東宮様への謁見・・・(1)
元ネタはアリ○ミン、オ○ナミン、リ○ビタン、レッド○ル、です。
あとリゲ○ン?
※かぐや視点のお話に戻ります。
野洲川で美濃へと向かう大友皇子様と麻呂クン達を見送り、私は飛鳥へと向かいました。
本当はそのまま讃岐へと行きたかったけど、飛鳥京の岡本宮にいらっしゃる東宮様に謁見し、これまでの経緯についてご報告しないわけには参りません。
東宮様が帝に即位するためには、戦の準備段階から開戦に至るまでとか、戦がどの様であったのかを詳細に報告しなければなりません。
それに本人の意思を無視して一方的に高市皇子様を錦の幟に祭り上げてしまった負い目もあります。
ついピッカリの光の玉をぶつけてしまったし……。
私達は四日掛けて飛鳥京へと帰還しました。
私はまだマシですが、鎧兜を身に付けた兵士の皆さんはこれまでずっと戦のさ中だったので、疲労困憊のはずです。
光の玉を連射して、疲れた体に、元気溌剌、奮闘一発にして、翼を授けて差し上げました。
でも24時間は働かなくていいからね。
チューン!
◇◇◇◇◇
道中、村国様と話をする機会が多く、様々な話をすることが出来ました。
「村国様、此度の戦では大活躍でしたね。
軍師としてはご自分のやりたかったことが出来ましたでしょうか?」
「いやー、考えていた策の1/10も役に立たないままでした。
正直申しまして、もっと苦戦することを想定していたのですが、近江の軍勢内部があまりに腐敗していて、戦わずして敵が自滅してしまった様な感じですよ」
「しかし自滅させたのも兵法のうちですよね?」
「もちろん内部分裂を狙った策はしました。
しかし身内同士で殺し合うとか、指揮官が逃げ出すとか、兵法の書にも書いていないようなことばかりだったのです。
むしろ私はこの先の国の行く末が心配になりました」
「だけどそのおかげで死傷者は予想より少なかったですから、文句は言えませんよ」
「ですが不満くらいは言わせて下さいよ。
十年間準備してそれを思う存分使いたかったのですよ。
打った刀は余るし、鍛え上げた馬術が役に立ったのは一回だけでした」
まるでテスト範囲の勉強をやったのに、出題されたのはちょっとだけで文句言っている学生みたいです。
「それでも、天智帝には十分な圧力になったみたいでした。
四百年後、国を支配する武士の姿を見せることが出来ました。
今後の国の在り方を知る貴重な機会でした」
「確かに今の時代にあの戦力は反則と言っていいかもしれないね。
武器も防具も敵を凌駕していました。
射程外から矢が飛んでくるだけでも敵にとっては厄介だと思う。
だから私は矢を多用する戦術を指示したし、十分な量の矢を用意させた。
だからと言って兵士の数は敵の方が優位だったはず。
もし全力で来られたら苦戦は必至だった」
「それにつきましては麻呂クンを経由して物部氏の従者から送られてきた大友皇子の情報が役立ったのでしょう。
勅命の不備を国司に指摘するような噂話を流布したり、援軍要請の使者の足止めが出来ましたから」
「それはそうなんですけどね。
大友皇子様のご協力は未だに不思議です。
帝の未来視の中で説得なんて出来るはずもありません。
つまり皇子様が単独で自らのお命を危うくするご決断をされたいたのかと思いますと、賢帝の資質がおありではなかったのではないしょうか?」
「そうかも知れません。
だけどそれは終わってしまってからこそ言える事です。
それに歴史を守らねばならないという神託もありましたから」
「まあそうですね。
今回の戦はご神託から始まった戦いでもあります。
これでかぐや殿のお役目も終わりという事でしょうか?」
「そうですね……。
終わって欲しいと思います。
でも……」
「どうかしたのですか?」
「い、いえ。終わったはずです。
気掛かりがあったので片づけておこうかと思っただけで……」
あるべき歴史を守るという神託は多分実行できたはずです。
だけど、麻呂クンから子安貝を貰うまで忘れておりましたが、ここは『竹取物語』の世界なのです。
とすると残りの一人からの求婚があるかも知れません。
残りの一人とは御行クン。
この十年間、御行クンとは何をするにしても一緒でした。
彼無しにはここまで出来たとは思えません。
不平の一つも溢さずに、本当によくやってくれました。
初対面の悪ガキだった面影は欠片もありません。
私もいいトシだし、もし御行クンが求婚しようっていうのなら受けてあげてもいいかも知れないとも思うようになりました。
御行クンから受けた恩は簡単には返しきれないくらいです。
ただあのむさ苦しくて暑苦しいのがずっと続くとなると少し考えてしまいそうですが……。
それにすっかり忘れた感がありますが、この世界は『竹取物語』の中なのです。
物語の最後は、かぐや姫が月の都へと帰るわけです。
もしかしたら現代に還れるのかも知れません。
お爺さんお婆さんと一緒に現代へ行けないかとか、建クンの転生である高志と再会できないかとか、月詠様に交渉出来ないかしら?
それとも『其方にはもう用は無い』と、ペッと捨てられたり、能力没収の上、仕送り停止になったりするのでしょうか?
いわゆる追放モノですね。
まあ、それはそれで仕方がないのかも知れませんが、今のうちに竹を黄金に代えて蓄えておこうかしら?
「どうしたのですか?」
「あ、いえいえいえ。
これまで色々あったなぁっと思って、少し呆けてしまいました」
「そうですね。
ですがこの十年間は私にとって忘れえぬものになるでしょう。
本当に四百年後の戦がどのようなものであるかを考えて実現できたのですから。
書だけでは分からない事を思う存分実行できました。
もうこのような事は二度と出来ないでしょう。
そう思うと少し寂しいですよ」
「だけど村国様は此度の戦で軍師としてご活躍されましたし、昇進もあるのではないのですか?」
「どうなのでしょう?
一度もお目見えしていない上司にこれから会いに行くわけですが、何と言われるのでしょうね?」
「東宮様の事ですから、キチンとご評価して下さると思います。
私からもありのままに余すところなく村国様の貢献を報告しますので」
「それは嬉しいけど、君は自分の貢献をあまり言わなさそうな気がする。
それも忘れないでくれよ」
「私は神の御使いの方に訴えますので大丈夫ですよ」
「それはそれで褒美が楽しみだ」
「ええ、本当に何と言われるのか……」
◇◇◇◇◇
四日後、私達は懐かしの飛鳥京へと凱旋を果たしたのでした。
鎧兜に覆われた軍勢はとても目立ち、誰が帰還したのかは一目瞭然です。
飛鳥中の人々が街道を埋め尽くしそうなくらい集まって迎え入れてくれました。
飛鳥京の防衛のため落としてしまった川には仮の橋が掛けられていて、ここだけは戦後という感じがしました。
しかし飛鳥京そのものには被害はなく、見慣れぬ兵士があちこちに立っていた以外に戦らしい雰囲気は無かったみたいです。
飛鳥京へと入場した私達は岡本宮の大広場へと通され、東宮様との謁見の場が設けられました。
約千人の兵士達が一斉に傅きます。
大殿から姿を見せた東宮様の頭は見事な程ピッカリでした。
そう言えば出家したのでしたね。ナンマイダー。
最後にお会いした三十そこそこだった大海人皇子様も今や四十を過ぎて、渋い中年です。
横には高市皇子様もいらっしゃいます。
「面を上げよ!」
皆が一斉に顔を上げます。
規律の行き届いている軍隊ですので、一糸乱れぬ行動はお手の物です。
その様子に少しだけ東宮様が引いたような気がしました。
そして東宮様は私達全員に届くよく通る声で兵士達に演説をしました。
「皆の者、動くことが出来なかった私に代わり、よくやってくれた。
礼を言う。
皆の者のお陰で戦は終わった。
だがこれから先は敵も味方も無い。
一つに纏まり国を盛り立てていく。
其方らにはそれを妨害する者達を防ぐ盾としての役目を期待している。
報償については追ってしらせる。
先ずは身体を休め、鋭気を養ってくれ」
「「「「「はっ!」」」」
千人以上の兵が発する「はっ!」の圧はちょっとした武器だと思う程の返事です。
ここに居る兵士達は田舎では田畑に入って稲を育てる農民で、本来であれば帝(?)に謁見することは叶わないでしょう。
直接お目通りするだけでも異例な事です。
それだけ東宮様は兵士達に対して感謝しているという証なのだと思います。
謁見が終わり、私と村上様は東宮様の待つ部屋へと通されたのでした。
(つづきます)




