讃岐(ふるさと)への帰郷・・・(2)
古代の飲み会も現代の飲み会と変わりがないのでは、と思いながらお読みください。
12年ぶりの讃岐にて。
かぐやの帰還と大願成就を祝い、評造の屋敷で飲めた歌えのドンチャンドンチャンの真っ最中。
主役のかぐやは世話になった皆さんへと再会の挨拶と慰労のために走り回るのであった。
◇◇◇◇◇
【大伴吹負の場合】
「吹負様、此度の戦では大活躍でしたね。
村国様も少し嫉妬しておりましたよ」
「ああ、かぐや殿。
味方の被害を少なくするというのは分かるが、敵の死者を少なくするというのは手古摺ったぞ。
まったく村国殿は無茶難題を申されるものだ」
「しかし、吹負様の用兵のおかげで、讃岐の兵のは一人も欠けることが無く帰って来れました」
「そりゃあ相手の位置や数が丸分かりだったからな。
まるで鳥の眼から見たような地図のお陰で戦い易かった。
土地の名前だけじゃなく、山の高さとか木が生い茂っている森がどこまで広がっているなんてことも書いてあった。
弓だの鎧だのより、あの地図の方が余程怖い武器だと思うぜ」
「十年掛けて作りましたから。
地図の作成には御行クンも貢献してくれました。
私はあまり飛鳥方面へは歩き回れませんでしたので」
「そうだな、御行はよくやってくれた。
兄上も御行の成長には頗る喜んでいる」
「馬来田様はお元気ですか?」
「ん……ああ、あまり良くはないが健在だ。
今回は東宮様と共に経を読んでばかりだったから、不満も溜まっておろう」
「仕方が御座いません。
天智帝に顔を知られております方は、天智帝の異能の力で動きを知られてしまいますので。
おかげで私は父様、母様に会うことも出来ませんでした」
「本当に面妖な相手だったな」
「ええ、神の加護を受けている上に、この国の最高権力者ですから」
「だが、それもこれもかぐや殿のおかげだ」
「そんな事は御座いません。
私こそ一人では何も出来ませんでした。
皆さんのお陰です」
「はははは、逆もまた然りだよ。
我々がいくら集まろうと、かぐや殿無しには無しえなかった。
これは皆の者が全員そろって言うだろう」
「そんなにまでご評価いただき光栄です」
「本当に長い間、ご苦労だったな」
「ええ、長かったですが、どうにか間に合ったとも言えます」
「そうだな……間に合うと言えば、御行はどうか?
彼奴は昔からかぐや殿に卒根だ。
かぐや殿も遠に身を固めていい歳だし、御行なら良かろう」
(ピシッ)
チューン!
【源蔵の場合】
「源蔵さん、これまでありごとうございました」
「そんな畏れ多い。
姫様のためでしたらどのような苦労も厭いません」
「本当に苦労掛けました。
讃岐の兵士の練兵や武器の調達、それに助評として父様の代わりを務めてきたのですから」
「貧民の出の私をここまで取り立てて下さった評造様には大恩があります。
姫様が生きているのかすらもお教えできないのですから、見守り差し上げるのは当然の事です」
「それなだけに源蔵さんには負担を掛けてしまいました。
申し訳ない気持ちです」
「いやいやいやいや、そんな事は御座いません。
私一人でしたら大変でしたが、練兵は辰巳が引き受けてくれましたし、兵士のとりまとめはサイトウがやってくれました。
評造様のお世話は八十女が頑張ってくれましたから」
横には奥さんの八十女さんが座っております。
今は落ち着いておりますが、讃岐に帰ってきた直後は私にしがみついてギャン泣きでした。
私もでしたが……。
「姫様~、本当に良かったです。
源蔵さんてば私にも何も教えてくれなかったんですよ~。
だから姫様はお亡くなりになったとばかり思っていました」
四十を過ぎた八十女さんはすっかりオバさんです。
古代とは思えない程恰幅も良くなって、胸囲と胴囲はほぼ同じです。
”ふくよか”は古代基準の美人さんですね。
「それにしても姫様っていつまでも綺麗なんですね。
十年前と全然変わらずお綺麗です。
やっぱ、子供を産むと体形が変わっちゃうんですかねー」
「孫が生まれて幸せなのだからじゃないの?」
「そーなのよー、本当に可愛くってね。
かぐや様に差し上げても良いくらいです」
「おいおい、流石にかぐや様に失礼じゃないか?」
「でも姫様は小さい子を可愛がってくれますし、ウチの子たちはみんな可愛いですよ」
よく見ると、八十女さんの前には空になった缶が三個ほど転がっております。
かなり出来上がっているみたいです。
「姫様、本当に申し訳ありません。
ツレがお酒を飲むのはこれが初めてだと思います。
加減が分からなかったみたいです」
「いいのよ。
目出度い席ですからね」
「え、ええ……」
「そんなこと言ってぇー。
昔は姫様への愚痴ばーっか言ってたじゃないですかー。
無茶ぶりが過ぎるとか、ご自分の趣味に走りすぎるとか、幼い男の子が好きだとか、普段は温厚なのに怒ると見境がないとかぁー。
あははははは」
「いえ、その、あのですね……」
チューン!
【秋田の場合】
「秋田様、ようやく終わりましたね。
これまでお世話になり本当にありがとうございました」
「いえ、私の行動が姫様のためになったのであれば本当に良かったと思います。
姫様がこの世に現れてからのお付き合いです。
私は姫様の名付け親でもあるのですから、姫様のために動くのは当然の事ですよ」
「秋田様にはその時からずっとお世話になりっぱなしです。
何と申していいのでしょう……」
「姫様のお陰で私はこの世に生を受けた理由というものを見出せた気がします。
『五十にして天命を知る』という儒教の言葉の通りです」
「あれ? 秋田様はもうそんなお歳でしたっけ?」
「もうすぐですね。
私は姫様より十五歳年上ですから。
つまり……」
チューン!
「あら、ごめんなさい。
つい条件反射で」
「姫様~、酷いですよ。
先に歳を聞いたのは姫様ですよ」
「ごめんなさい」
チューン! (にょきにょき)
「何度これをやられた事か……。
ところで『条件反射』って何ですか?」
「そうですね……。
若き日の秋田様が女性のお胸に興味を持ち始めた頃は、もう少し視線が控えめだったと思います。
でもそれが何度も何度も何度も繰り返されることで、女性を見たら先ずはお胸に目が行ってしまうようになってしまった事ですかね?」
「……酷い例えですね」
「でも間違ってはいないと思いますよ。
もしかしたらお胸に視線が行く度に痛い思いをすれば、段々と視線を向けることが出来なくなるかも知れません。
やってみますか?」
「そんな勘弁して下さい。
私のささやかな趣味を奪わないで下さいよ」
「秋田様」
秋田様の言葉に横にいる萬田先生がぴしゃりと物申しました。
「ささやかな趣味とは何ですか?!
巫女達には秋田様の視線が気持ち悪いと苦情が来ているのですよ。
つい先ほどだって姫様のお胸に目が行っていたじゃないですか!
何が名付け親ですか!」
ええ、私も気付いていました。
本当に視境の無さに、自分の師匠であり名付け親である事が情けなくなってきます。
「萬田先生、やはり少し懲らしめておきましょうか?」
「ええ、姫様。
宜しくお願いします」
チューン!
「わわわっ!」
「ついでですから新しく開発した新技を萬田先生に施しますね。
新陳代謝を活性化させてお肌を若返らせます」
「本当?」
「ええ」
チューン!
「後で洗顔をして、お肌の原料になるお豆やお芋を食して下さい」
「ええ、ありがとう♪」
【サイトウの場合】
「サイトウ、ご苦労様でした。
源蔵さんからサイトウが裏方として貢献してくれたと聞いております」
「そんな大してたことはしておりません。
権蔵殿や辰巳殿に比べましたら私のしたことなど微々たるものです」
実際にサイトウは教養面での貢献が大きく、人や物をスムーズに動かすための裏方の仕事を一手に引き受けていたそうです。
元・総務部のOLとしてサイトウの貢献を無視することは、自分の過去の仕事を否定する事に他なりません。
「サイトウがやってくれた事って評価され難い事ですが、それを評価しないってことは心の盲目である事に等しいの。
誰にもできない素晴らしい貢献でした。
目に視えない所で頑張ったサイトウは本当によくやってくれたわ」
「本当にありがとうございます。
姫様にご評価された事で、自分のやってきたことが救われた気がします」
サイトウは涙を流し、感動しています。
ふと見ると横に居る憂髪さんも涙を流しております。
「姫様、御相談なのですが……。
もしお許し頂けるのであれば、私はこの地に神社を興そうと思います」
「神社……ですか?」
「はい、この地に舞い降りた天女様をお祀りしたいのです」
「天女……って私の事?」
「はい、他ならぬ姫様は神の御使いです。
神の御使い様を祀らない理由は御座いません」
「で、で、でも、そんな大層な物ではありませんし」
「いえ、大層な物なのです。
私は信仰を捨てて、家を飛び出した愚か者でした。
そんな私ですが、姫様に出会って変わることが出来ました。
もう一度、祭司としてやり直したいのです」
凄く真剣なサイトウに気圧され、つい曖昧な返事をしてしまいました。
「わ、分かりました。
だけど父様や源蔵さんと相談してね」
「はっ!」
「では姫様、この想いを心に刻むため、是非私の頭を丸めて下さい。
初心に帰りたいと思うのです」
「わ、分かりましたよ。もう!」
チューン!
【天の声】こうしてかぐやの行く先々で、輝くロードが出来ていくのであった。
周りの者達は、次は自分の番かと戦々恐々であった。
(つづきます)




