天智帝誘拐……(1)
いよいよこれまでの経緯や謎が明らかになっていきます。(……の予定)
※三尾城跡にて、主人公視点の話がしばらく続きます。
村国様から私に向けての指示は特殊急襲部隊の結成。
そして天智帝の誘拐です。
大津宮に居る草からの情報で、天智帝は山崎宮へ移送されるとの事です。
山崎と言えばウィスキーの美味しい所ですね。
この世界に来てからお酒を飲む機会が無かったので、一度は飲んでみたいものです。
元カレの高志は下戸でしたので、一緒に飲む機会が無かったですし、エンゲル係数の寄与しないお酒にお金を払うのにも多少抵抗がありました。
しかもお酒代は税金の塊です。
20%~40%が酒税で、しかもその上に消費税がさらに加算される訳です。
小売店に文句を言うのは筋違いですが、やはり納得はいきません。
それに比べれば、古代のお酒には税金が一切掛かっておりません。
きっと心置きなく飲めるのではないでしょうか?
おそらくですが、古代の山崎にはウィスキー工場はありません。
あるのは孝徳帝が遺した山崎宮、そこへ帝を退位した天智帝が戦火を逃れて避難するそうです。
私達はそれを先回りして、拐そうとするわけですね。
村上様からは、比羅夫様を仲間に加えるよう指示がありました。
ただし大きな問題が一つ。
三尾から山崎へ向かおうとすると、どうしても大津宮の傍を通らなければなりません。
しかし千人規模の軍勢が通る訳ではありません。
私と比羅夫様、そして羽田様と護衛三人の全部で六人だけです。
まるで魔王に挑む勇者パーティーみたいな構成ですね。
六人は飛鳥京へ戻る駅馬の後ろに馬で付いていって、大津宮を通り抜けしました。
鎧兜を着用しておりませんので、特に咎められることなくすり抜けです。
ちなみに私も稽古をしましたので馬に乗れます。
こんなこともあろうかと……というアレです。
情報では天智帝を乗せた輿は既に出発しているという事でしたので、追いかける形となりました。
◇◇◇◇◇
翌日。
私と比羅夫様が、輿を中心にした行列の前に立ちはだかります。
先手必勝、光の玉で行列に攻撃をします。
チューン! チューン! チューン!
チューン! チューン! チューン!
チューン! チューン! チューン!
チューン! チューン! チューン!
比羅夫様が強弓で行列に向かって矢を放ちました。
キューン! キューン! キューン!
キューン! キューン! キューン!
キューン! キューン! キューン!
ぱたぱたと行列の護衛達が倒れていきます。
しかし行列は三十人以上いましたが、街道脇にはその何倍の伏兵が隠れていました。
雨の様に矢が降ってきます。
比羅夫様はそれを刀で往なしますが、数が多過ぎます。
何本かが肩に突き刺さりました。
「うぐっ!
失敗だ! かぐや殿。一旦下がるぞ!」
多勢に無勢、敵の圧力に負けて退却しました。
しかし矢の雨は止むことが無く降り注ぎます。
私は矢を受け、ばたりと倒れました。
「かぐや殿ぉー!」
そして私の姿はすぅっと消えてしまいました。
そう、これは人の姿をした光の人です。
敵が呆気に取られています。
今がチャンス!
五人の私が幽霊みたいにすぅっと現れて、敵陣に突っ込んで行きました。
そして光の玉をチュンチュンと放っていきます。
それを見た比羅夫様も肩に刺さった矢を引き抜き、再度突撃しました。
チューン!
矢を受けた傷はあっという間に治療です。
私達の持つ最大戦力のツートップ(?)による、天智帝の行列への襲撃が続きます。
五人の私は縦横無尽に駆け回り、光の玉を放ち、彼方此方で敵の兵士達が倒れていきます。
「敵は屋根の上だ!」
敵護衛団の団長らしき人が声を張り上げました。
そして街道脇の伏兵が矢の、屋根の上に居る私に向けて一斉に矢が放たれました。
平地と違って逃げ場はありません。
何本の矢をまともに受け屋根から落っこちていきました。
それと同時に五人の私はふっと消えました。
「かぐや殿ぉー!」
今度こそ比羅夫様は私の落ちた方向へと駆け出し、撤退しました。
一方、天智帝の行列は倒れている人達をそっちのけで、そのまま進んでいきました。
◇◇◇◇◇
比羅夫様、ごめんなさい。
天智帝の未来視の力で比羅夫様を通して計画が漏れてしまうので、比羅夫様には偽の計画をお教えしておりました。
先回りに成功した私達は、私と比羅夫様とで護衛を無力化して、天智帝が担がれている輿を強奪するという無謀な計画(仮)を立てました。
そんな無謀な計画でも私と比羅夫様なら成功するはず……そう言って、天智帝の行列を強襲したのです。
比羅夫様には私が通りを見下ろせる屋根の上から私の分身を操るので、私に構わずに戦って下さいと言ってあります。
勿論、比羅夫様の横にいる私も光の人だと分かっています。
結果は先ほどの通り、見事に待ち伏せを待ち伏せされて返り討ちにあいました。
やはり天智帝の未来視に引っ掛かったみたいです。
私の隠れ場所もバレていました。
ただし比羅夫様に教えた嘘の場所です。
比羅夫様には私に何かあったら、吉野へ向かい、大海人皇子様と鸕野皇女様を守って頂くよう言ってあります。
今頃は吉野へと進まれているでしょう。
吉野の鸕野皇女様には今回の作戦の事が伝わっているはずですので、偽情報である事を後で知る事になるはず。
敵の未来視を逆手に取るためとはいえ、騙してしまった比羅夫様には申し訳なく思います。
後で一生懸命、謝っておきましょう。
さて、ここからが計画の本番です。
見晴らしの良い場所で物陰に隠れて、見えない光の玉を行列の一人一人に当てていきました。
チューン! チューン! チューン!
チューン! チューン! チューン!
チューン! チューン! チューン!
チューン! チューン! チューン!
十二人にまで減ってしまった行列の人達全員に直近一時間の記憶を消去しました。
中には『あれ?』という表情を浮かべる人がいますが、自分が山崎宮へと向かっている事に違いはありません。
異常を感じつつも周りの皆さんも普通に歩いているし、何事もなかったかのように歩いて行きます。
そして目の前に分かれ道が。
本来でしたら右へ進むべき道ですが、一時間前に歩いた分かれ道ならば左です。
ご丁寧に道標もあります。
違和感を感じつつも、行列は左へと進んでいきました。
先回りした私は、再び記憶消去の光の玉を当てて、またまた左へと誘導しました。
時間の感覚が一時間ずつずれていくので、お日様の位置に違和感を感じないらしく、南西に進むはずがどんどんと西へ西へと誘導されていきます。
十年間掛けて作成したこの辺りの地図は完全ですね。
そして行列は行き止まりへと誘導されました。
<<<<<チューン!>>>>>
全力の光の玉を受けて行列の全員が気絶し、ガタンっと輿が地面に落ちました。
そして羽田様と護衛さんとで、棺みたいな天智帝の輿をその場から持ち去りました。
ここには敵の伏兵も居ません。
おそらく今頃は山崎へと向かう経路を一生懸命に探している事でしょう。
◇◇◇◇◇
「「「「ふぅ~」」」」
山科にある私達の隠れ家へと到着すると、静かに棺を下ろしました。
輿を担ぐ皆さんには疲労回復の光の玉を当てながら、十里(5km)ほど離れた山の中まで連れ出したのです。
簡単には見つからないでしょう。
棺の中からうめき声みたいな声がしております。
声の主は忘れもしないあの声ですが、とりあえず生きてはいるみたいです。
だからといって棺を開けてのぞき込む気は起きなかったので、目的地に着くまでは放置しておりました。
本心としましてはこのまま放置しておきたい気持ちもありますが、天智帝(今は天智上皇?)と決着を付けなければなりません。
意を決して、棺の蓋をを開けました。
そこには、ギラギラとした憎しみの目で私を見る真っ白な顔の天智帝、昔の中大兄皇子が横たわっておりました。
(つづきます)
琵琶湖付近の地理と三尾から山崎へ向かうルートです。
文中、天智帝の行列は南西の山崎に向かうはずが、西側へと誘導されました。
│ │長浜
│ 琵 │
│ ├──不破
│ │
│ 琶 │犬上川
│ │
三尾│ │
│ 湖 │
│ /
│ /野洲川
│ │
│ │
大津宮│ │
山科─┤ \/
/宇治 瀬
山崎 │ 戸
│ 川
乃楽




