目指せ、飛鳥時代の気象予報士!
お気楽回です。
主人公、ダラダラしています。
田植え以来、三日に一度は農地の見回りをしています。
自分の植えた苗の成長が気になるのもありますが、口だけ出して何もしないというのはやはり間違っていると思うからです。
ついでにと言っては何ですが、不可視の光の玉で領民の寄生虫を撲滅しています。
チュン、チュン、チューン!
領民の皆さんは稲の中にまぎれこんだ稗などの雑草を取り除いていますが、数が多い上に足場が悪くて苦労しているみたいです。
素人の私にはどれが稲でどれが雑草なのかサッパリ分かりません。
太郎おじいさんが名人として尊敬を集めているのも分かるような気がします。
もし私に農業経験があればもっと領民の皆に助言出来るでしょうけど、無い物ねだりしても仕方がありません。
長い目で農業改革を進めます。
それでも私に出来る事があるとしたら、暦の作成でしょうか?
季節が太陽を中心に動いている事を考えますと、太陽暦の導入をやってみようかと考えています。
暦の上ではもうすぐ五月、太陽暦で六月です。
梅雨の時期で、稲作を行う上で心配な季節です。
とりあえず夏至の日が分かれば、その日を六月二十一日に定めて一年三百六十五日のカレンダーが作れます。
カレンダー上に天気とか、田んぼの異変とか、初氷の観測とか、友人が大好きだった八月と十二月のイベントとかの記録を毎年残せば、何かしらの傾向が見えてくるような気がするのです。
夏至は簡単な日時計があればおおよそ調べられると思います。
『現代』でもパワースポット周りに嵌まっていた頃、夏至は一大イベントでした。
私の唯一の渡航歴が夏至のストーンヘンジツアーでしたから。
明日香の地には謎な巨石が数多くありますので、古代日本版ストーンヘンジを作るのも吝かではない様な気がします。
今更一つ増えたところで気にする人はいないでしょう。
【天の声】そんな訳あるかーい!
という事で、日時計の制作開始です。
設置場所は遮蔽物がなく一日中陽の当たる場所、そして安全な場所。
つまり屋敷の敷地内です。
敷地内を探した結果、屋敷の南に面したお庭の真ん中をお爺さんにお願いして使わせて貰いました。
日時計は雨ざらしになりますし、長く使うのであれば石で作るのが一番です。
しかしいきなり失敗して廃棄となったら格好がつきません。
その点木でしたら、切ったり、削ったり、継ぎ接ぎし易いので、無駄になる事もないでしょう。
最悪の場合、薪にもなります
となりますと木工担当の猪名部さんの出番ですね。
早速、猪名部さんに大きな切り株用意して頂きました。
その上に三角定規みたいな板を準備して、直角側を北、鋭角側を南側向けて垂直に固定します。
鋭角の角度に意味があった様な気がしますが、分からないので適当に30度くらいにしました。
見慣れた三角定規の形です。
♪ 君は! 何をい~ま、見つ~めてい・る・の ♪
切り株面に影を直接書き入れると訳が分からなくなりそうなので、記録用の板を用意して頂きました。
三角定規を避けて、コの字にガコン! とはめ込める板を十数枚用意しました。
問題は日時計の正確な向きです。方位磁石はありませんので、天体から方位を調べるのがこの時代のやり方です。
という事で夜8時過ぎ、本当でしたらおネムの時間に表に出て、源蔵さんにお願いして三角定規が北極星へ向く様に切り株の向きをセットしました。
水平もバッチリです。
源蔵さん、ありがとう。
八十女さん、新婚の時間を邪魔してごめんね。
あとは好きにしていいから。
夜が明けて、真っ先に日時計へ行きますと、影が出来ていました、
影の先端に猪名部さんから頂いた和釘で傷をつけます。
これをマメにやれば、一年で一番日が高い夏至と、真東から真西へ影が移動する春分・秋分と、一番影が長い冬至がわかるはずです。
その日の天気や出来事を木簡に記録して太陽暦(仮)の記録と併せれば、古代の気象観測の始まりです。
目指せ、飛鳥時代初の気象予報士!
しかし毎日の作業となりますと私一人の手には余りますので、協力者が欲しいところですね……。
◇◇◇◇◇
「ごきげんよう。秋田様。此度のご訪問は大人数ですが何か御座いましたか?」
「かぐや様、ご無沙汰しております」
「衣通ちゃん!! じゃなくて、衣通様!
ご無沙汰してます! 元気でした?
こんな遠くまで大丈夫でした?
どこか痛いところないですか?」
「かぐや様、私は大丈夫で御座います。かぐや様は以前にも増してお元気そうです何よりです」
「………(赤っ)」
例のニセ貴族騒動以来、半月ぶりに秋田様がいらっしゃいました。
御土産を期待してお出迎えしましたら、嬉しいサプライズが。
何と衣通姫がご一緒でした。しかも氏上様より蔵書の一部も持ってきて下さいました。
危ない道を深窓のご令嬢である衣通ちゃんが来るなんて、おねーさん心配で堪らないです。実際に半年前まで道中には山賊がいましたから。
今はピッカリ軍団の一員として元気に肥溜め管理をしていますが……。
「かぐや様。衣通様はかぐや様にお会いしたいと常日頃仰っておりました。
季節も良くなりましたし、造麻呂殿からかぐや様が新しいことを始めてお忙しそうだと聞き及んでましたので、ひと段落つくまで待っていたのですよ。
聞けばまた新しい事を始めたとか?」
「全然忙しく無かった。
田んぼに入って、田植えして、悪者懲らしめただけ」
「かぐや様って本当にすごい方なんですね……」
しまった! 衣通ちゃん、ドン引きしている。
「ほほほほほほ、お疲れでしょう。
中へどうぞ。ゆっくりとどうぞ」
「それではお言葉に甘えまして」
「……姫様、あちらにあるのは何ですか?
以前来た時には無かった様な気がしますが」
目敏い秋田様に見つかってしまいました。
「えーと……玩具に御座います」
「「玩具? ですか」」
「はい、玩具です」
「はて、どの様に遊びになるのでしょう? 姫様、教えて頂けますか?」
「えーっと、……はい。どうぞこちらに」
何か変な誤解を与えないかと心配する私を他所に、二人は興味深々に玩具をご覧になります。
「この木片の影に印をつけます」
(プスッ)
「前の印と今の印の間に線を引きます」
(ツー)
「これでお終いです」
「これだけですか?」
「これだけです」
衣通ちゃんはもっと楽しい玩具を期待していたらしくガッカリ感満載です。
一方、秋田様はというと……
「かぐや様はひょっとして占星術をおやりになるつもりですか?」
いきなり爆弾発言投入です。天女疑惑に占星術まで加わったら、未来予知を強要されかねませんもの。全力で否定させて頂きます!
「いえいえいえいえいえいえ、そんなつもりは毛頭御座いません。
私は単にお日様の位置だけを知りたいのです。
五曜(※)の位置には全然興味は御座いません。
分かったところで何も出来ませんから!」
(※五曜:水星、金星、火星、木星、土星の事です)
「つまり五曜はご存知なんですね」
「え、ええ。秋田様よりお借りした書に書いてありましたから(汗)」
「お日様の位置はこれで分かるもの何でしょうか?」
衣通ちゃん、ナイス!
「ここに十日間の影の記録。日を追うごとに動いているの、分かる?」
「ええ、動いてますね。どうしてですか?」
「影が短くのは、お日様の位置が高くなっているから。
逆に冬になると影が長い、でしょ?」
「言われてみましたら、その様な気がします」
「一年の中で一番影が短い日、一番影が長い日、丁度真ん中の日、それを調べるの」
「どうして、その様な事をお考えになったのですか?」
「草木は太陽の位置や日の長さ、暖かさと寒さを感じて、芽を出し、花が咲き、実を結ぶの。
逆にお日様の位置を調べれば、稲の植え時、収穫時を知る事が出来るの」
「スゴイですわ、かぐや様!
ご自身のお力に溺れる事なく、常に研鑽を積む姿は尊敬致します」
「本当に玩具なの。そんなことよりどうぞ中へ」
秋田様と衣通姫はようやく屋敷へと入って行きました。
護衛の人達も一緒です。護衛が五人とは氏上様も衣通姫が心配だったと思えます。
それにしても……説明口調になるとどうしても幼児言葉が外れてしまいますね。
もうバレているのは分かりますが、これまでの失敗って大体が幼児口調じゃない時にやっているのよね。
【天の声】分かっていても、やらかしてしまうのが主人公の勤め。
日時計の作り方って全然知りませんでした。
コマ型は格好良くて時間も計れるのですが、理科音痴の主人公が思いつくのは無理があるので諦めました。
そのうちストーンヘンジを作るかも知れません。