いします。
『頼むぞ』の一言で私をここへ送り込んだのは月詠命様で、私は派遣社員の様な者です。社員食堂も使わせて貰えません。
【天の声】酷くないか?
気不味い雰囲気を察して、衣通姫がフォロー入れてくれます。
「かぐや様、その方は確か……」
「衣通様、こちらは阿部倉梯御主人様です。
左大臣阿部倉梯様の御嫡男に御座います」
「そうでしたわね。一年振りです。
忌部首子麻呂が娘、衣通郎女に御座います」
「ああ、久しいな。讃岐では楽しい宴であった事を思い出されるよ」
え、社交辞令だよね? あれだけコツコツ丁寧に御主人クンを凹ませたんですから。
「はい、とても良き思い出に御座います。
あの宴をきっかけにかぐや様とは友誼を結ばせて頂いております。
宴ではご一緒に舞をご覧になっているお二人が楽しそうに歓談されていたのを思い出されますわ」
衣通ちゃん、やめて差し上げて! 讃岐には御主人クンを徹底的に凹ませた思い出しかないから。
たぶん、御主人クンはハラワタがグツグツ煮えくりかえる思いを我慢しているはずだから。
このままではモツ煮になっちゃう!
えぇーっと、私からも話振らなきゃ。
「先日は倉梯様にお話を頂く機会がございました。
私の不躾な話に耳を傾けて下さって、大変申し訳なく思います」
「そうなのか? 実は半年くらい父上とは顔を合わせておらぬのだ。
忙しいとは耳にしていたが、父上は健勝であったか?」
「少しお疲れのご様子に御座いました。お自愛頂きたいと申し上げましたが、それどころでは無いかも知れません」
「そうか……この宴に来れば父上の様子を見ることが出来ると思っていたのだがな」
「先程聞いた話では、本日難波宮へ向かわれたとの事です」
「そうなのか? ……知らなかった」
「左大臣の職は私の様な凡庸な者には想像が出来ぬほどの重圧があるものかと想像するしか御座いません。
御主人様が1日も早く手助けができる様ご成長なされる事が、倉梯様にとって一番の手助けとなりますでしょう」
「そうだな。私もそうあらねばならないと思っている。しかし山の頂が一向に見えぬ様だ」
「山の頂……ですか。
『人生は重き荷物を背負いて長き坂道を登るが如し。焦るべからず』
……で御座いますよ」
「あ、ああ。ありがとう。頂が更に遠くなった様な気がするが……」
あら、お礼も言えますのですね。すると衣通ちゃんからも御主人クンに助言です。
「倉梯様。私は昨年半年ほど讃岐に滞在し、かぐや様とずっと御一緒させて頂きました。
山の頂はとてもとても高う御座います」
「そうなのか?」
そうなのかって……山の頂って何? 中央氏族だけで通じる隠語?
ひょっとして大峰山の事?
修験道に挑戦するの?
この時代も女人禁制なのかな?
だとしたら衣通姫は登れないからね。
【天の声】定型な展開だな。
◇◇◇◇◇
がたーん!! どたどたどた……。
御主人クンが去り、しばらくしてそれでは解散という雰囲気になった所で、会場の一角から刀を持った一団が雪崩れ込んできました。
十人弱の乱入者は警備の人を斬り捨てて、門を閉ざし、会場を封鎖しました。
何やら人を探している様子です。
私は急いで傷を治癒するイメージを載せた赤外線の光の玉を斬り捨てられた警備の人に飛ばしました。
多くの血が流れていたので、傷を塞いだだけで助かるかどうか分かりません。突っ伏したままです。
乱入者の一人が私を見てやってきました。
「そこの変わった格好をしている童子。お主は中臣の者か? 阿部の者か? それとも倉山田の者か?」
舞の時のままの格好なので、目立ってしまっている様です。
こんな時はまず落ち着く事です。
チューン! チューン! チューン!
精神鎮静の光の玉を自分に当てて落ち着きを取り戻します。そして冷静に考えます。
中臣様と阿部倉梯様、そして倉山田様、……たぶん今の政の中枢を担う方々です。
そうなりますと連中は政争に敗れた蘇我氏宗家の残党の可能性が大です。
蘇我氏宗家の関係者でなければ、昨年誅せられた山背大兄皇子の関係者かも知れません。
大穴として帝の手の者なんて事もあり得なくはありません。
有能(しかも腹黒)な部下を遠ざけたい上司なんて珍しくありませんから。
まだ他にも次の政権を狙う人達がいるかも知れません。とにかく情報がありません。
ただ一つ確実な事は、阿部の血縁者である御主人クンが狙われているという事です。
助けなきゃ!
さすがに将来の求婚者候補とはいえ、死んで欲しいとまでは思っていません。
それに御主人クンに何かあったら、後の歴史が大きく変わる可能性も否定出来ません。
まずは目の前の乱入者を焚き付けてみます。念の為、いつでも反撃できる様に赤外線の光の玉を扇子の先に忍ばせます。
「それを聞いてどうなさるおつもりですか?」
「決まっている! 人質だ!」
「宮中で人質取っても、矢の的では御座いませんか」
「うるさい。早く答えろ!」
人質という事は交渉の駒に使うつもりでしょうか?
しかし『子供の命が惜しければ政権を明け渡せ!』なんて事はあり得ませんよね。
……とすると。
『子供の命が惜しければ捕まっている身内を解放しろ』とか、
『子供の命が惜しければ勅を引っ込めろ』とか
『子供の命が惜しければ親の命を差し出せ』とか
そんな所でしょうか?
「私を人質にした所で、何も得られませんよ」
思わせぶりな言葉を返しました。すると狙い通り男は私を関係者だと勘違いしたみたいです。
「いいから来い! 己が子供の命が掛かっていれば言う事を聞くはずだ」
そう言って門の方へと私の手を引っ張って行きました。
「かぐや様!!」
止めようとする衣通姫に目配をして、私は大丈夫だと伝えました。伝わったかどうかよりも、慣れないウィンクがぎこちなさ過ぎた方が気になりますが……。
こうして私は門の外へと連れ出されてしまいました。
あーれー。
(つづきます)
正しくは『人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし。急ぐべからず。』ですね。
徳川家康の有名な遺訓ですが、実のところ家康が言ったという証拠は無いそうです。