皇子様からの呼び出し(1)・・・紙飛行機
文章量の配分に失敗した……かも?
私は宮の一番の最奥にある貴賓室らしき部屋に連行されました。
そして部屋の前で私を下ろし、秋田様が戸の向こう側に声を掛けます。
「お待たせして申し訳ございません。ただいま到着しました」
「ああ、入ってくれ」
中から聞き覚えのある声がしました。
「失礼致します」
中に入ると、思いの外人が居ます。ヒーフーミー……五人。
知っているのは氏上様と中臣様、阿部倉梯様。
後の二人は分かりませんので謎の人①、謎の人②としておきます。
氏上様がこちらへ来て座りなさいと手招きしますので、氏上様の横に着席しました。
「初めてお目通り致します。本日、舞を披露させていただきました讃岐造麻呂が娘、かぐやと申します。
未熟な舞にてお目汚しの程、平にご容赦頂けますよう、伏してお願い申します」
「いや、非常に面白き舞であったぞ。見ただけで気力が漲ってきた。」
「有り難きお言葉、恐悦至極に御座います」
上座に座る謎の人①の言葉に『貴方、誰?』と喉まで出掛かった言葉を飲み込んで、丁寧なお礼をします。
もうヤダ。一体何なの、ここは!
おうちに帰る!
「かぐやよ。忌部殿から興味深い話を聞いてな、改めて其方の話を聞いてみたいと思っていたのだ。ここに居る者は皆、その真意を聞きたいと同席して頂いた」
中臣様が代表して意味不明な事を言い出しました。
何、それ! また間者が変なことを吹き込んだのではないの?
私は無実です。無実を勝ち取るためにここに居る全員、ピッカリにします!
全力で贖ってやる!
……と心の中では臨戦体制に入りました。
「恐れながら。私のどの話がお気に障りましたのでしょう?」
「かぐやよ。別に尋問しようと言うわけではない。安心されよ」
中臣様、尋問ではないと言いながら大の大人五人が幼女一人を取り囲むって、普通の幼女なら泣いてますよ、と心の中でツッコミます。
今から遅くないのなら泣いてみようかしら?
「恐れながら。私には興味深い話というものに心当たりがなく、何について問われているのかが分からずにおります」
すると隣に座っている氏上様が説明を始めました。
「秋田より文が届いたのだが、この先どうなるのかについてかぐや殿の見解が記されていた。それを中臣殿、倉梯殿に伝えたらいたく興味を持たれてな」
そう言いながら、秋田様に没収された紙飛行機を懐から取り出しました。
!!!!! あれかー!
「恐れながら。私の言はどのように伝わってられるのでしょうか?」
「ふむ……。
『この先の政が大きく変わる。
変わることによる歪みはいつしか綻ぶ。
それが近いか遠いかの違いに過ぎぬ。
それを予見する事は人には不可能である。
何故なら人は賢すぎて、そして未熟であるからだ』
という文が秋田からの木簡に書かれておった。
そしてどのくらい賢いかと聞かれたかぐや殿は人が空を飛べるという証拠を見せた、というのがこれじゃな」
そう言いながら、氏上様は紙飛行機をスイっと飛ばしました。かなり慣れた様子なので、何度も飛ばした事が察せられました。
誰か分からない二人の謎の人①と②の人は目を見開いて驚いています。逆に中臣様と倉梯様は見慣れている様子でした。
氏上様の言葉を受けて、中臣様が言葉を繋ぎます。
「かぐやよ。其方の意見は非常に面白い。人を愚かと蔑む輩は山ほど見てきた。
しかし賢過ぎるというのは初めて聞く。しかもこの様な紙でできた玩具でそれを証明してみせたのだ」
中臣様は妙に肯定的ですが、油断はできません。
謎の人①&②が何者か分からないまま口を開いたら、どんないざこざが起きるのか予想がつきません。慎重に受け答えします。
「恐れながら。その場におりました御室戸忌部秋田様にお話した内容が、皆様に正しく伝わったのか自信が御座いません。
話の前後を切り取って抜き出せば逆の意味に取ることも出来ます。
皆様が私にどのようなご意見をご所望なのかをお教え頂けませぬでしょうか?」
「別に其方の言が気に食わぬという訳で呼んだのではない。意見を忌憚の無い意見を求めているだけだ」
ほら、きた! その言葉が一番危ないですから。
「お答えする事は吝かでは御座いません。
道理もよく分からぬ幼子の言葉なれば、ご容赦頂けたく存じます。」
すると倉梯様が質問なさいました。
「久しいな、かぐやよ。我々は新しき政を創る気概を持って此処におる。
しかしその先が失敗であるというのは何と悲しき事よ。
そうならぬ為にも考えうる限りの不足の事態を考え、対策し、実行するつもりだ。
それについて其方はどう思うか?」
倉梯様から鋭い視線で質問? 詰問? 尋問? を受けます。
怒っている様にも思えます。
「恐れながら。幼子には答えに窮する内容に御座います
また判断する材料も持ち合わせておりませぬ」
「そこまで深く考えずとも良い。是か非かだけで良い」
うーん、何と言ったら良いのか……?
こうなったら21世紀の会社経営の話をするしかありませんね。
「それではお怒りにならずお聞き下さい。
歪みや綻びがあるか否か、その是非を問われれば私は必ず綻ぶだろうと考えます。
その先に失敗があるか否かの問いにつきましては、何を以って失敗とするかによるものと愚考します。
計画を立て、それを実行し、その結果を精査し、その結果を次に活かす事が重要かと私は考えます。これを繰り返す事により、より良い結果を導くのです。私のとって失敗とは、この循環を繰り返さぬ事を失敗と指します」
「かぐやよ。其方は
『歪みが歪みを産み、次の歪みを生み出す。その連鎖は人の予想を超える』
と申したそうだが、我々のやろうとする事も同じ運命を辿ると思うか?」
間を置かず中臣様から厳しい質問が飛びます。
「はい。恐れながら」
「行く末が分かっておるのに何の意味があるというのだ?」
「今の国の在り方を是とするのなら、変化は非とされるでしょう。
しかし私には今の国の在り方はあまりにも未熟に思えます。
悪しき者には相応の罰を。
正しき者には相応の報酬を。
万人がお腹だけではなく、心を満たす生活が出来る世を是としたいと私は願っております。
おそらくそれは遠い未来の事でしょう。
遠い未来の国の在り方がどうなのか想像のつく者はおりませぬ。
施政者とは解答なき課題を投げかけられている方々なのだと思います」
「ならば我々は正しき解答を得るまで踠き苦しむ他無いというのか?」
中臣様もしつこい。
「未来を見通す力は誰も持ち合わせておりませぬ。
それが出来ればどれほど楽な事でしょう。
それが不可能であるから人は思い悩むのです。
しかし人は過去を振り返る事ならば出来ます。
過去の失敗に学び未来に繋ぐ。
これこそが肝要かと存じます」
「我々が何も学んでおらぬと言うのか?」
この中で一番偉い人であろう謎の人①が質問してきました。
立場が変われば言う事も変わる、と言うのは世の常です。
相手のお立場が分からないまま話をするというのはとてもやり難いです。
「恐れながら。唐の国には数百年に及ぶ壮大な国史が国の数だけ存在しております。
寡聞にして存じ上げていないだけなのかも知れませんが、我が国には国の歴史を記した書を見たことが御座いません。
学んでいないのではなく、学べようにもそれが難しいのだと思います」
「ならば其方はどうすべきだと考えておる」
「私は神代より続くこの国の歴史を掘り起こし、各地に眠る伝承を纏め、今の世の人の記憶に残る事実を記録して、これから先もずっと記録し続ける事が必要であると思います」
「ほう、面白い。其方は鎌子と同じ事を言うのだな」
……鎌子?
中臣様を鎌子と親しげに呼ぶ謎の人①はひょっとして………。
(つづきます)
言わずと知れたPDCAです。
プラン→ドゥー→チェック→アクト、を繰り返す事でより良い結果をもたらす手法です。
一般的に「PDCAを回す」と言います。