開戦・不破(関ヶ原)の戦い・・・(3)
第三者視点は書き易いですが、作風に合いませんね。
しかも、実況調の話はイマイチ進みが悪いです。
(※不破道にて、第三者視点による話)
細い山道を馬で駆ける三人は、書薬、忍坂大麻侶、韋那磐鍬。
不破を占拠する賊軍を討つため、中臣金の命を受けて東国へ援軍要請に行くのだ。
占拠されている不破道を突っ切って……。
小心者(蘇我果安)と阿保(巨勢人)と無能(山部王)の三人があれやこれやと話し合った結果、この三人と護衛の二十名が馬で突っ切って不破道を突破するという、人命を軽視した作戦が決行されたのだ。
三人がどうしても不破を突破せねばならないのなら、連中を囮にすればいいという下心が見え見えなのだが、三人に拒否権は無い。
拒否権が有るのなら、東国行きそのものを断ったであろう。
だからと言って無為に死なせる訳にもいかない。
三バカにも誇りがある。それも飛び切りのプライドがだ。
護衛には甲冑を着せて矢除けとした。
そして貴重な馬を用立てたのだ。
ただし西洋の鎧の様な鉄でできた重い甲冑を着込めば、関節の可動範囲が狭く、馬に乗ったままで剣など振れないし、弓は引けない。
そこで二十名の護衛は甲冑を着込んで肉壁となる盾役、弓を以て牽制する射手、剣で敵を斬り込む剣士に役割分担した。
敵が見えないうちは頼もしく見えるだろう陣営だ。
◇◇◇◇◇
途中までは順調だった。
不破道が占拠されたなどとは嘘の情報だったのではないかと思い始めた。
しかしその希望的観測は、一本の矢によってあっさりと覆された。
ヒュン!
鬱蒼と茂った道脇の木陰から一本の矢が飛んできた。
トスッ!
矢は無防備の射手の頭に命中し、射手は絶命した。
ヒュン! トスッ!
ヒュン! トスッ!
ヒュン! トスッ!
一人、また一人、射手がいとも容易く打ち取られていった。
射手だけを狙った、無駄打ちが一本もない正確な狙いだった。
あっさりと飛び道具を封じられた彼らは、この先強行突破するか、引き返すかの二拓を迫られたのだ。
すると声がした。
「この先へは進ませぬ。
大人しく投降せよ!」
「我々は美濃へ行きたいだけなのだ。
其方らは何故それを邪魔するのだ?!」
書薬が声を張り上げ、反論した。
「其方らが東国へ行くことは分かっている。
通すわけには参らぬ!!」
完全にバレていた。
しかも峠道の向こうの者に知られているという事は、自分達をここへ寄越した誰かが内通していたという事か?
逃げの無いことを悟った薬は、投降を決めた。
「分かった。素直に応じよう。
だから矢を収めてくれ」
薬は馬を降り、剣を投げ捨てた。
自分達を囮に追いやった連中のために死ぬつもりは無かったのだ。
護衛らもそれに習った。
しかし、一人だけ別の事を考えていた者が居た。
韋那磐鍬だ。
疑り深い磐鍬は少し離れた後ろに居り、いつでも逃げ出すつもりでいた。
薬らが投降して攻撃の気配が怯んだ隙に、馬の向きを変え全力で駆けだした。
それにつられて護衛が四人ほど後を追った。
すかさず矢が雨の様に降り注いだが、逃げていく馬を狙って撃つのは難しい。
だが二人に矢が命中し、馬から転げ落ちた。
残った二人の護衛と磐鍬は全力で不破道を駆け下り、命からがらに前線基地へと戻ったのだった。
◇◇◇◇◇
※犬上川川辺の陣営にて。
「はぁはぁはぁ、書薬と忍坂は敵に殺された。
護衛も成すすべなく全て殺された。
帰って来れたのは二十三人居た内の俺と護衛二人だけだ」
犬上川に陣取られた前線基地で、磐鍬は不破道で起こった事を話していた。
しかし磐鍬は素直に話すつもりはなかった。
無謀な作戦のお陰で自分は死ぬところだったのだ。
いくらでも文句を言ってやりたい。
言わずにはいられなかったのだ。
そのためならいくらでも話を盛るのだった。
「敵の本陣近くまで行って千人の兵士に取り囲まれたのだ。
一旦は捕まったが、何とか逃げ出した。
降り注ぐ矢を躱し、不破道を駆け抜け、どうにかここまで逃げ遂せたのだ」
「本陣とはどこだ?!」
「確か……川……藤川(藤古川)の辺りだ」
何も考えていなかった磐鍬はとっさに川の名前を出した。
当然嘘である。
実際の本陣となっている野上の屋敷はもっと奥(東側)であり、磐鍬が襲われた場所はもっと手前(西側)だったのだ。
そして敵の数は当然の如く分かっていない。
実際に邂逅した敵兵は十名ほどだったのだが、本陣には二千の兵が、街道脇には千の兵が潜んでいたことなど知る由もなかった。
「しかしそれほどの兵士に囲まれ、無事に戻れるであろうか?」
蘇我果安の言葉は至極真っ当な意見である。
「な、何を言う!
俺達はこの中の誰かに貶めされたのだ!
敵は我々が東国へ行くことを知っていたぞ!
大津宮の中臣様を除けば、我々が東国へ援軍要請を知っているのはこの中の誰かだ。
峠の向こうにまで知られているというのは内通者が居るという事だ!」
苦し紛れの責任転嫁なのだが、言っている事はもっともだった。
内部に間諜が居るのは事実なのだ。
「そんなはずがあるか!
ともかく疲れているであろうから、大津へと戻り失敗を報告せい!
我々はここで敵の進軍を食い止める!」
千の兵と聞いて、巨勢は心底ビビっていた。
百人程の兵で五百人の兵を有する巨勢の軍を打ち負かしたのだ。
それが千となれば二千五百の軍とは言え無事では済まないであろう。
増しては、戦場は視界の悪い峠道だ。
戦術を知らぬ彼らには、増援を呼び広い場所で敵を迎え撃つ戦法以外、思い浮かばなかった。
だがしかし、それこそが敵の狙いである事を誰も知らなかった。
◇◇◇◇◇
さて、烏合の衆と化した前線基地で始まったのは犯人捜しだ。
誰が敵と内通しているのか?
実際の間諜は巨勢軍の下っ端として活動していた。
何せ配置された先で、農繁期を迎えるという理由で半分が離脱するほどの軍規の緩さなのだ。
誰でも簡単に出入り出来るのだから、ちょっと抜け出して伝書鳩を飛ばす事など容易い。
しかし初日に大ケンカした三馬鹿は、お互いを疑い始めた。
庶民とは字も満足に描けない愚鈍であると信じて疑わないのだ。
御史大夫の蘇我果安、御史大夫の巨勢人、そして大王の血筋を引くだけの山部王。
結果、考えるまでもなく……いや、大して考える事もなく犯人は山部王となった。
二人の御史大夫は将を置かず、三人だけの会合を設けた。
「山部王殿、敵に内通している者が我々の中に居るという意見についてどう思われますかな?」
まずは蘇我果安が切り出した。
「徹底して調べなければなるまい。
東国へ援軍を要請することを知っている者全員を集めるしか無いだろう」
「実際に対立した私は知っている。
敵はかなり手ごわい。
その敵が何時攻め込んでくるか分からぬのに、悠長に全員を集め調べている暇などあるまい」
巨勢は自分が被害を被った事を、自らの潔白の証拠として主張する。
その上で山部王を貶めすつもりだった。
「しかし『師子身中の虫が、自ら師子を食らう(獅子身中の虫)』という言葉がある。虫を内包したまま戦は出来まい。
我々の事が丸分かりなのだぞ」
得意な仏教の言葉を引用して、山部王は反論する。
しかし結論が決まっている議論に意味はない。
「さよう、それは拙いですな。
ならば即座に排除せねばなるまい」
巨勢はそう言いながら剣を抜いた。
そして果安も。
「な……何を考えている!?
だ、だ、誰が内通者だと思っているのだ?!」
「言うまでもありません。
我々は帝の忠実な家臣であり、帝に認められた者です。
しかしそうでないものが一人居る様です」
自分が疑われたくないのなら、別の者を疑えばいい。
そんな短絡的な考えで動く蘇我果安。
山部王は二人に貶められたことを悟った。
只で殺されてなるものかと剣を抜こうとした瞬間、胸に『ドンッ!』と衝撃を受けた。
何かと思えば、自分の胸から剣が生えていた。
後ろに隠れていた伏兵に刺し貫かれたのだ。
剣が抜かれると、おびただしい量の血が噴き出し、山部王は崩れ落ち、そのまま絶命した。
これで軍がまとまったかと言えばそうはならない。
巨勢と果安がお互いがお互いを疑い出したのだ。
内部がこのような状態で、まともな軍隊の運営など出来るはずもなく、二千五百の兵はこの場に駐留し続けることになったのだった。
ちなみに犬上川に展開する軍の情報は、敵に投降した書薬と忍坂大麻侶の口から詳細に語られた。
情報戦という観点において、村国らは圧倒しているのだが、巨勢らはその事に全く気付いていない。
というよりも、情報の大切さを知らぬのだ。
捕まった捕虜らが生かされているなどと、空想すらしていなかった。
(つづきます)
登場人物の名は、日本書紀に語られている登場人物の名を借りております。
戦闘もそれになぞらえて進んでおりますが、内容はだいぶ違います。
なので結果も違う……かも?




