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チート幼女の農業改革・・・(4)

農業系のお話は難しいです。


 秋田様と衣通姫が讃岐に滞在して早十日。飛鳥は混乱が続いているでしょうが、ここはまだ長閑のどかです。

 本日は来客がありました。萬田先生と巫女さん達、一緒に舞を舞った仲間です。


「姫様、ご無沙汰してます。お元気そうて何よりです」


「皆さんも大変そうでしたけど、大丈夫でしたか?」


やしろでは皆不安でした。

 氏上うじのかみ様は帝の御用命により美濃国へ出立され、ご長男の佐賀斯さかし様がやしろの留守を守っておられます。

 私達は夏越なごし大祓おおはらえ(※)が終わるまでは離れるわけには参りませんでしたので、ようやく来られるようになりました」

(※作者注:一年の丁度半分にあたる六月三十日に身に溜まった穢れを落とし、残り半年の息災を祈願する神事、十二月三十日に行うのが年越しの大祓)


「いつまでいらしても宜しいので、ごゆるりと過ごして下さい」


「姫様、暖かい心づかいありがとうございます」


「皆さんも第二の我が家とお思いになってゆっくりして下さい」


「「「「「はいっ」」」」」


 ◇◇◇◇◇


 夏越の大祓が終わったという事はもうすぐ七夕(旧暦七月七日)なんですね。

 七夕を祝う風習は飛鳥時代には既にあるらしく、乞巧奠きっこうてんの名で機織りの技能向上をお祈りしてお供えしたり、宴を催したりするまつりの日となっています。

 要は、今宵は七夕だから飲むぞーって感じなのかしら?

 ♪ 酒が飲める飲める飲めるぞ、酒が飲めるぞ~♪


 例によって例の如く、秋田様がお貸し下さる難しい本と真面目な本の間に挟んであった書物の中に、年に一度逢瀬を愉しむ牽牛星(彦星)と織女星(織姫)のお話がありましす。

 残念ながら、彦星視点で書かれたその話はちょっとガツガツし過ぎて今ひとつ感情移入できませんでした。

 まあ年に一度ですから……。


 庶民の間にも七夕伝説は広まっていて、どちらかと言えば世間的に織姫の方が好かれているみたいです。

 機織り職人さんの神様アイドル的な立ち位置の織姫と平民うしかいの彦星との身分違いの恋愛が庶民受けして、広く慕われているという話でした。まるで……

 ローマの休日?

 カエルとお姫様?

 桃姫と配管工兄弟??

 ……みたいな。


 しかし笹に短冊をぶら下げて祝う風習は紙は貴重品ですからまだないみたいです。

 でも讃岐は竹の産地ですし、竹製の短冊を笹にぶら下げて笹飾り作ってやってみようかと思ったのですが、もし願い事を書かせても庶民の夢は、食べ物、無病、長寿の何れかですね。

『蹴鞠選手《Jリーガー》になりたい』なんて書いたら、最低でも1348年も長生きしなければなりません。……という事でやっぱりヤメです。


 でもまあせっかく巫女さん達が讃岐に滞在しているので、舞台を設置して七夕の日に舞を披露する事にしました。

 正月の宴は警備の都合、豪族や氏族の皆さんのみの宴で庶民の立ち入りは禁止でした。

 しかし今回は領民の皆さんに楽しんでもらうため、そして巫女さん達も練習ばかりでは張り合いが無さそうなのでお披露目する機会があった方が良いかなという配慮から提案してみました。

 舞子ダンサーは沢山いますが、音楽ミュージシャンは笛が得意な巫女さん一人だけの細やかな舞台ステージです。


 しかし! 今回、私は何もしません。

 私も学びました。

 幼女が大人気もなく大人の話に首を突っ込めば面倒事トラブルの元になる事を。

 なので今回は提案をするだけで、何もせず見守るだけです。


【天の声】もはや様式美マンネリだな。結果も見えてきた。


 舞子しゅやくは巫女さん達に丸投げです。

 舞台のコーディネートは萬田先生に丸投げです。

 企画運営プロデューサーは秋田様に丸投げです。

 コマ使いに源蔵さんを付けます。

 舞台の設営は猪名部さんに丸投げです。

 お爺さん、ATM宜しく〜。



 ……で、七夕当日。


 私は正月の宴で着た朱色の裳の巫女衣装を纏って舞台に立っていました。

 舞台袖の貴賓席にはお爺さんとお婆さん、衣通姫が陣取っています。

 約千人の領民の皆さんが仮設の舞台をぐるりと取り囲んでいます。

 これでは逃亡も許されません。

 どうやら大人の話に突っ込んだ首が抜けなくなってしまったみたいです。


「姫様〜」

「かぐや様〜」

「ありがたや、ありがたや」

「キャーカワイイ〜」


 いつの間にか領民の皆さんにとって、いつでも会いにいける姫様アイドルとして認知されたんですね。

 そんな立ち位置にある私を目敏い秋田様が見逃すはずがなく、敏腕カリスマ振付師である萬田先生が三つしか無い持ちネタの舞をバリエーションをつけて7つまで増やし、ほぼ出ずっぱりです。

 私は中央センターで扇子を持ったり、神楽鈴を持ったり、榊を持ったりして、同じ振りで舞います。

 他の巫女さんはセンターを盛り立てる役に徹しています。

 まるで持ち歌の少ない地下アイドルになった気分です。


 これだけ舞台ライブが盛り上がれば販促品が飛ぶ様に売れそうな気がしますが、領民の皆さんにそんな購買力があるはずも無く、代わりにお粥を振る舞って更に盛り上がりました。

 ドリンク付きかっ!


 アンコールは二回で勘弁して貰いました。


 まあ娯楽の少ないこの世界で、楽しいと思えるひと時を与えられたのだから良しとしましょう。


 ◇◇◇◇◇


 そんな日々を過ごしているうちに季節は実りの秋を迎えました。

 しかし私の知らぬ間に、田んぼがとんでもない事になっていたのでした。


『光り輝く竹の中に三寸ばかりの美しい娘がいた』

 御伽草子『竹取物語』にこう書かれていました。

 身長9センチの子供から見れば、きっと何もかもが大きく見えるでしょう。

 正に今、目の前のすごく巨大な稲が穂をつけ、進撃されそうです。私の身長が一尺(30センチ)しかないのか、という錯覚に陥ってしまいました。


「太郎おじいさん、稲、大き過ぎない?」


「はて? 毎年こんな物です」


 ほっ……私が幼女だから周りが大きく見えるだけではなかったのですね。飛鳥時代の稲はとても背が高くて、太郎お爺さんの背丈と同じくらいあります。

 藁も大切な生産物プロダクツですし、少しでも雨が降れば湿田の中の稲は水にとっぷりと浸かってしまうため、これくらいの高さが必要なのかも知れません。しかしせっかくの栄養が藁に取られてしまっている様な気もします。

 今後の検討事項に加えておきましょう。


 それにしても稲刈りで足元が泥濘んでいると作業の効率が宜しくありません。田んぼに入る水を堰き止めて、田んぼから用水路へ出る排水を良くするため溝を掘って貰いました。晴天が続いたお陰で半月もすると田んぼの表面が乾いて、土の上に立てるくらいまでになりました。

 ……という事で稲刈りですが、さすがに幼女の私に刃物を使う稲刈りはさせて貰えませんでした。

 太郎さんファミリーが稲刈りしているのを見学です。


「太郎おじいさん、どう?」


「これは今までに見たことがないくらい豊作です。

 他の田んぼはいつもと変わりがないんで、田植えの効果で間違いないです」


「そうなの?」


 一緒に稲刈りをしている息子の太郎さんが解説してくれました。


「姫様、稲の中に紛れ込んでいるノビエが稲の育ちを悪くするんですよ。

 ところがこの田んぼは、苗を整列して整列して植えたから、ざっそうを取り除き易かったんです。

 おかげで稲の穂のつき方がとても良く、たくさんの収穫が見込めそうです」


「そうじゃな。それに植える時は手間でしたが、雑草取りも稲刈りも楽だ。

 こんなに楽に稲刈りが出来るのはありがたい。

 来年は他の田んぼでもぜひやるべきでごぜえます」


 太郎おじいさんも大絶賛です。来年に向けて必要な数の苗箱を揃えておく様、数を確認しておかなきゃ。


 次に行ったのはゴン蔵さんの田んぼです。

 白米、赤米、黒米の三色の田んぼの稲刈りをしていました。


「キレイな色の田んぼ」


「おや、姫様」


 源蔵さんが父親のゴン蔵さんと一緒に稲刈りをしていました。

 私のお供として一緒に来た八十女やおめさんは心なしか嬉しそう。


「源蔵さん、お米どう?」


「見た目は色が明らかに違いますが、白い米の田んぼは全部が全部白じゃなさそうです。どこか間違ったのでしょうか?」


 あー、多分赤米の遺伝子が強いのかな?

 何とかの法則(※作者注:メンデルの法則)とやらで、白米の遺伝子は劣性というモノなのでしょう。

 無理矢理白い米を作らせて収穫量が減ったり病気で全滅してしまっては、収穫量を増やしたいという目的に反してしまいそうです。

 お爺さんと相談して、ブランド米化を考えるか、国造直轄の田んぼに限定するとかして考えましょう。


「白い米の田んぼの中で獲れた種籾から、また白い種籾を選んで来年もやる。

 再来年もその次もそのまた次もやって、全部白くなるまで続ける」


「わかりました。その様にします」


 水を徹底的に抜いて乾かした田んぼは作業がし易く、泥濘ぬかるみで四苦八苦している他の田んぼを尻目に、私達の作業はどんどん進んでいきます。

 一緒に視察に来た秋田様も田植えの効果を改めて感じたみたいです。


「本当に稲作というものは奥が深いものですね。今まで当たり前だと思っていた事が、やり方を変える事でこんなにも変わるとは思いませんでした」


「そう、諦めたらそこで試合終了」


「一体何ですか? それは」


「気にしない」


 もはや様式美ですね。しかし私達の戦いはまだまだ続くのです。

 太郎おじいさんに籾をどうやって落とすのか聞いたら竹を使ってやると言ってました。

 具体的にやって貰ったのですが、一つ一つの穂を細い竹の管に落とすという、何日掛かるのか分からないくらいチマチマした作業でした。

 という事で千歯扱きの作製に取り掛かりました。

 猪名部さーん、出番でーす。


 公民館の郷土資料室で見た千歯扱きの歯は金属だったはずですが、飛鳥時代では鉄は高価なので竹で代用します。

 脱穀で大切な事は、一粒も無駄にしない事です。

 太郎おじいさんと猪名部さんが話し合いをしながら、籾が飛び散らない様に工夫を凝らして貰いました。


 少しでも農作業を効率化すれば、将来労役でみやこに引っ張り出されて農作業が出来なくなっても、お互いに助け合って収穫量をキープ出来るのではないかと期待しています。

 いつの時代の施政者エライひとも、庶民の暮らしを何も知らずに話し合って決めてしまうものです。

 五十年後に完成する律令制度も庶民の生活を知らない朝廷が決めて、重税に苦しむ農民の逃亡が相次ぎ、遠からず方針変更を迫られます。


 でも偉そうなことを言っていますが、飛鳥時代も現代もあまり変わりはありませんし、官《お役所》も民《企業》も似た様なものです。

 勤めていた会社で、工場のたたき上げのオジサンがボヤいていました。

「工場の製造工程を話し合う会議で、実際の製造現場に入ったことがある出席者は俺一人だったんだよ。一回くらい現場なかに入ってから何か言ってくれよ」


 本当に進歩がありませんね。



古代の稲や小麦は背が高かったそうです。

なので隠れてあれやこれやが出来たそうです。

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