知り合いの知り合い探し
『知り合いの知り合い』……元ネタは『友達の友達』ですが、何故かネットに転がっておりませんでした。
※第三書視点によるお話です。
かぐやと両親が安心して暮らせる場所を探す秋田は、鸕野皇女を頼った。
しかし残り日数はあと2日。
鸕野皇女はと参集したメンバーは最後の作戦に打って出た。
知り合いの知り合いに頼ろう、と。
知り合いの知り合いとは……。
なぜか特殊な経験ばかりをしている。
しかし知り合いの知り合いはあくまでも他人。
決して誰も本人に会うことはない謎の人物。
(by 嘉門タツオ氏)
◇◇◇◇◇
秋田の知り合いは蔵書家が多いが、友達というより宿敵である事が多い。
「ぬあっ! 貴様が秋田か!?
何しに来た。
我が蔵書を奪いに来たのか!?
貴様に用はない。
とっとと帰れっ!!」
「ようこそ参られた。
久しぶりだな。
どうだ?
最近は秋田殿の悪名を聞かなくなったが、引退したのか?
ならば私に差し出しに来たのであろう。
とっとと寄越しやがれ!」
「おぉ同志、秋田氏よ。
拙者の作品は既に完売したで御座るよ。
次の作品はいつになるのかな?」
「へへっ、秋田さん、良いモンが手に入ったよ。
どうだい、観ていくか?」
碌でもない交友関係である。
◇◇◇◇◇
物部氏は古い氏族であり、大王一族に比肩する歴史を持つ。
百年前まで隆盛を誇っただけあって、全国に枝族(※分家)がある。
物部飛鳥氏(河内国)、物部伊勢氏(伊勢国)、物部鏡氏(土佐国香美郡)、物部韓国氏、日下部氏などなど。
先の戦で叙勲された物部朴井雄君もその一人である。
また、各地を治めていた国造にも物部の末裔は多い。
しかし丁未の年(西暦587年)、崇仏派である蘇我氏と厩戸王を相手に廃仏派の物部が争った戦いに敗れ、物部氏は衰退の一途をたどり、今や枝族同士の横の繋がりは庶民の粥よりも薄い。
頼れる者は殆ど居なかった。
更に麻呂自身は十四歳から二十七歳の間、極秘に唐へ渡っていたため、真人以外に心許せる親友が居なかった。
まだ唐に隠れる場所を用意しろと言われた方が、やり易かったくらいだ。
それでも探すとなると……衛部だった父親のコネで流刑地くらいか?
こんな事なら、大友皇子の行先を聞いておけばよかったと後悔しても後の祭りだった。
◇◇◇◇◇
阿部氏も物部氏に負けず劣らず枝族が多い。
阿部布勢氏(倉梯)、阿部引田氏、狛氏、阿部久努氏、安倍小殿など。
特に個人的な交友で阿部引田比羅夫との関りは深い。
しかし比羅夫の本拠地は雪深い、越国疋田は、気候を考えると年老いたかぐやの両親の負担になりそうだと思うと、頼むに頼めない。
御主人にとってかぐやの養父養母を他人だとは思っていない。
讃岐で過ごした数年間、彼らの仲睦まじさは自分にとって憧れであり、妻である衣通との夫婦生活が円満なのも二人を手本としているからで、今尚竹取の翁は御主人にとって憧れの人なのである。
生真面目な御主人は、阿部一族に頼るのを諦め、職場の者達に年寄りの移住先に適した土地を一日中聞いて回った。
しかし職場の者達は殆どが畿内の出身であり、その知り合いも畿内か筑紫が殆どであった。
自分のせいで阿波忌部への移住が難しくなったと思うと、忸怩たる思いをする御主人であった。
◇◇◇◇◇
大伴氏は古い氏族であり隆盛を極めた時期もあった。
しかし百五十年前、七名の帝に仕え物部氏と双璧を為した大伴金村が任那割譲の際に物部氏から嫌疑をかけられて失脚した。
それ以来、大伴は閑職に甘んじており官人を輩出すれども、政の頂点に立つのは御行の父親、長徳を待たねばならなかった。
それは帝に入内した妃の少なさにも表れている。
大伴氏の勢力下にある地域は畿内を除けば紀伊国くらいで、その繋がりも細い。
神代に枝分かれした久米氏とは同族としての関りは無く、むしろ中臣氏との繋がりの方が強いくらいだった。
強いて言えば物部氏との繋がりが強いが、大伴氏の凋落に物部氏が関わっている故、恨みの方が大きい。一先ず、紀伊に向けて馬を走らせる大伴御行。
私にもっと力があれば……と悔やむ御行であった。
◇◇◇◇◇
当の『知り合いの知り合い』作戦の発案者である鵜野皇女は一ヶ月後、皇后になる淑女とは思えない行動力を発揮していた。
馬に跨り、南へと走らせたのだ。
もちろん護衛は引き連れているが、先頭を走られては護衛も何もない。
向かうは吉野。
天智帝が自分自身を未来視で見張っている事を知り、ずっと隠遁していた深い因縁の場所だった。
伝書鳩を使い、そこへ来客を寄越させるように”とある人物”を呼び寄せていたのだった。
吉野までは四十里、歩けば片道だけでまる一日掛かってしまう。
しかし速足で駆けた甲斐あって日が登りきる前に吉野の宮へと到着した。
「待たせたのじゃ、小角殿は居るか~?!」
到着するや否や、宮で待っているであろう客人を呼んだ。
「久しいな、皇女殿。
いや……もうすぐ皇后様だったな。
それで急な呼び出しは何用だ?
また戦でもしようとしているのか?」
鸕野皇女とは古い付き合いという事もあり、気安い言葉もある程度は許されている。
今更、礼儀作法もない間柄だ。
「其方に尋ねたい。
女子一人と年老いた両親が、妾達の目に触れずに安心して暮らせる場所に心当たりはないか?
もしくはその様な場所を知る知り合いは居らぬか?」
「藪から棒に何事だ?
隠れ住む場所に住み心地を求めているのか?
無茶を言うな。
その様な場所があれば、誰もがやってきて隠れることは出来ぬ。
不便な場所だからこそ、隠れられるのだ」
突然の無茶難題に、小角は正論で反論する。
「その様な事はどうでも良いのじゃ。
その女子は妾との関係を絶たねばならぬのじゃ。
でなければ元の世界へと還ってしまうのじゃ!」
「元の世界……、その女子とはかぐや殿か?」
『元の世界』と聞いて、小角は察した。
小角もまた、かぐや千四百年の未来の世界からやって来たことを知る者だったから。
「そうじゃ。
かぐやは身内を悲しませたくないからと、独りで還るつもりなのじゃ。
その様な事はさせぬ!」
「分かった。
恩のあるかぐや殿の事ならば私も親身に相談に乗りたい。
だが、まだ要領を得ない。
詳しく説明してくれぬか?」
「人の心を読めるくせにその様な事も分からぬのかや。
この破戒僧!」
完全に八つ当たりである。
「おいおい、今の其方の心はぐちゃぐちゃなのだ。
もう少し心を落ち着かせてくれ。
心を読むどころか、マトモに話も出来ぬ」
「ふーふーふー……分かった。
中に入って話じゃ。
しかし期限は明日の夜なのじゃ。
急いで帰らねばならぬ。
ゆっくりしている暇はないぞ」
「分かった」
…………
「それでかぐや殿が還るというのは本当なのか?」
客間に通された小角は、鸕野皇女を落ち着かせるために一つ一つ話を聞くことにした。
「そうじゃ、父上・天智帝の歪んだ政を正すことがかぐやがやって来た目的である事は知っておろう。
その役目を終えたのじゃ。
神の御遣いが夢枕に立って、帰還すべきかどうするかを尋ねられたそうじゃ」
「かぐや殿は元の世界へ還るつもりなのか?」
「悩んでおる。
かぐやにとって大切なのは養父殿と養母殿じゃ。
しかし、もう一つ面妖な問題があってな。
この先、妾や旦那様それに今後政の中枢を担うであろう者達と関わる事を禁じられておる。
それ故、この世界に残るのなら、妾らと関係を絶たねばならぬのじゃ」
「それで『女子一人と年老いた両親が、妾達の目に触れずに安心して暮らせる場所』を聞いておったのか。
もし見つかられなかったらどうなる?」
「かぐやは例の光を養父殿と養母殿に当てて、記憶を消すつもりじゃ。
そしてただ独り、元の世界へと戻るつもりじゃ」
「それは酷いな。
楽しい思い出も、苦しい思い出も、悲しい思い出も、全てが人の精神を為すための替え替えの無い原資であり財産なのだ。
それを無くすというのは、人の精神を殺めるに等しいではないか」
心の読める小角はまた優れた心理学者でもある。
「そうなのじゃ。
じゃから妾はこの様にして探し求めておるのじゃ。
かぐやを知る者達も皆同じ気持じゃ」
「そうだな……。
そのためにかぐや殿と養母殿、養父殿を快く受け入れて、安心して暮らせる地を……ということか?」
「顔の広い其方なら何処か心当たりはあるじゃろ?」
「確かに……しかし、私が知る地は畿内が殆どだ。
他に知っていそうな者は……。
!!!!
一人心当たりがある。
確信は無いが、調べてみる価値はあろう!」
「何と! さすがは小角殿じゃ。
これからは開祖様として京をあげて崇めてやるのじゃ!」
「気持ち悪いからよしてくれよ」
そして鵜野皇女と役小角は吉野から馬を走らせ、心当たりとなる人物の元へと向かった。
(一旦、話を結びます)
【予告】この続きはネタばれになるので、またまた話が飛びます。
船に乗ったかぐやの行く先は……?




