チート幼女初めての飛鳥京・・・(1)
話が中々本題に入っていきません。
しばしお待ちを。
さて、いよいよ天太玉命神社へ出発です。
衣通姫も一緒です。五ヶ月ぶりの里帰りですね。
心なしかお爺さんとお婆さんは寂しそうです。
娘が二人に増えたようだと言ってましたから、これでお別れとなると思うと胸に来るものがあるのでしょう。
私としても大切なお嬢さんを長らくお預かりしたのだから、衣通ちゃんのお兄様にしっかりとご挨拶をしなければなりません。
何より一年前の正月の舞台で、氏上様の横に居たお兄さんにピッカリの光の玉をぶつけて、呪うとか、ピッカリにするとか、気絶させるとか、色々とやらかしましたから。
暗かったし、何があったがなんて覚えていない事を祈るばかりです。
あ……私が光の玉で照らしたんでしたっけ。
同行するのは正月の時と同じ護衛さん三人と、源蔵さんと八十女さん夫妻も私のお付きとして一緒に行きます。
源蔵さんが重そうに背負っているのは今年獲れた白いお米です。
忌部の皆さんへの土産と、京への上納の品として持ってきました。
試しにお爺さん、お婆さんと私とで獲れた白米を試食しましたが、古代米に比べると遥かに甘くて柔らかくて美味しいご飯でした。
現代のお米の味を知っている私にとっては今一つですが、ブランド米計画は始まったばかり。これからです。
社までの道中、米を背負う源蔵さんが疲れを見せた所で光の玉で脚に溜まった乳酸を洗い流して強制的に疲労回復します。
護衛さん達も驚くタフネスぶりです。たぶん明日はズタズタになった筋肉の筋肉痛で動けなくなると思いますが、新妻に揉んで貰ってね。
そうこうしている内に三時間で目的地に着きました。
衣通姫の護衛さんが私達の到着を知らせに行くと、中から十人くらいの迎えの人が出迎えてくれました。五ヶ月ぶりのお姫さまのご帰還です。
「ようこそ、かぐや様。忌部首氏上代行をしております佐賀斯と申します。
此度は新春の宴にて三度舞をご披露頂ける事に感謝申します。
妹も大変お世話になり患者の念に絶えません」
「こちらこそ衣通姫には並々ならぬお世話と御友誼を頂き、日々感謝の毎日を過ごさせて頂いております。
私の拙い舞のために、忌部氏の方々には多大なご支援を頂き、大変に恐縮に御座います」
そう言いながら、源蔵さんに米俵を差し出させました。
「これは讃岐で獲れました美味しい米です。まだ僅かしか獲れませんので少しになりますが、是非お召し上がり頂きたく思います」
「これはこれは、お気遣いありがとう御座います。お疲れでしょうから先ずはごゆるりとお休み下さい」
私と源蔵さんと八十女さんは中へと案内され、護衛さん達は地元の治安維持のために讃岐へと戻りました。
この日の私は皆さんへの挨拶だけで終わり、あとは食事です。
「かぐや様は自ら田んぼに入って農業のご指導をされてたのですよ。
天空の星々も色々とご存じで、本当に素晴らしい知識をお持ちなんです」
久々に実家に帰ってハイテンションな衣通姫は何故か私の自慢話です。
居たたまれません。田んぼに入るのはお転婆なだけですし、天体のお話は現代では小学生でも知っている話です。
お願いだから、逆らった流民をピッカリにした話だけはしないでよ。
一年前、お兄さんに同じ事をやったから。
「そうそう、かぐや様は徴税のお手伝いもされていたのです。領民の皆さんから慕われているんですよ。
中には言うことを聞かない……」
「そ、衣通姫様! こ……このお米どうでしょう?」
「え、ええ。美味しいです。このお米もかぐや様が育てられた稲ですよね」
「いえ、頑張って育ててくれたのは領民の皆さんです。
私は幾ばくかの提案をしただけですの。
その提案を受け入れて実行してくれたのは領民の皆さんの他、ありませんのよ。
ほほほほほ……」
「かぐや様はいつもそうやって、ご自分のしたことを傲りませんのよ。
私の方が年上なのに、かぐや様の方がよほどお姉さんなのです」
「そんな事は御座いません。衣通姫様は半年近く家を離れても、弱音一つはきませんでした。
私なんか今日家を離れたばかりなのに、寂しくて涙が出そうです。
しくしくしく」
自分でも呆れるほどのわざとらしさです。
たぶん今夜は布団の中で思い出しながら身悶えるでしょう。
「衣通、久しぶりの家が嬉しいのは分かるが、少しはしゃぎ過ぎだぞ。
かぐや殿が素晴らしい事は皆が知っている事だ。
かぐや殿のすぐ側に居たのなら見習うべきことも多かっただろう。
どれだけ成長したのか楽しみにしているよ」
「そんな、兄上様。かぐや様は遥か高みにいらっしゃるお方なのです。
月を見るだけで月に近づける様な都合の良い事は御座いませんのよ」
衣通ちゃん、持ち上げすぎです。
どちらかといえば、衣通ちゃんに悪影響があったのではないかと心配しています。
そんなこんなで楽しい食卓を囲んで、衣通姫は久しぶりの自宅を楽しんでいました。
衣通姫のお兄様も大人の対応で、年初めのいざこざは無かった事にしてくれます。
翌日からは猛練習。招待されたのが私なので、私を中心にして他の巫女さん達がサポートする役回りになります。
帝の御前であるので頭が高いのはご法度(NG)なので櫓は無しです。
しかし私が巫女さんの中で埋もれてしまうので、帝を正面にして私をセンターにして舞う形に変更しました。
好評の神楽鈴は全員分用意して、一糸乱れぬシャンシャンシャンを披露します。
今回、萬田先生は舞に参加せず、振り付けと監修に集中します。
腕組みして皆んなの舞を鋭く見つめる姿は正にカリスマ振付師そのものです。
カッコいい♪
でも厳しい。
◇◇◇◇◇
新春の宴の十日前。だけどお正月まであと僅かという感慨は全くありません。
天太玉命神社を出立して飛鳥へと向かいます。
衣通姫も同行することになりました。
半年近く避難生活をしていたのだから危険の伴う京へ行くのは止めた方がいい、とお兄さんは言ってました。
私もそう思ったのですが、本人の強い希望もあり、私が一緒ならばとお兄さんは折れてくれました。
いやでも、私の周りが一番危ない気もするのですが……。
京まで二十人の大所帯での移動は、讃岐から天太玉命神社までの距離とあまり変わりませんですが、道は整備されていて楽です。
私のお供の源蔵さんと八十女さんも一緒です。
源蔵さんは天太玉命神社で半分になった米俵を背負っての歩きとなります。
何故か出発前からお疲れぎみなので、1本500円くらいする栄養ドリンクをイメージした光の玉で元気にして差し上げました。
「姫様、ありがとうございます」
「頑張ったね。来年にはお父さんだね」
「「ぶっ!」」
何故か私の隣にいる八十女さんが顔を真っ赤にしています。
私、お子様だから何も分かんなーい。
もっと楽しい気持ちで京へ行きたかったですが、京には伏魔殿が待っていると思うと、足は軽くても心は重い。
しかし、そんな気持ちと裏腹に予定よりずっと早く到着しました。
衣通姫と私がいるので遅くなることを見越しての旅程でしたが、例によって光の玉で私も衣通姫も疲れ知らずです。
むしろ道具を背負った人足さんの方が足が遅かったのですが、あまりチートをやり過ぎると誤解やトラブルの元になります。
早く着きたくない気持ちもありましたので、目的地に着いてから乳酸退散の光の玉で疲れを吹き飛ばして差し上げました。
優しいでしょ?
飛鳥京はこの時代の中心地だけあって賑やかです。
万を超える人が住み、人々が行き交っていて、市もあって交流が盛んそうです。
街の賑やかさは現代に比べられるわけではありませんが、古文の舞台が目の前に広がっていると思うとじっとしていられない気持ちになります。
チャッチャと舞を終わらせて街歩きしたいと思えば、このドン底なモチベーションも少しは高まるでしょう。
と言いますか、こう考えないとやってられません。
忌部氏の宮は立派な作りで、成金の財力に任せて突貫工事で造ったどこぞのお屋敷とは一味違います。
祭事に必要な機能を全て兼ね備えていて人の住むところというより国家機関っぽい雰囲気が漂います。
強いて言えば迎賓館っぽい雰囲気、かな?
宮へ到着すると氏上様が出迎えてくれました。
「かぐや殿、よくぞ参られた。一族あげて歓待させて頂きます。
衣通よ。佐賀斯の話ではお陰で随分と成長したと聞いておるぞ」
「父上様、その様な恥ずかしい事を申し上げないで下さい。かぐや様には教わることばかりで、いつまで経っても至らず、自分を恥じる事ばかりなのです」
「はっはっはっ。内気だった衣通が見違えるくらい元気そうで何よりだ」
「氏上様、此度は何から何までお世話になり、感謝の言葉も見つかりません。
帝の御前に立ち舞を披露するなど幼子には堪えるのも難しい事ですが、皆々様のおかげを持ちまして、目を汚さぬくらいには形にして頂きました。
誠にありがとうございます」
社会人スキル全開の社交辞令をつらつらと並び立ててお礼の言葉を並べます。
「かぐや殿よ。その様な堅苦しい挨拶は無用だ。ここを飛鳥の我が家と思いお過ごし下され」
「ところで氏上様。
此度の御訪問に際して手ぶらで参内するのは心苦しく、我が地で獲れましたお米と特産の扇子を上納品としてお持ちしました。
どの様にお納めすれば宜しいでしょう?」
「かぐや殿は招かれる側だからその様な心遣いは無用なのだが、それはそれとして歳に似合わぬ良い心掛けと心情も良くなりましょう。
膳司へ使いを出し、取り計らう様口添えしておこう」
「返す返すお手間をとらせて申し訳ございません。
膳司という事は与志古夫人がいらっしゃる後宮の司ですね」
「あ、いや。与志古殿はもう後宮には居らなんだ」
「え? そうなんですか?」
「まあ、いずれ会えるだろう。新春の宴には参られるはずだ」
何だろう、人事異動でもあったのかな?
というか帝が変わるという最大の人事があったのだから、それに伴って人が動くのは現代でも珍しくないですものね。
夫人から妃に昇格になって宮へ移ったのかも知れません。
真人クンも元気にしているかな?
「まずはごゆるりと。長旅の疲れを癒すがいい」
「有り難く存じます」
私は一室を与えられ、姫らしくない格好をしても誰にも見られない久々の開放感を満喫できますが、寒いです。
私のお荷物の中から半纏をとって着込みます。
縫部さん新作の半纏は、この上に重ねても違和感がない様に、紅色で前合わせの袖の広い着物風にアレンジしました。
そして裳の下は腰巻きにパンツ。……それでもやはり寒いです。
恐るべし大和の冬!
そんな私に用意しましたのは赤外線の光の玉。
衣通姫と寒空の下で星の観察をする時に編み出した技です。
百個ばかりの光の玉を私の周りをグルリと取り囲む様に配置してほんのり温かい遠赤外線を満遍なく自分に当てます。
まるで照り焼きになる鶏の気分です
しかし、この技は少し疲れるのです。
やはり熱というのはエネルギーを消費するからなのかしら?
未だに自分の力をよく理解できた居ないので、説明書を下さい。
月読命様(仮)。
昔、「アメリカンヒーロー」というTVドラマがありまして、UFOからスーパーヒーローになれるチートなスーツを貰って活躍するというお話がありました。
しかし取扱説明書をなくしてしまったためまともにチートを使いこなせず、ドタバタコメディーになるというお話です。
ちなみに私は取説読まない派です。