予想外の真実……?
飛鳥時代の時代考証が難しいため、なかなか書きだめが進みません。
間違っているところがありましたらご指摘下さい。
新築のお屋敷が住みやすくなったのは勿論ですが、屋敷の場所も変えました。
これはお爺さんの要望によるものです。
以前は屋敷と竹林は少し離れておりましたが、新築したお屋敷は竹林の近くなりました。
私に負担にならない様にとお爺さんが配慮して頂けた感が満載です。お休みの配慮は1日も貰っていませんが……。
ちなみに新しいお屋敷が完成した今でも以前の屋敷は残っています。
他人に貸して家賃収入を得るのもいいですね。
この時代に賃貸契約の概念ってあるのかしら?
セキュリティ一もこの時代には不釣り合いなほど堅牢にできております。
この家は外から覗くことが出来ない造りになっていて、全ての戸を閉め切ると昼でも中は真っ暗です。
つまり夜中、屋敷で光の玉を放っても外からは全く見えないと言うことでもあります。
この時代、夜這いは一般的だと秋田様にお借りした本に書いてありましたので、施錠は完璧にする様、お爺さんにお願いしました。
ちなみに秋田様は時々真面目な本と難しい本の間に薄い本を差し入れてくれます。
この時代の民俗学を知りたい私のために色々と骨を折って下さる秋田様は本当に良い方です。
【天の声】『違う!』
言うまでもなく、たくさんの部屋があります。
国造であるお爺さん宅にやってくるお客さんはさほど多くなかった様な気がしますが、新築のお屋敷は団体のお客様がやって来ても受け入れ可能なくらいの広さのお部屋もあります。
……ビンゴ大会をやったら盛り上がりそう。
有難い事に私専用のお部屋も用意してくれました。
お爺さんありがとう♪
私は地方の行政を預かる豪族の一人娘、言わばお姫様の地位ですので、それ相応のお部屋を頂く事が出来ました。
後々のことを考えて、私のお部屋にはいくつかのギミックを猪名部さんにお願いしておきました。
乙女の秘密を守るためには妥協はしません!
お爺さんの拘りポイントは倉、成金の象徴です。
お爺さんが言うには、『賊の襲撃から私達を護るためには倉が最適じゃ』との事です。
私の薄らぼんやりした記憶によりますと、使者が来た時にお爺さんとお婆さんと私は蔵の中に隠れたと『竹取物語』にありました。
なので、ついでに倉の中にリビングセットを備えて快適空間を演出しようかとも考えましたが、理由を説明するのも面倒なのでパス。
内装も外装も全部お爺さんに丸投げして、私は一切関知しませんでした。
その結果、出来上がりましたのが正倉院のような校倉作りの高床式倉庫が十棟。
……建て過ぎでは無いでしょうか?
お婆さんの拘りポイントは台所、同じ女性として共感します。
しかしながらお婆さんの持つ台所のイメージが従来のイメージから脱しきれないので、私がお手伝いしました。
釜戸は4基、炭火焼用も完備、シンクは特大サイズ、キッチンの広さは二十四畳ほどで、中央に大きな作業台を添えてアイランドキッチン風にしました。
食品の貯蔵庫も同じくらいの広さ確保しました。
漬け物をするのでどうしても手狭になってしまうからです。
食器棚は壁一面に備え、普段は扉で隠して生活感が出ないよう配慮しました。
炭火を使うので換気もバッチリ。排煙設備も抜かりはございません。
台所は危険な場所でもありますので採光にも気を使い、夜でも明かりが取れる様にしました。
一般的な台所というのは屋敷の北側に面した暗い場所を宛てがわられますが、新しい屋敷ではお料理のために別棟を建てました。
倉を十棟建てるのに比べれば可愛いものです。
これだけの設備を切り盛りするため、『家人』と呼ばれる住み込みの使用人も増やしました。
現代の感覚で住み込みの使用人というと、ミニスカのメイド服を着たメイドさんとか、スラリとしたダンデーな執事さんといった“とあるカフェ”に居そうな職種を思い浮かべるかもしれませんが、違います。
どちらかと言えば国の施政の外にある人、奴婢ではありませんが貧しい家の方です。
この時代の感覚からしますと、
「穢らわしい賤民どもが私の視界に入る事は許し難き事ですのよ!」
と悪役令嬢らしい非道い台詞を言い放っても許されてしまう程、虐げられている人達です。
しかし私は時代に逆らい、家人さん達への給与と雇用形態に配慮して頂ける様お爺さんにお願いをしました。
固定給米一俵+反物三巻、月四日のお休み、有給休暇年五日、定期昇給有り、制服支給、社員寮整備といった現代では当たり前で、この時代には不相応な雇用契約です。
その上で守秘義務の徹底と、不正が発覚した時の罰則を厳しくしました。
やはりこの家には秘すべき部分が多く、突如成金になった理由は超極秘事項です。
内通者や裏切り者を出さないためにも、甘い飴とお姫様のムチは必要ですわ。
ビシバシッ!
ただ一つ、予想外の事がありました。
……いえ、敢えて考えたくなかった事実に気付いてしまったのです。
新築のお祝いとしてたくさんの品物が贈られてきましたが、その中に鏡がありました。
この時代の鏡はガラスではなく、金属をツルピカに磨いたモノで「銅鏡」と言われるものす。
その銅鏡の一つが私のお部屋に設えられました。
この当時の中国、唐は世界の最先端を走る超大国で、メイドインチャイナは高品質の証です。
その高品質の歪みの少ない銅鏡に写った自分、それは現代の私の幼少期の姿そのものでした。
無論、薄々は気付いていました。
水辺に写る自分の姿に見覚えがある気がしてましたから。
でも、それは有り得ないとも思っていたのです。
かぐや姫といえば、千四百年後の現代でも語り継がれる美人の代名詞、伝説のモテ女子です。
現代の平凡なOLだった私がかぐや姫に成り代わるというのはどう考えても無理があると思っていたのです。
しかし、鏡の中の自分を見て、これでかぐや姫としての重荷から開放されると思うとホッとする気持ちがあったのも事実です。
月詠様(仮)にとっても盛り上がりに欠けるでしょうけど、悪役令姫の運命からの回避が確実となったのですから本望でしょう。
あ、でも、黄金はあった方が助かります。お風呂汲みの人足さんを雇うためにも、ぜひ月詠様(仮)には仕送りの継続をお願いします。
なむなむなむなむ……
いつしか私はこれで心置きなく飛鳥時代で喪女ライフを満喫できるのだと、心秘かに胸踊らせているのでした。
【天の声】『そんなに甘くないぞ!』
この時代の蔵は土蔵ではなく、正倉院に代表される校倉作りによる高床式の倉庫だと思われます。