チート幼女初めての飛鳥京・・・(3)
チューン! だけで
500字くらいかさ増ししております。
♪〜
演奏と共に静々と巫女さん達が次々と舞台へと上がり、最後に私が上がります。
観客席からは『何だ? このちっこいのは?』という空気が漂います。
そう思った皆さん、貴方は正しい。私もそう思うから。
整列、礼、直れ。帯に挟んだ2本の扇子を取り出します。
一旦止まった音楽が再び始まりました。
道具が変わっても振りはこの1ヶ月間稽古を積んだ舞です。
鈴の音が無いと少し寂しいですが、今出来る精一杯をやりましょう。
出だしは順調、ピタリと息のあった舞が始まりました。
クルクル……
あれ?
クルリと後ろが見えた瞬間、与志古夫人と真人クンの姿が瞬間的に目に入ってきました。
あれ、皇子様の席じゃ無い?
一瞬、振りが遅れそうになります。
いけない、いけない。雑念を払って舞に集中します。
でも知っている人がいるというのは心強いものです。
それが将来の求婚者候補だとしても。
だが御主人クン、キミは要らん!
指先まで神経を行き渡らせて、1ヶ月間の稽古を通じて息ぴったりの皆んなと一緒に舞います。
光の玉で研ぎ澄まされた精神は会場の隅々まで意識を行き渡れせます。
観客席の上座に座る高官に皆さんが目に入りますが、総じてお疲れ気味みたいです。
何と無く年度末の追い込み時期に似た疲弊した雰囲気です。
高官といえども中間管理職は徹夜続きなんでしょうか?
帝が代わられて新しい政を立ち上げようとしているだから大変なのは当然のことですが、元・社会人としては放っておけません。
扇子の先端に不可視の光の玉を載せて、お疲れの皆さんに栄養ドリンクを差入です。
チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン!
あら、真人クンが寒そう。風邪引いてしまわないかしら?
それではウィルス退散、アマビヱの光の玉。遠赤外線の光の玉付き!
チューン!
いけない、いけない、舞に集中!
直前になって急遽変更になった扇子を使っての舞は、七夕の時に領民の皆の前で舞った演目です。
あの時の出来事を思い浮かべると、もうすぐ帰れるからと少し嬉しい気持ちが湧き上がってきました。
終わりが近づいて少し浮かれた気分になってきたのかも知れません。
踊り出したい気分です。
いえ、舞っている最中なんですけど、もう少し楽しくポップに。
そんな気持ちがつい扇子に出てしまいました。
普段手持ち無沙汰な時、扇子をクルクルと回して遊んでいたのですが、それがポロッと出てしまいました。
舞踊では要返しという名前だったと思いますが、高校時代に男子生徒がこぞってやった鉛筆回しに少し似た芸当です。
クルクルクルクル。
すると少し反応が返ってきました。じゃあ、もう一回、二回、三回。
クルクルクルクル。
クルクルクルクル。
クルクルクルクル。
あ、萬田先生の目が怒っている、かも。
ならば、萬田先生に精神鎮静の光の玉(もちろん不可視)をプレゼント。
ついでに会場の皆さんにもプレゼントです。
チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン! チューン!
最後のポーズを全員でキメて、演舞は終わりました。
パチ……パチ……パチ、
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ。
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ。
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ。
何処からともなく拍手が湧き起こり、満場の拍手となり、私達の舞を認めて下さいました。
中臣様も阿部倉様も拍手しているので合格点だったのでしょうか?
音楽に従い、私達は舞台を降りて、会場を後にしました。
これで一ヶ月続いたプレッシャーとも離別です。
さて、市場へ行ってあちこち見て回りましょう。
ヒャッホーイ!
私達はそのまま門を出て、忌部氏の宮へと戻りました。
「ひーめーさーまー」
宮に着くやいなや、萬田先生の低い声が後ろからしました。
「ひゃい!」
「急にあの様な事をされて、姫様が扇子を落とすのでは無いかと寿命が縮む思いでした」
「はい……、ごめんなさい」
「謝る事は御座いませんわ。私自身、振り付けに煮詰まっていた所がありました。
口では大丈夫と言ってましたが、急に鈴を使えなくなってしまい正直申しましてどうすれば良いのか途方に暮れておりました。
ところが姫様は鈴がダメなら、扇子ならではの技でそれを補いました。
小道具の良し悪しではなく、それぞれに表現の仕方があるのだと改めて感服しました」
まさかもうすぐ帰れるという浮かれた気持ちでアレが出てしまったとは言えませんね。
「でも心の臓に良くありませんでしたのも確かですのよ」
やっぱごめんなさい。
「「「「姫様〜~~!!」」」」
話が終わると巫女さん達が一斉に私に飛びついて来ました。
「姫様、寒い舞台袖の中、私達を気遣って頂いて有難うございます」
「姫様の舞は皆さんを魅了してましたわ」
「一緒に稽古できて楽しかった〜!」
巫女さん達もこの一ヶ月間、プレッシャーが大きかったみたいです。
私もキツかったですが、舞を生業としている巫女さん達にとっては人生を賭けた大舞台だったはずです。
私みたいな駆け出しの素人とは意気込みも覚悟も違うのでしょう。
扇子を落とさなくて良かったと、今更ながら身震いします。
「お取り込み中、失礼します。かぐや様にご伝言が御座います」
突然、前触れもなく戸の向こうから秋田様の声がしました。
私は反射的に答えてしまいました。
「大変申し訳ございません。本日の営業は終了致しました。
かぐやは帰社しましたので、明日、改めてご連絡をお願いします」
面倒ごとの予感です。
それ以外考えられません。考えたくもありません。
逃げ出したい一心でOL時代の定時後に掛かってくる電話対応が口から出てきました。
それなのに戸の向こう側にいる秋田様の追求が容赦ありません。
「かぐや様、エイギョウが何か分かりませんが、終了はしておりません。
至急、お越し下さい」
「舞を披露する”だけ”と秋田様が言った」
「何もしでかさなければ、とも言いましたよ」
「私は無実です」
「別に捕まえにきたのではありません」
「じゃあ逃して」
「残念ながら逃げられません」
「やっぱ捕まえにきた」
「捕まえにきたのではなく、お連れするよう言われただけです」
「♪ ドナドナドナドーナ」
「ですから理由もなく切なくなる唄はお止め下さい」
あーあ、やはり無罪解放とはなりませんでした。
「どなたのご指示?」
「氏上様ですが、中臣様もご同席されます」
「暇潰し?」
「暇では御座いません。むしろ多忙な方々ですのでお急ぎ下さい」
はぁー、やっぱこのパターンですか。
話をしながら着替え終わった私は、ガラっと戸を開けて秋田様の方へトボトボと歩いていきます。
「それじゃ行きましょう」
「支度は出来ていたんですね」
「ちゃんと分かっている。でもお約束だから」
「オヤクソク、ですか?」
「そう、お・や・く・そ・く。畿内では大切」
「はあ、姫様がそう言うのであれば」
「でも私は諦めない」
「姫様、お願いですので諦めて下さい」
「諦めたらそこで試合終了です」
「それもオヤクソクですか?」
「そう」
クスクスと笑う巫女さん達を後にして、秋田様は私を抱えて氏上様や中臣様が待つ宮へと急いで戻って行きました。
(つづきます)
645年に飛鳥宮から難波長柄豊碕宮(今の大阪市中央区)への遷都が決定しましたが、難波長柄豊碕宮が完成するのは7年後なので、しばらくの間日本の中心地は飛鳥だったと思われます。