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徴税シーズン到来

主人公のアラサー(?)疑惑が浮上!?

 秋の収穫が終わり、徴税シーズンとなりました。

 新しく建てた倉には昨年徴収された米が収納されていて、今年分の受け入れ準備に取り掛かっておりました。

 倉を十棟も建てたのは自分の財産を溜め込むためとばかり思ってましたが、お爺さんは国造くにのみやっこなので施政者としてのお仕事もあったのですね。

 お爺さんの事を誤解していたみたいです。


【天の声】たぶん誤解じゃないぞ!


 業務のIT化が進んでいない職場では手続きが大変なはずです。

 コピー機もなく、会計処理ソフトや表計算ソフトは無論、電卓どころかそろばんすらありません。

 ◯◯奉行も◯◯大臣もおらず、一つ一つが手作業&手計算なのです。


 計算が得意だったかなんて、文系女子だった私に聞かないで下さい。

 得意だったら理系女子リケジョとなって、メガネの似合う知的美人クールビューティーとしてもっと違う人生を歩んでいたと思います。

 とはいえ、現代で事務職だった私としてはお手伝いをしない訳にはいきません。

 この時代を生き抜くためにも手に職をつけなければならないと思うのです。

 計算はともかく事務手続きは手馴れたものです。


 年末調整は任せて!


 ◇◇◇◇◇


「ちち様、お仕事手伝う」


「おぉ、娘よ。その気持ちだけで十分じゃ。習い事に励むが良い」


「ちち様と一緒に仕事したい。お仕事も将来のため大切」


「おぉぉぉ、何て良い子じゃ。そなたの様な娘をもってワシは幸せ者じゃ。

 ならば納税の記録を頼むとしようかの。字は書けるんじゃよな?」


「嬉しい。頑張る」


 ちょっとした事ですぐ感動してしまうチョロいお爺さんのおかげでお手伝いポジションゲットです。

 しかし、納税の事務手続きとなると大切なのは事前準備。

 まずは税のルールを把握しなくてはなりませんね。

 そのためにも先ずは過去の記録をチェックしましょう。


「これまでの記録、欲しい」


「ふむ、そちらの箱の中にあったかのう?

 ……おぉーあった、あった。これじゃ」


 手渡された箱の中には10枚ほどの木簡に、汚い字でびっしり書き込まれたメモ書きのようなものがありました。

 木簡メモには納税者の名前と税の目録が書いてあります。

 ……いえ、書いてあるだけですね。これは。


 ぱっと見ですが、規模は百三十世帯人口千人弱くらいです。

 役職名でこそ「国造くにのみやつこ」ですが、現代の感覚では町長さんか村長さんみたいなものかも知れません。


「これ去年の? その前の年、そのまた前の年、どこ?」


「その木簡が昨年使ったものじゃ。表を削って毎年使い回しておる」


 これはいけません。記録が残っていないなんてありえません。

 たぶんこの時代には戸籍や住民票も無かったと思われます。

 記録どころか規律すら無いに等しい状態です。

 これは元・社会人しゃちくとして許せない由々しき事態です。


 現代には『おカネで解決できる問題はおカネで解決する』という金言がありました。

 (※ただしおカネがあれば)

 お爺さん、成金の本領発揮です!


「ちち様、紙欲しい」


「ん?大丈夫じゃ娘よ。今は短くとも1年もすれば伸びてくる」


「髪、違う。書き物をする紙」


「紙? はて、習い事に使っておらなんだかな?」


「お仕事に使いたい。百枚欲しい」


「なぬ! 百枚とな?!

 どうしてそんなにたくさん必要なのじゃ?」


「記録するのに必要。木簡、あれ記録じゃない。落書き!」


 するとお爺さんは少し考え込んでからこう答えました。


「ふむ……

 今は手元に10枚程しか紙はないが、明日までに残りを用意しよう。

 なに、紙は貴重かも知れぬが娘には考えがある様じゃ。

 一生懸命仕事に取り組むそなたをワシは嬉しく思うぞ」

 (意訳:うーむ、娘には何か思うところがありそうじゃ。

 紙は貴重じゃが、今のワシにはケツをふくのに使っても惜しいとは思わぬ。百枚の紙を何に使うかはわからんが、ここで娘の心象を良くする為にも一つ太っ腹なところを見せるか。気のせいか本当に太っ腹になっている気もするが……)


 え? いいの?

 自分でも無茶だと思っていたのでものすごく意外です。

 でもホントに嬉しい。最大級の賛辞でお礼しなくてはいけませんね。


「ちち様、嬉しい。さすがちち様、さすちち」

 (訳:すごい。お爺さんってば理想の上司みたい。上司というものは部下の意見を否定することで自分を偉そうに見せると考えるくせに「◯◯社の人はこう言ってたよ」と赤の他人の意見は無条件で信じる愚鈍な人を指すのが現代の常識でした。私が勤めていた会社の課長とは月とスッポン、地デジのフルハイビジョン放送とビデオの3倍速再生、TWILIGHT EXPRESS 瑞風と南海汐見橋線くらいに違います。)


【再び天の声】意訳が長い! VHSの三倍速を知っている主人公かぐやは本当に令和のアラサーか? そもそもどうして汐見橋線?


「わーはっはっはっは、娘のためならば何を惜しむものか。何なりとこの父に頼むが良い」

 (意訳:わーはっはっは、尻を拭く程度のもので娘の尊厳を得られるのなら安いモノじゃ。頼み事なら何でも言ってくれ。出来るだけ楽な要求リクエストなら言う事ないわい)


 ◇◇◇◇◇


 三日後、さて、お爺さんにお願いした紙が届きました。

 いよいよ帳簿の作成を開始しようとしたのですが、その前に大きな問題が。

 この時代の税務会計処理はどのように行われていたのでしょう?

 全く分かりません。


 西暦701年に発令された大宝律令によって律令制が始まった事は学校の授業で教わった通りです。

 つまり全国規模での税制の運用はまだ先という事なのです。

 しかも讃岐ここは中央ではありません。

 大学時代も律令制以前の税務について調べた事はありましたが、殆ど分かりませんでした。

 地方行政となると尚更です。


 分からないのであれば自らの足で調べるしかありません。

 何せ大学時代に分からなかった事が、ここでは現実リアル調査インタビュー出来るのですから。

 ただしお爺さんはアバウトな人なので後回し。

 秋田様は忌部いむべの氏族の方、例えて言えば個人事業主みたいなグループに属しているので違う税務システムっぽい感じがします。

 まずは屋敷に居る家人の人達に手伝って貰いましょう。

 聞きやすい人に聞く。

 頼みやすい人に頼む。

 社会人スキルの一つです。


「教えて」


「ひ、姫様。このような場所にどの様なご要件で」


 いえ、土間で土下座したら汚れるでしょ?


「立って。教えて欲しい事がある」


「へ、へえ、失礼します。お姫様、何で御座いますでしょうか?」


「ちち様への納め物、どうやっているか知ってる?」


「は、はい、存じております。ウチのオヤジが米と布を納めております」


「オジサンのちち様、どれだけ納めているの?」


「たしか米を二斗(※)、布を6反、収めさせて頂きました」


「税率は?」


「ぜ、ぜいりつ? 申し訳ございません。ゼイリツとは何で御座いしょう?」


 うん、税金の仕組みを全然知らないみたい。多分、言われた量を納めているんだわ。


「ありがと。お仕事頑張って」


「ははぁ、勿体ないお言葉を」


 いえ、全然勿体なくないから。それに性格の良い悪役令姫かぐやひめを目指すためにはこうしたコツコツとした努力が必要ですの、よ。

 オーホッホッホ……けほんけほん。



(つづきます)


主人公の設定が関西在住という事で、スッポンの例えに南海汐見橋線を挙げましたが、もしお気を悪くされる方がいらっしゃいましたら申し訳ありません。

ちなみに筆者が関西で一番好きな路線は阪急電鉄京都線です。

関西に居た時にしょっちゅう乗っていたのと車体の色が好きだから。

あと、『電車でD』でもお馴染み。

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