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かぐやの輿入れ・・・(3)

入内の儀につきましては調査しましたが詳細が分からず、作中の様な形式にしました。

この話を参考に、入内の儀を誤解なさらない様、お気を付けください。


 つい勢いで東宮様、こと大海人皇子の妃となる事を決意したが、実は大海人皇子が自分の事を女性として見ている(かも知れない)事に困惑するかぐやであった。


 ◇◇◇◇◇


 鵜野皇女様から言われた言葉。


『かぐやの入内じゅだいを楽しみにしている様子なのじゃよ。

 初めて会った時からかぐやに気が有ったらしいのじゃ。』


 大海人皇子が私の事を好いている?

 私は東宮様の事をこれまで有能な上司としてしか見ていませんでした。

『残念な女子おなご』、初めて会った時に言われ、舎人となって再会した時にも言われ、おそらく今もそう思われているのではないでしょうか?

 気に入られているとは思います……が、女性をして見られているとは到底思えません。

 額田様には未だに足元にも及ばないでしょう。(特に色気で)

 既に亡くなられておりますが鵜野皇女のお姉さんである太田皇女様も陰のある儚げな美女でした。

 他にも8人くらいお妃様が居らっしゃるはずですが、喪女歴ン十年の私が敵うはずがありません。


 世間では私は知恵者として認められてはいますが、それは現代での小、中、高、大学の16年間うけた教育と現代知識、そしてプラス十数年の社会人経験で得た経験があるからです。

 特に大学の卒論で日本書紀をテーマにしていたので朧気ながら知っていたという、いわば反則ズルによるものです。

 翻って鵜野皇女様は紛れもなく天才です。

 一年半教師として教えた私は誰よりも良く知っております。

 要するに私の価値って神の御技を使える以外に無いのですね。


 毎晩毎晩、後宮や内裏をピカピカ光らせて、電気代を請求しない電燈係として雇われるのでしょうか?

 まさか私が竹林を金鉱山に帰られる能力チートがバレているとか?

 この時代の金の価値は高値高騰している現代よりも更に高いのです。

 何よりも金の総量が少なく、希少性が高いのです。

 しかも(讃岐産を除いて)ほぼ全てが舶来産です。


 あり得る!

 金に勝る価値が私にあるだろうか?

 いや、ない!

 あるはずが御座いません!


 という事で、我が身が危なくなりましたらわいろで解決しましょう。

 ♪ ぽっくんは歩く身代金 ♪


 それでも駄目なら力業チートですが、天智帝に続き弟までもなんてことは避けたいですね。


 ◇◇◇◇◇


 入内の儀、初日。

 日が暮れて大人の時間となる頃、松明と護衛に囲まれた東宮様がお忍びで宮に来られました。

 賑やかすぎて全然忍ぶつもりはありませんね。

 初日は門までです。

 お婆さんが貢物を受け取り、東宮様は帰られました。


 そして二日目。

 再び、松明と護衛に囲まれた東宮様がお忍びで宮に来られました。

 二日目は屋敷に入り、お婆さんがお迎えしました。

 そして形ばかりの持て成しをして、東宮様はお帰りになられました。


 そして三日目、儀の本番です。

 東宮様を屋敷に招き入れお婆さんが餅を差し出しました。

 東宮様はそのお餅を食べ、そして私の寝所へとやってきて一晩過ごすわけです。

 ヤル事は一つですね。

 そこで私は東宮様を歓迎するため、寝室を光の玉でロウソクの明るさの半分くらいに照らしました。


「かぐやよ……少し暗すぎはしないか?」


 東宮様が古代ではありえない部屋の明るさに困惑しております。

 明るさで言えば豆電球1個という感じですね。

 しかも点光源ではなく360度に光の玉を分散しましたので影もありません。


「真っ暗とはいきませんが、流石に恥ずかしいですのでこれでご勘弁ください」


「何と言うか……、このような入内の儀は初めてだぞ」


「それは光栄に御座います」


「もしかして……私は警戒されているのか?」


 流石にバレますね。


「警戒と申しますか……その、私は東宮様と契りを交わすことが出来ませんので、せめてもの御持て成しをしようと思いまして……」


「どうしてなのだ?

 仮初めの入内と申したからか?」


「それも御座いますが、私は歴史に実在してはならない存在なのです。

 ましては歴史にその名を残す東宮様との子を為しましたら、神の規律によりその子は抹消されるでしょう」


「それは誠か?」


「建皇子が歴史に反して生き永らえる事を許さない『歴史の力』によって原因不明の病魔に襲われました。

 おそらくは私と私の子にも同じ力が働くでしょう。

 今、ここに居る事すら危ういのではないかと考え、幾つか手立てを講じているくらいなのです」


「そうなのか……。

 やはり其方は元の世界へと戻るのか?」


「戦が終われば神の御遣い様が夢枕に立って、これからどうするか話をして下さるとばかり思っておりましたが、未だに現れません。

 もしかしたら忘れてしまっているのではないかと思い始めております」


「ならば、ずっとここに居ればいいのではないのか?」


「ですがいつ神により送還になるのかも分からぬ身です。

 そして今現在、私は歴史の埒外に居る人物です。

 歴史の隙間に紛れるか、元の世界に帰るしか、道は無いと思っております。

 なので私が後宮に入ったとしましても、私の事は居ないものとして扱って頂きたいと思っております」


「そうか……それは分かった。

 私がそう言って其方には後宮に入って貰う約束をしたのだからな。

 だがな……」


 途中で会話が止まってしまい沈黙が続きます。


「だがな、其方と一緒に居るのは楽しいのだ。

 私だけではない、鸕野も額田もだ。

 十市も其方を慕っている。

 後宮の者達からも其方の帰還を待っているだろう」


「有難きこと居御座います」


「初めて其方に会った時、其方は幼き童女だった。

 しかし見掛けとは違い、その聡明さは並居る高官、しかも鎌足殿と内麻呂殿を相手にして一歩も引かぬ意見を具申していた。

 その姿を今でも忘れない。

 この童女が成長したのならどうなるのだろう、と思わずにはいられなかった。

 まさかあの時の童女が私を助け、今、目の前に妃となって現れるとはな……」


「不思議なえにしに御座います。

 しかし神託は東宮様を手助けせよと申されました。

 これは必然でもあったのでしょう」


「そうだな。

 だがこれから先、私はどうすれば良いのか。

 正直に言えば……怖いのだよ。

 兄上には鎌足殿という不世出の天才が傍に居た。

 兄上には人を惹きつける魅力カリスマがあった。

 私にはどちらも無い。

 どれほど取り繕ったところで、私が兄上を廃して帝の座を簒奪したことに変わりは無い。

 この様な私に誰が付いてこようか。

 だから、其方の力を借りたかったのだ。

 母上を支えてくれた『神降しの巫女』の力をだ。

 未来を知る其方の知恵を貸して欲しいのだ」


 気丈に見えた東宮様も今の状況はものすごく不安そうです。

 私への評価が実物を離れて過大評価が限界突破ぼうそうしております。

 藁にもすがる気持ちとはこのような状況を言うのでしょう。

 しかし藁は藁です。

 藁以外の何物でもありません。


「その様に持ち上げて下さるのは光栄にございます。

 しかしそれならばむしろ私はお傍に居ない方が宜しいのかも知れません」


「何故だ?!」


「天智帝は未来を”視る”ことが出来ました。

 しかしそれは視てしまった未来を避けることが出来ないという葛藤ジレンマを生みました。

 天智帝はそれに贖うことが出来ず、あのような凶行に走ってしまったのです。

 東宮様が同じ道を歩まれるのであれば、私はそれを止めなければなりません。

 止めることが出来ないのなら、私はこの地を去ります」


「待て! 待ってくれ!

 其方に離れられては私はどうすれば良いのか分からなくなってしまう」


 東宮様はそう言って私の腕を掴もうとしました。


(すかっ!)


 しかし東宮様は私の腕を掴めません。

 そう、目の前に居る私はチートで再現した私の虚像なのです。

 部屋を暗くしたのは、虚像の不自然さを見え難くするためだったのです。

 もし襲われても過剰防衛にならない様、虚像に相手をさせていたのです。


「これは……?」


「歴史を知る私が申します。

 東宮様はこの先多くの偉業を成し遂げられます。

 しかし殆どが道半ばとなるでしょう。

 大切なことはその志を後に残す事なのです。

 鎌足様は確かに不世出の天才でしょう。

 しかし東宮様の周りには頼りになる方がたくさん居られます。

 決して卑下することはありません」


 東宮様は呆然としたままです。


「かぐやよ……、やはり其方は私の元には参らぬのか?」


「舎人としてなら喜んで。

 しかし妃としての役目を負う事は出来ません。

 幻のような存在の私が為ってよい役目ではありません」


「本当に其方は幻の様な娘だな。

 いつまでも若く、いつまでも私を惑わせる。

 近くに見えながら、実は遠く離れたところに居る」


 ややもすれば告白にも思える言葉です。


「私は架空の人物です。

 皆様とえにしを結べたことが不思議なのです」


「やはり、私では届かぬのか……」


「東宮様は立派過ぎる御方なのです。

 私が届いてはいけない御方なのです」


「……そうゆうことにしておこう」


 こうして入内の儀、三日目は何事も無く終わりました。

 そう、何事も無くです。


 翌朝、『露顕(ところあらわし)』と呼ばれる祝宴が催され、婚姻が成立しました。


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