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鎌足の死(かぐや視点)・・・(3)

久しぶりの登場、村国男依むらくにのおより

キャラが違ってしまいそうです。

 ***** 久々の主人公かぐや視点でのお話 *****



 美濃の地で家事と農作業と武器製造のための帳簿造りに精を出しておりますと、御行クンが文を持ってきました。

 木簡ではなく紙の文です。

 つまり伝書鳩で運ばれた便りという事です。


 伝言文にはこのように書かれておりました。


『かまたりきとく、しあさってのじゅよしきにいく おずぬ』


 中臣様が危篤?! 授与式?

 ……そうだ、思い出しました。

 中臣鎌足が藤原氏の始祖であるのは、天智天皇から『藤原』姓を賜ったからです。

 あれって死の間際の出来事でしたっけ?


 ということは本当にもう危ないということなのでしょう。

 今は敵味方のどちらかと言われれば、敵なのかも知れません。

 しかし、中臣様は小角様と御面談した時、私の無事を安堵していたとの事でした。

 私の今の境遇を申し訳ないとも。

(※『病床の鎌足』ご参照)


 もしかしたら私の治癒の力で治すことが出来るご病気かもしれません。

 だけど神の遣いからは、私が月詠命つくよみのみこと様から授けられたチートで歴史への干渉をすることが出来ないと釘を刺されております。

 中臣……藤原鎌足が今後も長生きしていたら、きっと歴史は大きく変わるでしょう。

 そうなることを神様は許さないだろうし、私も無事で済むとは思えません。


 つまり……何も出来ないという事です。

 しかし……


「村国様、ご相談したい事が……」


「一体どうしたんだい?」


「実は小角様から伝書鳩が届きまして、中臣鎌足様が危篤だと連絡が入りました」


「……いよいよなのかな?

 私としては、どちらかとしては悪くない連絡だと思う。

 敵の中で最も優れた能力を持った方が居なくなるのだからね。

 だけどかぐや殿はそうは思っていないみたいだね」


「ええ、小角様から教えられましたが、中臣様は私の事をご心配していて、小角様が私の生存を匂わせると安堵し、お喜びになったそうです。

 それに私は敵というより、敵の中の穏健派であり、暴走する天智帝を諫める防波堤の様な方だと思っております」


「なるほど、得難い人物であるというのは間違いなさそうだね。

 危篤という事はもう長くないのかな?

 病に臥せって長いと聞いているから、まだまだという事はなのかな?」


「私の知る歴史では、中臣様は”中臣鎌足”という名前だけでなく、”藤原鎌足”としても有名です。

 私の記憶では確か、死の間際に『藤原』の姓を帝から賜ったかと思います。

 そして小角様からの連絡では、授与式が催されるとの事でした。

 つまり『藤原』の姓を授かるのが明後日。

 そして中臣様はもうすぐ……」


「なるほど、それは聞き逃せない話だね。

 ではかぐや殿はどうしたいのだね?」


「私の神から授かった力で、中臣様の延命を図ることは出来ません。

 歴史への干渉を禁止する、という禁忌に触れるからです。

 後の歴史を鑑みましても中臣……藤原鎌足の足跡は大き過ぎます。

 それでも私は中臣様の元へ行きたいと思います」


「かぐや殿ならそう言うと思っていたよ。

 その上で敢えて聞くど、行ってどうするつもりだい?

 会ったらかぐや殿は天智帝に見つかってしまうのだよ?」


「たぶん、自己満足にしかすぎないと思います。

 しかし私がこの世界に来てからずっとお世話になった方であり、後の偉人と称えられる中臣様ではなく、私の生存を知り安堵してくれた恩人なのです。

 大恩ある中臣様に何もしないのは、自分が自分を許せそうにありません」


「私が何を言っても聞き入れるかぐや殿ではない事は分かっているつもりだ。

 だから行く事は反対しないでおこう。

 だけどこれだけは守って欲しい。

 天智帝の未来視に引っ掛からないでくれ。

 これまで私達がやって来たことが水泡に帰すかもしれないんだ。

 それだけは妥協することは出来ない。

 良いね?」


「はい、肝に銘じておきます。

 もし万が一見つかりましたら、私は何処かの山奥に引き籠ります」


「かぐや殿を失うのは大きな痛手なんだけどね」


 それって……金ヅルを失いから?

 今の私は金ヅルで、それを帳簿管理するだけしかやっておりませんので、戦力としては御行クン以下のはずです。


「で、どうするんだい?

 中臣鎌足殿は飛鳥の小原おおはらで静養しているはずだ。

 どう考えたって五日は掛かる。

 だけど明明後日しあさっての授与式の翌日では遅いんだろう?」


「飛鳥からここまで歩いた経験からしますと、四十里(160km)以上あると思います。

 だから休まず歩きます」


「そんな無茶な。男でも無理だし、危険すぎる」


「私には秘方があります。

 足の疲れを取り除きながら歩きます。

 それに山賊くらいでしたら、まとめてやっつけられます」


「あ、ああ。確かにかぐやさんに敵う者はいないかも知れないな。

 ならば一刻も急いだ方が良いだろう。

 だけどくれぐれも気を付けてくれよ。

 何より、かぐや殿を失いたくないと思うのは私だけではないという事は分かってくれ」


「はい、我儘を言って本当にごめんなさい。

 それでは行ってきます」


 私は準備もそこそこに、各務原を出発しました。

 既に陽は傾き始めております。

 現代でいう『100kmウォーキング』ですね。


【天の声】正確には180kmウォーキングだな。


 ◇◇◇◇◇


 ぜいぜいぜいぜいぜいぜい………


 やっと……、やっと橿原かしはらを抜けました。

 光りの玉があるとはいえ、無理しすぎました。

 体中の酸素とグリコーゲンが足りません。

 作り置きの饅頭パンと水だけで二日間歩き詰めですので、身体からだ精神きもちが変になりそう。

 この様に考えますと、かの有名な豊臣秀吉の『備中大返し(びっちゅうおおがえし)』なんて創作の中の出来事ではないかと思ってしまいます。

 鎧と武器を着用した二万の兵がチートなしにたったの数日で200kmを歩けなんて拷問でしかありません。


 小原の大体の場所は、道中聞くことが出来ましたので、飛鳥京に辿り着けば後はどうにかなると思います。

 しかしすでに外は暗くなっており、到着は真夜中です。

 更に悪い事に、雨が降り出しました。

 普段の私の行いの悪さが如実に表れております。

 心当たりがあり過ぎますが……。


 小原に着いた頃には雨脚が強く私もびしょ濡れです。

 しかしここまで来たのに今の私が出来る事って何なのでしょう?

 道中ずっと考えておりましたが、どれだけ考えても思いつきません。


 とりあえず屋敷の方へと行きますと、屋敷の周りは何故か殆ど無人でした。

 門のところで警備らしき人が二人おりますが、棟門むねかどの軒下で雨宿りして、警備になっていません。

 どうやら雨のため、外を警備する人は引っ込んでしまっているみたいです。

 今の中臣様に厳重な警備が必要ないと思われているのかも知れません。


 そこで私は夜陰に紛れてそぉーっと屋敷の方へ近づいて行きました。

 生垣の中に隙間を見つけたので、そこから忍び込みます。

 やっている事が泥棒さんかサンタクロースです。

 いずれにせよ不法侵入ですが、この時代はその様な罪は無いという事でセーフ。


 茂みの中に隠れて、中の様子を見てみますと厳つい兵士らしき番人が二人、前に立っている部屋がありました。

 もしかして……


 雨の中なら不自然ではないかと思って、赤外線の光りの玉を1千発ほど打ち上げ、辺り一面を覆わせたところで、雷の様にピカッ! と光らせました。

 音はありませんが、まるで雷が落ちたような眩しさです。


 部屋の番人は雷が苦手らしく、一人は頭を抱えて蹲り、もう一人は中へと引っ込んでしまいました。

 迷信深い古代人には効果大です。


 調子に乗って、一定間隔ではなく、ややランダムにピカピカと最大光量で光らせます。

 しかもこの屋敷だけを覆っているので、空一面が光る訳です。

 まるで屋敷全体が雷の中に閉じ込められたような錯覚を覚えるほどです。


 すると我慢が出来なくなった番人が戸を開けて何か叫んでいるみたいです。

「雷です。危ないからお逃げ下さい」って言っているみたいです。


 その開けた戸から、横になっている人が見えました。

 あれが……。

 私はその人物に向けて見えない光の玉を当てました。


 チューン! チューン! チューン! チューン!


 そして最後に、花火の光の玉で空を覆いつくしました。

 遠い昔、中臣様が御覧になった事のある光景です。


 …………もう私に出来る事は何一つありません。

 心残りはありますが、落雷もどきに警備の人が気を取られている内に私は屋敷を離れました。


 そして来た道を引き返しました。



(つづきます)

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