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近江侵攻・・・(4)

第十一章が長い……。

と言いますか、第十章と第十一章の切り方を間違えました。

追って修正します。


(※愛発あらち(※福井県敦賀市疋田?)にて、久々の主人公視点です)



 はぁはぁはぁ。

 十年ぶりとなる越国です。

 あの時は、御行クンと二人で山背国(※京都)から琵琶湖の西側を北上して、雪の中をここにまでやって来たのでした。

 あの時に生まれた赤ちゃんは元気かな?

 そのような昔を思い出しながら、険しい峠道を兵士さん達と共に北へと進みました。


 峠道を越えるのに大荷物はキツいので、半分は漁船に偽装した運搬船が、食料とか矢とかを対岸まで運んでおります。

 一応は軍の幹部として遇される身ですので、周りの皆さんは私に気を使って下さいます。

 実はもっと偉い金ヅル(スポンサー)でもあるのですが、それは内緒です。

 あまり偉ぶるつもりもないので、荷物も運びます。

 よっこらせ。


 あらやだ、つい声が出てしまいました。


「かぐや様、その様な事をせずとも我々にお任せ下され」


 羽田様が私がお仕事をするのを嫌がります。

 羽田様は地元に戻ればそれなりの地位にいらっしゃる有力者です。

 下働きは下賤の者がするという意識があるのでしょう。


「女子の私が荷物を運べば、兵士の皆さんも怠けることが出来ないでしょう。

 私が荷物を背負いますのは、ひとえに軍規のためですので、ご了承ください」


 私はそう言って羽田様のいう事を聞かずに、荷物を下ろしません。

 なによりも私は采女を首になって以来、絶賛無職中です。

 失業歴十年です。

 これ以上の下賤の身はありません。

 生活の糧を他者に依存して、この世の生産性の向上に何一つ寄与していない身ですから。

 こんなご身分は無職とお貴族様だけですね。


 失業といえば、もし私が現代に戻れば雇用保険がでるのかしら?

 退職金も貰っていないし、十年以上支払い続けた厚生年金が払い損なんて嫌です。

 月詠様にお願いしてどうにかして貰えないかしら?


【天の声】しおくりで我慢しなさい!


 そんなですから自分自身が恭しく扱われるのには抵抗があります。

 むしろ小間使いとしてこき使われた方が気が楽です。


 そもそもOL時代の総務のお仕事って、労力のわりに感謝されることが少なくて恭しくされた覚えなんて殆どありません。

 せいぜい中途採用の方が初出社した時くらいです。

 社内の身分制度では、社長、専務、常務、取締役、部長、……、平社員、犬、猫、総務、IT部門って感じでしたから。

 下に情報システム部門(IT)がいるのは会社によって異なるでしょうけど、IT音痴なワンマン社長がワンオペの社内SEを理由もなく降格にしたりクビにするなんて日常茶飯事ですよね。


 何処かで聞いたことがあるような話ですが……。


 ◇◇◇◇◇


 さて野上を出発して、三日後。

 ようやく中継地の愛発あらちへと着きました。

 そこそこ人は住んでおり、集落の代表者らしき方にお願いして陣を張る場所を提供して頂きました。

 ここで簡易的な寝床と、温かい食事の準備を始めます。

 そのために女衆おなごしゅうも十人ほど従軍しております。

 男だから、女だからではなく、男も女も自分が出来る事を精いっぱいするのがこの軍勢の決まりなのです。


 食事が終わり人心地が付いたところで、来客がありました。

 兵士三十人ほどを引き連れて、この地の有力者さんがお目見えしたみたいです。

 まさかこの地を征服にしに来たのではと警戒されたのでしょうか?

 簡易的なテントの下に床几しょうぎ並べて、対応しました。

 穏便に対応するため、私も同席することにしました。


 軍勢の将である出雲様と羽田様は早々に座っていますが、社会人経験の長い私は立ったままお待ちします。

 偉い方が来られる可能性もありますし、ふんぞり返っているという印象を与えるのはマイナスです。

 ポケットにはいつでも渡せられるよう、名刺入れが準備されております。(ウソ)


 しばらくしましたら陣を囲う幕がくぐり……大きい。

 凄く大きな方が入ってきました。

 あれは……


「比羅夫……様?」


 相手も暫く呆然としております。


「か、かぐや殿か!?

 生きておったのかっ!?」


 驚いた顔をしながら嬉しそうな満面の笑みを浮かべて私の名を呼ぶお方。

 阿部引田比羅夫あべのひけたひらふ様です。

 百済の役で飛鳥を出立される前にお会いして以来、十二年ぶりの再会です。


「どうしてこのような所に?」


「おいおい、それはワシの言葉じゃ。

 そもそも疋田はワシの本拠とする土地だ。

 政が嫌になって、大宰帥(だざいのそち)を辞した後、ここに引っ込んでおったのだ。

 それこそかぐや殿こそ、本当にご無事だったのじゃな。

 わはははははは」


 豪快にお笑いになる目尻にはうっすらと涙が滲んでおります。

 そこから色々な話をしました。


「先ずはここに居る目的ですが、高市皇子様が兵を挙げ、大臣に対して造反を意をお示しになりました。

 私達は三尾にある城を攻め落とすために、不破からここを経由して、近淡海うちつのうみの西へと進軍する途中です」


「そうだったのか。

 相変わらず勇ましい女子だな。

 帝に仇名あだなす決心でもしたのか?」


 横にいる出雲様と羽田様がギョッとします。


「仇名すも何も、私は帝に命を狙われている身です。

 真実を知ったからと言って随分な目にあわされました。

 当然、抵抗しますよ」


「そうか……、辛い目にあったのだな」


「ええ、建皇子も、衛部の物部宇麻乃様も、殺されました。

 斉明帝も直接は手を下さないまでも、軟禁して山奥に追いやった挙句、襲撃を受けて殺されてしまったのです。

 それに……比羅夫様も向こうでは大変だったでしょう?」


「ああ、多くの者が死んだ。

 かぐや殿の助言が無かったら、あの意味のない戦でもっと多くの者が死んでおっただろう。

 改めて礼を言いたい。

 ありがとう、かぐや殿……」


「いえ、私は無力でした。

 結果を知りながら、大切な人達を救うことが出来ませんでした。

 百済で命を散らす方々を救えたはずなのに……」


 十年経った今でも心の痛みは癒えません。

 斉明帝の最期、天智帝の手で亡骸となった宇麻乃様、そして建クン……。

 もし神の御使いが建クンの魂を転生させていなかったら、私はこの世での役目どころか、生きている事すら諦めてたかも知れません。


 あれ?


 ……比羅夫様に私の生存が知られたという事は。


 あっ! 天智帝に私の生存がバレた!?


 どれくらい過去まえに未来視で視られたか分かりませんが、私がこの地に居る事がバレたはず。

 当然、三尾城に攻め込むこともバレたでしょう。


 どうしましょう。

 拙かったか?


 う~ん、……ま、いっか。

 こうなったら開き直りましょう。


「では、ここに居る皆さんには全て正直にお話します。

 大切な事なのでよく聞いて下さい」


 急に態度が変わった私に、その場に居る出雲様と羽田様がキョトンとしています。


「まず、私が神のご加護を受けている事は御承知の通りです。

 そして天智帝もまた神のご加護を受けております」


 いきなり核心をつきます。

 この場を天智帝が覗き見ている事を承知の上で、全部ぶっちゃけちゃいます。


「天智帝は神から授かった力を使い、これまで多くの者を葬りました。

 蘇我倉山田麻呂様、阿部倉梯麻呂様、有間皇子様、孝徳帝、斉明帝。

 己が野望の邪魔になると思った者は全て殺されました。

 そして比羅夫様もご存じの通り、百済の白村江では三万以上の兵士が戦死したのも天智帝の謀だったのです」


 ビックリして目が真ん丸な出雲様と羽田様。

 それと対照的にじっと聞き入りながら頷く比羅夫様。


「天智帝が神から授かった力とは知っている者の未来を覗き見るという淫猥な力です」


「「「い、淫猥?」」」


「そう、政敵を貶めす卑怯な謀をするのにこれ以上ない有効な御技です。

 きっと夜な夜な、お知り合いがまぐわっている姿を覗き見ている事でしょう。

 そして今、この場面も比羅夫様を通して覗き見ているのです!」


 ここぞとばかり、徹底的に言ってやります。

 もし本当に視ていたら、頭の血管が切れるくらいに激怒しているかも知れませんね。


「高市皇子様はこの国の正道のため立ち上がりましたが、私は違います。

 私怨のため、天智帝をこの手で殺すため近江へと参ります」


「まて、かぐや殿!

 それは行き過ぎではないのか?」


 比羅夫様が慌てて私を諫めます。


「いえ……。

 十二年前、私は筑紫の地で追いつめられ、大切な人達を失いました。

 そしてあともう少しで天智帝を殴り殺せるところでしたが、失敗しました。

 次こそは絶対にこの手で殺します。

 あの顔に再びこの拳骨を喰らわせてあげます。

 必ず!」


 自分で言ってきながら物騒な物言いです。

 これは、この場面を視ているであろう天智帝に対対しての宣戦布告です。


 視てなさい、建クンの仇!

 そして震えて待ってらっしゃい!


 中大兄皇子!



(つづきます)

阿倍比羅夫は白村江の戦いの後、筑紫国で大宰師となりましたが、その後の消息は不明です。

没年も分かっておりません。

しかし息子の阿倍宿奈麻呂あべのすくなまろ(※西暦720年没)は、平城京造営の責任者として活躍しており、壬申の乱(西暦672年)の時点では存命だったのではないかと思います。

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