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讃岐(ふるさと)への帰郷・・・(3)

 12年ぶりの讃岐にて。

 かぐやの帰還と大願成就を祝い、評造こおりのみやっこの屋敷で飲めた歌えのドンチャンドンチャンの真っ最中。

 主役のかぐやは世話になった皆さんへと再会の挨拶と慰労のために走り回り、がぐやが去った後には眩しいピッカリ頭が咲き誇るのであった。


 ◇◇◇◇◇


【シマちゃんの場合】


「シマちゃん、お疲れ様。お手伝い有難う」


「あ、かぐや様。

 かぐや様こそ、配膳は私達に任せて座っていて下さい」


「いいのよ、この十年間姫様らしいことなんて一つもやってなかったから畏まっていたら肩が凝ってしまうよ」


「十二年前、吉備でかぐや様と離れ離れになって後宮に帰ったら、『もうお前たちの仕事は無い』と追い出されてしまったのですよ~。

 だからその後かぐや様が大変になったって事も人伝にしか聞けなくて心配で心配で……。

 今までずーっと音沙汰がなかったので、もう……半場諦めておりました。

 どうされてたんですか?」


「ごめんね、シマちゃん。

 あの後、帝と建クンと一緒に、筑紫の山奥にある宮に閉じ込められてしまったの。

 何度も命を狙われて……帝が亡くなり、建クンは父親の剣に斬られて亡くなってしまったの。

 私も冷たい海に落ちてもう駄目だと思ったところを助けられて、それからは戦の準備をしながら美濃に潜伏していたのよ」


「建様がそんな事に……!?

 お墓に入ったって聞いたので、何事だろうって思ってましたが酷いです。

 そんな父親なんてやっつけてしまえばいいのに!」


「ええ、今回の戦は建クンの父親(※天智帝)との戦いでもあったの。

 残念でしたが、天智帝の口からは最後まで建クンについて父親らしい言葉を聞くことは出来なかったわ」


 シマちゃんは私と次に建クンと一緒にいる事が多かったので、建クンへの思い入れも人一倍強く、建クンの不遇を嘆いていました。

 その建クンが不慮の死を遂げたと聞いて、心穏やかではありません。


「建様はずっとお辛い思いされたのですか?」


「……うん、筑紫を追われて難波まで来て、あともう少しで飛鳥という所で連れ戻されてしまったの。

 結局、船で脱出しようとしたところを待ち伏せされて……。

 その間、ずっと自分も辛いのに私の事を心配してくれて……(ぐずっぐずっ)」


 筑紫から逃亡した時の建クンとの旅は辛くて苦しくて、でも建クンとの掛けがえのない思い出です。

 心の奥深くにある大切な思い出です。

 それだけに痛みも深く、強く感じます。


「建様は……幸せだったのでしょうか?」


「ええ、神の御使い様が教えてくださいました。

 建クンは未来に生まれ変わったって。

 素敵で大好きな恋人と一緒になったそうよ」


「うわぁ~、まるでかぐや様の様な方と出会ったのですね」


 図星☆(ギクッ)


「え、ええ。きっと建クンのこだわりが強くて、頑固で、ちょっとだらしない所を好きになってくれる女子おなごと知り合って、結ばれていると思うわ」


「そうなんですね~。

 かぐや様がそう仰るのならそうなんですね。

 ちょっと安心しました~」


「それはそうとサイトウのお妾になるというのは諦めたのよね?」


「うん……、何度も何度も言い寄った(アタックした)のですが、駄目だって。

 おっとうも早く身を固めてくれって五月蠅うるさいんで、昔馴染みと夫婦になりました」


 この時代は子孫を残すことが男も女にも強要されます。

 それを現代の価値判断で断じることは出来ません。

 妾は駄目だとか、婚姻はお互いの気持ちが大切だとか、価値観を共有とかは、明日をも知れない古代では絵に描いた理想論モチです。

 もちろんそうゆう事が出来れば言う事無いのですが。


「サイトウも妾を取らずに意外と固いのね」


「いえ、それが浮気がバレて、憂髪さんにサイトウ様が家を追い出されたってこともありましたよ」


 何をやっているの、サイトウ!

 後でサイトウには念入りにピッカリの光の玉をぶつけてやりましょう!


【天の声】言っている事と違う!



【亀姫の場合】


「亀ちゃん、働き過ぎじゃない?

 少しゆっくりしたら?」


 亀ちゃんは宴会が始まる前からずっと率先して動いています。

 以前はお婆さんが切り盛りしていたのですが、年老いたお婆さんに代わって、亀ちゃんが家の事を切り盛りしています。


「かぐや様こそ、もう少しゆっくりなさって下さい。

 私はこうしている方が落ち着けますので」


「もっと人に任せてしまってもいいから。

 それに『かぐや様』じゃなくて『お姉ちゃん』って呼んでいいのよ」


 お爺さん、お婆さんの養女となった亀姫は、同じく養女の私と姉妹になった訳です。

 もっとも亀ちゃんはもう既婚者なので姫呼びはしませんけど。


「そんな畏れ多い事です。

 私にとってかぐや様は大恩人です。

 神降しの巫女様と姉妹だなんて、皆さんに怒られてしまいます」


「誰も怒らないと思うよ~。

 十年間、父様と母様のお世話をずっとしてくれたなんて、私は出来なかった事だから。

 養女になって六年で難波へ行ってしまったし、それからずっと家許いえもとを離れてたから、亀ちゃんの方がよっぽど親孝行ですよ。

 私は心配ばかり掛けて申し訳ない気持ちです」


「それは逆に御座います。

 かぐや様のご恩に報いようと、かぐや様に代わってお父様とうさま、お母様かあさまのお世話をさせて頂いたのです。

 源蔵さん達が何かやっている事は薄々ご存じの様子でしたが、ずっと我慢なさっていたのです。

 何もしないなんて出来ません」


「本当にありがとう。亀ちゃん。

 父様と母様が七十を過ぎても元気なのは亀ちゃんのお陰だよ。

 もしそうじゃなかったら私は罪悪感で耐えられなかったかも知れない」


「これからはかぐや様は讃岐でお過ごしになるのですよね?」


「ええ、そうしたいと思っているわ。

 でも暫くは呼び出しとかがあるんじゃないかな?

 ところで亀ちゃんの旦那さんてどなた?

 子供を産んだってって聞いたけど、旦那さんがどんな方か聞いていなかったの」


「え、ええ……。

 実はその……あそこに座っている方なんです」


 亀ちゃんが掌を向けるその方向を見てみると、数人の男性が居てその中の誰かみたいです。

 ……あれ?

 見覚えのある人が……。

 まさか?


「もしかして……シマちゃんのお父さ……ん?」


「ええ、そうなんです」


 ちょっと待って。

 亀ちゃんって、元は馬見の国造くにのみやっこの娘さんだったよね?

 そしてその国造が悪政をいたため、里長さとおさに降格になったのを機に元領民の皆さんに襲撃を受けて一家全員を失って……、その元領民の代表リーダーがシマちゃんのお父さん。

 つまり亀ちゃんにとって親の仇じゃないの?


「な……なんで?

 恨みとかわだかまりは無かったの?」


 すると亀ちゃんはほんのりと頬を赤らめながら答えます。


「最初は思う所はありました。

 私もあの人も……。

 だけど雑仕女の仕事を通してシマちゃんと仲良くなって、私の父のした事がどれほど酷かったか教えてくれたのです。

 だから讃岐へ帰った時にあの人にお詫びをしました。

 何度も何度も。

 でもあの人は怒るどころか私を天涯孤独にしてしまった事を悔いていて、逆に謝られてしまって……。

 それ以来何度も何度も話をしている内に……子供が出来ちゃいました」


 がくっ!

 途中までイイ話だったのに、結局はそれかーい!


 でもそうなると亀ちゃんとシマちゃんは義理の親娘?

 で、私は亀ちゃんと姉妹って事は……(血の気が引く音)。


 知らない間に私はシマちゃんの叔母さんになっていたの~?!

 何故だか無性に光の玉を連射したい気分になってきました。


「亀ちゃん、旦那さんにピッカリの光の玉を当てていいかしら?」


「かぐや様!

 十年ぶりに折角、髪の毛が戻ったので勘弁して下さい。

 お願いですっ!」


 亀ちゃんが私を羽交い絞めにして光の玉の発射を身を挺して止めました。


 はぁはぁはぁ。



【竹取の翁の場合】


「父様、母様、これまでご心配を掛けてごめんなさい。

 讃岐を護るためとはいえ、無事を知らせる事も出来なくて辛い思いをさせちゃって……。

 本当にごめんなさい」


「いや……いいんじゃ。

 かぐやはこの十年精一杯やって来たんじゃ。

 無事であったことを喜びこそすれ、悲しい事は何一つない……じゃ。

 じゃが、ワシも婆さんももう歳じゃ。

 隠居して、源蔵に全て任せて、これからは娘二人と孫に囲まれてのんびりするんじゃ」


「そうよ、かぐや。

 かぐやこそ辛い思いをしてきたって、秋田様が教えてくれました。

 何故今までそれを明かせなかったって事も。

 寶皇女様(※斉明帝の皇女時代の名前)を護ろうと必死に戦ったのでしょ?

 よく頑張ったね。

 今度、寶皇女様と建皇子様の陵墓へ行ってお参りしようか。

 私はかぐやを誇らしいって皇女様に報告するからね」


「母様……」


 斉明帝と建クン、そして間人はしひと皇女様が眠る陵墓は、讃岐から遠く、飛鳥から行くにしてもひと山隔てた向こう側です。

 もし歩けなかったら私がオンブして連れて行ってあげようと思うのでした。

 そしてもっともっと親孝行をしなければ……と、決意を新たにするのでした。



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