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車持皇子!?

まさかの求婚者、二人目?


 秋田様と衣通姫が讃岐に滞在して早七日(いっしゅうかん)

 飛鳥は混乱が続いているでしょうが、ここは長閑のどかです。

 衣通姫とは日時計と毎日の記録を一緒にやって、時々領内の田んぼの視察へも行きます。


 それにしても……時期が時期だけに仕方がありませんが、護衛さんがズラリと揃って領民の皆さんを威圧するのだけは勘弁して欲しいです。

 案内役の太郎おじいさんなんか、思わずジャンピング土下座を始めてしまったくらいです。

 次はどんな土下座を決めるのか期待してしまいそうです。


 私が田植えした田んぼも自慢しました。

 秋田様もこれには驚いていたみたいです。

 人工的に整然と並んだ稲の列は明らかに従来の田んぼとの違いが際立っていて、これぞ栽培!という感じがします。


「かぐや様、この田植えというのは何処で習ったのですか?」


「習ってない。稲作やったことが無いから」


「習って居ないのに知っていたという事でしょうか?」


「見ただけ。やってみたら上手くいったの」


「そんな無茶な…」


「頑張ったのは太郎おじいさん」


「まあ、良いです。ところで何か臭いますが何ですか?」


「見ない方が良いよ」


「そう言われると気になるのですが……」


「じゃあ、こっち。衣通様はここで待ってて」


「分かりました」


 衣通ちゃん素直。質問攻めの秋田様に悪戯心が湧き上がります。

 ふふふふ。


「秋田様、あの建物」


 竹と藁だけで組んだ簡素な建物で、ピッカリ軍団のサイトウが堆肥の撹拌の真っ最中です。


「すごい臭いです。何ですか?」


「行って見れば分かる」


「何なんでしょう?

 ………!

 糞?  ひょっとして糞ですか?」


「そう、人の糞尿」


「なんて事をやっているのですか!」


「堆肥という畑の栄養」


「あれが栄養なんですか? 一体どこが?」


「粟畑で試したら、育ち方が全然違った。太郎おじいさんもビックリしてた」


「その粟は食べられるのですか?」


「あそこでかき混ぜているのは臭いを無くすため。

 時間が経つと糞尿のニオイは消えるの。

 かき混ぜると臭いが消えるのが早くなる。

 臭いが消えたら残るのは土の滋養」


「何と……その様なことまで」


「同じ広さでたくさんお米が穫れれば民も国も豊かになる。

 この情報を欲しがる所には防衛や交易で協力して貰う。知識も力になる」


「なるほど。これを教えて貰えば耕地が増えたのと同じなのか。

 是可否でも欲しい情報ですね」


「大切なのはもっと増やし続ける事。新しい事をどんどん始める。

 私は五倍にしたいと思っている。これで満足しては駄目」


「そんな無茶な!」


「諦めたらそこで試合終了です」


「しあい? しあいって何ですか?」


「気にしない」


「はあ……」


 秋田様は色々と聞きたいことも在るでしょうけど、引き際を知っているので話し易いですね。


「それより秋田様に教えて欲しい事がある」


「何でしょう?」


くるまってあるの?」


「くるま、ですか?」


車持くるまもち氏がいるという事は車があるのでしょう?」


「あ、ああ成程。そういう事でしたか。

 かぐや様も見たでしょう。与志古よしこ夫人が乗って来たあれが車です」


「あれって御輿?」


「はい、輿を車というのです。そもそも与志古夫人が車持氏のお方ですから」


 え?

 ………ええ?

 ええええぇぇぇぇ〜〜〜!


 ちょっと待って。与志古夫人が車持氏でその子供の真人様が皇子のお子様?

 という事は真人クンが車持皇子なの!?


 待って待って待って!

 落ち着いて、落ち着け、落ち着くのよ!


 確か車持皇子は中臣鎌足様の息子の藤原不比等のはず。

 でも通説では、なのよね。

 車持皇子が何故藤原不比等なんでしたっけ?

 理由忘れちゃった。だって私の卒論テーマはそれじゃないから。

 えーっと、えーっと、えーっと。まずは落ち着きましょう!


「ちょ………ちょっと失礼します」


「どうしたんです?」


 目を瞑って自分に向けて赤外線の光の玉を連打します。

 チューン! チューン! チューン!

 チューン! チューン! チューン!

 チューン! チューン! チューン!

 チューン! チューン! チューン!


 よし! 整理しましょう。

 ・与志古夫人は車持氏のお方。

 ・その息子、真人クンは車持皇子の資格を十分に持っています。

 ・『竹取物語』に出てくる車持皇子は中臣鎌足様の息子、藤原不比等。

 ・でもあくまでそれは通説。

 ・中臣様は『息子ができたら求婚させる』と言っていたから、まだ藤原不比等は産まれていない。


 うーん、分かんない。

 もしかしたら全く違う人が車持皇子として現れるかも知れませんし、現れない可能性だってあります。

 でもあんなに可愛らしい真人様が女好きの求婚者ストーカーになったらお姉さん悲しいわ。

 悲しみのあまり、光の玉をぶつけて頭をピッカリにしてしまいそう。

 とにかく中臣様と帝に近い人に近づくのは止めましょう。


「か、かぐや様、どうされましたか?」


「え、はい。ごめんなさい。少し予想外だったので。

 じゃあ、重い荷物を運ぶ車は無いの?」


「私も良くは知りませんが、二枚の丸い円盤の板をコロコロ転がしながら荷運びに使う台ならば見た事が御座います。百済から来た方が使っていました。

 かぐや様はそれが必要ですか?」


「手に入れて同じ物を作りたい」


「また急にどうしてですか?」


「重い荷物を楽に運べると遠くまで運べる。

 逆に遠くの物がここまで運べる。

 他所よそと色々な物と交換すれば生活が豊かになる。

 車があると便利」


「成程、少し調べてみますね」


「お願い」


 ああ、何かもう疲れてしまいました。

 中臣様の事件より今日の出来事の方がよっぽど衝撃的でした。

 今後は真人クンも求婚者候補として警戒対象に加えましょう。


 でもあんなに可愛い子なら、お姉さんは籠絡されちゃうかも?


 ◇◇◇◇◇


 衣通姫とはお日様が出ていたら日時計チェックを欠かしません。

 意外にも衣通姫は日時計にハマっているのです。


「本当に影の長さが動いているのですね。毎日見ているはずのお日様にこんな秘密があるとは思いませんでした」


「世の中は知らない事がいっぱいです。だから楽しいのです」


「かぐや様にも知らない事があるのですか?」


「知らないことばかりです。だから書を読んでいるのですよ」


「かぐや様は秋田様ですら知らない事を知っているから、本当に凄いですね。私なんて何も知らなくて恥ずかしいです」


「知らない事は全然恥ずかしくありません。知ろうとしない事が恥ずかしい事なんですよ。ですから私は衣通様の事を恥ずかしいと思った事はありません」


「そうおっしゃって頂けると私も嬉しいです。かぐや様もこれからもっと私の知らない事を教えて下さいね」


 おぉーっと。衣通ちゃんから知らない(大人の)世界へのお誘いをお願いされてしまいました。

 ここは趣味の本(うすい書)の読み合いから、文学系(腐)女子会への誘いするべきかしら。

 手取り足取りお教えしますわ。


【天の声】止めなさい!


 まあそれは何れやるとして、衣通姫は天体に興味があるみたいなのでそちら方面の話をしてみました。

 こちらの世界に来てからずっと思っていたのですが、この時代の星はとても綺麗なのです。

 空気が澄んでいるし、今のこの身体は視力も良くて星がクッキリと見えます。

 天の川が本当に河の様に流れて見える星空は、何度も見た今でも感動を覚えます。

 あまり夜更かしは出来ませんが、星を見るのはこの世界に来てからの興味の一つでもあります。


 日が暮れて星が見える時間に外に出て、北斗七星しちけんぼしのスケッチをしたり、赤い火星けいわくを探したりして天体観測を楽しんでいます。


 他にも地球が丸い事。

 地球が太陽の周りを周っている事。

 地球が1日1回転回っている事。

 月は地球の周りを周っている事、など。

 現代では小学校で習う理科のお話をしたりして、天体の理解を深めました。


 えーっと、水金地火木ドッテン快晴……でしたっけ?



前話の『その時歴史が動いた!』で忌部首の氏上(うじのかみ)様の名前が初めて出ましたが、当時の記録に残るお名前を拝借しています。

これまで投稿した話も随時修正します。

また、これまで衣通姫は氏上様の孫としていましたが、娘に変更しました。

ストーリーの上では特に変化はありません。


この先も、忌部氏の方々のお名前(実在)をお借りした登場人物が出てくる予定です。

個人的見解ですが、忌部氏(後の斎部氏)が御伽草子『竹取物語』の成立に関わっているのでなはないかと考えています。

ちなみに衣通姫はオリキャラです。

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